第二話「第二の人生」
--夢を見ていた。
草原で寝ていたかと思えば、急転直下空から落ちてしかも、運が良いことに美少女に助けられる夢だ。
--あー、覚めたくねー。どうせなら幸せな夢の中で一生を終わらせたーい。
どちらかという死にたくは……ないけど。
「っ、て。は!!バイトに遅れる」
普段の少年の生活からして今の時間帯はバイトへとっくに向かっていなくてはならない時間。やばいとがばっと勢いよく起き上がった少年は、いつもとは違う感覚に気がつく。
「なんでこんなにベッドがふかふかの特大サイズになってるんだ」
そう、いつもなら丁度成人男性一人が寝れるだけのスペースと長年愛用してきた薄汚れた布団と枕があるはずだが。
少年が眠っていたベッドは人が一人で寝るには大きすぎるぐらいのしかも、綺麗すぎる白い布団にシーツ、お日様の香りがする枕……。
「って!そんな事どうでもいいわ!なんで俺こんな所にいるんだよ!!」
一般人の少年には見逃すことの出来ない案件ではあるだろうが、それよりももっと大事な事がある。
--恐らく今は朝だと思う。これには根拠がある。バイトで鍛えあげられた俺の朝への耐性と生活リズムには意外と自信があるからだ。それに窓からはかなり外が明るく見えるので夕方ではない……これらの事から、あの夢のような事があってからだいぶ時間が経ったことがわかる。
「まあ、それ以外はてんでお手上げだが」
とりあえず少年が寝ていた寝室と思われる部屋から出て、探査する事を試みることにした。
歩いている途中、大きな鏡が目に入る。
それらはずっと先までずらっと並んでいる。
ふと少年が映る。
「どうやら、マジでそのままやってきちまった訳か」
格好はコーンのシャツに黒のズボンっといったかんじで、胸には名札。名札には『八神』少年の名字とそしてバイト先の店のロゴマークが記されている。バイト中だった事もあってこの格好。
黒のショートヘアに身長は平均より高め、体格は良いか悪いかというといい方。
だが鏡に映るまでの自分に少年は少しばかり期待していた。もしここが異世界だったら人生が変わって色濃く華やかになるかもと……。
だが、現実は……厳しかった。
--は~あ、やっぱりそう簡単には世界を救える超強力なイケメン主人公に転生とか無理があったか。
そもそも、ちょっと信じたくないし、ならばじゃあやり直しさせてもらいたいぐらいだ。
それに……絶対ステータスとかカスだしぃい、勇者にしか扱えない聖剣とか絶対俺は使えないパターンですよね、これ。
そんなことを半泣きしながら考えていると、少年しか居なかったはずの鏡の中に……あの美少女がいた。
「あれ?俺遂におかしくなったのかな。なんか夢で見た美少女が見える」
「何馬鹿なこと言ってるの」
後ろを振り向くとそこには、ちゃんとあの美少女がいる。あの時は生命の危機を感じていたあまりにちゃんと見てはいなかったが……、綺麗な青いロングの髪に瞳は琥珀色、リボン付きの白いワンピース姿。年齢は十六、七歳といったところか……少年と対して変わらなそうだ。
「あ、えっと。」
「私の名は、エイル。昨日は……その、驚かせてしまって悪かったわね」
「昨日?……あ」
エイルと名乗る美少女は少し言いずらそうに昨日の事を説明する。
「つまり、あんたのせいで空から落ちそうになったのか……」
--やっぱこれは本当に異世界にやって来てしまったと思ってもいいかもな。大体、冷静な今なら分かる。夢で痛い思いをしても体にまでは影響こないだろうしな……まだ背中痛いし。ま、あやふやな事ばっかだけど。
「そうよ。私が召喚魔法を行ってなぜだか貴方が空から降ってきたのよ」
ちょっと棘のある言い方だったが、救ってくれたのもまた事実である事を少年は痛感していた。
「色々言いたいこと聞きたいことはあるが……まっ!こんな、なんの役に立つかも分からない男を助けてくれてありがとな!エイル」
--いいじゃないか、理由はともあれ助けてくれた事実が大事なんだから……
こんな美少女が。
うんうんと腕を組みながら納得が言ったかのような少年。
「それで……貴方の名前は?」
「え……」
無意識に少年は驚きで目を大きく開けていた。
人生に身づから名乗ることはあっても、人から名前を尋ねられることなどそれほどある事なのか?とこの瞬間少年は思った。興味があろうとなかろうと名前を聞いてくれた事がなぜだか少年にとっては嬉しく、暖かな気持ちが心に澄み渡っていく。
--なんで名前聞かれただけなのにこんな感動してんだ。流石に引くわ!!そりゃ友達いない歴六、七年の俺なら思いかねないだろうが……。
とかなんとか思いつつ、エイルに告げる。
「……俺はユキト」
「……ユキト、いい名前ね。これからよろしくね、ユキト」
「?あぁ、よろしく」
エイルの言の意にユキトはまだ気づいてはいない、もちろんこれから何が起こりうるのかも……。
そんな事はお構いなく彼は思う。
--これはあれだな……そう!これからは、第二の人生として大いに楽しく胸を張って生きていくとしようか!
こうして突然異世界へやってきてしまったユキトの第二の人生が始まるのであった。