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第十七話 - 行きつく先は……

 夜遅く。

 レイに起こされた蒼月は「知っておいた方がいいからついてきて」と言われ、二人で地下室に忍び込んでいた。足音を殺して階段を下ると、そこには箱が積み重ねられ、棚が並べられていかにも倉庫な雰囲気を醸し出していた。


「こっち」


 よくみると棚の一つが不自然だった。その隣に妙な隙間があり、下を見ればレールが敷いてある。レイはそれに手をかけると、ギチギチ明らかにロックされている音がするのを無視して横にずらした。


「レイってさ、どれくらい力があるの?」

「うーん……いつもブーストしてるからよく分からないけど、戦車とかなら殴り飛ばせるよ?」


 中学生くらいの見た目に反して恐ろしい力だった。体内の魔力が多すぎるため常時消費するには無駄に魔法を詠唱キャストし続けるのが手っ取り早い。

 動かした棚の向こう側からは異様な気配が流れてくる。空気はやけに冷たく感じられ、魔力も神力も感じられない。まるでそこだけ完全に隔離されたかのような感覚を覚える


「蒼、一つ言っとく。こっから先はマジでやばいから」

「え? どういうこと」

「行ったらわかるよ。出てくる黒コートは睦月のとこのじゃないから、遭遇したら先に仕掛けて殺す気で戦って」

「その黒コートって」

「気にしないで、迷ったらたぶん、死ぬのはあたしたちだから」


 暗い通路に踏み込むと、びりびりと痺れるような感覚が体を包み、気付けば遺跡のような場所にいた。

 薄暗い石造り。前を見れば結晶化した白い力のクリスタルが壁を覆い、後ろを向けば結晶化した黒い力のクリスタルが壁を覆う。進むべき道が無ければ帰るべき道もない。


「これ……」

「素粒子と反粒子って知ってるよね。あれって対消滅起こすんだけど、魔力と神力も同じなんだよ。消滅した後はエネルギーになるのか別の何かになるのかは知らないけど、状態によっては物質になる」

「難しいのはいいから……」

「ようはここって、二つの力を封じ込めて適宜解放して安定した状態を創る場所ってこと」

「安定した空間?」

「よく知らないけどさ、この偽りの世界って結構不安定なんだよ。外……本当の世界に比べれば矛盾だらけで、さっき確かに起こったはずなのになかったことになってるとかよくあるんだ」

「不安定な世界だから魔力があって魔法が使える。そう聞いたことがあるけど」

「うん、あってる。一時期の安定した世界のループじゃ魔法なんて使えなかったし、使えたとしてもすごい面倒だったよ……っと、来たね」


 ザザッ

 空間にノイズが走り、周囲のクリスタルから力が解放される。黒い靄と白い靄がぶつかり合い、本来ならば打ち消し合うはずのそれが物質を形作り、


「なんなの」

「あたしと同じ……観測上の無から有を創りだすのと同じ!」


 真っ黒な繭が出来上がり、それを切り裂いて黒コートの何者かが現れる。


『侵入者を確認、儀式場の防衛の為、排除します』


 中性的な声音で言い放つと腕を広げ、その手に発光現象を伴って槍を顕現させる。

 イリーガルが組み上げた自動迎撃型召喚陣は、続々と黒コートを顕現させては武装を展開していく。


「ねえ、蒼。あたしが穴をあけるから一気に走って」

「この数じゃいくらレイでも」

「忘れた? あたしこれでも神格級を三人相手にして戦ったこともあるんだよ」


 神格級。戦略級や災害級のもう一つ上の位階に属するモノ。俗に神と呼ばれる信仰の対象であるものや魔神と呼ばれる強力な魔法使いだ。彼らと戦う場合には簡単に星を砕くほどの攻撃をぶつけ合うため、位相のずれた場所に移動して戦うことがほとんどだ。故にその存在は公的には"存在しない"とされている。


