66品目:アルス・マグナ
ぼっちプレイ卒業とよそ様ギルドにお邪魔するの回。
さてさてレイドが終わって、私たちは天丼から店に強制転移されたのだが、この後のアナウンスに備えるべく、気合いを入れる。
あ、ついでに看板称号リトルヒーローも外す。
よし、準備はOK。さぁ、来なさい!
『>世界実績:おめでとうございます!
レイドボスクエスト「板前からの挑戦状」がクリアされました。
終了条件を全て達成したため、クエスト受注者「くぅーねる」には特別なドロップ品が送られます。
イベントNPCより直接お受け取りください。
また、リーダー「クロード・ソレイユ」、「ござるデス」、「ロジエ・アルケウス」、「ちしゃฅ•ω•ฅ」、「どえむ大先生」、「許してハヤシライス」のPTにより、大型レイドボスが倒されました。
参加者全員にボスドロップがメールで送られます』
ふ、もう3回目だもん。世界チャットに名前が晒されようが私はもう動じませんよ? 気合いも入れたし、うん。
というか、ハヤシライスって何美味しそうな名前の人いる。
『>世界実績:おめでとうございます!
リーダー「ロジエ・アルケウス」が率いるパーティ(くぅーねる)がシークレットボスを討伐しました』
げふん!! 4回目だと!? 想定外なんですけど!!
ま、まあ、でもロジエさんリーダーだから、被害は少ない……よね? だよね???
「さて、まずはチャレンジクリアおめでとさん」
定位置のカウンター席に座っていると、エイジスさんが店の奥から出てくる。キリミも一緒だ。
「約束通り、飲食代はタダ。それと賞金の10万ジュゲムを渡すぜ」
「はい。確かに受け取りました」
いよっしゃ! 好きなだけ食べて、賞金まで貰える。
くぅー、これだから大食いチャレンジは止められないね!
寂しいお財布が潤い、にやけが止まらない。むふふ。
「さらに最高難易度マニアックをクリアしたお前さんには追加報酬だ」
ぽんと手渡されたのは、チケットだ。何これ?
「本来の大食いチャレンジ7品を食えるタダ券だ」
『>チケット「特別お食事券」を入手したおん』
なんと! じゃあまた茶碗無視やいなりが食べれるし、未知の5品も食べれるんだね!?
「うええ、なんて罰ゲームだよ……」
「あと半年は食わなくていいわね」
「ま、まだ食うってか? あの子何者なの」
何やら、周囲が騒がしい。
エイジスさんからチケットを受け取ってからだけど。
なになに、羨ましいの? あげないよ?
「あと、コイツからも渡すもんがあるってよ」
はて? 誰が?
エイジスさんが振り返り、店の奥へ呼びかける。
「いい加減出てこい、キリミ」
「う……はい、親方」
エイジスさんに急かされて、キリミがおずおずと店の奥から現れた。
出会った当初と変わらない姿のキリミに私は安心する。
『食らう』のスキルでボロボロにしちゃったから、心配だったけど、修復されたみたいだ。良かった良かった。
「くぅーねるさん」
これを、と差し出されたのは巾着サイズの麻袋。
開けてみるとキラキラ輝く粒のようなものが詰まっていた。もしかして、これって。
「え、これって。キリミ、まさか」
「はい。種籾です。私の」
「これを、私に?」
こんな貴重なもの貰っていいのか……。
これがあれば、お米食べ放題だぞ。
『>キリミ(種籾)を入手したおん』
ほ、本当に貰っちゃったぞ!? 返却不可だからね?
稚魚、野菜の種、に続いてついには種籾まで。
アリアからは果物が貰えるしなぁ。
自給自足早くしろよと急かされてる感がハンパない。
あとは何だ、肉が揃えばいいのかしら。
何気に全部シークレット素材ってのが怖いよね。
「私は……ヒューマンのことはまだ、信じられません」
「キリミ……」
そりゃそうか。
キリミと人間の因縁は、昨日今日の話じゃないし。
まだまだ心の整理が必要だろう。
「でも」
「はい」
「貴方くらいなら、私……」
「……」
「信じてもいいかなと、思いました」
「それは、ありがとうございます」
エイジスさんがやれやれとため息を吐く。
まだまだだなとか、素直じゃねぇとか、小言をキリミに言っていたが、私は別に気にしないと伝える。
キリミがヒューマンとどう関わるかは、これから次第。
むしろ、あんな戦いをした私を信じてくれるなんて、光栄だよ。
「よし。これで恨みっこなしだ」
エイジスさんがそう締めくくり、パンパンと手を叩いて店中にアナウンスした。
「大食いチャレンジャーの勝利記念に、今日の飲食代は当店が負担します!──というわけで、思う存分注文してくれ!!」
店内が大きく揺れる歓声。
あちこちで、オーダーがかかっている。
エイジスさん太っ腹だなぁ。
「くぅーねるさん!」
「くぅちん!」
「くぅーねるちゃん!」
おや、この声は。
「クロードさん! シャルルさんに、シトリンさんも!」
レイドボスでお世話になった、エルフ族3人組だ。
「やぁ、お疲れ。あとレイドボス討伐おめでとう!」
「いえいえ、こちらこそ。お疲れ様です。クロードさんの指揮官スキルに助けられました」
「そんな、くぅーねるさんのスキルがなきゃキツかったですよ」
「くぅちんすごいし! また一緒に遊ぶし!」
「そうだ。どうせならフレンド登録しましょ? これも何かの縁だし。またくぅーねるちゃんとPT組みたいしね?」
シトリンさんの申し出はありがたい。
これでようやくぼっちプレイともおさらば出来る。
「私で良ければぜひ、フレンドになってください」
「ああ、もちろんだとも!」
「やったし! くぅちん、絶対また遊ぶし!」
「うふふ、ありがとう。くぅーねるちゃん」
『>クロード・ソレイユ。シトリン・オレンジ。シャルルマーニュ。以上3名とフレンドになったおん』
さて、私もこのまま宴に参加したい。
だけど、どうしても、やらなきゃいけないことがある。
エイジスさんとキリミに挨拶を済ませ、
エルフの3人組と別れると、私は早足に店の外に出た。
***
「ロジエさん、お待たせしました」
「ん? もういいのか?」
外のベンチにロジエさんが座っていた。
事前にショートメールでロジエさんから、外で待ってると連絡が来ていたので、急ぎめに切り上げて店を出たというわけだ。
「これ以上ロジエさんを待たせたくなかったですし」
「気にするな。俺が勝手に外で待ってただけだぞ」
騒がしいのは苦手、とのことで店内から早々に出てきたそうだ。
「アリアも心配ですし」
「ああ、それなんだが……」
ロジエさんは一瞬言葉を切る。何かあったのかな?
