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第五話「恋心と腹パンは突然に」



見事に試練をクリアすることが出来たユキト。

その横には、もの応じせずに後半ずっとティータイムだったエムリスが居た。

流石に文句の一つくらい言ってやりたい気分だが、もう、そんな体力させ残っていなかった。


「やったわね!大成功だったじゃない!!あっ、でも大丈夫?ユキト……」


エイルが疲れきってふにゃりとしている少年に、喜びと心配が混ざりあった風に声をかける。彼女もきっとまだ落ち着いてはいない心境なのだろう。少し興奮気味なのが伝わってくる。


「まさか俺の子一匹も傷つけずに動けなくさせるとはな!恐れ入ったぜ!良かったぜ、暴れ出したらペッグ達は俺以外の言う事聞かなくなるからよぉ。あんがとな、勇者」


エイルの後ろで気がきでなかっただろうクグが、家の方を指さす。


「……?ペッグ達」


やっと息が整ったユキトは聞き慣れない名前に疑問する。


「お前を追いかけ回してたのはなァ!チャーンミルク・ペッグと言って、一種の精霊で、この畑の守り主なんだ。……そして、なんてったって俺の使い魔だったりするんだがよぅ……」


少年に草のモンスター、いや精霊のペッグの事を微笑ほほえましく説明していたはずのクグは、底から湧き上がる怒りをあらわにし拳をボキボキいわせてエムリスの前に現れていた。


「おぉい、何呑気にティータイムしてんだよ。てめぇは絶てぇ許さねぇぞ……来い!俺の可愛い可愛い子供達!!……っそもそも、こんな可愛い奴らが寄生なんてするわけねぇだろぅがっ!!嘘も大概たいがいにしとけよ!」


--???おい、おい。めっちゃ怖かったのに嘘とかマジか!?色々想像しちゃったじゃねーか。でも、俺より激おこぷんぷん丸なクグ見てると怒るに怒れないというか……。まあ、とりあえずざまあみろ!


余裕だった筈のエムリスの顔には、かなりの汗が出てきている。マントのえり部分をがっしりと捕まれ、前後に激しく揺さぶられさらにはクグの後ろに呼び出されていたペッグ達の姿が大量に居れば焦るのも仕方ない。これは……流石さすがにびびる。

ここでもう一つ理解したことがある。

絶対に使い魔とその主人は怒らせてはいけないと……。

エムリスは結局、フルボッコ(フルパワーでボッコボコの意)にされた挙句あげくずっと正座させられていた。

ユキトとエイルは、このまま返すのもなんだからと、クグの家に泊まらせてもらうこととなった。

外はすっかり昼から夜に変わっていた。


「ふぅ~!やっとかたずいたな!」


「どうして俺まで……」


エイルとクグは夕食の材料の買出しに、

すっかり散らかしてしまったクグの家の中をエムリスとユキトでかたずけているとエムリスが愚痴をこぼしている。


元凶げんきょうはお前にもあるんだから仕方ないだろ。まあ、いいじゃないか!飯食わせてもらえるし寝るとこだって貸してくれるんだし!!」


綺麗になった部屋の、キッチンにある椅子に腰をかけるユキト。

そこにエムリスも少年と向かい合わせになる形で椅子に腰をかけた。

テーブルに肘をのせ頬杖を付きながらエムリスが口を開く。


「ふぅ。でお前、何故あのペッグ共をこの家へ閉じ込める策を思いついたのだ?」


いつもより真面目な雰囲気のエムリスに違和感を覚えつつも、彼の問に答える。


「まあな!お前が言いたいのは他の奴に何で助けを求めなかったのか……とかだろ?エイルにはちょっと力を借りたけどよ。……実はな!ちょっと似たような場面に出くわしたことがあるって言うか、経験があったって言うか……忘れてたけど思い出した……って感じだな」


--くそぉ。この世界にゲームが無い以上は説明がしにくい……、前に試しに買ったゲームが似たような感じだっただけとか言えないし。しかも基本、運と感……だなんて死んでも言えない!


