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第二十七話 - 主役のいない平和な日々/3

 時は少し戻り。


「一つ言う、ここに最短最速の道が一本ある。まっすぐ歩けばすぐにファミレスやらの食事ができる通りに入ることができる。ただし通ってしまえばとてつもなく面倒なことになる、それでも行くか?」


 スコール、ウォルラス、ステイシス、ワースレス、偽名の男集団。

 ウィステリア(蒼月)、アルメリア(紅月)、ルクレーシャ(黒月・本名)、リミットリア(竜人)、フィーエル(天使)、レイ(幽霊)、ゼロ(クローン)、ミラ、ユキ(一応一般人)、色々と目立ちすぎる女の子たち。

 カラフルだ……髪の色が。だからと言ってそれを街行く人々が変な目で見るかと言えばそういうことはない。もとから亜人が住むこの桜都では、すでにそれは周知の事実。

 イリーガルはもう面倒事は御免だ、そう言って漣と二人で完全に安全な方面に退避した。これだけ集まれば大きなものが小さなものを引き寄せるように、厄介事を磁石の如く引き寄せてしまうだろう。


「で、何が食べたい」

「桜都名物ってなにがありますか?」


 ユキが隣にさっと入って聞く。早いうちからポジション確保に動き出している。


「日本という国を覚えているだろうか、揃い過ぎて自己流のアレンジを加えて多様過ぎて逆に無個性、名物と呼べるモノが無いんだな、桜都も」


 なんだかんだで最短コースを通過して、夜でも人の賑わいがある通りに入る。

 この時間だと補導の対象になりそうだが、その辺はなんとか誤魔化せるように用意している。それよりも厄介なのは不良たちだ。男四、女九、合わせて十三というそこそこの人数だが、あちらも大抵は数を揃えてたかりに来るので同じくらいだろうか。

 絡まれてしまえば厄介だ。向こうは半端な魔法を扱うかもしれない不良、対してこちらは殺し慣れした危険人物の集団。もしも始まれば穏やかに収束するはずがない。

 そしてこういう時に限ってそういう厄介ごとを引きつけるのがスコール。


「見つけたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 そんな声と共に自分に向けられる負の感情。

 ほら、さっそく来たよ。思いながら人混みの中から一直線に突っ込んでくるのは知り合い。


「はぁぁ……お前ら、警察沙汰になるから今のうちに退避しとけ」


 こういうのは街中で襲われるとあっという間に情報が広がって捕まる。参考人として連れていかれるなんていう無駄な時間を取りたくもない。


「主様」

「主殿」

「スコールさん」

「いいから行け、金は持ってるな? ステイシス」

「あぁ」


 集団の中から飛び出したスコールは、たむろしていた不良風味を掴んで接近してくる敵性に押し出し、細い路地裏に逃げ込む。


「ってぇな、何しやがるてめっ!」


 暴言と一緒に火炎弾が飛んできた。

 野球のボール程度か、魔法士が戦闘で使うような威力はない。

 まあ何かあってもあいつらなら大丈夫だろうとスコールは逃げに徹する。

 ワースレス、ステイシス、ウォルラス。この一組で攻撃守備支援。

 アルメリア、ウィステリア、フィーエル。この一組でも。

 レイ、ミラ、ゼロ。さらにこの一組でも。

 基本的な構成が三組もできる以上、戦略級同士の戦いにならない限りは心配の必要が無い。仮にそうなったとしても敵が消えるだけなので心配はない。


「あーぁ。嫌なのに目をつけられた」


 棒読み口調で言うと、飛んできたゴミ袋をひょいと躱して壁を蹴って飛び上り、雨樋に飛びついて登っていく。


「逃がすかっ!」


 追手がこちらに手を向けると、いきなり体が重くなり、雨樋ごと地面に引き寄せられる。考えられるものはベクトル操作による力の収束、加重魔法による正の加重、もしくは重力操作。

 もちろん今までの経験上わざわざ慣れていることに魔法を使うことはないだろうから重力操作だ。

 反対の効果を持つ術で重力加速度を低減しつつ、着地と同時に走り出す。

 細い路地で直線的。普段ならば一発撃ってお終いだが相手の能力を考えると不利だ。


「あぁしつこい、あの一件以来ほんとにしつけえよ」


 数年前に交戦した仮想化戦闘部隊の一員であり、その部隊を壊滅させた際に掃討の手間を省いたが為に奇跡的に一命をとりとめた数名のうちの一人。


「みんなと……隊長の仇!」


 ナイフが飛んでくる。

 いずれも重力操作により重力加速度を低減され、不自然なほどにまっすぐ飛んでくる。クロードよりは数段劣る、グラビティギアを用いた干渉、しかしそれでも厄介なことに変わりはない。


