一章 呪われた青年
『そいじゃ、俺はあちらさんに用があるので』
髭が群衆の方に馬をかけさせると、男が声をかけてきた。
『おつかれさん』
セベク達の隊でラッパを鳴らした青年である。
『まだ壊滅したわけではない』
尚も緊張感のあるセベクに青年は言った。
『おいおいおい、そんな気張ってたら精神持たねえぜ。とりあえずはこの正を神に感謝しようぜ』
青年の答えにセベクは頷いた。
『まっサレオスが帰ってくる前に回収とれるもんはとっておこうぜ』
髭のことである。先も述べたが本来死者の遺品を取るという行為は罪に値するのだが戦場という場ではそうもいかない。よほどの狂信者でなければ旅を重ねるごとに罪を重ねていることは祖国の人間からしたら滑稽に見えるだろう。セベク達は仲間の死体あさりに参加することにした。
夕刻、死者たちの埋葬が終わりの合わせてセレウスが帰ってきた。
『おおい、今日のところはこの辺りで野営を組むことになったから適当にテントでも張っとけよ』
イエム教では死後、死者があの世までの行き道を迷わぬように土葬するのが作法となっている。この世界に医者がいないわけではない、土葬が疫病のリスクを背負ってでも守らねばならない大切な教えであるのだ。
夜になり、まだ見回せば緑がちらほらある荒野にいくつもの火種がちらほらと見える。セレウスが報酬として配給された食料を皆に分けていると別の陣から男がやってきた。
『おー久しぶりだな、セレウス。それにセベク』
『ゲブじゃねえか。久しぶりだな』
セレウスの身長が小さいわけではないが明らか誰もが見上げないと会話ができないほど大きい男に隊の何人かは呆気にとられた顔をしているがそれを無視してゲブは周りを見回しながら
『なんだ、、また数が増えたな。いっそのことここに孤児院でも開いて巡礼者の礼拝堂でも開いたらどうだ?』
『嫌味でも言いに来たのかよ』
『まぁそんなこと言うなよ。どれセベク、久しぶりに稽古でもつけてやるか』
『おいおいまだ飯も食ってないぞ』
セレウスが言葉を言い終える前にたき火前で腰を下ろしていたセベクは立ち上がった。
『久しぶりだな、ゲブ』
『はっはっは、そうではなくてはな』
ゲブが指さした先に体を向けた瞬間金属音がした。セベクが短剣を投げているのである。ゲブは背負う大剣を握っていた。セベクの大剣は持ち主の肩くらいまでの高さがあるがこちらのものは明らかに大きさも重量も上だ。
『はっはっは、ぬかりのないやつだな、いや戦場ではそれくらいでないと』
ゲブの高笑いが先導しながら空いた空間に二人は歩みだした。
『おおい、あんまり遅いと晩飯抜きだからな』
あきれ返るそぶりを見せ、セレウスは食料の配給を再開した。