「それに今は蒼にアレを見ておいてほしいだけだから、全滅させるのが目的じゃない」


 レイが拳を繰り出す。咄嗟の回避行動を見せた黒コートたちが瞬間で塵に還った。高圧力の魔力波による物質の崩壊。拳の先、というか射線上というべき場所にあった壁までもが消し飛ぶ。


「行って!」


 素手で戦闘を始めたレイに言われ、蒼月は一人先へと進んだ。


 ---


「やっちゃって……」


 全裸でたたずむミラ。

 イリーガルはそんなミラを生贄魔法の材料にした魔方陣を組み上げていた。特殊召喚用の陣だ。ナイフを片手にミラに近づくと、躊躇なく突き刺し、抜いて、刺して、抜いて、刺して……。めった刺しにしているようにも見えるが、確実に身体に魔力の流れを形成する刺し方だ。


「素粒子と反粒子が魔力と神力か。面白いよなぁ偽物の世界は、これが0と1の信号とも取れる訳だ、構成を変えてしまえばなんにでもなる」

「あ、ぎゃ……くふふふ……ぞくぞくしちゃう」

「お前はこんなときでも濡らしやがって」


 ドМかどうかはさておいて、死に瀕するほど刺されても恍惚とした表情を浮かべるミラを無視してイリーガルは魔方陣を励起させた。

 供物ミラがゆらりと浮かび上がり、血を落としながら十字架に貼り付けられたように腕が広がる。


「邪魔したらお前も生贄にするから、そのつもりで」


 振り返らずに言われたその一言に、蒼月は無駄だと分かりながらも息を呑んで身を潜めた。遊び半分、脅し半分の声音ではなく、本気だけの声だ。行われていること自体は知っている。使用禁止となっている生贄魔法のうち、生体を素材として発動するモノだ。

 一歩、イリーガルが魔方陣から離れる。

 ミラの頭は力なくぐらりと垂れ、虚ろになった瞳はどこに焦点を合わせるでもなく、半開きの口からは舌が飛び出している。

 相反する力の風が吹く。

 その変化は唐突だ。

 ミラの身体がびくりと震えると、肌の色がみるみる鮮血色に染まって……そして溶けてゆく。ぶわっと広がった赤い霧のようなナニか。それは今の今までミラを形作っていた情報構造ぶっしつ


「これで何度目か……いや、何度目でもいい。寄ってくるのなら生贄として使う、ただの道具でしかない……」


 霧が黒く変化して、二つに分かれた。

 白、コードで示すならばFFFFFF。

 黒、コードで示すならば000000。

 純粋な白と黒。それは0と1(bit)に見えなくもない。

 チカチカと輝くそれらは高速で白から黒に、黒から白に切り替わり、ときに増えて、ときに減って。

 ものの数秒でパッと見は最初の状態をそのまま反転させたように見える状態になっている。


「暗号化の解除、情報体の伸張、再生値の反転……まだ術式に改良の余地があるな」


 白と黒が混ざり合い、黒になって赤になる。


プラスマイナスなにもない。最初の状態ってのはそんなもの、わずかな揺らぎはあれど、すぐさま結合して揺らぎは消えた。だがそんな揺らぎもいつか均衡が崩れてしまう。そしてできたのが本当の世界。そのプロセスを模倣してやつらが作り出したのがこの偽物の世界。

 覚えておけ蒼月、誰かが言うことはいつも違う。さっき"有る"と言われて今"無い"と言われたとしても、不安定なこの事象動揺世界じゃおかしくはない。例え神を語るものが言ったとしても、"今"言われたことを真実と捉えろ。すべての過去を疑え、何も信じるな。

 …………そして、未来から一言。スコールと一緒にいると確実に消滅する。生きて本当の世界に戻りたいならレイズの側につけ」


 赤の暴風が吹き荒れ、反射的に目を閉じた蒼月。すべての感覚が消失し、恐る恐る目を開くと、黒。

 黒一色。

 ひたすらに何もない空間に立っていた。

 見下ろせば自分の体が目に入る。


「なに……ここ」


 試しに索敵魔法を使って周辺状況を探ろうとするが、そもそも魔力がない。

 音が何もない。飛び交う魔法のノイズもない。誰の気配も感じられない。

 きっとどこかに誰かがいるはず。幻惑や幻影などの幻術ならば打ち破れるが、そんな気配がないならばここはなんだ?

