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第二十四話 - 敵対する仲間たち/1

『作戦内容を連絡します

 海上浮遊都市アーサーシステムズの仮想主戦力、デストロイング・エンジェル

 及びルージュ・マッドドガーを排除してください

 デストロイング・エンジェルのランクは89ですが

 実際には無限の生成能力によって一時的な砦の構築と

 ドローンによる軍団の使用によってそのランク以上に強力な機体です

 またルージュ・マッドドガーは全体ランクでは現状ランク外に落ちていますが

 その実力は全く変わらず、ここ最近の活動が見られないために低下しているだけです

 そのため実際のランクならばトップ5に入ります

 たとえあなた方であっても、交戦は非常に危険です

 心してこの作戦に当たってください』


 いろいろあった末に、監視衛星にばっちり捕捉されていたクロードは、軍上層部から窓際送りにされ、所属部隊の壊滅により"兵士の最終処分場"に送られたために脱走。

 傭兵に転職して傭兵斡旋協会の階級で二等兵から始めていた。

 そして今回が初仕事であり、いままでの経歴から二等兵でありながら尉官クラス以上が雇われるような仕事に就いている。


「んで、なんで狼谷までここにいるんだ?」


 仮想空間。

 クライアントの所有するシェルの仮想整備場で、作戦のために雇われた傭兵集団の中に見知った顔を見つけていた。


「俺だけじゃない。シオンもいる」

「准尉、お久しぶりです」

「えーと……雨宮少尉、でいいのか? それと俺は二等兵だ」

「あら、そうですか。私も二等兵ですよ。しかしアキさんは中尉です」

「シオン。俺たち一応は学費のためにここにいるんだけど」


 話をしつつも、流れてくるアナウンスに耳を傾ける。


『現状、浮遊都市アーサーシステムズの唯一のよりどころたる

 デストロイング・エンジェルが失われれば

 彼らに残る抵抗力は脆くも崩れ去るでしょう

 そうなれば、のちの制圧も速やかに進みます

 我々は撃破した者に向けて、最高の報酬を用意しました』


 傭兵たちの目の前に展開されたウィンドウに、報酬内容が表示されていく。

 賞金首の撃破報酬の八割と、クライアントとの永久契約権(任意)。

 基本的に一対一の交戦でない限りは、このような作戦行動ではクライアントが撃破報酬を受け取ることになる。そしてそれが実際に戦った者たちへ支払われることは少ない。しかし今回は八割も支払われる。


『加えて、我々はこの作戦に最高の戦力を用意しました

 あとのすべては作戦内容に沿う範囲であなた方にお任せします』


 アナウンスが終わり、作戦開始までの時間が表示される。

 あと二十分。

 好きにセルを組んで好きに攻めろときた。ただし、エンブレイスによる追加パックは支給されている。


「でかいな」


 ハンガーを見ればロケットエンジンを束ねたようなものがいくつも用意されている。


「VOBか?」


 狼谷が訪ね、クロードは過去の記憶を引き摺りだす。


「いいや、GTBだろ。使用料がクソ高い上に一回こっきりの使い捨てパックだな。パージしたあとは残った燃料に引火させて下の敵を一掃するってやつ」

「……環境に悪そうだな」

「中尉、仮想空間に環境悪化ということはありえません」

「シオン、正論で返さなくても」

「中尉」

「はい」

「ここは戦場です。現実リアルでは学生ですが、私たちは数多くの戦場を歩いてきました。ならばここでもあの頃のようにした方が良いかと思われますが」

「はいはい」


 めんどくさそうに返し、


「でもなシオン。あの殺し合いばかりの日常からは解放されたんだ、いまは自分で選んでここにいる。だったらそこまで固くならなくてもいいんじゃないか?」

「……ふふっ、そうですね。では」


 二人が話し始めたのをよそ目にクロードは考えていた。


 ――こんなものが支給されるってことはジャマー圏外から対空砲撃を掻い潜って突撃すってことか。それに、アキトの撃破報酬に触れていないのはどうせ撃破できないからだろうな。


