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第三十話 - いろいろと大変な日々/4

 神刀。アナリシスとシンセシス。

 コンセプトはありとあらゆるものを斬り裂く。

 レイズからソウマへ、ソウマからキリヤへ、キリヤからアキトへと、これ以外にも幾人もの使い手の手を渡ってきたその剣を、スコールは倉庫の中から引きずり出して腰に下げた。

 結局自分の手元に戻ってきた。初めて振るった、殺す為だけに創りだされた得物。スコールが最初の使い手であり、レイズの為に作ったとか嘘をついて、その機能を誤魔化したりもしていた。


「鎖を通じた追跡が使えない、お前ら、探れ」


 ---


 そこは街外れで周囲は閑散として、人はもとより走り去る輸送トラックすらない。昼まであっても不気味に感じるほどの静けさに包まれた場所だった。

 そんな場所に外道勇者こと天城海斗は、道中遭遇した通りすがりの誰かたちを洗脳用の魔法で操り、従えて辿り着いていた。拉致したアルメリアを肩に抱え、放置された納屋へと入っていく。納屋の中は酷く散らかっていた。ゴミがある訳ではないが、農具やシート、肥料が乱雑に散っている。


「くくっ……あいつを殺してしまえば俺の好きにできる……。おいゴミ虫ども!」


 天城は操った者たちを使って適当に片付けさせ、スペースを作るとそこにシートを広げてどかっと座り込んだ。成績は結構いい方のもと学生だが、思考がかなり危ない方向に傾いている。過去、様々な敵と激突した際には、ユキを強姦しようとしてスコールに半殺しにされ、レイズの妹に手を出してクレバスに蹴り落とされ、ユグドラシルでは女神を人質にするもクロードに敗北。

 異世界で奴隷ハーレムを作ろうという、ゲスな考えはことごとく阻まれてきた。

 天城は入口を厳重に封鎖すると、アルメリアを起こす。


「おいブス、暇つぶしに犯らせろ」

「……いきなりなんですか」

「口答えせずに従ってりゃいいんだ。テメエみたいなブスが俺とヤれるだけ感謝するべきだ」


 訳の分からないことをいうこいつを今すぐにでも消し飛ばそうか、そう思い魔法を使おうとして使えないことに気付く。


「……っ」

「ああ、使えないのはたりめえよ。ジャマーとかいうもの使ってるからな」


 おかしい、軍用のジャマーを使われても問題なく魔法を使えていたのに。ならばこれは最新式か、それとも裏ルートで出回っている強力なものだろうか。少なくとも戦略級魔法、魔法としての強度がとても高いそれを掻き乱し無効化するだけの出力はあるとみるべきだ。


「大声だしますよ」

「出してみろよ。周りには俺の味方しかいねえけどな」


 納屋の中も外も天城によって操られた者ばかり。納屋から出ようにも出口は積み重ねられた物で封鎖された上に、操られた者たちが犇めくようにしてその前を塞いでいる。

 魔法が無ければただの少女と変わらない。格闘戦の訓練はしていたが、あんなものはもしもの時の最終手段、そしてそんなことになることは最初から思ってもいなかった。

 逃げられない、抵抗することもできない、それが焦りと絶望を生み始めていく。

 そして目の前の青年が近寄ってくる。


「近寄らないでください」


 下手に刺激するよりはいつも通りに。

 しかしそんな懇願など聞く耳を持たず、天城は腕を伸ばしてくる。

 戦いの中で斬られる恐怖はよく知っていた、しかし殺されずに捕えられ、辱められる恐怖は知らなかった。故に、初めてともいえるその感情から伸ばされた手を払いのけ、それでも近寄ってくる天城を引っ掻いた。

