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                 渇 望

『覚瑜』。それ以外に自分の名など知る筈も無い。人は自分の名前を知るのに、周囲から呼ばれ続ける事で認識すると言う。つまりは犬や猫等の動物と同じ理屈だ。

 幼子が誰もが持つ好奇心に急き立てられて生い立ちを尋ねた所、自分はある寒い冬の日の早朝、施設の門の前に籠に入れられて棄てられていたそうだ。見つけるのがもう少し遅れたならば低体温症で死んでいたかも知れなかったと、在りし日の座主様から聞かされた事を覚えている。

 物心が付いた時より自分の名前として存在する『覚瑜』と言う名は座主様から頂いた。それは此の世に唯一『自分』と言う存在を一つの形で表す、二つと無い大切な物。『覚』は新義真言宗開祖『覚鑁』の一文字。『瑜』はこの根来寺を再興した高僧『頼瑜』の一文字を取って。

 この根来寺が新義真言宗の象徴として未来永劫に栄える様に、新義真言宗最大の功労者二人の高僧から一文字ずつを頂いて付けられた名前。

 自分の名の由来を教えられた時に覚瑜は感激と、誇りと、使命を誓った。願いを込めて付けられた其の名に恥じない様に、自分の生きる道は研鑽けんさんを積み重ねる日々に明け暮れようと。そして何時の日か新義の教えが真言宗の本流となる様に自分の力でこの寺を隆盛させて、衆上の迷える心を救い出す信仰の砦にして見せると、幼き心に。

 毎日の家事仕事の様に課せられる過酷な難行、そして苦行。だがその事を憂いたり、其の中でもがき苦しむ我が身を嘆いたりした事は一度たりとも無かった。自分が引き取られた頃と時を同じくして寺に集められた、自分と同じ境遇の子供達。彼らの中でも常に上位に其の身を置き続け、しかし何時しか覚瑜は其の輪の中から外されて、何時の間にか大人の僧達と混じって修行をさせられていた。

 理由は分からない。ただ、自分が誰よりも法力の扱いに優れ ―― 何故こんな簡単な事が出来ないのかと疑問に思った程 ―― ていた事だけは自他共に認めざるを得ない事実であった。法力僧である為の資質、才能は誰よりも秀でていると言っても過言では無かった。

 事実の果てに起こる慢心は、果たして覚瑜の心中を脅かす事は無い。

 此処で終わりではない、と。常に修行の先陣を切り、最たる結果を修めた自らの心身を常に自戒して修行を勤め続ける覚瑜に対して、他の修行僧からの嫉妬や羨望による心無い所業を与えられる事は無かった。

 何故なら覚瑜にとって戦うべき相手は常に自分自身。その孤高にも思える生き様の姿勢は、彼に相対する者達に常に尊敬の念を与えた。

 覚瑜が歩き続けた一本の道。相方となった覚慈と共に稀有な存在の退魔師として『根来の阿吽』の二つ名を掲げて切り開く、其の後に続く彼を尊敬する者の存在。彼らが『覚瑜』と言う人間に与えた確固たる評価が若輩ながら其の身を座主様の直ぐ真下に置き、全ての実務を直轄する立場である寺務長へと彼の立場を押し上げた。それでも覚瑜の心は充たされる事は無い。

 まだだ、まだ先がある筈だ。届かぬ内は諦めない。

 それは自らが『座主』になりたいと言う欲望ではない。宗門に在籍する物なれば誰もが其処に坐りたいと請い願う唯一つの蓮華の座。其の場所に最も近い立場に辿り着いていながら、『覚瑜』には其れが見えていない。

 彼にとって立場や肩書き等は何の興味も無い。ただあの日、自らの名前の由来を知った時に心に誓った夢を形にする為に。それは『覚瑜』本人にしか知る事の出来ない『渇望』から来る物だったのかも知れない。

 彼を知る誰もが、献身を惜しまないその行動や考え方を評して『無欲』で完成された僧侶と評したのは当然だった。根来寺の実務全てを取り仕切る立場にありながら常に自らが動き、滞り無く完璧に物事を進める『覚瑜』の姿を見て、真言宗ならずとも他宗の僧侶からも一目置かれる存在。もし真言宗の歴史の教科書が存在するとしたなら『覚瑜』の名は必ず立志伝中の僧侶として其の名を何処かに記載されていた事だろう。

 だが、彼を知らずに理解しようとする評論家や書誌の編纂へんさんに携わる者達は、大きな考え違いをしている。彼は決して『無欲』な人間等では無い。それは彼らの生きる世界に存在する欲望の限界と、覚瑜の求める理想の方向性が大きく違っている為に、見出だす事が出来ないのだ。言い表す言葉は全く異なっている様でも、抱えた意味は恐らく同じ。