 敵戦力はすでに調べつくされていて、その危険性がよく分かる。

 その上、スコールからの依頼もある。


『大丈夫? クロード』

『フィーア、俺は戦闘前に集中できなくなるようなことは考えないって』

『だったらいいけど』


 ---


『依頼の内容を説明します

 現在、我がアーサーシステムズに対し、浮遊都市ラビットワークスの

 侵略行為が開始されようとしています

 我々はこれまでも数々の勢力から侵略行為を受けてきましたが

 そのすべてを防衛という形で凌ぎ切ってきました

 そして遂にこらえきれなくなった剥き出しの害意を彼らは向けてきました

 我々には第三世代機"破壊の天使"という強力な自己進化ロジックを備えた戦力があります

 しかし、ワークが本気になったとするとランカーを投入してくるでしょう

 現状、決して十分な戦力とは言えません

 ですから、あなた方に我々の力になって頂きたいのです

 もちろん、この依頼の危険性は理解しています

 できる限りの報酬は用意します

 ですから、あなた方の力を我々に貸してください』


 浮遊都市の構造体。その入口につながる長い橋の上で霧崎はたたずんでいた。

 夕焼けの海が綺麗だ。

 広大な仮想空間の中で、それもリミッターの一切かかっていないこの場所では本物とまるで変わらない潮風と波の音を体験できる。


「…………ふぅ、俺だってやるときはやる」

「おい坊主、おめぇが白き乙女最強のパイロットらしいな」

「なんですか、狼谷少佐。揃いも揃ってクビになった連中集めてフェンリルに鞍替えですか」

「んなところだねえ、はははっ。ま、頑張れよ」


 どんっと背中を叩いて、狼谷影秋の父親は後方の防衛ラインに向かう。

 第一防衛ラインは霧崎と破壊の天使の二機。

 第二防衛ラインはエース級とランカー。

 最終防衛ラインはアーサーシステムズの抱える騎士団と無人兵器群。

 この依頼の内容は仮想空間上での浮遊都市が航行能力を取り戻すまで防衛すること。制御中枢を取られない限りは都市自体の防衛システムも使える為、かなり有利に思われる。


「さて霧崎二等兵」

「なあイチゴ」

「なんだね?」

「俺、真っ先にアイツを叩き斬りたい」


 指差す先には友軍機である"破壊の天使"が鎮座している。

 かつてクロードはこの機体に酷い目に合わされ、霧崎は小遣い稼ぎのために追い回した末に横取りされた過去を持つ。


「やめろよ……? いまは味方だからな?」

「いやでもあれ一回ぶっ壊れたのを修復して強化した元超大型ウイルスだろ?」

「それはそうだが」


 二人してその機体を眺める。

 昔と相変わらずというか、見たものを唖然とさせるその容姿。

 そう、知っている人は知っている。

 デストロイング・エンジェル、破壊の天使といえばあれしかない。

 そう、ドクツルタケ。

 見事なまでのキノコ型なのだ。ギャグとしか言えないような形なのだ。しかしその性能は鬼畜なものだ。傘から放出されるシードは瞬く間に小型ドローンに姿を変えて尖兵となり、壁を創りだして敵の進路を妨害する。そのまま放置しようものならば本体と見分けがつかないほどにまで成長して、さらにそれがシードを撒き散らすという無限ループ。


「とりあえずだ、敵戦力が不明ではあるがお前なら大丈夫だろう?」

「たぶん。念のため防御重視でいくけど」

「ああ、それでいけ。状況を見て第二フェーズへの移行タイミングを知らせる」

「了解」


 イチゴが転移して消えると、霧崎はシェルにシフトする。

 足元を中心に青い円が広がり、そこから円筒形に壁が出現。曲面に沿うようにヘックス状のウィンドウが展開され、処理が高速で表示される。身体が分解、拡散、再構築されて四足歩行の機体、ラクカラーチャに変化する。


『生体情報/認識・ヴァルゴネットワーク/接続不能・追加パックの使用ができません』

「やっぱりか……」


 仕方なくいつもに比べてかなり出力の落ちた障壁を展開する。

 すべてを拒絶する壁は、過去の経験がもとになっているのだろう。誰も信用せず、近づくものは片っ端から無視するか武力行使で排除してきたあのとても荒れていた頃の思い出が。


