7品目:イーターマンの心得1「食べる」
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念願のバターフライシュガースティックを手に入れたぞ!
……。
……………。
……うん、ごめん。なんか言って見たかっただけ。
とにかくミニゲームの結果はどうあれ、出された料理を全て完食した私は約束通りお母さんからバターフライシュガースティックのお菓子袋をもらった。
「マキナリウムのデパートで安売りしてたのよね~」と嬉しそうに語るお母さん。
手作りを期待していた私はちょっぴりがっかりしたが、日持ちしてどこでも食べられるのだと思い直し、ありがたくいただく。
道具袋にお菓子を入れる私を黙って見つめていたお父さんだったが、急に何か思い立ったのか、私にある提案を持ちかけた。
「くぅーねる。今日はお店の手伝いはいいから、頼まれごとをしてもいいかい?」
ピコン。
『>エピソードクエスト:「最初の一歩」が受託可能になりました』
お、また何かイベントだ。ふむ、どうやらエピソードが進行したみたい。
さっきのミニゲームで、ボスを倒した(倒したのか?)時にレベルアップしたのが要因っぽいな。
私は即座に『はい』を選択し、お父さんの話を聞く。
「本当はもっと後になってからだと思ってたんだけど、さっきの戦いっぷりを見て、くぅーねるならもう大丈夫だろうと思ったんだ」
「普通に食べてただけだよ?」
「謙遜することはない。冒険者組合にでも十分通用すると見た」
「……そうなの?」
何だか実感がなくて、疑問符を浮かべる私にお父さんは笑いながら頭を撫でる。
「私達イーターマンは弱い。成長も遅いし、伸びるのも微々たるものだ。
けどね、そんなものは私達のやり方には何の影響も及ぼさない。
いいかいくぅーねる、覚えておくんだ。私達は戦うんじゃない、食べるんだ」
うーん、それって素魚みたいにボスを食べろってこと?
でも、普通のボスだと近づく前に倒されちゃって、食べるどころじゃないんじゃないかな?
「分からないって顔ね?」
様子を見ていたお母さんが口を開く。
「大丈夫、そのうち分かるものなの。イーターマンとしての生き方がね。
口で説明出来るものじゃないのよ。困ったらとにかく『食べなさい』。敵を知るのも、己を鍛えるのも、『食べて』知りなさい。『食べて』鍛えなさい」
ちょっとヒントを上げ過ぎたかしらとお母さんは苦笑いした。
よし、とにかく、食べて、食べて、食べまくればいいってことだね。
望むところだ。別にトップランカーを目指してるわけでもない。ボス撃破が目的でもない。私は、最初から食べるためにゲームをしてるんだ。
「ふむ。やはりくぅーねるは飲み込みが早い。それじゃあ話が脱線したけど、本題に戻そうか」
あ、脱線させたの私ですね、すみません。
「この街の南区に国で管理している公園があるんだ。
公園と言うか森だな。食材とか薬草なんかはここで賄っている」
街の中に森ねぇ……。
いまいち理解出来ていない私にお母さんは助け船を出す。
「この街の外、壁の向こう側へ一歩でも踏み出せば、凶暴な魔獣がその辺をうようよしてるの。
この辺りの推奨レベルはだいたいLv60~Lv70になってるわ」
「レベル高っ!!」
それじゃあ、一歩出た瞬間終わりってわけだ。
他種族がこの地を訪れることになるのは、だいぶ先の話になるね。ここは上級者向けのエリアなのか。
「そういうことだから、一般の人は外に出ることはない。でもそれだと、森の資源が必要な時に困ってしまうだろ? 私達調理人はハーブやらキノコやら、それはもう色々と入用なわけだ」
「薬剤師、木工職人あたりも死活問題になってくるわね」
「そこで作られたのがその公園ってわけだ。国は、手ごろな森を見つけて冒険者を総動員させて魔獣を狩り、壁で囲って森林公園という形で管理している」
ほほう。そこで安全に採取せよということだな!
「魔獣を狩ったといっても、危険なものだけ。魔獣だって自然の循環には必要な存在だから、根絶やしには出来ないのよ。だから弱い魔獣は森に残してあるの」
「くぅーねるには、数ある森林公園のうち一番安全な南区の公園に行って、店で使う料理の材料を取ってきて欲しいんだ。急ぎではないから、ゆっくり自分のペースで行ってくるといい」
「実践経験を積む良い機会だと思うわ。色々と学んできなさいな」
ピコン。
『>エリア:「南瓜公園」が開放されました』
『>エピソードクエスト:「最初の一歩」が更新されました』
『>クエスト:「料理の材料を採取せよ」を受託しました』
よし、エリア解放されたー。これでようやくあちこち探索が出来る!