 彼もまた、求めているのだ。自分に誓った言葉に対しての回答を。


「『嫁がせる』 …… だ、と? 」

 其の言葉が自分の口から漏れた物だとは到底思えなかった。冷静さの欠片も無い、溢れ出す衝動が覚瑜の全身を駆け巡る。言葉の撃針が感情という名の薬莢やっきょうを叩く。暴発同然に打ち出された灼熱の弾丸は見えない獲物を求めて、覚瑜の体内で跳弾の嵐を巻き起こした。痛みではない何かが体の中でわだかまり、其れが言い表し難い熱である事に気付くのに、暫くの時間が必要だった。

『理』に勝る赤塚の動機。其れを言葉で覆す事は覚瑜には不可能だった。間違っていると声高に主張しようにも、其の言の正当性は対岸に身を置いた覚瑜にも分かる。赤塚が堕天を決意した切っ掛けが、覚瑜や松長も求めた『猊下の孫』の存命を模索した結果だとしても、其処から未来へと繋がる視界が彼らと赤塚では雲泥の差が有る。

 自分達は予言のままに顕現を果たす『摩利支の巫女』を、命がどれだけ失われるか見当も付かない戦場へと送り出そうとし、それに反旗を翻す赤塚は其の根本を為す『摩利支天』を封印する事によって、これから失われようとする多くの人の命を救おうとしている。

『小を殺して大を活かす』。其れこそは『正義』と呼ぶに相応しい言葉だ。覚瑜達の考えでも赤塚の考えでも、これから世界で巻き起こされる悲劇を止める手立ては無く、全てを救う術は無い。

 ならば少しでも衆上が存命を果たす事の出来る可能性を選択するべきではないのか。

 衆上の為に自らを投げ出して、此れを救う。其れこそが『仏教』の根源にある教義ではなかったか。

 遵守じゅんしゅを義務付けられた大義の根源である教えに、体現を果たそうと生業を積み重ねて来た覚瑜が逆らう事はあってはならない事の筈だ。其れを失う事は即ち、覚瑜自身の意義を否定する事と同義であるから。

 では、今自分の体の中に湧き上がる『此れ』は一体何なのだ? 正論と言う茨に叩きのめされた自分の心の中で吹き荒れる嵐の正体は。

 根源たる発想になぞらえて紡ぎ出される未来への想像図を真っ向から否定する様に高ぶるこの感情は。枯れ井戸の其処に皹を入れ、まるで間欠泉の様に吹き上がろうとするこの力の源は。

 後頭部が熱くなる。熱が視神経を伝わって網膜に火花を散した。体内を灼く焔はやがて渦巻く火竜と化して覚瑜の全てを蹂躙している。彼が今迄の年月に培ってきた理性も志も全て巻き込んで、飲み込んで成長を続ける。其れを押さえ切れなくなった瞬間に、火竜の力が覚瑜の全ての神経組織を舐め尽す様に駆け抜ける。

 無自覚の力に突き動かされる肉体が激しく震えた。出口を求めて迸る火竜の力を吸い取って輝きを取り戻した刃が、覚瑜の震えを大師堂の闇に掻き描く。

「そうじゃ、澪殿が人として唯一幸せに生きる為の手段。世界をより良い方向へと導く為に、貴様らとは違う方法を考え抜いた挙句に辿り着いた其れが儂の答じゃ。無論嫁ぐというからには澪殿と『天魔波旬』との間には其の跡継ぎが召される事にはなろう。だが『天魔波旬』と言う者は血統に連なる存在ではなく、大いなる意志によって天から役割を与えられる者。 ―― 即ち『摩利支の巫女』と同義じゃ。例え彼が天に召される時に後継として我が子を指名したとしても、其の子が『天魔波旬』と同等の才を持つ事は有り得ん。寧ろそうなった時にこそ澪殿が母としてその場に居合わせる事が肝心なのじゃ。退魔師筆頭 ・ 雪斎、女人堂筆頭 ・ 月読。真言宗史上に於いて傑出した二人の法力僧の間に生れた澪殿。彼女の存在が、彼亡き後の世界を正しい方向へと導く為の『王母』として君臨するに違いない。」

 赤塚の声で描かれる、赤塚の求めた希望の未来。

 変らぬ正当性を誇示し続ける其の言葉が、しかし既に覚瑜の心にも耳にすら届かない。外界からの接触を一切断ち切って自らの心の内と言う矮小わいしょうな世界に引き篭もる感情が、ぶつける場所を求めて未だに覚瑜の体中を徘徊はいかいする。

「分かるか、覚瑜よ。儂は貴様らとは違う。儂は澪殿の力を、『松長の孫』をそれ程信頼しておるのだ。故に松長や月読殿の様に、この子を亡き者にする事など端から考えてはおらんかったんじゃ。」

