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第四話「ミッションワンと草のモンスター達」

◇あらすじ◇

突然異世界へとやってきた、俺、八神ユキト(十六歳)は美少女魔法使いのエイルに頼まれ一つの街を救うことに……。

生憎無力尽くしの俺を見兼ねてエイルはエムリスという謎の人物を紹介してくれたが、強くなる為に修行をつけることを拒まれてしまった。

「この街を救いたい」とのユキトの思いに免じて(エイルの協力もあって)エムリスはユキトを試す事にした。

そして今、その試練(ミッション)が始まろうとしていた!


--その日の昼、準備があると言ってエムリスは俺達の目の前で詠唱のような何かを慣れたように口ずさむ。

そして彼の前には時空の歪みそのものが現れ、それは彼を飲みこんでいきそのまま姿をくらます。

俺とエイルはそんなエムリスの見送りをして王宮に戻るなり対策を練ることにした。


「で、アイツはどんな試練を持ってくると思ってるんですかね。そこんとこの解説をいっちょ!お願いしますぜーエイルさん」


「なにその喋り方。それは……私にも分からないし見当もつかないわよ。これはもう当たって砕けろよ。ユキト」


「えなんかちょっとテキトーじゃない?それに砕けたら駄目だろ」



まるで作戦会議と言うには程遠く、『いつ』『どこ』で『何に』何をすればクリア条件が満たされるのか……これを探るのはかなり難儀だったりする。

そこに『戦闘』『討伐』『捕獲』などの難易度高めのものが選ばれれば試練を三つとも終える前にユキト自身の人生の終わりが来るのも時間の問題か。

ヒントの一つもない中で苦悩するユキト。

そんな事を知ってか知らずかエムリスから手紙が届いていた。


「?やばい、これ読めないやつだ」


まず日本語ではない、だが見たところ英語でもない。

ユキトは、長いこと始めてみた字と睨めっこしていたがついにお手上げとなり、この国の字が読めない彼に代わってエイルが手紙の内容を読み上げる。


「えーと、昼と夜の間頃の、時に待つは草がしげる、民の畑所。……遅れは許さぬ。だって」


「試練の内容か……草ボーボーの畑?どこだよ、俺来たばっかだから分からねーし……」


頼りなさげにしている少年に対してエイルは心当たりがある様子でいた。


「ボーボー?多分そこって……クグの所の畑だと思うの。あそこは毎年草が凄いから。時間には間に合うとは思うけど、それでもここからだとちょっと時間がかかるから直ぐに出発しましょ!ユキト」


「まあ他に宛は無いしな、ダメ元でも当たってみよう。じゃ目的は決まったな!そのクグ?って奴の所に行ってみよう」


こうして、ユキトはエイルを頼りにクグたる人物の畑を目的地とし王宮を跡にした。


この異世界に来てから始めて街へとおりてきたユキトと案内をしてくれているエイルは二人、商店街を堪能たんのうしている。

花を売っている愛らしい獣耳娘、宝石をあしらったアクセサリーを売っている少しコワモテな人面虎、魚を売っている魚男、すぐ横を人と一緒に通り過ぎる手のひらサイズの愉快そうにしている妖精や、宙を浮く少し透けた人のような者……色んな人種やらでわんさか賑わっていた。

その中でも一際ひときわ盛り上がっている男がここに一人いるようだ。


「おおぉぉお!!まだ、人以外の奴には会ってなかったからな。なんとなーく想像してたけどやっぱ色んな人種がいるのな!なんかあの人透けてるし浮いてるっ、すげーな。やっぱ異世界はこうでなくちゃな!」


通りゆく人に気味悪がられているが少年はそんなこと一切気にせずただ異世界を楽しんでいる。

楽しまずして人生は謳歌おうかできまい。

やはり異世界はこうでなくては!