「ほう……、どうやらいつわってる風にも見えんし。まあ良しとしよう。俺もちょっとばかりやり過ぎたしな。…………そうだ!良い事を思い出した!」


嫌な予感と嫌な予感、つまりは凄く嫌な予感しかしないユキトであったが何やら明日は試練を休みにしてくれると言う。

その代わりに、とある女の所へ向かえとの事だった。意味は何となく聞きたくなかったので(感)、少年は明日エムリスの言う女の所へ(しょうがなく)出向くことにした。


そこへタイミングよく買い出しから帰ってきたクグ達が腕をふるってくれ(ほとんどクグが)、オムライス(凄く美味かった)を食べた。明日の話をエイルにもしていた頃、エムリスの姿が無いことに気がつく。

クグによるとまた次の試練の準備と、ユキトたちが明日会う女に連絡を入れるため先に帰ったとの事だった。



□ □ □ □ □ □



眩しいほどの光と鳥のさえずりが少年を夢から覚ます。

するとふんわりと嗅覚と脳を刺激されるなにかが漂う。

何やら香ばしい臭いがする。それは、ユキトの食欲をかきき立てる。

その臭いは、とても懐かしくバターを塗って食べていたサクッ、フワッ、なあの食べ物が連想される。


ユキトは寝ていたソファーから大きなあくびをしなが、キッチンにある昨日夕食を食べた同席についた。先に起きていたらしいエイルとクグは、朝食の支度をしている。どうやら少年には気づいていない様子。

少年は、そのままテーブルに並ぶ食卓を見て予想は正しかった事が確認できた。


臭いの正体は、トーストされた食パン、他には目玉焼き、木のボールに入ったサラダがある。

この世界の食べる物はまともに口に出来るもので、良かったと安堵する。正直、爬虫類とか昆虫類が出てきたらどうしようか不安でもあったが……。

そこに、三人分のティーカップが並んだトレーを手にまずエイルが、次にクグが椅子に腰をかける。


「おはよう!ユキト。はいこれ!クグの庭でできたハーブを煮出し乾燥させて淹れたハーブティーだって!」


「おぉ、ありがとう。悪いな、クグ。俺何もしないで……」


「なんだよ、気にすんなって!まあ、最初はあんな事言ったがなぁ。俺はお前の事、実は気に入ってんだぜ!」


手渡されたティーカップが、ユキトの手を温める様に心もポカポカするのが少年は嬉しくてならない。


--こんな風に……昨日もそうだけど、誰かと一緒にメシ食うなんて…………久しぶりだな……。



□ □ □ □ □ □



「えーと、ランプおk。マッチおk。水分おk。予備食、おk。ゲーム、PC、スマホがあれば、なおオーケーなんだけどな……あーでも、こっちじゃ繋がんねーか」


朝食を終えたエイルとユキトは出発の準備を進めていた。


「あそうだ!勇者、これをお前にやるよ。無くすんじゃねーぞ。森の守り神からのプレゼントだ。この先きっと役に立つ」


そう言ってクグが支度中のユキトに手渡したのは、幾つもの細かな水晶の粒で出来たブレスレットだった。とても高値なものに見える。


「っ?こういうのは女の子にやるもんだろ普通。まあ、ありがたーく受け取っとくけど!」


「それなら先にエイルには髪飾りをやったぜ。しかも、ちょー嬉しそうにアリガトウって言ってくれたが?」


「マジか!?」


男二人でコソコソしている二人に支度ができたとエイルが声をかける。

見てみると確かに……、昨日まで何もつけていなかった筈の髪には、白いパールの髪飾りが彼女の可憐さをより一層引き立てていた。それがとても似合っていて、とにかく麗しい女の子だなと少年は見とれている。


