68品目:若きくぅーねるの悩み
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「……はぁぁぁぁ」
「うっさい、食事中にため息吐くな」
特に何でもない昼休み。このあと日本史と生物という恐ろしく眠くなる(教師がつまんなくて)教科が待ち構えていようが……ごくごく平凡なありふれた昼休み。
ん? なんかこんな感じのやりとり前にもあったな。
「はぁぁぁー。づがれ”だぁぁぁ」
私は弁当を胃に詰める作業をしていた。今日も今日とてご飯が美味い。
だというのに、目の前でため息を連発しまくる悪友律子のせいで気が散る。
昼食に集中できやしない。
いつものチョップで黙らせようかと悩み始めると、律子が「あ、そういえば」と自分のカバンを漁り始める。……ちっ、命拾いしたな。
「これ。うちのお母さんから臣にって」
「ん?」
律子は自分のものとは別にお弁当の包みを取り出してきて、私に差し出す。
「なんだろう……おお! お芋ごろごろの肉じゃがだ! 美味しそう!!」
「そ! 土曜日ごちそうになった良かったら食べてだってさ」
土曜日に律子とムギー先輩と遊んで、夜はうちで夕飯を食べたからそのお礼のということらしい。
お礼だなんて。気にしなくていいのに。
むしろ、私の方がムギー先輩に服おごってもらってお世話になってるよ。
だけど、もらった料理はありがたく食べさせてもらう。
「律子ママぁぁ……!! いただきますっ! あむっ……おいひぃ」
あーんとじゃがいもを頬張る。
大きく切ってあるのに、しっかりと味が染み込んでほくほくで美味しい。
やっぱ律子ママの料理は美味しすぎる。
「はー。律子ママにごちそうさまって伝えといて」
「おっけー。あと今度の夕飯家で食べにきなよ。母さん料理好きだから。
臣みたいにいっぱい食べる子がいると、作り甲斐があるって喜ぶし」
人参をもぐもぐと噛みしめて、私はコクコクと頷く。
うちのお母さんの料理も美味しいけど、律子ママの料理も絶品なんだよね。楽しみだ。
美味しい肉じゃがのおかげで律子のため息はどうでも良くなった。
仕方ない。ちょっと律子の話を聞いてやるか。律子ママの肉じゃがに感謝してよね。
「律子。ムギー先輩への手ほどきに苦戦中なのは分かるよ。
でも、焦る必要ないでしょ。元々ムギー先輩が機械が苦手なのは最初からわかってたことじゃん。
ゆっくり1つ1つサポートしてあげたらそれでいいんじゃないの」
「んん……。そー、だよねー」
『私も神々の再宴をプレイするの!!』
その言葉を聞いたとき。私も律子もそれはそれは驚いた。
だって機械全般が苦手で律子と違ってゲームって何かしらな状態の、あのムギー先輩が突然ゲームをプレイすると言い始めたのだ。
夕飯の時に私と律子がカミウタⅡの話題で盛り上がるのをみて、興味を持ったのか。
「なんでかな!? 今まで、神作、名作、隠れた名作!
私が散々お姉ちゃんにプレゼンしてアピールしてきたわけよ。
でも一切興味もってくれなくてさ……もう、お姉ちゃんにゲームを進めるの諦めてたのに……。
なんで急にカミウタⅡに興味持っちゃったんだろう」
そうなんだよね。
シスコン律子が大好きなゲームを大好きな姉とプレイしたいって思うのは自然な流れ。
今まで律子はあれやこれやと手を尽くし、ムギー先輩にゲームの良さを説いてきた。
律子のゲームへの熱意はすごいもので、乗り気じゃない私を巻き込んでゲームプレイさせるほどの熱量を持っている。
実際やってみたら面白かったゲームもいっぱいあったしな。
その律子がムギー先輩にゲームへの興味を持たせることができなかったのだ。今までは。
ムギー先輩にゲームへの興味を持たせた『神々の再宴』。うむ。恐るべし。
「嬉しくないの?」
「いや……嬉しい! 妹としては大好きな姉がようやっと自分の好きなゲームに興味もってくれたんだから、そりゃ嬉しいに決まってるよ!」
「だろうな。ずっとムギー先輩とゲームしたいって言ってたじゃん。だったら、いい加減ため息やめなよ。念願の姉とゲームプレイなんだから、多少の苦労は我慢しろ」
「……うん。ごめん、臣。せっかくのご飯なのに、雰囲気悪くしちゃって」
私は肉じゃがに視線を落として、この肉じゃがに免じて許してやると律子を見る。
こんにゃくも美味しいな。いやーご飯が進む。
「もぐもぐもぐ……ん。で、サポートの進捗としてはどうなの?」
「とりあえず、お姉ちゃんのルームコンピュータにVRのアプリを突っ込んで、
あとコントロールヘッドも買った。一番わかりやすいやつ」
お。意外と進んでる。ルームコンピュータとVRの設定が時間かかると思ってたからな。
あとゲームのDLか。とりあえず、一通りの設定さえできて、ゲームにダイブインさえ出来ちゃえば大丈夫だろうと思ってる。
あとはことはゲーム内のガイドが手厚くサポートしてくれるからね。
安心安全親切設計のカミウタ制作チーム様様だ。
「ってかVRアプリって標準でついてるんじゃないの?」
「うちのお姉ちゃんだからさ。わかんなくて、消してたらしいんだ」
「ムギー先輩ならしかたない」
おっと。大丈夫か、これ。まちがってゲーム消したりしない、よね?