「 …… そいつは、お前に、渡さない。」

 会話の前後の脈略も無く、隔絶した体内で何度も輪廻を繰り返した果てに覚瑜の口から染み出た其の一言。言葉と共に吐き出された吐息が、八双の構えから青眼へと変化を果たして目の前に翳した光刃に降り注いで、陽炎の様に覚瑜の姿を暗闇の中に揺らめかせる。意味を探る間の一瞬の空白が赤塚の言葉を躊躇わせた。其の間隙を衝いて、再び。

「澪を、お前には、渡さない。」

 台詞や言葉、其の声さえもが自分の物なのか、自分の中に潜む別の人格の物なのかを判断する術も無く。ただ覚瑜の体を支配し続ける耐え難い衝動が其の捌け口を口腔に求めて、言葉と言う形を為して宙に舞う。

「成る程。これ程我が理を説いても理解出来ぬ所を見ると、既に貴様は『覚瑜』という人格を亡くしたと言う事じゃな。」

 赤塚の冷酷な声が護摩壇の中央から暗いかげりを湛えて響いた。其の声の中に在る失望と確信。

「貴様が真に覚瑜であるならば儂の言の正しさを理解し、直ぐにでも協力を申し出た筈。何故なら儂の考えは貴様の考えた事でもある筈じゃ。そういう風に儂は貴様を育て、儂の知る『覚瑜』とはそういう僧侶であった筈。じゃが今この儂に対して刃向かおうとする貴様は既に『覚瑜』では無い。…… 『覚瑜』の姿をした悪鬼羅刹に成り果てたという事か。」

 赤塚の指摘が正しいかどうかと言う事すら、当の覚瑜自身にも判断が付かなかった。唯一つ言える事は赤塚が今迄育て上げた『覚瑜という人間』の人格も理性も、今彼の体の中で渦を巻く火竜が焼き尽くしつつあるという事実。其れによって剥き出しになる何らかの感情が、失われ行く筈の彼の闘志に火を点けたと言う真実。

 それ以上覚瑜の声が赤塚目掛けて放たれる事は無かった。無言のままで護摩壇に向って、震えの収まらない体と剣光だけが彼の戦意を雄弁に物語る。

「それも良かろう。何れ貴様はこの儂の手で葬らねばならんとは思っておった。『摩利支天』の封印と引き換えに此の世を去らねばならん儂にとって、其れだけが唯一の心残り。 ―― 思えば此れも天より与えられた唯一無二の機会であると言う事か。」

 赤塚の声と共に、圧倒的で明確な敵意と戦意が覚瑜の周りを取り巻いた。埋め尽くす様に襲い掛かる其れを覚瑜の体から発せられる闘気が跳ね返す。

「だが残念じゃが、今の貴様と戦うのは儂では無い。儂の体は松長との戦いで元の姿を取り戻すのに時間が掛かる。其の間、貴様の相手は儂の手の者に当たってもらうとしよう。」

 そう言うと赤塚の声の向く方向が明らかに変化を見せた。其れは護摩壇の中央で、覚瑜に背を向けて佇んだままの一体の像に向けて。

「松長。お主の出番じゃ。」

 其れまで凍り付いていた筈の全ての時間が動き出す。赤塚の命令を受けて動き出した松長の体と、飛び込んで来た其の姿に見開かれる覚瑜の瞼。

「松長、見よ。あの白い法衣を。あれこそがお主の真の敵『赤塚明信』じゃ。お主の孫である澪を連れ去ろうと闇の力を手に入れて此処に現れた、忌むべき怨敵の姿。」

 ゆっくりと振り向く松長の顔が覚瑜の視界に其の姿を焼き付ける。顔面に大きく口を開ける刀傷で両の瞳を失い、口角から泡と共に滴る血涎が其の体に何が行われたかと言う事を覚瑜に教えた。

 其の姿は紛れも無く『43』達と同じ、傀儡。認識が覚瑜を叫ばせる。

「貴様っ、よくも猊下をっ! 」

「既に宗門に其の身を置かぬ者が其の呼び名を口にするな。この者をそう呼んでも良い者は、先んじて此の世より退場を果たした者のみの筈じゃ。 …… 儂や貴様の様な者が口にして良いことばでは無い。」

 赤塚の言葉を聞きながらも、其の目は松長の姿に釘付けになる。膨れ上がって行く法力に似た物が、松長の体を一回り大きくして。血みどろの口が何かを呟き、途端に其の手の中の独鈷杵が眩い光を放って刃を伸ばす。傀儡と化した松長の体を支配している力の存在、其の正体を覚瑜はいやと言うほど良く知っている。