「これが、取ってくるもののリストだ。
もし、ここに書かれている数よりも多く採取出来たら、おこづかいをはずもうかなー」
『>材料リストを入手しました』
「わかった! 頑張ってくるね」
私はお父さんから材料リストを受け取ると、道具袋にしまう。
「それと、これね。これで防具一式をそろえるといいわ。無茶だけはしないでね?」
『>1500ジュゲムを入手しました』
『>武器引換券を入手しました』
手渡されたのはお金と武器の引換チケット。ジュゲムはお金の名前ね。そういえば装備のことをすっかり忘れてた。ありがとうお母さん。
「あ、そうそう。この辺りは、壁外に出る上級冒険者用の店ばかりなの。
だから装備やアイテムなんかは、南の商業区画で買うのよ? 南の商業区画! いいわね?」
そうお母さんに注意されたので、素直に「わかった」と頷く。
「よし、連絡事項も終わったしそろそろ仕事だな。ごちそうさまでした」
「「ごちそうさまでした」」
皆でごちそうさまをしたあと、私は椅子からぴょんと降りる。
目指すは南の商業区、そして南瓜公園だ。
「あ、そうだ」
私は階段をかけあがり自室へと戻る。
レベルが上がったからステータスを確認をしよう。ついでにボスドロップもあるみたいだし、荷物の整理をしなくては。
「気は進まないけど……『ステータス』」
自室に戻った私はベッドに腰掛け、恐る恐るステータス画面を呼び出す。
通知表を見る時の緊張感に似ていて、とてもいやーな気分である。
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キャラネーム:くぅーねる(女)
種族:イーターマン【Eaterman】
ステータス一覧
LV:1→5
JB:調理人(見習い)
HP:3→20
MP:2→7
SP:5→10
STM:∞
STR:3→10
VIT:1→8
DEX:5→10
INT:2→6
メインスキル一覧:★食べるLv2 ★無限の胃袋Lv3<付属:NEW! 消化促進Lv1>
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あれ? 何か予想よりステータスの伸びが高い? なんでだろう。
それに何だこれ?
「勝手にスキルを覚えてる……付属って何?」
『神々の宴』はスキルスクロールというアイテムを消費してスキルを覚えるのが基本だ。
これは店で買えたり、イベントの報酬でもらえたりする。
それは再宴になっても変わらない仕様だったはず。
ならこの「消化促進」というスキルは一体……それに付属という言葉も気になる。
「困った時の、『ヘルプ』さーん」
私はヘルプ画面を呼び出すと、「スキル、付属」とキーワードを入力する。すぐさま、該当するページが開かれた。
「何々付属スキルとは……」
スキル:付属スキル【Attachmentskill】
スキルLvが一定Lv以上あり、且つ特定の条件を満たした場合に取得するスキルをアタッチメントスキルという。その名の通り、元のスキルに付属するスキルのことである。
元となるスキルを使いこむに従いLvが上がる。元となるスキルを装備するだけで効果を発揮し、スキル枠を消費しないのが特徴。
ただし、元のスキルを外してしまうと、付属スキルの効果も解除されてしまう。元のスキルをより強化するようなスキルが多い。
例:泳ぎ=水抵抗、息継ぎ、クロール
剣術=熟練度上昇、腕力上昇、刀装備
「へぇー。面白そうなシステムだね」
あまり使えなさそうなスキルでも、付属スキルが開放された途端に化けるって可能性もあるわけだ。
じゃあ、この消化促進ってスキルにはどういう効果があるのかな?
付属スキル:消化促進
1:STM強化系スキルから取得可能。STM回復速度が上がる。
2:「★無限の胃袋」を装備していた場合、消化効率が上がることにより食べたものの種類に応じて、レベルアップ時のステータス上昇率にボーナスがつくようになる。
「これだ!!」
なんかステータスの伸びが高いと思ったら、付属スキルの効果が発揮されていたのか。
食べたものの種類に応じてだから、ボーナスがつく食べ物とそうじゃない食べ物がありそう。
『私達は戦うんじゃない、食べるんだ』
『食べて知りなさい。食べて鍛えなさい』
脳裏にお父さんとお母さんの言葉が蘇る。
つまりこういうことだったのだ。
『困ったらとにかく食べなさい』
「言われなくても、思う存分食べてやるんだから!」
9/21 22:23 INTの値がおかしいとの指摘があったので修正しました。
誤INT5→正INT6