やばい、私まで不安になってきた。いかんいかん。豚肉を食べて落ち着こう!
「やば。昼休み終わるじゃん! 早く食べちゃお!」
「もぐもぐ、はぐ、ごく、はぐはぐ!!」
時計を見上げると律子が慌てて自分のご飯を飲み込んでいく。
私も人の心配なんてしてる場合じゃない。次々と平らげて空になった重箱を急いで片付けはじめた。
***
学生の本分をしっかりと全うして、夕ご飯もしっかり平らげた私は今日もカミウタⅡにダイブインする。
「イモワーム、キャロライン、カボチン公園の湧き水、鬼恩、お肉は別でお願いしてるからおっけ。
ハーブはアリアに用意してもらって……あとは隠し味かな」
「隠し味? 何につかうわけ?」
「お父さんから出された課題として提出する料理!」
すっかり元気になったアリアをロジエさんから引き取ったあと、私はアリアカーの中で荷物を整理している。
おんちゃんがステータスと新スキルの確認はしないおん? と催促してくる。
ううん、そっちも確認しないとか。そういえば流れで神器を手に入れちゃってたな。
神器か。
……。
…………。
……………………。
よし、それは後で確認しよう! 面倒なことは後回し!
「果物を使おうと思ってるんだけど、何の果物にするかで迷ってる」
「……ふーん。私はもっと別のことで迷った方がいいと思ってるけど?」
ぎくっ。アリアめ。
あえて私が今まで一切触れないで見ないようにしてた話題だというのに。
とりあえず、とぼけてみるか。
「ははは……なんのことだか、さっぱり」
「後回しにしてもいいけれど、いつかは決めないといけないわよ。ギルド『アルス・マグナ』への加入の話」
ちぇ、逃げられなかったか。
昨日、ロジエさんから唐突にギルドへ勧誘されたこと。未だ私の中でどうするか答えは出ていない。
「それに私は悪い話じゃないと思うわ」
「私だってありがたい話だと思うよ」
ただまぁ、メリットとデメリットが半々でさ。断るにはあまりに惜しい。
じゃあ受け入れるのかと聞かれたら、即答はできない。
……わかってるよ。私だってこんな優柔不断じゃいけないって。
「ロジエさんは悪くないよ。常識人だし。私がイーターマンだって言いふらしたりしないだろうし。
高レベルだから、私が困ったとき助けてもらえるのは正直ありがたい。
あとギルドの施設を使えるのもかなり恩恵がある」
「あら良かったじゃない。良いこと尽くしじゃないの」
「だけど、ギルドに入ったら、おまけでルゥリヒトもついてくる」
「…………そうね」
こんな私にメリットしかないお誘いの最大のデメリット。
そう、ギルドメンバーにルゥリヒトがいること。
すごくない? 真っ黒黒混沌鍋が唯一にして最大のデメリットなの。
「でも聞いた話だと言動は胡散臭いし、ちょっと馴れ馴れしいけど、運営から警告ような危害はくわえられてないんでしょ? 怪しくて得体のしれないヤツだけど、一緒にPTを組んで助けてもらったのよね? それにアイツだってくぅーねるの種族をバラしたりしないと思うわ」
「まぁ……うん……そうだなんだよね」
ルゥリヒトだってレベルは高くて、プレイヤースキルもあるから頼りになるし。私の秘密をタダで漏らすような性格でもないだろう。
その辺は全然心配してない。けど。
「言動がとにかく胡散臭い! 腹黒そう! 笑顔が怪しい! あとなんか子ども扱いしてるような頭なでなでとかしてさ!」
「まぁ、ヒューマンの価値観ならイーターマンの見た目は子どもに見えるわよね……」
絶対裏がありそうな奴ルゥリヒト。でも証拠はない。
そんな私が選んだ答えは。
「とにかく。もっと考える時間が必要だと思う。だから『仮メンバー』を選んだの。今はお試し期間ってことで、その期間中なにもなくて、ギルドが気に入ったら加入したらいいし、何か変なことされたら速攻で抜けて逃げ出せばいい」