「さっ!行きましょうユキト」


彼女が声をかけるまで止まっていたユキトの時間はまた動き始めた。

少年らを見送るクグとペッグ達に礼を言い、クグの家をあとにした。

目指すはグリーグレート街の東側、丁度ユキト達が街から出ていった方角の反対側に位置する。

そこは、一般的な者達が関わっているよりも専門的な仕事などをしている者が多くいる地域で、エムリスが言っていた女はそこに居る。


場所以外は何も言わないで帰ってしまったのでそこへ向かうこと自体、納得はいっていないが少年は進むのであった。

元の道をまた四十分かけて、騎士のいる城壁の前に到着した。

この時もまたエイルが騎士と交渉し、街の中へとどんどん歩いていく。

だいぶ奥の方に行った頃、路地裏に入る。

そこは道が複雑になっていて、迷えば一生抜け出せないような……。


「いったいどうなってんだ?まさかエムリスのヤロー、嫌がらせか?これ、元の所に戻れんのか?」


「うーん、元には戻れるのかと聞かれれば分からないけど……。この路地裏には魔力を感じるの」


「まじか!?はっ!まさかもう試練始まっちゃってるよーってやつ?だったりして……」


「あ、」


少年の先を行くエイルが、力なしに何かに気づいたようにそうこぼす。

見れば目の前は石壁の行き止まりだった。


「やっぱあの金髪、ぜってぇシバく!」


「……誰が誰をしばくのです?」


「それは俺が金髪を……、え。エエェェェエエェェェエエ!?ちょ、え?待って?君、今どっから来たの?か、かべを壁をすり抜けて来たね。どうしよ、俺重症かな?幻が見え」


行き止まりのはずの石壁を、通り抜ける様に二人の前にやって来たのはサーモンピンクな髪をツインテール縛りに、ゴスロリファッションが似合う清楚系少女だった。

混乱すり少年とは違い、エイルは冷静さ見失わずにいる。


「ねぇ、貴女は向こうからやって来たわね。見た限り、移動魔法ではなく……」


「えぇ、時空魔法。向こうの者達は皆、取得していないと入るのには難しいもの。それはそうと、あなた方はここを通りたい風に見えるけれど、違いないかしら?」


どうやらゴスロリ少女、そして向こう側に住む者達は魔法を駆使し行き来をしているらしい。


魔法が使えない少年にとっては、こんな事を聞いてしまえば当然やる気を無くすというもの。少年はまさにそんな状態だった。やる気を失くしたユキトの代わりにエイルが答える。


「そうよ。でも、私はともかく。彼が……ね。あ!ユキト!」


エイルの足元の魔法陣が青く光れば、これまたおなじみの光景。

ドスっ!!

と、鈍い音が。向こう側に先に行っていたエイルは、またユキトを召喚させる。

理由は分からないにせよ、エイルの召喚魔法で召喚されるのはユキトに特定されている事が分かってきた。

が、ペッグ達を閉じ込めたあの時とは違い成功とはいかなかったが。


「大丈夫ですか?」


と少年に言ったのはさっきのゴスロリ少女。幸い尻餅をつく形で落ちたので怪我《けが》はないがこれまた濃いピンクの瞳が顔をのぞかせる。


「ああうん。心配ありがとう。大丈夫、なんか慣れつつあるから……」


「それはよかった!無事にこちら側に来ることが出来まし、私が案内させていただいてもよろしいでしょうか?ユキトさま、それと……」


「!!わ私はエイルよ。案内してくれるのは有難いけど……貴女は?なんて言うの」


「うふ。そうでしたわ!申し遅れました。私はディーテ。魔導師を志す者、お見知り置きをユキトさま」


ディーテと名乗るゴスロリ少女は、少年にばかり気を取られエイルには興味が全くないかのような素振りを見せる。

そんな彼女に対し不満がある様子のエイル。

隙あらば間に居る少年にくっつき、密着し魅惑みわくな笑顔を見せてくる。

これはそう、メスがオスを誘惑ゆうわくするアレだ。


「ねぇ、ディーテ。貴女ちょっと近すぎないかしら?ボディタッチしまくりじゃないかしら?」


「何を言うのですか?私は少しでも早く仲良く慣れればと思い考えて行動しているのです。それが何か?」


--うん。女って言うのはよく分からん。……けど、この地域はまた個性的と言うか、なんて言うか。物好きな奴らが居そうなとこだな。


西側の商店街、エイルの王宮の近くの方と比べてみるとフードを深く被っている者が半分を占める風に見える。


「何やら気になっている様子ですね。……この地域は、主に錬金術師、魔導師が多くおり、物作りなどが盛んな所なんです。なんと言ってもここの武器、装備品は特にレアなものが多く世界中に人気なんです。それに、魔・共通協会、通称魔協からも指定されているギルドがあり強者共が集う、とても近代的な所なんです」


