8品目:魚がもたらす名誉と出会い
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『>運営からのお知らせ:ボスドロップ報酬が届いています』
その文面を目にして、私は軽くため息をつく。
報酬は素直に嬉しい。しかもボスドロップなので良いアイテムには違いない。けど。
「まだ戦闘はおろか、フィールドにすら出てないのにもらっちゃっていいのかな……これ」
未だにボス撃破というのが信じられず(自分は料理を食べただけだし)受け取ることを躊躇してしまう。
「ふう。悩んでてもしょうがない。受け取り……っと」
『>シロウトナガスウオ(稚魚)を入手しました』
『>「素魚のブローチ(R)」を入手しました』
『>レシピ「這いよる混沌鍋」を入手しました』
「魚を食べると、魚が1匹~♪ ……意味がわからない」
ビスケットじゃないんだから増えるんじゃありません。
「稚魚か……もしかして養殖出来るかも」
アイテムとして消費も可能みたいだけど、取っておいたら養殖して数を増やせそうだ。
ちょうどレシピも手に入ったし、また闇鍋が食べられる。
あとはアクセサリーか、どれどれ性能はどんな感じかな?
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アクセサリー(その他)「素魚のブローチ(R)」
シロウトナガスウオをモチーフにしたブローチ。
服に着けたり、マントの留め具に使用するほか、ピンバッチのように
鞄に着けることも可能。
透き通る肢体はもちろん、内部の臓器までこと細かに再現された一品。
じっと見つめれば、濃淡な墨の記憶が蘇ること間違いなし。
DEF5 MDF15 水耐性(弱)
装備固有スキル「墨煙幕」:エンカウント時、相手に墨を吐き出して一定確率で盲目状態にする。
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「防御と魔防強化に耐性か……それにこのスキル。しばらくお世話になります」
かなり有用なブローチに深々と頭を下げてお礼を述べたあと、
さっそく装備することにした。
帽子にちょうど良さそうなスペースがあったので、
説明文通りピンバッチに見立てて装備する。
ふぅ、思ったよりも普通でよかった。これでURクラスの装備なんか手に入りでもしたら、世界通知で全プレイヤーに通告されるとこだった。
……ちょ、ちょっと期待はしたよ?
でも悪目立ちする度胸はない。チキンハート万歳。
「よしっと。その他のアイテムはアイテムボックスの中に預けておこう。
うん、それじゃ南瓜の森へいこー……」
ピコン。
この音はお馴染みシステムおんちゃんか
(略しておんちゃんって呼ぼうかな)……今度は何の通知?
『>個人実績:「鉱物が好物」を解除しました』
『>個人実績:「初級ゲテモノリスト」を解除しました』
『>世界実績:おめでとうございます!
プレイヤー「くぅーねる」が世界で初めて
シークレットボスを討伐しました。
限定実績「先駆けの英雄」を解除しました。
限定実績「初めて秘密に手をかけし者」を解除しました。
限定称号「リトルヒーロー」を取得しました!』
「いやあああああーーーーー!!!」
よせ! やめろー! 時間差で通知するの止めてー!!
これが俗にいうフラグ……やばい! はずかしい!
何が悲しくて、こんな最弱ステを晒さないといけないの!? うわーん律子ーー!!
***
「……臣?」
何やら名前を呼ばれたような気がして、思わず辺りを見渡してしまう。
そんなはずはないのに。
臣と私の性格上、ゲーム開始をして数日はお互い好き勝手にプレイすると決めている。
だから臣の声が聞こえるなんてありえない。うん幻聴だ! 幻聴!
……そういえば臣のやつ、今頃どうしてるんだろうな。
大丈夫かな、面倒なことになって半泣きになってないかな?
「どうしたよ? 切り込み隊長。ぼーっとしてらしくねーな」
「へっ? い、いや、なんでもないって!! あはは、あはははー」
「そか。それより聞いたかよ! 今の世界通知! やべーよな。
シークレットボスを先に越されちまったぜ」
へ? マジ? ログ確認っと……おお、本当だ。
って何この名前……ダサ。
「そうそう。くぅーねるだったかしら? 攻略組かと思ったけど聞かない名前ね。期待の新星かしら」
「はぁーどこで見つけたっすかね? 早くwikiに上げて欲しいっす」
「初シークレット討伐は絶対私達だと思ったのに、がっかり」
本当だよ。今この面子で必死こいて探してるけど全然見つからないじゃない! うわー、凹むわー。
というか、くぅーねるってほんとダサい名前だな!
臣と気が合いそうなネーミングセンスしてるわ。
「廃人にして攻略組か……やべーやつだな。そのくぅーねるってのは」
「よぉーし! こんな変な名前の奴に負けてらんないぞーー!
