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漠然  作者: チゴロ
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終わりを間近にして

 窓から見える景色は入学したころと変わらない。

 1年2組の教室、2年3組の教室、3年1組の教室。どの教室から見ても大して特徴のない街並みが見られた。遠くに海が広がっているわけでも、天まで届く建造物があるわけでもない。15年間過ごしてきた見飽きた街並みである。中3の3月ともなると、受験も概ね終了。それぞれが進学先を決定させ、先月までの妙な空気は消え失せていた。


 受験にも内申にも関係のない授業が淡々と進んでいく。受験が終わった後にまともに話を聞くわけもなく各々が数少ない中学校での授業を好きなように過ごしている。教員もわざわざ注意をして余計な火種を作る必要もなしと、見て見ぬふりをして、決められた指導内容を消化するため、黒板にチョークを走らせる。


 居眠りをする者、机の下で読書をする者、ノートの隅に落書きをする者。どれもが小学校に入学したころから変わらぬ面々だ。3年前の卒業式の日。小学校を後にするときに今までの生活が終わってしまうのだと学校から離れるにつれ寂しさが心の中にこみあげていた。もうあの楽しい体験はできないのだと、家に帰ってから部屋にこもって泣いた。あれから3年。結局大きな変化はなく、通学先は同じ敷地にある隣の中学校、クラスメイトはほぼ全員が同じ小学校。中学校は小学校の延長でしかなかった。小中で校庭がつながっているので小学校の担任の先生にも昼休みに会ったりする。

 でも、もう数週間もすると、9年間通ったこの場所とも、9年間ともに過ごしたみんなとも別れることになる。そう思うと心がばらばらになってしまいそうになる。3学期の初めにはそんなことはまるで頭の中になく、受験勉強で頭がいっぱいだった。合格が決まった途端に、急に心の中に現れた。


 ノートに黒板の文字を書き写す。先生の声は何も入ってこない。この空間も、この空気ももうすぐ終わってしまう。休み時間にみんなと話す時間も、廊下でのふざけ合いも、放課後の夕日に照らされた教室も、今まで当たり前だと思っていた光景が、過去のものになる。もう幼稚園に通っていたころの記憶はほとんど残っていない。覚えていることは小学生・中学生の記憶ばかり。楽しくて仕方がなかったこの日常をもう少しで一生味わえなくなると思うと、焦燥感がこみあげてくる。受験が終わるまではあれほどまでに楽しみにしていた高校生活も今では恐怖でしかない。

 授業終了のチャイムが流れる。これでまた、中学生でいられる時間が短くなった。9年間同じ校舎で過ごしているクラスメイト達は終わりのあいさつと同時ににぎやかになる。寂しくないのだろうか。怖くないのだろうか。最近は残りわずかだとわかっているのに、いつもの輪の中に入っていけない。頭の中はぐちゃぐちゃに崩れているのに表情だけは変えずに、窓の外へと再び目をやった。

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