 覚慈や赤塚と同じ、闇の力。

 決意に満ちた松長の一歩が、遂に覚瑜目掛けて踏み出された。自身目掛けて放たれる殺気が覚瑜の剣先の震えを止め、望む事無く戦うべき相手の姿に向けられる。

「行け、松長。お主の命と引き換えにしてでも、澪殿を奪おうとする赤塚をほふるのじゃ。其れこそがお主の願い。お主に課せられた最期の使命じゃ。」

 言葉を受けたもう一歩が光を湛えて踏み出される。覚瑜には其の光の意味が分かる。高速移動用の術、韋駄天真言。

「其の状態では如何に貴様の力を持ってしても、この男から逃れる事は叶うまい。残り少ない現世での時を、貴様の望んだ死合いの中で過ごすが良い。『神の座に挑む穢れた魂の持ち主』よ。」

 其の言葉は覚瑜が耳にした、隠喩いんゆを含んだ赤塚の声。空白にされた解答欄が覚瑜の心と感情に答を記す事を強く求める。だが其の言葉を聞いて理解する事は、三歳の幼子に方程式を教えるような物だ。不可能の一言に尽きる。

 待て、とその否定を覆そうとする内なる覚瑜の声。それは何か大事な意味を持つ言葉の筈。そして俺が今一番知りたい事。

「赤塚。貴様、今何と言った? 俺の中にいる者の正体を知っているのか。」

 覚瑜の問い掛けだけが空しく響く。迫り来る松長の姿以外に動く物の無い場所で、一瞬の空白の後に大師堂の空間に浮かんだ赤塚の言葉が戦いの封印を切った。

「知らずに、死ね。それが貴様の為だ。」


 傷と呼ぶには余りにも大きく切り裂かれて、醜く渇いた割れ目で見る外界。見渡す限りに閉ざされた暗闇の幕は死後の世界を思わせる。生きる物、動く物双方の存在を拒絶して、世界は其処へ松長唯一人を置き去りにした。

 我は何者なのか、一体何処に辿り着くのか。墨で塗り潰された其の空間を当て所も無く彷徨うしかない其の二本の足を動かす以外に術を知らず、求める物を探して道を辿る。

 其の先。迷いと化した松長の道行の果てに其れは突如として現れる。

“光あれ”とは誰が言った言葉だったか。其の言葉を深く噛み締めて、松長の足は其処に辿り着く為の最大限の努力を払おうと、両足に力を込めた。

 その時。

 輝きの後ろに控えめに映し出された『白』。自分の存在以外の何もかもを喪っていた松長の魂が、其れを目にした瞬間に刹那の過去へと引き戻された。自分が立つ場所は大師堂。今は『創生の法要』の最中。そして自分に光を向けている、あの『白』は ――

「あれこそがお主の敵『赤塚明信』じゃ。」

 暗闇に響く天の啓示。そして教唆きょうさ。神仏に身を委ねた者が其れに抗う事は出来ない。そして何よりも虚無の中を漂う松長の心中に、再び蘇る烈火を伴った激しい感情。

 其の名を忘れる事は無い。其の男は自分から大切な物を全て奪い去って行こうとする者の名だ。娘を、仲間を。

 そして今また、澪を。

 渡さない、貴様には。もうこれ以上。

 

 蒼白い光を湛えた両足が澪の眼前で踵を反す。其の動きを未だに揺らめく事の無い感情のままに見詰める、澪の瞳。

 赤塚に操られる我が祖父の動きを追って、虹彩の焦点が細かく調整を繰り返す。彼女の意識はかたわらで人としての姿を取り戻そうと再生を続けている法衣の下の触手の群れから離れて、その場から立ち去ろうとする松長を中心とした光景へと移動していた。

 視界の中に飛び込んでくる。さっきまでは存在しなかった、気が付かなかった小さな光。それはこの場で繰り広げられた凄惨な戦いの中で輝いては消えた様々な物と比較しても、明らかに仄かで小さい。

 あれは、なに?

 好奇心が澪を制圧した。夜と闇に押し潰されそうになりながら、それでも何かの強い意志を込めて其の圧力を跳ね返そうと耐え続ける、力。今迄見た事が無いくらいか細く弱い、でも不思議な力。

 暗闇に浮かぶ其の光に、澪の瞳は視線を変えさせられた。意思ではなく、強制。見えない何かに命じられるままに目を凝らして、自分の心を奪っていく物の正体を知ろうと躍起になる。

 光源の殆ど無い空間が澪の瞳孔を広げて、小さな光の奥にぼんやりと立つ人影を映し出す。絹仕立ての滑らかな白色の法衣が僅かな輝きを乱反射させて、其れを羽織った人間が其処に立っている事を示している。向っていく松長を遥かに凌ぐ体躯が、其の手の中の光刀をまるで脇差の様な大きさに見せる。

 闇に慣れた澪の目に染み込んで来るその人の顔の輪郭。土埃に塗れて、血に汚れて、あちこちが腫上がって、傷だらけで。法衣に隠されてはいるが、その下の体も同じ様な事になっているのだろう。目立たない様に時折起こる筋肉の痙攣が、法衣を照らす光の反射を乱れさせて澪の目にその事を教えた。

 ここにたどり着くまでに、この人は一体どんな目にあっていたのだろう? それよりもなぜ、この人はここに来たのだろう。ここにいた人たちはみんな死んでしまったのに。もうだれも私を助ける事などできないというのに。

 なぜ? 