 ふらふらと、蒼月は黒一色の世界を歩き始める。どっちが上でどっちが下なのか、そもそも足は地面たるものを歩んでいるのか。

 辺り一面には起伏なんてものはない。摩擦が無ければ、もしかしたらただ足を動かしているだけで進んでいないのかもしれない。進んでいるにしても目印となるものがないため分からない。

 ただ、ただただただ、いつまでも、どこまでも、どれだけ歩いても変わらない世界が続いている。

 歩き続けた。

 ふとどれだけ歩いたのか、時間と距離を意識した。振り返ってそんなものは分からないと分かった。

 歩き続けた。

 静かすぎる世界でだんだんと怖くなってきた。もうここから出られないのか。

 歩き続けた。

 いつのまにか頬に涙が伝っていた。自分はいつかどこかの戦場で死ぬかもしれない。そんな恐怖はあったが、自分だけが残されてしまうことは考えもしなかった。いつも周りにいたのは強大な存在だったから。最強の堕天使メティサーナ、最強の魔法士レイズ、自分よりも先に月姫のクラスに上がった先輩月姫たち、誰もがどんな戦場からも帰還してきた。

 走り続けた。

 誰かいないのか、思いつく端から名前を叫んで。声は虚しく闇に飲み込まれ、誰の声も帰ってこない。

 怖い。

 誰もいないことが、とても怖い。

 自分だけが生き残ってしまった後で襲ってくる恐怖。

 理不尽なほどの力の差で仲間が死んで、自分だけが見逃されて生き残ってしまう恐怖。

 そんなものに耐性がある者なんていやしない……。


「うぁ……あぁぁ……なんで、わたしだけ……」


 独り。

 この何もない黒の中で、自分は独りだ。

 長く感じていて実は短い時間なのか、それともいま感じているよりも長い時間が経っているのか。

 身体から力が抜けて、その場に崩れ落ちた。


 確かなものが欲しい。

 決して変わらない、支えになってくれる何かが。


 だから、その音に敏感に反応した。

 顔を上げると、そこに一人の少女が、自分と同じくらいの誰かがいた。


「あ……」

「?」

「あな、た……は?」

「……?」


 少女は足まで届く長い黒髪を揺らしながら、首をかしげる。

 なぜか見たことがあるような気がする少女だ。


「あなたは誰? 名前は?」

「…………ノブレス・ミナ・オブリージュ」


 名を唱えると同時にそれは起こる、黒一色の世界が劇的に変化した。

 上は透き通る青色に、下は若草の生える新緑の大地に。


「よく知られた、自分、縛る。個別に訳せばこうか? まあ、詳しくは知らない訳だが」

「名前なんか単なる記号だ。リアルじゃ意味ないし、ここでも魔術的記号としては使えるがそれだけだ」


 そして、現れた二人組の片方は、


「スコール……?」


 蒼月を無視すると、謎の少女に近づいて強引に引き寄せると胸に何かを突き刺した。

 じゃらじゃらと音がする。鎖だ。


「己が身と魂、そのすべてを委ねろ。お前には何の権利もなく尊厳もない。ただ人形として従い、生贄としてそのすべてを捧げろ」


 スコールが冷酷に言い放ち、どこからともなく首輪を顕現させると少女につける。途端、キュッと首輪が締まり、惚気た顔で少女は口付けを躱し、光の粒子となってスコールに吸収された。


