67品名:ホムンクルス
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ギルド回です。
「相変わらず、人の顔を見るなり初手攻撃は止めてほしいね、ローザ?」
「……仮命の赤短剣の赤石剣|によるサポート方陣展開。
人造精霊:四大元素よ。創造主が命ずる。
我に仇なす災い愚者を葬れ。
──制御機構:解除
──自動戦闘機能:起動
──消費魔力:増幅
……『アルスまg』」
「ひえ、ロジエさん落ち着いて!!」
「ローザ、ギルド施設内の私闘は厳禁だよ」
「その呼び方は止めろって言ってるだろうがッ!!!」
私は咄嗟にロジエさんの足にしがみつき(身長的にそこになった)詠唱を妨害。ルゥリヒトも待ったをかけるが、結果は火に油だ。
……ああ、ロジエさんが常識の範囲内で名前を呼べって、
念押しした理由がわかったわ。ルゥリヒトのせいだ。確実に。
「……そもそも、なんでお前がここにいるんだよ」
ロジエさんは頭を抑えつつ、ルゥリヒトを問い詰める。
「なんでって、ギルド施設はギルドのメンバーなら誰でも、自由に、使用していいんでしょ?」
ルゥリヒトと同じギルドだったのか、ロジエさん苦労してそうだな……。
「それは、そうだが……」
「なら、僕が利用しに来てても全く問題ないよね」
「生命のゆりかごだぞ。治療なら医務室に行けばいいだろ」
「医務室に行ったらお手上げされたんだよ。
まぁ腕1本消失しちゃってるからね。
だから、ここで造り治そうと思ったんだ」
「「は?」」
思わず発した疑問符がロジエさんと被った。
まぁ、それは良いとして。腕が消失って、何やらかしたの!?
「肩からバッサリさ。あはは、まいったね!」
いつものコートを脱ぎ捨て、右側を指し示す。
肩部分から、あるべき部位が無くなってる。
まいったなって、全然困った風に見えないけど。
部位消失……聞いた事ないな。カミウタⅡからの仕様?
「お前がミスするのも、珍しいが消失? 初めて聞く状態異常だ」
「利き手じゃないから良かったけどね。
失ったものに見合う経験もさせてもらったし。
僕としては満足な結果さ」
「腕1本に見合うもの、か」
「そうそう。でも、不便は不便だからね。
元の腕とはいかなくても、生活に支障のないレベルの腕を造りにきたってわけ」
「状況は理解した。……好きに使え」
腕が無くなったら義手を作るんじゃないのか。
新しく腕を造っちゃうって、発想がすごいや。
そんなことが出来ちゃうここの施設は何だ?
アリアを治すのに、なんでここの施設が必要なの?
「ロジエさん、説明お願いします」
理解の追いつかない私は早々に降参して、ロジエさん解説を求める。
「ああ、すまない。そうだな、ここは錬金術で使う施設なんだ」
私のために、出来るだけ噛み砕いてロジエさんは説明してくれた。
「本来の使用目的地は人工生命体を制作、調整する場所だ。ただしプレイヤーの種族がホムンクルスだと、初期ホーム、及びリスポーン地がこのような錬金術施になる」
そして、ここは俺の初期ホームだと言うロジエさん。
おー、サラッとすごいこと暴露されたな。
ロジエさんホムンクルスだったのか!
というか、錬金術で造られたホムンクルスが錬金術師って、因果なものを感じるねぇ。
「ホムンクルスはフラスコの中でしか生きられないという話を聞いたことないか?」
「あー、なんとなく?」
「くぅーねるちゃんに錬金術の教養があったなんてね。驚いたよ」
うっさいやい! 腹黒混沌鍋!!
そんなわざとらしく驚いた顔しなくてもいいでしょ!
「べ、別に詳しくはないですよ。聞いた事ある程度です」
「へぇ? そうなんだ」
だから、その含みのある言い方止めていただけませんかね。あと、その笑みも怖いわ!
「……ルゥリヒト、ちょっかい出すなよ。というか、今更だが2人は知り合いか」
「2人で熱い一時を過ごした仲だよ」
「レイドボス討伐した仲です」
脚色すんな! あと、かしましトリオもいたからね。
「あぁ、なるほど。理解した」
心底疲れた顔でロジエさんは納得する。
同情的な眼差しを向けられてしまったよ。あはは……はぁ。
ロジエさんはこの倍は苦労してそうよね。
「話を戻すが、そのホムンクルスの設定はカミウタにも適応されている。
流石にフラスコの中でしか生きられないという訳ではないが、定期的に身体をここで調整する必要がある。
調整しないとステータスがどんどん下降して、最終的には自壊して死ぬ」
「えぇ……ホムンクルスって難しくないです?」
「どちらかといえば、面倒くさいだな。
まめにメンテナンス出来るなら、強い種族だと思う」
「扱いにくいって意味では、中級者向けだろうね。
ローザの場合、ホムンクルスで錬金術師だから、上級者向けになってるよ」
「ローザっていうな。もう片方の腕ももぎとってやろうか?」
「きゃー、暴力はんたーい(棒読み)。くぅーねるちゃん助けて」
「嫌です」
こちらに寄ってくるルゥリヒトを追い払う。
「ホムンクルスで錬金術師だと問題でもあるんですか?」
「俺は問題ないぞ」
「そりゃ君はそうだろうさ、ローザ」
「ローザ言うな」
「錬金術師というかね、術士系統の職が難しいんだよ。
なにせホムンクルスって魔力が無いからね」
「ええ!?」
魔力が無い? え、でも、ロジエさん術使ってるよね?