 次々と心の中に生れる疑問符が澪の好奇を更に掻き立てた。瞳孔は暗闇に動く猫の瞳の様に黒目を埋め尽くす。最大にまで拡大した其れが、遂に松長と相対する人の顔を完全に捕捉した。

 松長を見据える男の両目。手にしている光刀よりも湛えている輝きは小さく、頼り無い。だが其の奥に秘められた決意と生命力は、死によって無残に描かれたこの場所に存在するどれよりも大きくて、強い。

 だれ? 

 あなたは。

 答を求める澪の視界に映り込んだ其の男の姿を松長の影が隠そうとした瞬間、澪と覚瑜の視線が大師堂の暗闇の中で確かに交差した。

 ドクン、と。

 高鳴る鼓動。初めての『感情』。

 自分の体の中で巻き起こる、何か。外れたままの歯車が噛みあって動き出そうとしている。止めようとしても叶わない其の力が澪の心を嵐の中へと突き落とす。翻弄されるままに其の中を漂う澪の心を、覚瑜の叫びが手を差し伸べて、繋ぎ止めた。

「猊下っ! 」

 ―― ああ、この声だ。あの時、自分を起こしたのは。

 この人は、私を助けると、ともに歩むと誓ってくれた、たった一人の人だ。

 澪の目がまばたく。再び松長と覚瑜の映像を追う澪が明らかな変化を見せる。それは松長や月読、碧にすら向けた事の無い色彩と感情を湛えて、澪の再び閉ざされる事の無い瞳の全てを塗り潰した。


「猊下っ、私がお分かりになりませぬかっ!? 」

 無駄だと分かっていても呼び掛けずには居られない。焦りは覚瑜の声の音量を上げ、認識は心に絶望を齎す。

 其れは松長の顔面に開いた傷口を見るからに明らかだ。他の八体に刻まれた物よりも大きく開いた其れは、対峙する覚瑜に向けて其の奥の内容物まで露出させている。薄らと白く覗いている物は、恐らく松長の脳の一部であろう。其処まで深く抉ったのならば、恐らく声は届くまい。何故なら赤塚は目と同時に耳も破壊したのだから。

 切り裂いた弾みで漿液が漏れていない所が恐ろしい。脳膜を傷つけなかった事で松長の体は人としての機能 ―― それは多分法力僧としての能力も含まれる ―― に支障を来たす事無く活動を続ける事が出来るのだろう。だが其の事実は覚瑜にとっては最悪の相手と戦う事を余儀無くされたという事。

 そして、葬る以外に松長を止める手段が無いと言う事。

「猊下っ! 」

 覚瑜の叫びに呼応して松長が動いた。足に湛えた韋駄天の術が神速の勢いを松長に与えて、一息で覚瑜の間合いに飛び込む。頭上から振り下ろされる力任せの一撃を、覚瑜は左手一本で受け流そうと試みた。

 受けた瞬間に全身に伝わる打撃と衝撃。覚慈と戦った時には確かに受け切る事の出来た筈の其の攻撃を、今度は押し止める事が出来なかった。不利を瞬時に悟った覚瑜の体が松長の剣先の軌道から離れる。其の途端に覚瑜の受け流しを弾き返した松長の其れは、覚瑜の肉体を掠めて床に叩き付けられた。

 其の隙に距離を取って体勢を立て直そうと。だが今の松長にはそれを許す理由が無い。間も与えずに繰り出される剣戟けんげきを、今度は横っ飛びに避ける。予想を凌駕りょうがして繰り出される松長の攻撃を受ける事も出来ず、身のこなしだけで辛うじて躱す覚瑜。

「ほう、今の速度の攻撃を凌ぎ切るとは大した者だ。やはり、封印を破って彼の者に身を委ねたと言うのは真実の様じゃな。一介の法力僧に出来る動きではない。」

 感心した様に、しかし覚瑜を値踏みする様に蔑む様に、其の声は大師堂の空間全体を充たして、手にした刀を振るう事無く逃げ惑う男に対して放たれる。

「だが、其の力を貴様が今一度解放する事が出来るか? 儂に操られ、『鬼』と化しながらも貴様に『猊下』と呼ばれ続けるその人間に対して。」

 赤塚の言葉を聞いた覚瑜の奥歯が軋んで鳴った。呼応する様に、見上げた先にある松長の顔が覚瑜の苦悶の表情を求めて醜く変り果てた其の顔を向ける。

 繰り返される自問自答と煩悶が、覚瑜の体から戦闘意欲(モチベーション)を奪った。赤塚の台詞が覚瑜にとっての図星であるだけに、其れを指摘された瞬間に勢いは加速する。

 勝ちを確信した様に、今度は法力など使わずにゆっくりと覚瑜の元へと迫り来る松長の姿。隙だらけの其の姿は容易に覚瑜に付け入る余地を与えている。少なくとも覚慈との戦いの中であの体技を認識する事の出来た覚瑜には、それが十二分に理解が出来た。

