一章 呪われた青年
金色の麦畑に三日月が笑った。先方の軍が配送し、丘の麓近くまで後退してきたのである。髭が言った。
『良いか、我らは神の代理人である。ひるまずに立ち向かえ。例え死に至ろうと。神は我らの行いを見ておられる。我らは聖レコンジスタ教皇T字軍。我らの戦いは、この穢れた大地を浄化する。そう誓え、我らの騎士よ、神の騎士よ。』
彼が県を頭上にかざすと後ろにいた兵の一人が矢に火をつけ、空に放った。燃える矢は空を切り、人間が入り乱れる中に飲み込まれた。
地に突き刺さった矢が後ろを振りむくと、視界が暗かった。
敗走する兵を追走する黒い騎馬たちは鈍い音に上を見上げる。石、いや岩の雨が降ってきたのである。息を切らした叫び声の中に0鈍い音がアクセントを加えた。
『いよっしぃ』
彼が手綱を握りしめたのと同時に後方の兵士も剣を抜いた。一人だけ体系に似つかわしくない大剣を背にしていたのはセベクである。
投石にひるんだところで兵がラッパを吹いた。ラッパの先が向かう丘の地が揺れたと思うと一騎の白い騎馬が見えたと思うとそれはやがて大地となり、砂塵を起こしながら黒い集団へと向かう。
『おらぁ俺らも行くぜぇ』
白い集団とは別の丘にいる髭が声を荒げ、手綱を叩く。先に動き出した集団に比べ、明らかに小さい塊だが、それゆえに流れは速かった。勢いを失ったマフディア帝国の騎馬隊に鋭い剣の集団が刺さる。一瞬セベク達がいる集団に気を取られたマフディアの横を今度は波が飲み込み、黒い集団は散り散りになった。
そこから更に半時もすると辺りはレコンジスタの兵とマフディアの兵の死体で埋め尽くされていた。
『敵さんも中々判断が早いな』
髭が言う。レコンジスタの兵がマフディア兵に雪崩れたのだが、こちらが殲滅に入る前に敵は撤退していったのである。義勇兵が時折いるレコンジスタの造兵ではなく、統率のとれた軍隊だということがわかる。撤退したのは敵だが、辺りを見回すと明らかにレコンジスタの死体が多いことがわかる。まだ息のある、と言っても虫の息だがT字架を胸に当てながら神の名前を呟く若者がいる、木でできたT字を見る限り、お手製であることと同時に彼がそれほどの身分だということがわかる、農村の出なのだろう。
悲鳴にも近い祈りを司祭が駆け寄り、最後の言葉を聞く。それ以外のものは死人の武具をかき集めていた。戦場において武具は必貴重である。ましてや農民が混ざるような軍では尚更だ。