一章 呪われた青年
全ての人間が入ると各々の隊は酒場に行くないし、食料の調達、戦利品を金に換え銀行に預けるなど。これらはある程度裕福な人間や兵、戦利品を拾った民などがいるが持ち合わせがないような場合、各店の手伝いをしたり、そのまま居心地が良くなって住み着いてしまうものもいる。
セベク達は酒場にいた。14歳とはいえこの地方では12歳から成人として見られるためなんの不思議もない。兵団が入る酒場は繁盛していた。セレウスの姿はない。
セベク達が丸テーブルを囲んで談合していると周りにいた兵の一人が若干千鳥足気味で酔ってきた。
『おやおや~これはかの有名な少年T字軍の方ではありませんか』
ジョッキ片手に掌を仰ぎながら兵士は続けた。
『ったくなんでこんな奴らが評価されるんかねー、俺の方が生まれてこの方お祈りした回数は多いってのによ』
聖少年T字軍と言えばセベク達のことだが何故少年達がこのように集められたかというと宣伝材料的なものがある。遠い異国の地で大人ではなく若い世代、更に結成当時は12歳という若さもあったため大いに注目が集まり、また、母国の士気も上がった。国としては聖なる集団の建前に何故セベクがいるのかというと政治としての異文化の人間に対する寛容さで同情を買おうとしたのである。この政策は時には反感を買うことにもなる。そこに少年軍がいるだけで軍の手柄というより少年軍の名声の方が先に広がるのである。同じT字軍といえどこれを快く思わない人間がでるのは至極当然である。
『特にお前』
視点が泳いでる男の目線がセベクに及んだ。
『何で正当な騎士として集められているT字軍にこんなやつが混ざっているんだよ。俺たちは傭兵じゃねえんだ。パラディンなんだよ。神が与えてくれた俺たちの聖なる団体にこんな薄汚ねえやつがいるのが信じられねえ。存在そのものが悪魔のくせに』
最後まで言い終える前にテーブルを打ち付けた音がした。大人顔負けの体躯をした人間が男の前に立った。セベクではない、少年T字軍の一人だ。白人にしては珍しい切れ長の仏頂面は男を威圧した。
『おぁ?なんだやるのか?いいのか?聖なるお子様たちが同じ軍の人間を手にかけてよ』
一瞬怯んだがなお強気の聖なる兵隊様を援護するように後ろの方で眺めるギャラリーもいた。
その場を濁すように金髪の青年が仲介に入った。戦利品の時に声をかけてきた青年である。一人だけ明らかに育ちの良さがわかる風貌をしているのがわかる。
『まぁまぁここは僕の顔に免じて』
金髪の青年が言うと男は罰の悪そうに悪たれを吐いて元のテーブルへと帰っていった。というのもお国がわざわざ宣伝するだけあってそれに期待を寄せるべく、諸侯が子息を参加させているのだ。この青年イベリン・バリアンヌ・ルクセリアンがいい例である。もちろん諸侯の子息が参加していることはT字軍の人間もよく知っている。
『あー言っちゃったね、ねぇセベク、あんなの気にしなくていいからね』
イベリンがセベクの席に声をかけようとしたらそこにセベクの姿はなく、誰が通ったのかスイングドアが風を仰いでいた。