「EMPボムでも持ってくるんだったな、くそ」


 伏せて凶器をやり過ごし、手近なゴミ袋を引き裂いて投げる。

 腐敗したゴミの雨、単なる嫌がらせだ。


「んのっ!!」


 普段であればこのまま戦って押さえつけ、やることやってもいいのだが……。如何せんここは街中、非日常ではなくあたりまえの日常の、正しい社会のルールが適用される場所だ。街路の監視システムは自動巡回の警備ロボットと衛星。すでにこの時点でカメラに併設されたセンサーで捉えられていることだろう。

 魔法の不正使用と街中での戦闘行為。

 ここに殺人を加えてしまうと桜都に出入りできなくなる。

 路地を飛び出して、駐輪場の自転車を飛び越えて人混みの中に逃げ込む。あちらは恐らく平気で吹き飛ばしに来るだろう、だから肉の壁だ。


「さあ、どう出る」


 最悪、人目のあるところで先にわざと刺された上で反撃に出る。やられたのでやりました、正当防衛は言えずとも過剰防衛くらいは言えるだろう。

 ……などとこれ以上の厄介ごとがないことを前提で考えていた。

 起こる事は起こる。


「あれ、スコールじゃん」

「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「何その溜息」

「王女様がなにこんな時間にこんなところ一人歩きしてやがる!」

「べっつによくない? あんな狭苦しい部屋に閉じ込められてゲームもないんだよ?」


 安全の為だろうこのクソバカ……と、言いたいが言ってしまえばさらにいらない罪が加算されそうで嫌になる。


「あぁもういぃ……ここで迎え撃ってやる」


 反転してベルトに手を掛ける。別に変身だとかいう訳ではない。

 バックルを外すとそのまま抜き取る。黒いベルトの中から姿を現すのは白刃、刀身には青白い紋様が刻まれている。薄く脆い刃に魔力をバカ食いする旧式の刻印型魔法。

 周囲から叫び声が上がる。

 ただしそれはスコールに対してではなく、向かってくる敵にだ。

 あちらの方が先にとんでもないものを抜いた。――高周波ブレード。名前があれだが、ようは超音波カッター。アーマーを着ていても一回で骨まで切り裂くことができる代物だ。


「スコール……! 覚悟ぉぉっ!!」


 ヒュンとブレードを振り下ろし、不快な音が散らされる。通行人たちは突然のことに慌てて逃げ出していく。スコールが物騒なものをぶら下げていることなど目に入らないほどに混乱して瞬く間にスペースができる。


「はぁーぁ……連行確定か」


 多数の野次馬に囲まれ、往来の中で剣戟の音が響き始めた。


 ---


「で、君がミナ君でそちらがナイリさんね。なんであんなところで喧嘩したの」

「こいつを殺す為です!」


 現場近くの交番で、スコールと襲撃者と竜人族の王女様とイリーガルと漣はパイプ椅子に座らされていた。

 平和ボケした国だから警察も大したことが無いだろうと舐めていた。しっかりと戦闘が可能なほどの魔法を扱ってきたのだ。

 下手に抵抗するよりも大人しく捕まった方が後が楽だと思い、そのまま捕まった。

 イリーガルたちについては純粋に補導。王女様は気付かれていない、単なる参考人。


「あのねえ、彼氏さんがなにしたのかは知らないけどあんなところで喧嘩は勘弁だよ。とくにナイリさん、どこで買ったの高周波ブレード(これ)。それにミナ君もね、あの武器自作なんだろうけど振り回すのは学校の演習場だけにしときなさい」

「わ、わわわたしとこいつは敵同士でそういう関係じゃっ!」

「まあほら、別れるならもっと穏やかにね? 最近魔法科の生徒がそういうことでしょっちゅう魔法の撃ち合いしているから」

「だから違うって言って――」

「はいはい、とりあえず学生証見せて。あとで担任の先生に連絡して引き取りに来てもらうから」


 書類を取りに奥に下がっていき、監視の目がなくなると。


「んじゃま、逃げますかい」

「ああもちろん」


 唐突に立ち上がったスコールはパイプ椅子を持ち上げて隣の襲撃者を一撃で昏倒させる。


「おぅ、結構響くな」


 音に気付いて書類を持って慌てて出てきたときにはもう遅い。



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