問題の先延ばし。まぁ猶予期間を設けてもらったってわけ。
「あの女から頼まれた買い物、それに父親から出された課題の料理提出。
それが終わったら、ちゃんと答えを出しなさいよ」
「流石にそれまでには決めるよ! アリアは心配性なんだから」
「べ、別に心配なんてしてないわよ! ふん! わかればいいのよ。わかれば」
もー、ほんとアリアのツンデレンコン。
冗談はさておき。ロジエさんはその気になったらでいいと言った。
最悪ずっと仮メンバーでもいいとも。
意外にもルゥリヒトもロジエと同意見だった。もっと駄々をこねるかと思ったけど。
『うちは放任主義だ。最低限のマナーさえ守ってよそに迷惑をかけなければ、何をしたっていい。ギルドメンバーは各々好きなことをやってる。うちのギルドにはいるときこそ勧誘制だが、そこから加入しようがしなかろうが、抜けようが、やっぱりまた入ろうがそこは自由だから安心しろ』
『面白そうなプレイヤーを誘って、面白そうなことしてたらパーティーを組むし、
ソロでやりたかったらソロを続けるって方針なんだ。ね! ローザ♡』
『黙れ、しゃべるな』
私が負担に思わないように無理してるということもなさそうだ。
自由で個々人の面白いことを探求するギルド『アルス・マグナ』。
「くぅーねるにぴったりのギルドだと思うけど……よく考えるのよ」
「もちろん」
せっかくのロジエさんの好意だ。
その好意に甘えっぱなしも悪いと思ったので、私は今、進めてる両親のクエストを終わらせたら、ギルドに加入するか決める。それまでは仮メンバーにしてほしいと自ら期限を決めた。
「じゃあ一旦ギルドの話題は終わり! ほら、料理につかう果物! アリアも考えてよ。
じゃないと、そのメロンをもぎ取って使うよ?」
私がそういってアリアの胸部をじーっと見つめる。
「この野蛮人! イーターマン!」
アリアは私に齧りつかれた痛みを思い出したのか、ひっと息を飲んでさっと手で覆い隠す。
「果物って言ったって範囲が広すぎるわ! 何の料理の隠し味なわけ?」
「んー。実は……」
私はアリアにそっと耳打ちする。
アリアがこの料理を知ってるかはわからないけど。
こういう料理を考えてて、こんな系統の果物がほしいと伝えた。
「ふーん。そうねぇ……じゃあアンブロシアとかケツァルカカオルがいいんじゃない?」
「そんなレアアイテムあるわけないでしょ!」
なつかしいな……どっちも前作で聞いたことのあるアイテムだ。今作でもあるのね。
私が作りたい料理の隠し味としては、申し分ないけど!
「なによ。私にも考えてっていうから考えたのに! 贅沢な子ね!」
「贅沢なのはアリアでしょ……。もっとこう、手軽に手に入りそうなものでおねがい」
いくら何でもアンブロシアもケツァルカカオルも今の私には手が届かない。
「それだったらマキナリウムのデパートで買いなさいよ。
デパートなんだから食材ぐらいあるでしょ。
あの女の頼まれたものも買わないといけないし、一緒に見てきたらいいわ」
「確かに」
アリアのいう通りだ。
そもそもここにきた目的はお母さんのおつかいで、マキナリウムのデパートを目指してたんだ。
ようやく本来の道に戻ってきたなぁ……。
私はアリアカーから飛び出す。いざ、マキナリウムのデパートへ!
『>くぅーねる。そろそろステータス確認しないおん?』
あと神器も確認しないおん? とおんちゃんの悲しそうな声が響いた。
……やばいのがまだ1つ残ってたんだった。
ごめんね、おんちゃん。そうだよね、そろそろ向き合わないとだめだよね。
再びアリアカーの中へと戻り、正座をして深呼吸をする。
そして、恐る恐るウィンドウを呼び出し、自分のステータスと向き合った。
何年ぶりかの更新です。不定期ですが気が向いたら更新していきます。




