第三十話 - いろいろと大変な日々/1
旧キルギス領・山岳地帯。
現、魔法国ブルグント領。
所要があってスコールは出かけていたが、運悪く地元の武装勢力同士の戦闘に巻き込まれ、山岳地帯を大きく迂回して逃走中だ。魔法国であるにもかかわらず魔法適性の低い者たちが古い戦闘……アサルトライフルやロケットランチャーを持って走り回っているおかげで、どうにもできない状況になっている。
もとより介入するつもりは微塵もなく、やることをやったらさっさと帰ろうとかちょっと寄り道でもしようとか思った矢先のことだ。
「カリカリ モキュモキュ」
「こら……お前はいったい何食べてるのかな!」
「ほぇ? ふむ なんじゃろか ちゅーかあるじどののにもつからとったのじゃからわかるじゃろて」
「そういう意味じゃないんだがな」
「なにかわるかったかの?」
「悪いに決まってるだろうが……それは最後の非常食だバカ!」
カリカリのパサパサで味の無いスティック状の携行食料。粘土みたいな消しゴムみたいなレーションに並ぶ、味はメチャクチャ悪いけど栄養面で見れば満点。そういうものだ。
「ほう みょうにまずいとおもったらそうじゃったか カリカリ」
「それでなおも食うか」
勝手についてきた挙句、好き勝手動き回るせいで敵に見つかり、非常食を平らげる。しかもチューブトップにローライズという露出狂じみた格好で危ない。
「のうのう あるじどのや わらわになまえをつけてくれんかのう」
それでもってさらなる要求をしてくる。
取り柄と言えば希少種の竜人であり、胸が板ということくらいか。ほら、言うだろう、小さいのはステータスだと。
「人の食い物平らげて謝りもせんか。いままでどんな躾をされてきた!」
「こどもにいうならまだしも わらわにいうかえ」
「……よし、お前の名前はノエリアでいいな」
「はて どういういみじゃ?」
「こういう意味だ!」
容赦なく蹴り落とした。
山の斜面……というか断崖絶壁から転落していく。サルベージしてやる義理もない、片道の墓地送りでさようならだ。こいつを仲間にしたところでアドバンテージを得るまでの流れが遠すぎる。
「やるのうおぬし しかしわすれておらんかぇ わらわはひりゅうぞく とぶことができるのじょぁぁ!?」
何とも都合のいい隕石が降った。もちろん山自体を対象にした部分干渉でどこかの大岩を飛ばしただけだが。
「みくびるでない いんせきなぞ」
赤いオーラを纏って気合で打ち砕く。
「…………、」
「どうしたあるじどの わらわのぼでーにみとれておるかの?」
「露骨に露出した格好でよく言う……。もういい、さっさと帰ろ」
無視を決め込んで帰路についた。
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帰るなりさらに嫌なことになった。
「主様ー」
「…………あれをどうにかしろと?」
うちの猫娘がマタタビでも食らったのかちょうど発情中。
にゃーにゃーうにゃうなーとうるさいのである。雌豹の格好、とでもいうか、そのポーズでリビングでどうどうと自慰。
「見てるだけなら相手してくれにゃあ」
「やると思うか?」
「しないにゃあ」
「にゃ、で誘惑しても無駄だからな」
荷物をソファに放り投げてホワイトボードに目をやる。イリーガルがみんなを引き連れて整地に向かったらしい。おかげでリムと発情猫しか残っていない。
「でも人間にこの疼きと辛さはわからないんだよぉー」
「猫系獣人の女は最短十二かそこらで発情期が来始めるもんな……あーうるさい」
「にゃースコール」
「なぜそうやって近づいてくるのか」
「しよー……ていうかしてぇ」
「黒月……いや、ルクレーシャ、確率としては高くとも五パーセントだ」
「赤ちゃん出来ちゃう?」
「染色体とかなんとかいうまえに、卵子の殻を破る酵素とかの話もした方がいいだろうか? 人間と亜人種、亜人種と各種生き物ではできる可能性が零じゃないない。一部例外はあるが」
「にゃあ、そんなのどーでもいーからしよぅよぉ」
「一旦冷静になろうか。今からでもレイズを探しに行って襲うという手段もあるが」
「どこにいるか分からないもん」
「だからと言ってなぜすり寄ってくる。というか擦り付けるな、後で洗わなならんだろうが」
「しよー」
ちょうどいい位置に頭があることだし、踵落としで意識を蹴落とすか。
とか考えて足を上げた途端に、もう片方にしがみつかれて倒れ、後頭部強打。
「…………っぅ!」
「オマタがぞくぞくするぅ……うへぇきもひぃぃ」
すねに擦り付けて勝手に……。
「おーい、目が完全にいってるぞー」
どーしよー……と困り果てていると、
「主様、うるさいからその猫黙らせてくださいであります」
「珍しく怒ってるな」
「爪とぎだかなんだか知らないでありますがリムのお人形がズタボロであります! お仕置きをしてあげて欲しいであります!」
そんな後押しがあった。
誰が直すと思っているんだか、もちろんスコールかイリーガルだ。
「にゃぁにゃああ、今だけ、今だけつがいになって」
「つがいって……お前はレイズと……」
「ほかの男とした女は嫌いなの?」
「そういう訳じゃないが」
「だったらしよぉ、もぉげんかい」
その後の流れで止めるものが誰もいないということもあり、ヤった。
体格差もあったが、そんなものは障害にならない。
ロードシス、マウンティング、そして獣のように。
その後。
尻尾のある獣人系は引き抜く思いで一気に引っ張ると痛みですぐに冷静になる。
しかしまったくもって後悔はないとのことで……。