「三位一体、だな。一人でも存在している限り特定の条件を満たせば復活できると」

「他の連中に知られるとまずいしな、これは」

「確かに……。レイとかの殺せないのは隷属の鎖で縛り付けるしかないが、そこにいるのは物理的に排除可能な訳だ。どうする」

「排除するに決まっている。邪魔でしかないし、この流れ込んでくる記憶はお前のだろ」

「ああもちろん。未来で見たことだ、邪魔にしかならない」


 二人が蒼月へ、その向こうへ視線を向ける。


 ---


「知っていますこと? か」

「観測者は意図せずとも、ただ見てしまっただけで否応なしに影響を与える」

「台詞を取らないでくださいまし」


 いきなり現れた異質な存在を相手に、蒼月の体は本能的な恐怖に固まる。しかしスコールとイリーガルは違う。


「オブサーバー程度が出しゃばってくるな」

「オペランド干渉、イレイズ」


 観測者が発した言葉コマンドに対し、スコールはただ不敵に笑みを浮かべるだけだ。それ以外の変化がない。


「破壊された記録きおくは修復済みだ。お前ら低級観測者オブサーバーのせいで矛盾が多発して皺寄せが起きてるぞ」


 イリーガルは言いながら、人差し指と中指をピンと伸ばして観測者に向ける。


「いますぐに時川連をこの世界から切り離せ。さもなくばアボートだ、脳死フラットラインしないことを祈れ」

「立ち位置としては第三陣営だ。お前ら"本当の世界から眺めて遊ぶ連中"と"状況に気付いて偽りの世界から外に還ろうとする連中"とは違うからな」

「こんの男どもはっ!」

「侵略者風情がほざくな。もともとの原因はあのバカ(レイズ)だがそれに乗じて余計な干渉はしないでもらいたい」

「分かっているのでしょうね。こちらで死亡すればリアルワールドでも死ぬのは当たり前でしょうが、あちらで実体を破壊してしまえばあなたたちは」

「「やれるものならやってみろ」」


 男二人は口をそろえて言う。


「な、なんですの」


 一歩退いた観測者に、イリーガルが一歩詰める。


「ニュース、知ってるよな。突如として原因不明で意識を失う者が続出」

「あぁあ、れはこの偽物の世界で気付いたから」

「そうだ。だからその中から探せばいいなんて思っているだろう」

「だ、だったらなんですの」

「探してみろ。仮想で生まれ仮想で死んでいくモノに"本当の世界"での体なんてものは存在しない」

「う、嘘おっしゃい! あなたたちはリアルワールドから偽物の世界に引き摺り込まれたはずでしょう!」

「間違っちゃいないが、お前の考え方では零点だ。及第点にすらほど遠い」

「ぐ、ぬ……」

「根本から思考ロジックを組み直せ、いまのお前たちではどうにもできない。だからこその譲歩だ、時川連を切り離せ。そうすればこの世界へ干渉するための経路は封鎖しないでおいてやる」

「……お断りですわ! それほど執着するのなら、その人間を人質に……ぃ」

「あぁ? やってみろよ、こちとら自由に行き来できんだ。その日のうちにこっちに引き摺り込んで本物の地獄を見せて差し上げよう」


 クロードとフィーアを退け、アカモートを強襲して大損害を与えた観測者は怯えの色を見せながらまた一歩下がる。


「偽物の繰り返しで何万年動いたと思っている。基本的に八十年そこらしか経験できない制約を越えているんだ、経験則からの予測パターンは遥かに多い。お前らが何かを仕掛けようが半分程度なら対応できるぞ」