 だが、理解と行動が整合性を伴わない。強い攻撃の意志は全身に伝えられる事無く、体の奥深くで留まったまま堆く積み上げられる。

「猊下、どうか御止め下さいっ! 拙僧の声が届きませぬか!? 」

 声を張り上げて叫ぶ覚瑜の願いも空しく、松長の光刃が再び覚瑜目掛けて振り払われた。生存本能が自らの刀を交差させて、右腕一本に全ての力を込めて防ごうとする。弾ける光と舞い上がる粒が二人の姿を束の間、暗闇の中に明るく映し出した。

 其の一点に凝縮された破壊力は闇の力によって膨れ上がった故に発揮された物。松長の膂力が覚瑜の体を宙に浮かせる。受けを考える暇も無く、覚瑜は大師堂の床の上を弾き飛ばされた。

 勢い余った其の体が血の海の上を滑り抜けて、その場に転がる肉片や錫杖を跳ね飛ばしながら戦災から逃れる事の出来た大師堂の壁面へと叩き付けられる。

 背中に感じるひのきの板の感触。記憶が未だに確かならば、其れは厚さが二センチ程もあった筈だ。だが其の板が割れた事が与えられた衝撃の大きさを覚瑜に伝えた。

 知った後に襲い掛かる激しい絶息。背中に与えられた波が胴体を突き抜けて、覚瑜の肺を機能停止に陥らせる。至急に回復を試みる横隔膜の動きを嘲笑う様に、折れていた肋骨が覚瑜に激痛を齎した。

 悶絶する。全ての力を光刀に回している覚瑜には、痛みから身を守る手段が無かった。調息と法力の集中を乱されて、容易く姿を失っていく光刀。

 襲い掛かる激痛を無視して集中力を上げ、其の刃を再び復活させる事が出来たのは覚慈との戦いから生れた経験の為せる業であった。だが其処にあの時と同じ戦意は蘇らない。心の中の天秤が傾いてはならない側に大きな分銅を置き、指し示した針の結果が覚瑜の口を吐いた。

「斬らねば、ならぬのですか、又しても! まだ拙僧は失わねばならぬと! 」

「失う事は無い。何故なら貴様には斬れんからな。」

 覚瑜の心を掻き毟る様に赤塚が言葉を放つ。唐突に湧き上がる怒りに満ちた覚瑜の目が声の方向を睨み付けた。

 先程まで澪の寝かせられた籠と白い灰以外に何も存在していなかった筈の護摩壇の中央で、覚瑜が身に纏った白い法衣と同じ物が何かを潜めたまま盛り上がろうとしているのが見える。

「松長を斬る事。それは貴様が真に信仰を破棄する事と同じだからな。先程儂に『信仰は棄てた』と申しておったが、それは真言密教の法力僧としての全てを捨て去るという事ではあるまい? 貴様が何時までもその様な下らん感傷に囚われている間は其の男は絶対に斬れん。故に残された道は唯一つじゃ。」

 勝ち誇った様に語る赤塚の台詞を聞いている暇は無い。悟られない様に小声で真言を詠唱する覚瑜。刀身を脇に流して、赤塚が恐らく居るであろう場所から見えない様に構える。

「貴様は此処で果てる運命なのじゃ。人の身で神を目指した悪鬼羅刹よ ―― 」

 言い終わる前に、覚瑜の体が僅かに差し込む月の光に浮かび上がった床の上を、残像を残して護摩壇へとはしった。両足に僅かに灯る光は韋駄天の真言。半減した刀身の刀を握り締めて、それでも十分に赤塚の止めを刺す事は出来ると確信して。

 その理由。覚瑜にだけ分かる、覚瑜にしか分からない根拠。其れは今しがた白い法衣の奥で輝いた小さな光の認識。護摩壇の上へと上がりつつある『赤塚の自我』。

 ただ一撃で良い。其処へこの刃を突き刺せれば、全てが ――

 一瞬の出来事だった。峰英並みの移動速度を披露しながら赤塚の元へと必殺の刃を繰り出す為に奔る覚瑜の眼前に、忽然と黒い影が立ち塞がった。咄嗟に差し出した刀に再び、脳天まで痺れる様な衝撃が走る。神速と膂力の激突は完全に拮抗して二つの影をその場に縫い付ける事に成功した。