 こういう場合は犯人を刺激しないことが大事だ。しかし今ので怒らせてしまっただろう。

 犯罪行為を躊躇いなく実行する者の中には、些細なことでぷっつんといってしまう輩が少なからずいるのだ。何をされるのか、最悪のパターンを想像し、ぶるりと体が震える。


「ってぇな。おいそこのやつ、こいつを押さえろ」


 案の定、思った通りのことになってしまった。

 人間とは思えないほどの力で引き摺られ、シートの上で組み伏せられる。

 仰向けにされ、操られた誰かが腕を押さえ、天城は足の方で座った。


「んじゃまあ、暇つぶしにヤるとするか」


 パチッとジーンズのボタンを外されてファスナーを下ろされ、脱がされる。抵抗なんて出来なかった、力が違い過ぎる。


「や、やめてください! 助けてください、レイズ様、レイズ様ぁぁっ!」


 助けての一言でいつでも来てくれた。でも今は……。


「あん? てっきりスコールの女かと思っていたが違ったか。ああまあ、嫌がる表情ってのもいいか」


 にたりと笑いながら、シャツの方は脱がせるのが面倒だったのかビリビリと引き裂く。アルメリアの悲鳴と嗚咽を見て、楽しみながら。


「うぅ……嫌ぁ、助けて、助けてっ」

「そんなに助けが欲しいなら呼んでやろうか? スコールでも」

「……呼ぶ?」

「準備はしたかったが、あいつぁ魔力がねえやつには滅法弱い、外には俺が集めた普通の人間の兵士たちがいる。分かるよなぁ? 銃弾の雨で蜂の巣だ。始末するのは早いに越したことはない、まあもしかしたら自分の女じゃねえから助けに来ないかもしんねえけどなぁ。ハハハハハッ!」