「…………、」


 シェルとなったことで高解像度の視力が人間の視力の限界を超えた距離の映像を捉えることができる。

 遥か遠くから接近する無数の機体が見える。しかも揃いも揃って追加の超大型ブースターを装備しているようだ。


「アサルトアーマー、シウコアトル、ヴァンガード、ブラックシープ、シャドウフルフ、スワッシュバックラー、フェンリル? それに……」


 次に見た機体は……機体というか、超大型パワードスーツを纏ったといったほうがいいかもしれない格好の、青い髪の……。


「……俺に、やれるのか」


 ---


『敵浮遊都市の構造体は、大口径の超長距離砲を備えています

 その威力は大型機でも掠るだけで大破してしまうほどの脅威です

 このため追加ブースター、GTBを使用し超高速で死角まで突入してもらいます

 死角距離に接近した後、ファングラビット、ヴァンガードは第一戦線を無視して各所に設置された

 対空ミサイルの砲台を狙ってください、GTBのパージによる爆撃も可能です

 先鋒は後続のためなるべくパージによる爆撃で対空設備の破壊をお願いします

 無理に敵防衛ラインを突破してストラクチャまで無力化する必要はありませんが

 そうしてくださった場合には追加報酬の用意があります』


 大気を震わせる轟砲がうなる。視認可能距離外で放たれた砲弾が仮想の空間を切り裂いて飛来。


「直線的な射線に対してブースターで直線的に突撃……ね。横にブースターがねえやつらは全員墜ちるんじゃないか?」


 まるでレーザー光線のように白い軌跡を描いて、衝撃波を散らして通り過ぎていったそれは今の一撃で数機をバラバラにしていた。フレームすら残らない強力な一撃。リミッターの無いこの場所だ、もう死んでいるだろう。


『当たらなければ問題ないよ?』


 隣に並ぶフィーアはエンブレイスだけを纏って、そのままの電子体なまみだ。一撃もらえば即死は確定といった危険はあるが、そもそもの常識がおかしいのか最高速度は第一宇宙速度だ。当たらなければ問題ない、その言葉がそのまま性能に反映されている。単独で"世界4"のアカモートを護り続けた賞金首ランク一位。戦艦クラスの武装をパーツ単位で顕現させて使用し、強力なジャミングとアンカー機能で敵の目と足を潰す。

 その設計上使用できる場所は開けた広い場所だけに限定されてしまう。入り組んだ場所では加速はおろか武装の展開すらできず、いい的にしかならないのだ。しかし今回は仮想の海での戦闘だ。


『お前らの恐ろしさはよく知ってるよ』

『でもレイア(オリジナル)には敵わないよ』

『レイアは情報の次元そのものに対して改変掛けてるだろうが。あんなものをどうやって防げと?』


 いうなればゲームのチート。PME(プロセスメモリエディター)で相手のステータスを検索して攻撃力や防御力をすべてゼロに書き換えるようなものだ。

 基本的にはオペレーターやサポーターも同じようなことを、実際にぶつかり合う当人たちの裏で行っている。ただしそれは実際に状態を書き換えるのではなく、書き換えられないように強化するので手一杯。レイアはそこを改変不可にしつつ相手のセキュリティを瞬間的に切り崩していく。


『来た』


 第二射が飛来する。クロードは姿勢制御用のスラスターでわずかに軌道を変えて躱す。

 通り過ぎた砲弾の衝撃波に揺らぐが、すぐに体勢は立て直せる。マッハ1、音速を遥かに超えた超高速飛行はもうすぐ終わりそうだ。構造体につながる長い橋が見えてきた。


『こちらAS防衛部隊、サポートだ。お前たちはFCASの主権領域を侵犯している、速やかに進路を変更し退去せよ。……さもなくば、実力をもって排除する』


 オープンチャンネルで警告が飛んでくる。警告を発しているのはイチゴだ。


『おい、俺たちの敵は白き乙女か?』

『白き乙女なら解体されたよ。なんでもアカモートの防衛戦で大半がロストしてその後の襲撃でダメになったらしい』


 狼谷の言葉に眉を顰め、


『なら、あいつら鞍替えしたのか』


 浮かんできた疑問をぶつける。


『だろうな。ま、誰であれ仕事に私情を入れる気はない』

『同感だ』


 もうすぐ橋の上に差し掛かるところで、クロードは追加パックをパージする。切り離されたブースターは空中分解し、燃料タンクに引火しながら勢いよく飛んでいく。





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