 鍔迫り合いでお互いの顔を寄せる『二人の座主』。人の顔を喪った者が、人であろうと試みる者に対して生暖かい瘴気を振り掛ける。覚瑜の視線は望まざるままに其の顔を見た。

「あか …… つ、か。み、お …… わた、さ、な …… い。」

 声の形をした吐息と瘴気交じりの言葉が、今迄何千と言う真言を唱え続けた筈の口から漏れた。同じ決意を其の身に秘めて互いに殺し合わねばならない現実は、ただ二人の間にだけ広がる事実。

 力を失った自分はやはり『座主猊下』に討たれる運命なのか? 赤塚の指し示した『運命』を覆す手段も無いままで。

“運命等に身を委ねるな。その様な考えでは到底あそこには届かんぞ? ”

 萎えて行こうとする心の奥に、覚鑁が遺した言葉が覚瑜の遠い記憶の中で蘇る。松長の手にする圧倒的な力を有する刃が、徐々に覚瑜の刃に食い込み始める。

“亡くした物を振り返って、未来を失う様な真似はするな。”

“主が今立っている所は絶望の門への道行きでは無い。そういう入り口の前に身を置いていると言う事を忘れるな。”

 永遠に失われた『興教上人』の存在。だが彼の残した言葉は言霊となって、覚瑜の中で生き続けている。覚鑁の遺して行った言葉は、まるで覚瑜が今追い込まれている状況を予言したかの如く、そして覚瑜の心を励ますかの様に覚瑜の弱気を唾棄した。

 松長の力に屈服しそうになる覚瑜の刃。斬り飛ばされる寸前に覚瑜は一気に飛びずさって、距離を取った。長刀から小太刀へと変化せざるを得なくなった刀を手に、正眼に構えて松長の姿目掛けて突き付ける。

“覚瑜。お主も独りではない。お主が戦う限り、儂らはお主と共に、在る。”

 其の言葉と共に導き出される活路。

 上人様はおっしゃった。例え闇の中へと没して姿を変えても、自分が戦いを続ける限り必ず、覚慈と共に力を貸す、と。そして其の証拠が自分の目に映った小さな光 ―― 『印』 ―― である事。

 そしてもう一人、自分には味方が存在する。

 自分には斬れない全ての者を斬り伏せた、あの男が。

 

「そうだ、其の調子で戦え松長。あと一息。あと一息でお主の怨敵は落ちるぞ。さすれば、澪殿は貴様の手元に戻ってくる。奴に神仏の鉄槌を、貴様の手で下してやるのじゃ。」

 其れは恐らく人の体を取り戻しつつある、赤塚自らの口で語られているのであろう。声に後押しされる様に其の足を覚瑜へと向けて歩き出す松長。その時、迎え撃たざるを得ない覚瑜の膝ががくりと落ちて床を叩いた。

 理由は覚瑜本人にもはっきりと分かっていた。それは、余りにも当然な理由。

 遂に体力が、尽きた。

 幾度もの死線を潜り抜け、度重なる極限状態にまで追い込まれた戦いの悉くに打ち勝ち、操る事の出来る法力の殆どを費やして此処まで辿り着いた。命が幾つ有ったとしても到底足りないであろう我が身の上に訪れた偶然 ―― いや、覚鑁の言葉を借りるならば其れは『必然』 ―― は、奇跡の御技を繰り返して覚瑜をこの場に押し上げたのだ。

 だが其の奇跡の代償は覚瑜に多くの物を求めた。絆、友情、尊敬、そして、信仰。

『覚瑜』として手にした全てを失った挙句に唯一つ、其の最後に求めた『者』。目の前にしていながら自らの思いは力及ばず、次に向うべき黄泉路の白線を踏んだ覚瑜が迫り来る松長の顔を見上げた。

 其の表情に去来する物は恐怖でもなく、苦悶でもなく。自分がこれから決断しなければならない事への決意と憐憫。神仏に許しを請う絵画の世界で対峙を果たす二人の姿が、眺める者の無い蒼光の中に浮かび上がった。

 緋色の点滅が覚瑜の両目に奔る。変化の瞬間を見透かした様に、断罪の意味を込めた松長の一撃が覚瑜目掛けて放たれる。長い戦いの果てに遂に難敵を葬り去る事の出来る喜びに、其の体を僅かに震わせて。

 しかし松長が歓喜の手応えを得る事は無かった。刀の軌跡は覚瑜の顔形をした霞を通り抜け、差し込む月の光の中で空しく宙を切る。目前に其の首を差し出した筈の白い法衣を身に纏った怨敵の姿を求めて、松長の頭が不規則に左右に振られた。