 その言葉に胸がざわつく。

 知り合いじゃないから、それだけで友軍を殺したことがあるスコール。来ないかもしれない。


「くっ……」

「いいねぇその顔」


 不安が膨らむ。

 どうしてこんなことに……。レイズは言っていた、見捨てる、お前らとはこれでお別れだと。


「んじゃまあやるか。お前に拒否権なんてねえからな、嫌っつったらどうなる分かるな?」


 顔のすぐ横に拳が落とされ、固い地面が陥没した。


「いっ!?」

「大人しく俺のものになったほうが性奴隷として生きていけると思うよー? それともここでヤり捨てられるのがいいか? 口封じに殺すけどなぁ」

「ひっ……うぅっ」


 天城はアルメリアの胸に手を伸ばす。


「可愛いサイズじゃないか、俺のものになるってなら、これからは揉んで大きくしてやるぞ」


 煽るようなその言葉を聞いても何も返せなかった。触られるだけで吐き気がするほどに気持ち悪い。

 なぜこんな強姦魔に襲われてしまったのか。


「けっ、嫌そうな顔しながら乳首が硬くなってるじゃねえかよ」


 言いながら、アルメリアの乳首を摘まんで弄り回す。


「くぅ……!」

「くくく、いいねぇいいねぇその顔」


 嫌がっても強姦魔を喜ばせるだけになるようだ。


「き、気持ち悪いから触らないでください」

「俺は気持ちいいけどな」


 触れられる手の感触、温もり、臭い、存在、すべてが気持ち悪くて本当に吐きそうになってきた。

 なぜ嫌がっている相手を見てそんなに楽しそうになれるのか。

 そう疑問を抱くと天城が覆いかぶさってキスをしてきた。無理やりに唇を割って舌を滑り込ませて来る。


「んぐぅぅ、うぐゅ、やめてくださ――んぅぅぅ!」


 好き放題に蹂躙された口の中に、言いようのない気持ち悪さが広がる。

 ――こんなの嫌、おかしいです、気持ち悪い、気持ち悪い。

 無理矢理に襲われて嫌悪感が募っていく。


「ぷはぁっ……ぅぇ」


 ようやく解放されたが、口に残る気持ち悪さに思わずむせてしまう。


「うぇ、ぇぇぇ……きもひわるひ、もぅやぁ」

「あーあぁ、この程度でへばってたら次はダメだぜ?」

「私がなにをしたと……なんでこんなことを……」

「さあ? ただスコールの近くにいたから攫ってみただけだ。まあハズレだったからどうでもいいか」


 残ったショーツを乱暴に剥ぎ取ると、天城もおもむろに脱ぎ始めた。


「さてさてぇ、いただくとしようとか中古品。どうせやってんだろ?」

「う、嘘ですよね、やめてください!」


 暴れるが、腕を押さえつけられ、足を広げられどうにもできない。

 男の力強さに恐怖を感じた。いままで屈強な兵士たちに何も言わせずに叩き潰し、蹂躙してきたが、やられる側になって力の恐怖が分かった。


「いれないでください……お願いですから、こんなことはやめてください」

「往生際が悪いぞブス。そばかすだらけで赤毛で、感謝しろ感謝! てめぇみたいなのとやってやるんだからよぉ」


 ニヤニヤと笑いながら天城が迫る。

 この部屋の中に敵しかいない。そして人間とは思えない力で身体を押さえつけられたアルメリアは、抵抗しても無駄に体力を消耗するだけだと暴れるのをやめた。


「やめてください、せ、せせ、せっくすだは無理です!」

「どうしてかなぁ?」

「っ…………犯されたら、汚されたら……レイズ様に嫌われます……。ほかの男にやられた女なんてダメだって言うに決まって……うぅ」

「うんうん。そう言われると絶対にやるしかないな」

「いや……いやっ……いやぁぁっ! いれないで! いれないでくだ――――やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 誰もいない静かな郊外に悲鳴だけが響き渡った。


 ---


 三時間ほどして。


「対策はされていると思っていたよ。だから一般人には滅法強い魔狼を用意した」


 納屋を囲んでいる武装した兵士や一般市民の魔法使い(戦闘員ではなく本当に一般市民)たちに、近づいていく影が二つ。

 腰に三本の鞘を下げ、手に一振りの刀を携えた青年。月追いの魔狼と呼ばれる存在と日追いの魔狼と呼ばれる存在。そして周辺に迷彩服を着たフェンリルの正規戦闘員(女性九割超)


「行くぞ」

「「御意に」」


 二つの影と、影の中に溶け込む存在。

 納屋を囲むように影の雨が降った。民間人だから進んで殺しはしないが、絶対に生かそうともしない。ばら撒かれた術札から音もなく雷撃が飛ぶ。絶縁破壊の轟音も、人が倒れる音もなく静かに第一段階の制圧が終わった。


「終わったら好きに喰らえ」


 スコールは刀に魔力を流すと、青白く光り始めたそれを横に構える。


「発光現象を伴うだけのエネルギーロストか……調整しないとダメだな」


 すっと振り上げると、三回振って金属製の納屋の扉を破壊した。

 物理的に強固な物体、高エネルギーを持つ物体は魔法による干渉で莫大な魔力を必要とする。例えば普通の魔法士が核シェルターを破壊しようとするならば、それは不可能ではないが限りなく不可能に近い。ピンポイント、面自体の加重であれ、振動による加熱で溶かすのであれ、何度も魔法を重ね掛けする必要がある。

 魔法を複数発動すればそれだけの反動が起こる。魔力を操る者にはその騒音が聞こえ、すぐに分かってしまうが、スコールは一撃で納屋の扉を支える両側の蝶番を切断し、太い金属製の閂までも切った。

 魔法という面で見ればとても静かな破壊だった。刀の延長にまでも力を持たせ、その"刃"で触れたモノを容赦なく分解してしまう魔装は対人戦闘に使っていい分類ではない。

 金属の扉が倒れると積み重ねられた肥料袋や農具などの壁。

 そんなものも、刃を広げた一撃でまとめて薙ぎ払い、塵がはらはらと落ちる。一瞬で分解された物質が即座に安定状態に変化したため。水素や酸素といった分かりやすいもので爆発しなかったのは、分解対象をある程度指定しているからだ。

