71品目:大きい物音がした後、果樹が消えた。誰も犯人を見ていない。一体、なぜ?
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「集団失踪事件なんて言ってるが、果物に足が生えて逃げていったわけじゃない」
ドライアド。マンドラゴラ。ドリュアス。ついでにイモワーム。
カミウタⅡはファンタジーな世界観のゲームだ。植物だって自立歩行ぐらいする。
アリアだって精霊で人型だけど、本質は植物に近い。
つまり自立歩行する果物……メロンだ。
「この辺りの果樹は私の仲間じゃなくて、ごく普通の果樹ということね」
「ああ。イーターマンの街じゃ芋も人参も、果物だって動くかもしれないがね」
え!? イモワームの他にも動く野菜がいるの!?
人参って? キャロラインは動かなかったけど、他にもあるんだ。
ふっふっふ。いい事聞いた。
「なんでも深夜にでかい物音が聞こえたと思ったら、
翌朝、果樹が植えられてる地面ごと抉れて、果樹が消えちまったんだと。
で、後に残るのはぽっかり空いた穴だけだった」
大きい物音。地面が抉れて果樹ごと消える、か。
「ずいぶん、大掛かりな畑泥棒ですね」
「だな。派手にやってると思うぜ」
果物だけじゃなくて、果樹そのものを土壌ごと持ってく畑泥棒。
苗木ならいざしらず、立派な果樹になってから持っていくだなんて、大胆なやつだ。
作業するには、人手や道具など相当な労力がかかっているはずだ。
犯行が夜に行われたとしても、そんなに大きい物音を出してたら、目撃者の一人や二人はいるだろう。
「犯人の目撃者はいないんですか?」
「ま、当然そこは気になるとこだよな」
うん。やっぱり事件には目撃者の有無から確認しないとね。
でも、今のところ集団失踪事件というよりは、大規模な農作物盗難事件だ。
これがどう失踪事件になっていくのか。
「結論からいうと、目撃者はいない。一人も。
――誰も犯人を見てねぇんだ」
深夜。大きい物音。果樹の地面ごと根こそぎ奪っていくという大胆な犯行。
それなのに、犯人の目撃は誰もいない。
ミステリーだ。なるほど、確かにただの盗難事件ではない。
「犯行が行われたのは一回だけですか? それとも同じような手口で何件も?」
「何件も同じ手口でやられてる。
当然、何もしなかったわけじゃないぜ。元々防犯カメラは設置してあったんだが、
果樹園のマキナたちによって夜間の見張りが強化された。
が、結果は……わかるだろう?」
エイジスさんがお手上げのポーズを取る。
防犯カメラもあって、見張りもあったのに犯人は見つからなかったんだ。
「ええっと。んー。
つまり、犯人が見つからないから、盗難じゃなくて、失踪になった……?」
ううん? なんかしっくりこないな。
ちょっと失踪と決めるには情報が足りない気がする。
「なるほどねぇ」
「アリアは何かわかったの?」
うんうん頭を悩ませる私とは対照的に、アリアは何かを掴んだようだ。
名探偵メロン。一体、現場では何が起こったんです?
「ねぇ、板前さん。誰も犯人は、見てないのようね?」
「そうだ。見張りを強化したあともな。
ついでに言うと、防犯カメラにも犯人は映ってなかったぜ」
あ、防犯カメラの映像もあったか。
でも犯人は映ってなかったと。完全犯罪じゃん。
「ふーん。じゃあ、何か別のものは見たかしら?」
別のもの? 犯人以外の何かを目撃したと?
「物音が聞こえて、即座に出た時でもいいし。見張りと防犯カメラでもいいわよ。
大きい物音が聞こえた次の瞬間に、彼らはどんな光景を見たのかしら」
「え。それは、地面が抉れてて、穴が開いてるところを見たんじゃないの?」
「考えてもみなさい。例えば、二十四時間果樹の目の前で寝ずの番をしたとしましょう。
きっとマキナなら可能よね。
それで、大きい音が聞こえた、次の瞬間にはもう果樹は消えてて、穴が開いてたのかしら?」
そうか。犯人以外の何か目撃してる可能性がある。
エイジスさんがやけに犯人を強調してたのは、ひっかけだ。
本当に突然消失したのかもしれないし、犯人じゃなくて、協力者がいたかもしれない。
「板前さん。この事件はマキナリウムでは大きな問題となっていない。
つまり、国で原因や犯人の目星はついているんじゃないかしら。
謎解きごっこは楽しんだわ。だから本題を話してちょうだい」
「はっはっは! こりゃ手厳しい!」
「お供の精霊の察しが良くて助かりましたね? ――イーターマン」
エイジスさんの笑い声に、どうやら私はからかわれていたのだと気が付いた。
アリアがやれやれとため息を吐き、キリミが意地悪く笑っている。
くそー、悪かったね! 察しが悪くて!
「当店のキュウカイガメのスープを楽しんでもらったことだし、本題に入るとするか」
キュウカイガメのスープ……?