 感情を失った筈の松長が見せる僅かな動揺が大気に広がる。途方に暮れて敵の姿を捜し求める松長の背後に沈む白い影。何事も無かったかの様に影はゆっくりと立ち上がり、背を向けたままでじっと大師堂の暗闇を凝視した。

 実体化した幻の存在を盲いた瞳で感知した松長は徐に振り返り、同じ白衣を身に纏って復活を果たそうとしている赤塚は怒りの声を上げた。

「遂にこの場に現れおったかっ、穢れた殺人鬼め! 」

 大師堂を揺るがす程の罵声にも何の感情も感慨も見せる事も無く、白い影は暗闇の中で佇んだままぽつりと呟く。

「 …… この男は無駄な力を使い過ぎる。人を斬るのにどれ程の力が必要な物か。其処の所が分かってない様だな。」

 左手の中で輝きを保つ光刃。項垂れて視線を落とす男。軽く溜息を吐いて呆れた様な口調で言った。

「その結果がこの体たらくか。全く、こんな事ならばあの時素直にお前に体を返すのではなかったな。俺が戦っていればもっと気持良く楽しめただろうに。何せ ―― 」

 覚瑜の首がぐるりと廻って、背後に立ち尽くしたままの松長の姿を見た。其の表情は既に『覚瑜』を名乗っていた者とは程遠く、激しく赤と黒の点滅を繰り返す両の瞳を従えて満面の笑みを湛えている。

「 ―― 久しぶりに歯ごたえのある奴の様だからな。坊主と遣り合うのは初めてだが、死合う相手としては申し分無い。」

 其の男が纏った白い法衣を突き抜けて殺気が噴出した。生を否定する圧力が二人の間に漂う空気を押し縮めて、互いの存在目掛けて叩き付けられ、其の威力は既に現世の住人である事を諦めた筈の松長でさえも怯ませる。

 理も実も無く繰り返された松長の攻撃は其の男から溢れる理力という鎖に絡め取られて、今暫くの沈黙を強制された。

 隙が無い。それが今の今まで自分の攻撃を躱す事しか出来なかった『赤塚』と同一人物とは思えない程、無造作に立つ其の男の背中の前で仁王立ちになったまま動けない。力では圧倒的な優位にある松長の姿を嘲笑う様に、其の男の明滅する虹彩が射抜いた。

「さあ。」

 愉悦に歪む男の口から軽やかに流れる一言。音も立てずにするりと振り返る体勢は、既に男の戦意を如実に表している。

「やるか。」

 それが作業でもあるかの様に短い言葉で死合の始まりを自ら告げて、その台詞一つであっさりと松長を挑発する。姿形は同じでも其の内面の異なった新たな『赤塚』を目の前にして、松長を縛り付けていた男の鎖が解けた。全身から噴出す闘気の風に煽られて男の白衣がひらひらと、月の光の中に舞う。

 闇よりも深い瘴気が漂う其の中を、微塵も揺るがずに松長から視線を外さない。左手の中の小太刀が袖をはためかせながらゆっくりと頭上へと上げられた。

「貴重な機会だ、存分に味わうとしようか。片腕での立合いにはなるが、なに、遠慮する事は無い。臆せず何処からでも掛かって来い。―― 俺はこいつでお相手しよう。」

 小太刀では考えられない上段の構え。掲げた刃の切っ先が天に向けられて、静止する。

 其の一瞬に男の全てが変化した。張り付いていた筈の悪鬼の表情、松長が叩き付けた瘴気に抵抗する殺気。其の全てが消失する。吹き消された炎の跡に立ち上る微かな煙と同じく、其処に微量の気配だけを残して。

 腕利きの仏師が彫り上げた仏像の様な佇まいだけを残して『鬼』と対峙する男。其の口が静かに開いた。

「中条流小太刀、四の型。『崩柳』」

 男の口から放たれた流派の名。声を耳にした赤塚が、未だに十分な復活を果たせぬままで、叫び声を上げた。

「『中条流』。やはり、そうかっ! 」

 咆哮が二人の間の空気を掻き乱した。切っ掛けを与えられた互いの肉体が反応して、其の間合いを一瞬にして詰める。

「これで得心が行った。何故貴様が此処まで辿り着けたのか。 …… そうか、貴様こそが。」

 大きく振り上げられた松長の大刀が眩い光と唸りを上げて男の頭上へと振り下ろされる。その軌道を見詰める男の小太刀が切っ先を上げた。僅かな角度の狂いも許されない『受け流し』を狙って其の手首と肘が、刹那に変化する刃の向きを調整する。

「『摩利支の巫女』の御身を守るべく『摩利支天』より遣わされた、『番い』の正体だったのか! 」

 赤塚の叫びは激突した刃の残響音に掻き消された。小さな光が大きな光の傍を摺り抜けて、其の先にある黒い影へと雷光を放ちながら切っ先の速度を上げた。

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