第一章〜勇者の始まり編~ 第一話「醒める夢」
「いってぇ……」
ついさっきまでは週に四日程あるかないかのバイト先の書店でレジを打っていたはずの少年が、突然人っ子一人いない一面草原の場所にいた。
--あ、あれ?ここは、どこだ。
一面草原で、しかもついさっきまで俺はバイトしてたはずなんだが……。
何がどうなればバイト先が一面草原に……、いや、俺だけが瞬間移動した……みたいな?
少し考えていた少年はなるほどなとそのままその場に胡座をかきながら独り言。
「あー、起きてからバイト行くまでの間もなんか夢で。そんでもって今もまだ夢の途中……って訳か!」
少年はこれを現実と非現実的な場所や物事で構成された幻、すなわち夢であると仮定した。
人が見る夢とは大抵変なものが多いものだ。
「こういうのもたまにはいいもんだ。ゲームするかネットするかバイトするかの日々だったからな……まあ、そのうち覚めるだろう」
草原に身を投げ、頭を腕にのせ足を片方の足へと組み、目を閉じる。風が少年の頬を伝い太陽の温かさと心地よい。
--風とか太陽の光とか体に感じてる、本当にリアルな夢だなー。
そんなことを考えていたらいつの間にか眠りに落ちてしまった少年。
□ □ □ □ □
--同時刻。
場所は変わり、さっきとは打って変わって中世風の建物が並ぶ。
その街外れにある森で、麗しい彼女は呪文を口ずさむ。
「我を救わんとするもの、汝の意を示し志を示しその姿を現したまえ!」
彼女の足元の魔法陣が光り輝き風が彼女を取り囲む。
「うっ、やっぱり。まだ……わた……しの力じゃ呼べ《・》ないか」
彼女はそのまま力を解き放ち魔法を解除しようとしたが……制御が効かない。
「っ!ど、どうしよう!出来ない……ばかりか、制御も儘ならないなんて。このままじゃ」
--抑えが効かなくなったそれは魔力の行き場をなくし激しく散乱する。
例えるなら、割れたシャボンに威力が加わり破壊力がつき、魔力量が多ければ多い程その威力は強大なものとなる。
覚悟した彼女は目を瞑る。
が、そのような衝撃波はいつまで経ってもやってこない。
恐る恐る目を開けるが、何も起きてはいなかった。
「……なんだ、本当にただ失敗しただけじゃないの」
ため息を吐きながら落ち込む彼女はそそくさと帰っていくのであった。
--その数分後。
まだ消えていない魔法陣が新たな光を放ち始めていた。
今度は青く空に向かって一直線、光の柱が立つ。
それを見ていた農民達が口々に言う。
「おい!あれはなんだ。」
「凄いぞ!これは紛れもない、あの伝説の……光の柱に違いない!」
「馬鹿かお前は!そんな事より、あそこ!!人が空から落ちてないか!?」
「ああ、確かに……だが場所が悪かったな」
農民が指を指す方向。
それは丁度、魔法陣の真上。
光の柱は消えたが、消えた途端に現れた人影。だが誰も助けには行けない。
なんせこの街一番の王宮の敷居内の端にて魔法陣があり、その王宮には王宮の者以外は安易に入れないものとあったためだ。
到底ただの人間が助けられるとも思えない。
「はああぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
落ちていることにやっと気づいた時にはもう地面が近ずき始めていた。
--おいいぃぃぃ!どうゆう事なんだ!これ!というか、落ちる!死ぬ!あ、もう落ちる!まだ死にたくないんだけどぉぉお!!
落ちている人影……というのは、さっき草原で寝落ちしていたあの少年の姿であった。
さっきの美少女が行っていたのは召喚の儀式。
それも運が悪いだけか偶然か、なぜだか少年が引き寄せられ召喚された始末。
もう終わりだと思う少年は衝撃を覚悟する。
だが、待てども待てども何かにあたる感覚はやってこない。
--あ、あれ。なんか痛くない。リアルなスリリングだな。まあ流石、夢の中。それとも夢から覚めるっていうオチか?
そうは言ってもやはり怖いのかゆっくりと、少年は目を開ける。
開けた瞬間……
--ごつんと地面に落ちる。
「ぬあっ!いってー。あぁ、痛い、なぜ?……でも、とりあえず、助かった……のか」
そんな少年を助けたのは、先程帰ったはずの美少女だった。
魔法が使えたのも幸いでどうにか少年を浮かすことに成功し、最後の最後で重さに耐えきれず少年を落とす事になったが死までは免れたのだった。
「ええと、大丈夫?……まあ、まさかこんな形で召喚を成功させるなんて本当信じられないけど、貴方に気がついてよかった……」
後半はブツブツ言ってほとんど聞こえなかったが、この美少女が少年を助けたことは事実。
目の前で起こっていることに追いつけずにいる少年は頭を抱えていた。
「なぜ俺は命の危機かもしれなかったのに夢から覚めない。しっかし、夢にしちゃよく出来すぎだし……つまりはー」
冷静に推理しようとする少年に美少女は少し引き気味にいた。
--あーー、駄目だ。
いっぺんに色々ありすぎて……頭が痛くなってきたやばいなこれ……。
頭の打ちどころが悪かったのか考えるのが儘ならなくなった少年は体制を崩しながら倒れてしまった。