はて、そんな料理出てきてないけど。
あ、なんだっけ。えっと、質問形式で解いていく、謎解きだよね?
いやいや、食べ物の名前がついてたって、謎解きは専門外だよ!
「目撃者曰く、『大きな物音がしたと思ったら、果樹の地面が震えて亀裂が走った。そして地盤が隆起していく。果樹の下を見ると巨大な岩が埋まっていた。どうやらそいつが動いて、果樹が生えている地面を揺さぶっていた。巨大な岩の動きは止まらず、起き上がると、果樹を引っ付けたままどこかへと去っていった』」
なるほどね。果樹は動かない。
けど、その地面の下に埋まっていた岩が動き始めて、果樹ごと失踪したということか!
「え、でも……それって岩が犯人ってことじゃ……」
「はは! 細かけぇことはいいじゃねぇか!
まぁ、つまりだ。はたから見たら、果樹自身が動いてどこかに行ったように見えたから、
果樹の失踪事件って言われたってことだ」
そういうことかぁ。
それにしても、動く岩か。岩系のモンスター。
で、マキナリウム周辺に生息してるといえば。心当たりがある。
「ガンデカイワの仕業ですね」
ガンデカイワ。大岩から手足が生えていて、転がったり、自然系の動き回るモンスター。
私たちがマキナリウムにたどり着くまでの道のりで、白熱したレーシングバトルを繰り広げた相手だ。
「この国の下には数千から数万。ガンデカイワ系のモンスターが休眠しています。
ガンデカイワたちの上に国が立っていると言ってもいいでしょう。
ここは、そういう場所なのですよ」
偶然、果樹の下にガンデカイワがあったわけじゃないってことか。
元々この土地自体がガンデカイワたちが眠っている場所で、マキナリウムはその上に建国されているんだ。
「危険では? もし、その地下のガンデカイワたちが一斉に動き出したら……」
国ごと地面が抉れて崩壊するじゃないの?
なんでそんな土地に国が建ってるのか。
私が疑問に思ってると、エイジスさんは複雑そうな顔をする。
「それがあったら、あの戦争で親父はもっと死者を出していただろうな」
おっと。これはまたお国の事情がありそうだな。
「機皇帝の電脳はそこまで計算した上で、この土地へ国を建国したのです。
もし、国に攻め込まれることがあれば、ガンデカイワたちを刺激して呼び起こす。
そして、低級国民たち、低品質マキナや不良品マキナもろとも外敵をガンデカイワたちで潰してしまう計画がありました」
何それ……ひどすぎる。階級主義、他の種族は排除するという機皇帝らしい手段ではあるが。
それって、自国民を巻き込んだ自爆攻撃じゃないか。
で、たぶん王族や特権階級。上級マキナは安全な場所に逃げるんでしょ。
その安全な場所とやらがキリミと戦った場所――天丼だ。
「……胸糞わりぃ話だぜ、まったくよ。
結局、その計画に使うはずだった天丼はほとんどが潰されたし、ガンデカイワを刺激する装置も破壊されたから使えなかったわけだがね。は、ざまぁみろってんだ」
過去のマキナリウムの話になると、どうも空気が重くなるなぁ……。
私たちは全員、口を閉じて各々考えに耽る。
どうしようかな。
ガンデカイワが動きだす可能性のある土地ってわかってて、果樹を植えてる。
きっと本来はそうそう動くことはないのだろう。
今回は運悪く動いてしまった。災害に近い事件だ。
こうなったら仕方ない。果物は諦めてハイヌヴェーレに戻ろうかな。
買い出しは済ませたし、これでお母さんからのクエストは達成できる。
そもそも、果物ならハイヌヴェーレで買えるでしょ。
「ところで、ここまで話を聞いてくれたついでに、もうちょっと付き合ってくれねぇか?」
「えっと?」
エイジスさんが急に顔をあげると、にこにこしながらこっちを見ている。
なんだろう……。なんかまた頼まれごとの予感が……。
「ここまで国の事情を聞いてくれた、くぅーねるぐらいにしか頼めねぇことでなぁ……」
ぐっ! 確かに聞いたけど……。いやいやそっちが勝手に話したんでしょ!
悪いけど、このまま大人しく国に帰らせていただきま……
「付き合ってくれたら、上質な果物……そうだな。アンブロシアを欲しいだけやるぜ。
他にも、ネクタールやイズンの林檎やらがあったなぁ。
もし、どれか欲しいものがあったら、報酬として出せるんだが――」
「やります!!!!」
いただきません! 帰らないです!
果物に釣られて脊髄反射で即答する。
アリアがあーあという顔でこっちを見た。
『>板前エイジスからの依頼を受託するおん?』
おんちゃんが本当にいいおん? というように聞いてきた。
受託するよ。だって果物食べ放題。じゅるり。
フルーツパーティが待ってるんだもん。
デカイワ系モンスターとの追いかけっこ。いやぁ懐かしい……。
そして果物に釣られたくぅーねる。
板前こと策士のエイジスさんが頼みたいことってなんでしょうね?