休憩終わり! シークレット探しを再開するぞー! おー!」
こうなったら意地でも見つけて、臣に自慢してやる! ふっふっふー。
「へいへい。隊長が言うならお供するさ」
「でも、ここにシークレットがいるって情報まじっすかねー? リーダー騙されやすいから、掴まされてたりしないっすか?」
「ありえるわよね~」
「……無駄足になるんじゃねーか?」
うう、皆して痛いツッコミだ……。
「そ、そんなことないって! 大丈夫大丈夫!! さぁさぁ諸君! 前進あるのみだよーー!!」
***
私の精神的なクールタイム(10分)が終わり、どうにか身体を動かせるようになると、重い足取りで玄関へと向かう。
途中、お父さんとお母さんにさっきの悲鳴はなんだ? ってすごく心配されたけど、どうにか誤魔化して収拾しておいた。
あと、リトルヒーローっていう限定称号は、さすがは限定称号だけあって、装備すると凄まじいステータスアップになるけど、これ以上の悪目立ちは嫌なので封印する。
限定称号? ははは、嫌だなぁそんなもの持ってませんよ?
「気を取り直して、行こうっと」
ドアノブを捻ると、異世界ポーラリアの風とハイヌヴェーレの街並みが私を出迎える。ささくれ立った私の心もほぐれそうだ。
とても壁の外は魔境とは思えない、綺麗な街並みと人の多さに驚く。
「はー、すごい街並みだー」
月並みの感想しか出てこないけど、活気があって住みやすそうな街だ。
あと迷子になりそう。……えっと、南へはどっち行けばいいの?
「困った時の『マップ』」
私はマップを呼び出すと、現在位置と目的地を確認する。
「商業区商業区……あった。ここだ。『ナビゲート』」
指示を出すと、お馴染みの誘導アイコンが目の前に現れて私を先導する。
いやー楽だわ。流石は親切設計。
私は誘導アイコンを見失わない程度に辺りの建物を観察する。
現実の車に近い乗り物が走っていたり、そうかと思えば馬車のような物が横切ったりする。
ペットショップの看板には「コドラゴンの卵あります」と書かれていた。
寿司屋っぽい店先に「魚介うおっち! 入荷しました」と張り紙が貼ってあった。魚介うおっち……食べ物かな……ごくり……気になる。
ドスン。
「ふぎゃ!」
「魚介うおっち」なるものに気を取られていた私は、完全に前を見ていなかったため、何者かとぶつかってしまいその場で尻餅をつく。
「いたた……すみません」
「君。大丈夫かい?」
「あ、はい。大丈夫です」
さっと差し出された手を取り、起こしてもらった。うう、申し訳ない。
「ありがとうございま……す?」
顔を上げた先には巨大な人がいた。完全に顔を上に向けないと相手の顔が見えない。
「おっと、失礼。これでいいかな」
相手は私が戸惑っているのに気づいたらしく、その場でしゃがむと目線を私に合わせてくれた。
なんか、子供扱いされてるみたいで嫌だったが、
首が痛かったので、すごく助かる。
「わざわざご丁寧にありがとうございます。あとぶつかってすみません」
「いや、僕の方こそ不注意だったよ。ごめんね?」
礼儀正しい人だな。私はそう思いながら、目の前の人物を観察する。
巨大な人だと思ったけど、単に私の身体が小さいだけ。
この人は普通の体格だ。
青い長い髪を後ろで一つにまとめており、アホ毛がポイントの爽やかな青年のヒューマンだった。
左手にはバックラーを付け、腰には長剣が下げられている。剣士か。
……ん? ヒューマン!? なんでこの街にヒューマンが?
設定上イーターマンは他種族との交流はなく、この辺境地にひっそりと暮らす種族だ。
隣国との交流が開かれたと言っても、相手は機械や自動人形が大半。
生身の生物は同種族以外見かけないはずなのに……。
周りの様子を見ると、通行人のイーターマン達が遠巻きにこのヒューマンを警戒しているのが分かる。
青年もそれに気づいているのか、大げさに肩を竦めるとやれやれと言わんばかりに手を上げた。
「うーん。やっぱり僕みたいなヒューマンは歓迎されてないみたいだ」
「イーターマンは他種族の迫害から逃げて、この地に落ち延びた種族です。当然の反応かと」
「うん。そういう設定らしいね。Wikiに書いてあったよ。
最初は知らなくて、妙に殺気が溢れる街だなーって思ってたんだ」
この人、プレイヤー!? 私は思わず身構える。
最近のVRMMOはプレイヤーネームを表示しないのがデフォルトなのと、
NPCがスムーズに流れるような会話をするので、正直NPCとの見分けがつかない。
けれどこの話しぶりは……間違いなくプレイヤーのものだ。