「それと、人工的に作られた生命だからか、
自然の存在からの友好度が最悪なんだ。例えば、精霊とかね。
精霊使い、錬金術師、といった職業は彼らから力を借りるわけだから、どれだけ相性が悪いか分かるだろ?」
「付け加えると、ホムンクルスは自然存在に対して、特攻を持つ」
な、なるほど。聞けば聞くほど相性悪いね。
なんでロジエさんはホムンクルスで、錬金術師を選んだのかな。
「デメリットに目を瞑れば、ホムンクルスほど錬金術師に向く種族はいないからな」
「そうは言いますけど、デメリット大きすぎません?」
「なんとかなる」
いや、多分それロジエさんだけだよ……。
ルゥリヒトもやれやれと溜息吐いてるじゃん。
「理屈は分かるけど、道のりがマゾいよ」なんて愚痴が小声で聞こえた。
「ごほん。また脱線したが、今回アリアが虚弱になったのも俺の種族が原因だ。
ホムンクルスが作成した薬を精霊が服用した、すると」
「あー、精霊特攻が作用してって、ことですね」
「……本当に申し訳ない」
いやいや、ロジエさん。
そんな深刻そうな顔しないでくださいよ。
ペットの種族なんか分からないし、
私もそういう事があるって知らなかった訳だし。
「それで、この命のフラスコはホムンクルスの身体を調整させる装置なんだが。今からその機能を使って、アリアの身体から、残留してる薬を除去する」
自壊するホムンクルスの身体から、
元気な細胞と死んでる細胞をより分ける要領で、
アリアの身体から薬効を抜くのだそうだ。
説明を終えると、ロジエさんは手馴れた手つきで機械を操作する。
すると、パイプから水音が聞こえ始めた。
赤い水が注水され、ガラスケースは液体で満たされる。
「ここにアリアを入れてくれ」
「わかりました……アリア、おいで」
ガラスケースの中にアリアを呼び出す。
『…………』
「アリア、遅くなってごめん」
液体の中でぷかりと浮かぶアリア。
未だ顔色は悪く、虚弱状態だ。
「よし、じゃあ治療を開始する」
カチリとスイッチの入る音がした。
液体はブクブクと泡立ち、ガラスケース全体が明るいライトで照らされる。
「ふう……あとは待つだけだな」
「ロジエさん、ありがとうございます」
「当然のことをしたまでだ」
素人には何やってるかちんぷんかんぷん。
でも、どことなくアリアの顔色が良くなったように見える。
このまま任せておけば、大丈夫。
「ところでさ、ロジエ」
「……なんだ」
ルゥリヒトは改まった様子でロジエさんを見つめる。
呼び方も正しく「ロジエ」呼びで、
お巫山戯モードはOFFになっている。
普通に呼べるなら、呼んであげなよ混沌鍋め。
もっともそんな指摘しようものなら、
「え、愛称駄目かい? 僕なりの愛情表現なんだけど」ぐらいは言ってきそう。
それはそれで次の面倒に発展するな。
ロジエさん自身がなんとかするしかないね。
はい、この話題は終わり。
決して、面倒だからロジエさんを見捨てたわけじゃないんだからね!
『>くぅーねる何を焦ってるおん?』
うわぁ!? おんちゃん、びっくりした。
……何でもないよ。ってか、どうしたの急に。
『>脳波の乱れを感じたおん。そろそろ休息いれるおん。あと2人が呼んでるおん』
あー、結構時間経った? どれどれ。本当だ。
そろそろダイブアウトせねば。あとは。
「くぅーねるちゃん大丈夫?」
「あ、はい。そろそろダイブアウトしようかと、休日だからってINし過ぎました」
「……もう、そんな時間か」
アリアが完治したら、マキナリウムに戻って宿でダイブアウトだな。
「それで、くぅーねるちゃん。結論は?」
「……無理強いはするな。が、ギルマスとしては歓迎するぞ」
ええっと? 何の話かな?
不味い、さっき意識飛んでて話聞いてないぞ。
「ええー……その?」
言葉を濁して、何とか話題を聞き出そう作戦。
けど、ルゥリヒトには私が話を聞いてなかった事がバレてるな。
物凄い良い笑顔でこっち見てるし。チクショー。
ロジエさんは真剣に私の返事を待ってらっしゃる。
お互い待ち状態で動かず。
「すいません。何の話だったかもう一度聞いても……」
良いでしょうか、という語尾が掠れる。
2人から溜息が聞こえた。ご、ごめんってば!!!
聞いてなかったのは謝るから、何の話か教えてください。
「くぅーねるちゃんをアルス・マグナに勧誘したいってお話だったんだよ」
「は……はいぃぃ!?」
とんでもなく重要な内容に、また意識が飛んでいきそうだった。
次回からアリア復活。そしてギルドの件はどうするの、くぅーねる。