ありがとう神様!ありがとう異世界!と。


「ああ、その浮いている人は人の為をした神霊や悪魔よ。契約をしていればああやって姿を現すことが出来るの。透けぐわいは、まあ個人によってバラバラなんだけどね」


「し、神霊!悪魔!なるほどなー!どうりであんなに露出をキメてる訳だ……で、畑ってどの辺にあんの?」


「商店街を過ぎると、原っぱに出るの。そこをさらに過ぎると大きな畑があって、そこがクグの畑。ちょっと道のりがあるけどそれまでの辛抱しんぼうね」


少年が元いた現実世界には無い華やかさ、賑わう街が期待どうり想像どうりの作り。

人物達もゲーム、アニメ好きな少年の心を大いに掴んで離そうとはしない。


そんな少年の瞳に次に映ったものは、石を積み上げられて出来たとみられる。この街をおおうように端から端まで建てられている城壁だった。

どうやら街の入口となる所までやって来ていたようだ。


そこには鎧をまとった騎士らしき者が数名、馬に乗って出ていく者、中へ入る者、荷物を運ぶ者、色々いたがここでもやはり人外やら人間やら人種は様々。

道を塞ぐ騎士に事情を話していたエイルがオーケーサインを少年に送ってきた。どうやら外に出るには警備員ならぬ騎士に許可を得なければならないらしい。

その入口から出るとただただ原っぱという場所が一面に見えてきていた。

ユキトにはどこか懐かしいように感じた。


--どっかで見たような?……まっ!今は畑だ畑!!そのあと思い出したらまた考えればいい。


思い出しそうで思い出せない記憶に浸りながらも二人は街の離れをひたすら歩く。

道は以外と長く、しかも原っぱしか無いのでたまに誰かしらと出会ったりするが風景は一向にして原っぱのみで生き物一ついない。



かれこれ四十分は歩いただろうか、ようやく原っぱではなく今度は木々や野菜、果物が沢山ある畑。

なぜか一部だけが草が茂っている所が見えてきた。先にエイルが立ち止まる。どうやらクグの畑と思われる所に着いたようだ。体力には自信がなかった少年にとっては少々キツかったがそんな事は言っていられない。


次に待つのは今よりもキツい、なにかも知れない何かが待っているかもしれないのだ。緊張するのも無理はない。


「エイル、ここで間違いないのか」


「ええ、ここで間違いないわ。エムリス……の姿は見当たらないみたいだけど、とりあえずクグの家を訪ねてみましょ」


こっちよ!と慣れたようにユキトを誘導するエイルの姿は、さっきからなぜか楽しそうでもあった。そう言えば、やけに詳しかったのはクグという人物とは、知人或あるいは友人という関係だからだろうか。何やかんや考えていると、自力で建てたらしいログハウス風の立派な家が奥地にありエイルがドアを二回ほどノックしていた音にハッとする。


すると、

ギギギ……

とドアが開けられ、その向こうにはユキトよりひと回りほど大きく見た感じ爽やかな男が立っていた。さらに奥には優雅にお茶を飲んでいる整った顔に金髪でマントを羽織った姿の男も居た。


「おぉ、エイルじゃねーか!よく来たな。なんだよ、言っといてくれてりゃあ菓子ぐらい用意したのによぅ。ん?……おっともう一人いたな。お前がエムリスの言う勇者か、なんかなよなよしいな!」


ぐさりとユキトの心に何かが刺さったような音。初見にも関わらず、ついで感覚で触れられしかもディスられるという始末。何をもってかこの異世界はこの勇者に少々厳しいようだ。


「そうだよ。俺がその勇者(仮)ユキトだよ。なよなよしくて悪かったな、でお前がクグって奴か?」


おうよ!と威勢よく親指で自分を差すクグ。

先程のことは少しムカつくが大事なのはそこではない、まず優先すべきは目の前の事に集中すること。そして何事も決して焦らないことが重要だ。焦れば折角必殺技ゲージが溜めることができてもいざ必殺技を決めようとしてそれが敵に当たらなければ意味が無いように……エムリスの手の内が分からない以上、ここは冷静に行くべきだ。


「なんだ、エムリス貴方もやっぱり来ていたのね」


--そうこういう事があるから最も冷静に。……は?嘘だろ。


「え、エムリス?冗談はよしこさん!だって俺達が見たエムリスは、もっとじめっとしてて、辛気臭い雰囲気のニートっぽい奴だったじゃん。」


そんな訳あるかとエイルに突っ込む。があまりに馬鹿にしている言い振りに金髪の彼が口を開く。


「誰が辛気臭いニートだ。俺は駄目で使えない勇者よりも高貴でイケメンな男こと……エムリス。待ちくたびれていたんだぞ、このど阿呆が」


あの時はあまりの声の小ささで性別が判別しにくかったが爽やかながらに低いその声はエムリスのものだった。


--アイツが?なんか最初あった時と雰囲気違くない?第一印象って大事なんだよ!てか、男だったのかよ。誘惑系の魔女かと少し期待してたんだがしかしそんな事は置いといて……エムリスが居るってことはとどのつまり。


「そういう事だ」


疑い深くジロジロとエムリスこと金髪イケメンに睨みをきかしているとユキトが考えている事が分かったのかそう言った。


「いかにもと言っただろ。最初はらしくもない事をしたがそれなりの雰囲気を出そうと演じてみただけのこと。……話もそれほどにして、では行くぞ。ユリーナ!」


「っおい!ユリーナじゃねえよ、ユ・キ・トだ!!」



□ □ □ □ □



「で、なんで俺は草むしりさせられてるの?」


「ほれほれ!さっさとむしらんか!やらなきゃ試練にならんだろうが!」


一気にやる気を失くしたユキトに対し血も涙もないようなエムリス。仕方なしに茂った畑の草をとっていく。

エイルとクグとがいる所からはさほど離れてはいないが何故なぜか物凄く距離感を感じる。

とにかくダルい、とにかく草、取っても取っても一向にかたずがない。


「なんで!っ異世界にまでっ来たのに!俺は草むしってんだよ!!ぉぉぉぉおおぉぉぉおおお!?なんじゃこりゃー!?」


突如となくむしっていた草ひとつひとつに命が宿ったように動き始める。それらは、少しずつふくらんでいき生き物のような形状を自ら作り出しまるで妖精の様な愛らしい生物になった。