「た、たかが半分でしょう!」

「事象の直接的な改変に気付けるか? 気付いたとして自分以外は気付かないのだからなにもできずに終わるのが普通だ。だからこそそれに対応できるだけでも……」


 イリーガルが続きを言う前に、観測者は消えていた。瞬きの瞬間にもういなくなっている。


「逃げたか」


 見えない重圧から解放され、額に汗を浮かべた蒼月は浅く早い呼吸を繰り返していた。


「蒼、落ち着け」


 隣に寄り添い、背中を軽く叩く。


「で、だ」


 イリーガルが何かを呟くと、いつの間にかハイドアウトの庭先にいた。

 どうも結界の内側だけは黄昏色だけでなく、しっかりと朝から夜まで空の色が変わるようで今は夜だ。


「お前がセントラにおいてきた例の兵器を回収しに行くか」

「兵器つっても、ヴェセルに偽装した特製のアンカー機能だがな。この世界内に限ってなんであれ捕えることができるようにはしてある」

「向こう側も気付いて何らかの方法で破壊しに行ってるだろう。明日にでも出るぞ」

「あぁ」


 肩に蒼月を支え、スコールがハイドアウトに向かう。

 ぼうっとすべてが霞み、イリーガルの姿が拡散して代わりにレイの姿が現れる。


「おかえり」


 その姿は傷一つない。


「余計なことを」

「だって、中途半端だとまた殺すんでしょ? 先代の月姫たちみたいに」

「もちろん。まあ、知っての通りここじゃ事象が安定しないから殺してもここに来なかったということで生きてることがよくあるが……」


 そこまで言って、


「なにしてるでありますか?」

「リムか」


 聞かせたくない、竜人の少女が出てきた。

 飛龍系でありながら生まれつき翼がないウィングレスと呼ばれる存在であり、また本来魔力を使用した飛行を行うため魔力に慣れていなければいけないのに、リムの体は魔力(一部除く)に対して拒絶反応を示す。


「主様、なにかピリピリするであります……」


 スコールは蒼月を見て、


「たぶん蒼が原因だろ。慣れるまでは時間がかかるからな、あまり近づくなよ」

「はい……」


 首につけられた輪に手をかけ、リムは下がる。

 蒼月をそこまで運び、座らせるとスコールは一人結界へと進む。


「待って……スコール」

「なんだ」

「わたしは……一緒に……その」

「後は一人で頑張れ。今のお前ならどこの陣営にでも入れるさ。それに、今のお前の居場所はここにはない」


 突き放すように言うと、転移用の魔法のこめられた札を置いてスコールは結界へと歩き始めた。


「……好きだから、スコールのためならなんだってできるから一緒にいさせてよ!」

恋は(Love i)盲目(s blind)、その愚行に気付け」


 聞こえないように呟き。


「なんでも? ……だったら」


 彼はベルトの鞘からナイフを手に取ると、刃をもって柄の方を蒼月に向ける。


「今ここで死んでみせろ」

「え……?」


 突然のことに、妙な表情で蒼月は固まってしまう。


「冗談……だよね?」

「邪魔なんだよ。ザコを守りながら戦えない、護るべきもの、人に対する信用、誰かのためだとかそういうものはすべて邪魔にしかならない。だから、いますぐに出ていくか死ぬかしろ」


 それだけ言うと、ナイフを足元に落として立ち去っていく。

 しばらく呆然と立ち尽くしていた蒼月は、背後から掛けられた声で我に返る。


「蒼様」

「……うん?」

「主様は……主様は臆病なだけであります。失うことを恐れるあまり、最初から深い関係を持たないように、浅い関係だけにするように、すべてを拒絶なされています。ですから、無理にでも一緒にいてあげてほしいであります。強がっているだけで、主様は孤独であります……ですから、いつかきっと心が耐え切れずに壊れてしまうです……」


 ならばなぜ、彼は目の前の少女に首輪をつけて傍に置いているのか。

 それが気になってくる。

 本当の幸せの形、それに正解なんてない。

 だから、


(見栄張って強がって拒絶してるだけなんだ……。だったら嫌われてるわけじゃない)


 なんでそうまで恐れるのかを知りたい。知った上で、そうでなくとも一緒にいたい。

 このまま一人でいかせてしまうと、もう二度と会えないような気がしてしまう。


「主様の周りは敵だらけであります……みんな、互いを警戒して、恐れて、形だけの仲間であります……」


 蒼月は静かに立ち上がって、立ち去っていくスコールに後ろから抱きつこうと動いた。

 そして……。



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