 視界が通った、納屋の中には強姦魔と――横になって倒れ、光の無い目に涙を流し、絶望に打ちひしがれるアルメリアの姿があった。乱暴に剥ぎ取られ、破れ汚れた衣服と股から流れ落ちる白い液、乱暴にされたからか血までもが見える。


「よぉ、遅かったな。このブスなら面白くねえからぶっ壊してやったぜ?」


 いつも以上に無表情なスコールは、残る右目で状況をしっかりと認識した。


「そういや千夏はどーしたよ。っておいおい、いきなりおっぱじめようってか!」


 胴を刈り取るようにその場で回転切りを放つ。民間人も軍人もPMCのオペレーターもお構いなしに斬り飛ばし、天城に襲い掛かる。

 真下からの切り上げで納屋の天井を突き破って吹き飛ばし、風の魔法で自身も飛ぶ。


「今日こそは殺してやるよスコール」


 返事は袈裟切りで。

 天城は体内にしまい込んでいたらしい魔剣を瞬時に顕現させて迎え撃つが、一撃で刃を斬り飛ばされて余波で地上に叩きつけられる。


「おいおい、あんたなにチートモードになってくれちゃってんの?」


 スコールは一瞬だけ後ろを見て、フェンリルの女性陣がアルメリアを保護し、残りが殺気満々でこちらに来ているのを見た。何度目だろうか。

 しかしまああちらに出番をくれてやる気はない、今回で確実に消し去らないと後が不安だ。


「契約の再確立を。くれてやる、この身体を、代わりに力を寄越せ」

「御意に」


 影から飛び出した黒い狼がスコールに食らいつき、融け合う。

 何が起こったのか分からないほどの一瞬で、もとの姿になるが、供給される魔力量が増えている。


「とりあえず消えとけ」

「はっ――!?」


 次の瞬間に天城が捉えた現実は、首に刀が食い込む寸前。

 対応できるものではないはずが、天城の中に食い込んでいるナニかが刀を弾く。そしてどろりと溶け出した闇が青白い刃を掴み、分解の処理で捌き切れない量の力で圧潰さっせる。


「おうおうさすが俺の魔剣ちゃん。やってくれるねえ」


 半ばからポッキリ逝ってしまった刀を投げ捨てると、腰に下げた鞘をすべて離し、神刀だけを手に取る。

 二刀流。自己強化系の魔法でも使わない限り、本来は両手持ちする刀を片手だけで振り回すのは困難だ。普段二刀流は長いものと短いもののセットで扱っている。そうでもしないと両手持ちの一撃を片手で防ぐだけで手首がやられ、そのまま押し込まれてしまう。

 ――この大食らいが、エネルギーの変換効率がいいくせに強制的にアブソーブするせいで結果的に変わらないか。


「そんな訳で逝ねやぁぁぁ!」


 真横に振るわれた剣を叩き落して体勢を崩し、顔面に膝蹴りを入れて仰け反ったところにもう片方の剣を突き出して腹を突く。


「っ……相っ変わらず! 霧崎といいお前といい、障壁だけは最強クラスだな」


 一撃で削り切れないほどの濃密で分厚い障壁、その反動で手首を痛めて刀を取り落す。


「あっれぇー? できるなんておもっちゃったおバカさんはここで死んでもいーよねー」


 振り上げられた黒い刃がハンマー型に変形し、振り下ろされる。

 残った刀で弾きつつ、横に転がって躱すと天城が動くより先に足のバネで飛び出して首を掴む。


「ぐふぅ!?」


 勢いそのままに押し倒すが、相手も慣れているのかカウンターに足で首を絞めに掛かってきた。

 そして二十秒の睨み合いの後、天城が落ちた。



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