「おっ!よーやく姿を現したな。どうだ~?俺が育てた妖精達は。かわいいだろ~」


いきなり身を乗り出し我が子のように可愛がるクグの姿どころでは無く、いきなり抜かれた草達はユキトに対し怒りを顕にしている。

十……二十、三十、四十、五十…いったいいくついるかはっきりいった数は分からないが、ざっと百は超えるとみた。

それらは一斉に攻撃態勢に入り少年目掛けて勢いよく飛んでいく。

あまりの多さに避けきれるか、避けきれたとしてもまた次がくる。運転神経は勿論もちろん無に等しいユキトは、ゲームの知識(以外にも役にたっている)と持ち前の感と運を活かし何とかかわし続ける。


--はぁはぁ、っこのまま避け続けるのはっ。はあ、無理がある。数と総合力では絶対に勝てない、でも何もしないとただ押し負けるだけだ。……どうすりゃあ、いい?


「どーした!このままでは捕まった途端とたんに寄生されるぞ!草だけに植物人間になってしまうぞぅ」


それを更に追い込むようにエムリスに新事実を突きつけられユキトは焦りを隠せない。


「っばっ!お前馬鹿だろ!!そういう大事な事は先にっ。はあ、言えよ!……!!」


その時ふとユキトは曖昧あいまいだった試練の内容を理解出来た気がした。

慎重に試練には挑むつもりであったが、それが裏目に。正確にはたかが草むしりだと油断した。それだけではない、エムリスは恐らくユキトの能力に合わせて出来るか出来ないかの瀬戸際せとぎわつ最大限にちからを引き出そうとしていると思われる。

これはまさに『してやられた』と言うやつだ。


「っ、なんて事考えんだよ……お前」


「ほう。まるで何か得た様な言い分だな。これでも人に物を教える事には長けていてな。……それならば、跡はどうすれば良いか。考えるのも容易いものだろ」


--んな、っ身勝手な!ああ、こういうタイプの魔法使いって、っどうすりゃ攻略できんだ?……いや違う。今は草の奴をどう丸め込めばいいかだ!集中するんだ俺!!


持ち物は置いてきていて何も無い。力も物理的な力も特殊な能力も、何も。体力が底をつきそうな時ふとエイルの不安そうな顔が見えた。


--っ、俺は、そんな顔っはぁはぁ、させたいんじゃあ無い。どっかにっ、必、ず!………………は!そうか、これならっはっぁ行けるかも!


普段勉強などやってはこなかった事を後悔していたが、なんと言っても少年には長年のゲーム知識がある。ここに居る誰よりも、モンスターの扱いは経験豊富だったのだ。


「ぅおぉい!!!聞け金髪ヤロー!っあぶねっ!ってなにまたお茶飲んでんだよ!!…………エムリス、この草モンスターわっっ!!動けなくさせれば、はあ。っミッションコンプリートでいいんだな!?」


「ああ。……倒すなり、戦闘不能にさせるなり、それらは自由だ。まっ、出来ればの……話だがな?」


「おい!お前ら、何勝手に人んちの子を物騒な事に巻き込もうとしてんだよ!」


--そう言うクグには申し訳ないが、お前の子供は俺に牙を向いて、恐ろしい事にも死ぬより酷い状態に晒されてんだ、許してくれ。だが……


ズズズと飲みならがら悪態をいちいちついてくるエムリスに今度は構わず、何やらニヤリとしている少年がいた。


--チャンスは一度きり。これで失敗すれば……。


最悪な事が頭を過ぎていく幾つもの考え。

それでも少年は、気づけば行動に出ていた。


「エイル!!クグの……奴を連れてっ今いる。その木でできた建もんから早く離れろ!!そして、の準備をしといてくれ!!」



エイルは言われた通りに駄々《だだ》をこねているクグを説得させ、急いでクグの家から出来るだけ近くに離れた。


彼女はずっと心配そうに少年を見ていたが、今だけは見違えた様にカッコ良くとても楽しそうに見えた。きっと何か思いついた事に違いないと、そして少年の考えを察した。


「ユキトー!!イイわよ!……跡は任せて!必ず成功するわ!」


エイルの言葉に頷く。


「……よっしゃー!行くぞ、草モンスターーァァァァァァァァ!!」


最後のありとあらゆる力を全て足に注ぐかのようにクグの家を目掛けて、ユキトは全速力で走る。

家は目の前。

ドンっ!!と木製のドアを勢いよく開けそのまま少年と草のモンスター達は家の中へ。


「我を救わんとするもの、汝の意を示し志を示しその姿を現したまえ!」


急ぎで書いた魔法陣に心を込めて第二召喚魔法の詠唱を口ずさむ。

魔法陣は青い光を放ち、ユキトを最初に召喚した時よりももっと強大な魔力を帯びていた。

光が淡く消えていくとエイルの前にはユキトが居た。

ユキトは召喚されるなり、また急いで草のモンスター達が入っている家のドアを閉めた。

なんと、一匹残らず一切の戦闘も無く無事に成功したのだった。



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