「解説サンキュー!いろんな意味で同じ街とは思えない程に別世界だな……っと、エムリスが言っていたのってここだよな」


一見何の変哲もなく周りと変わったところもない普通のレンガ造りの家。豪邸でもなければ、大きな城でもない。付け加えればボロ……かなり年期の入った感じだ。


「ここは、世界屈指の水の魔導師イオス様の研究所兼けんお住いです。イオスさまは、魔協お墨付きのお方なので直々《じきじき》に依頼がきたり、魔導師見習いの方々を指導されていたりします」


何故エムリスは魔導師イオスの所へ行くように仕向けたのか謎ばかりが深まった。

どんな意図をもってエムリスは少年らをここに寄越したのか。

当然本人に会うまでは分かるはずもないが。


そしてディーテは全くユキトから離れようとはしない。魔導師見習いであれば本物を一目見たくなる気持ちも分かるが、どうしても腕にあたる胸が気になって仕方が無いので出来れば離れてほしいようなほしくないような……。

本題に入らなくてはと首を横に振り、一歩前へ。


「エムリスに言われてきましたー!勇者(仮)でーす、どなたがいませんかー。凄腕魔導師のイオスさんは、いませんかー?」


トントンとドアをノックしても声を掛けても出てくる気配がない。


--ま、居ないのも無理はないか。突然だったし。今日会えるなんてことはあまり期待しない方がいいな……。


「おい!お前ら、そこで何してんだ!!」


背後から、荒っぽくユキト達に放たれる声。

何事だと周りにいる人達の注目を浴びる三人。

後ろを向くと、中学生ぐらいのオレンジ色の髪に猫のような目の少年が仁王立ちで構えている。

何やら敵意的に見られているようだ。


「あぁ。俺達は別に怪しい者じゃなくってだな!ここに住むイオスさんに用があって来たんだよ」


まあまあ、となだめながら何か聞き出せはしないかとダメ元で聞いてみる。

そこに猫目の少年は居ない……のではなく、隙をつかれ思いっきり腹パン(腹パンチ)された。

始めての腹パンに痛みを隠しきれないでいると性格の悪そうな声音でその犯人が嘲笑する。


「こんな一発も避けられねーなんて、笑える!!ガキだって甘く見てんと痛い目みるぞ。クソ野郎が」


クソ野郎はどっちだよと言いたいが痛みに耐性のない体が堪える。

子供だと思っていたのは図星だが、バッドボーイ、ヤンキーだとは想像しきれなかった。

道に転がっていると見ていた人達が困ったように怒っているように様々に囁く。

また、声を荒らげて猫目の少年を非難する者も少なからずいた。


大丈夫か?と一人、ここの準備らしき人がユキトの肩を支えながら声をかけてくれた。

その人によれば、猫目の少年は近所で有名な悪ガキでこんな事が日常茶判事だとか。

暴言を吐きながらも色々なものに当たったり、壊したりを続けている。


「もうやめろ、ダイヤ」


そっと優しく肩を叩くと、あっという間に動きが止まる。

そう猫目の少年に声をかけたのは、海色の髪を一つに束ねとても強い信念を感じさせる青い瞳の男、羽織っているマントはどこかからの帰りなのか薄汚れていた。


「っ、()()()。コイツらがあんたに用だって!俺は……何も、悪くねーから、謝らねーから」


バッと人をかけ分け走り去っていく、その姿が見えなくなるまで見ていると男から話しかけられる。


「待たせた挙句、痛い思いまでさせて悪かったな。話はエムリスから(うかが)っている。()()()()()だ」


男はそう言ってユキト達を歓迎する一方で、申し訳なさそうな顔をしていた。



一応、意味がわからない方のためにカッコ内に説明を入れてある場合がありますのでそこんところはよろしゅう願いますm(__)m

ここまで読んでくださった方、少しでも興味を持ってくださった方どうもありがとうございます!

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