序章
西暦895年、レコンジスタの聖教会の説教師であるピエールが修道士を引き連れ、聖地巡礼をしたのである。熱心な信者であるピエールはこの時初めて国外に出、西から東へ聖地であるウルシャリウムに向かった。長い旅路にウルシャリウムにたどり着いたピエールはウルシャリウムの中心にある、895年前救世主が当時この場所で栄えていたネモ帝国に異端者として処刑されたこの砂漠の地に立つ黄金のドームを見たとき、それが異教のモノが作ったものとは言え、何かを感じたのだろう、長い旅路で枯れた身体にも関わらず、彼は嗚咽し、くしゃげた三日月の淵から溢れる滴の持ち主は、その水が光を拡散しドームをより輝かせていた。もしかしたら彼にはその光るドームに何かがいたのを見たのかもしれない。
彼は隠者としてウルシャリウムに滞在することにした。ピエール一行が聖地に滞在したのは9か月、その間ピエール一行は聖地巡礼者の聴罪師となり、訪れた人の告解を聞いた。
彼らが聖地に住み着いて8か月目のことである。ウルシャリウムの市街にある広場でマフディア帝国の少女とイエム教巡礼者との間でトラブルが起こった。その際に仲介人としてピエール一行の修道士が双方に刑罰を下した。互いの罪を清めるということでありがちな鞭打ち100回の刑を処したのだがこの鞭打ちにまだマフディアの少女が耐えられるはずもなく。互いの刑が終わった時、イエムの男は修道士に許しの膝をつき、少女は横たわったまま、イエム式による懺悔の時間が終わった。
その晩のことである。修道士が祈りをささげ終わった後、帰路につくやいなや、少女の母親に刺されたのは。
翌日このことは大きく取り上げられ、マフディア帝国側により、母親は厳罰に処せられた。厳罰というが俗にいう死刑である。
しかしこのことはイエム側には大きな波紋を呼ぶことになる。なにせ修道士が殺されるなど前例がなく、事実的には神の使いを殺したようなものであるのだから。
これにはピエールも激怒し、同時に恐れた。次は私が殺されるのではないのか?と
9か月目にしてピエールはウルシャリウムを去ることになる。レコンジスタに帰還したピエールは聖教会説教師として、教皇に事の結末を伝えた。帰路につく直前のピエールは怯えていた。その精神からか彼の報告は饒舌で、同時に怒りが入っていたように思える。その時口走ってしまったのだ、異教徒は危険だ、我ら主の民が聖地で迫害を退けるには聖地を我らのものにする他ないと。そして隠者でもあるピエール一行はその思いを街にぶつけた。当時レコンジスタでイエム教の支持率は絶大で、瞬く間にレコンジスタ地方に広がり。同時に神の望みと伝わった。
これに賛同した諸侯が聖地奪還を掲げるや、それは聖戦と呼ばれ、これに参加したものは過去にどんな罪を負ったモノでも天国にいけるというものだった。
人間生きていく上で罪は必然であり、それを浄化するのは至難の業である。よほど信仰がない限り、人は地獄にいく。人はそう考え、だからピエールのような職種がいたのである。
それがこれに参加すれば罪が無くなるというのだ。参加しない民衆の方が珍しく、司祭がいない田舎の若者は我こそがと先だった。
諸侯の前を行く女、子供、主人を持たない騎士を含めた民衆の数はを合わせると総勢20万を越え、聖地は奪還された。
しかしこの奪還されたウルシャリウムもわずか10年の時を持ち、再びマフディア帝国の手中となる。
このあたりの出来事はまた後に語ることにしよう。かくして聖地を奪い合う戦いは100年を迎えようとしていた。