「1つ確認したいんだが」
「はい、何でしょう?」
「くぅーねるのペットは、もしかして精霊か?」
「そうです。精霊アリアドリィーネっていいます」
長いからアリアって呼んでるけど、本名はかっこいい。
「……ああ、やはりか。ならこの薬では駄目だな」
手の中の小瓶を見ながら、ロジエさんが溜息を吐いた。
おそらく、それが虚弱回復の薬なのだろう。
「一足先にギルドに行って、薬を取ってきたんだが、嫌な予感がしてな」
「というと?」
「訳あって、俺の調合する薬は、自然界の存在に害……副作用みたいなものが出る。精霊、妖精、聖獣なんかだ」
むむ? それはまた特殊な薬ですな。
「テイムモンスターで精霊は珍しい。だから、アリアのことは、アルラウネ系の魔獣だと思ってしまって」
「薬を使用したと」
「……すまない」
いやいやしょうがないよ。
そもそもアリアの入手経路は特殊だし。見た目精霊っぽくないもんね。
「初めは新薬だから、副作用が出たと思っていたが、聞いておいて正解だな。危うく悪化させるとこだった」
「危機一髪ですね……」
そうすると、アリアは自然回復させるしかないか。
「もし、嫌じゃなければ、俺のギルドに来ないか?」
「ギルド、ですか?」
「ギルドにある施設なら、精霊でも不都合なく治療出来る。どうだ?」
ロジエさんのギルドか。
高レベルプレイヤーがいっぱいいそう。
私が行っても場違いなのでは……。
「大した規模じゃないさ。少数精鋭でレベルもまちまちだしな。くぅーねるが気後れすることはないと思うが」
なら、お邪魔させてもらうかな。
ギルドの施設には興味あるし、今後、ギルドに入るか、もしくは自分で作る時に参考になるかもしれない。
あ、1番はアリアの治療だよ! わ、忘れてないんだからね!!
とにかく、私はロジエさんのギルドに行くことを了承した。
「では、仮メンバー用の鍵を渡しておく」
『>ギルドキー(仮)「アルス・マグナ」を入手したおん』
ギルドに加入してなくても、招待されればギルドホームに行くことは出来る。
けど、ギルド施設はギルメンにしか使えないのだ。
なので、今回みたいに仮メンバー扱いとして入り、ギルド施設を使わせてもらう。
「……先に言っておくと、ギルドメンバーに一部変な奴がいるが気にするな」
「え?」
ちょっと、行く前から不安になるようなこと、言わないでよ!!
「今ギルドホームにいるかは分からない。うちのギルドは俺も含めて、単独行動が多いからな」
「そ、そうですか」
そういう事なら、さっさと用事を済ませてお暇すれば、大丈夫かな。うん。
「じゃあ、行くか」
「了解です」
***
『>ギルド「アルス・マグナ」のホームに入室したおん』
「ここが、ロジエさんのギルド」
第一印象は古代遺跡。そんな感じだ。
どこまで移動出来る範囲なのかは分からないけど、アルス・マグナのホームはとても広い。
見渡す限りの青い空。足元には雲海。
ぽつんと浮かぶこの浮島が活動拠点だろう。それにしても。
「高所恐怖症には向きませんね、ここ」
「同感だ」
この浮島は人工物なのだろう。
天然にしてはやけに整ってるし、何より地面となる部分が半透明の岩? よくわからない物質で出来てる。
「攻略したダンジョンをそのままギルドホームに指定したからな。まだ判明してない部分も多い」
「あ、そっか。そこも前作と一緒なんですね」
ちなみに私と律子は前作で『世界樹の森』をギルドホームにしてたよ。
『世界樹の森』はSランクのダンジョンだった。
私も律子もSランクなんて高難易度のダンジョンは初めてで何度も挑戦して、死んだわ。
ぶっちゃけ、心が折れそうになったし。
『り、りつこー。もう無理……エンジョイ勢にSランクは無謀だってば』
『臣さんや。ここクリアしたら、アンブロシア食べ放題。黄金の林檎も食べ放題やで』
『ゔぐっ……や、やってやるぞー! チクショーめぇぇ!!』
『良し、行くぞ。Sランクダンジョン。滅多に見つからないんだから。このチャンス逃してなるものかー!』
って感じで、律子に叱咤激励されて、うん。
私頑張ったよね。
やっと攻略した時はボロボロ泣いたっけなぁ。
クリア報酬にギルドホーム設定許可書を貰った時は、ギルドなんか作ってなかったんだけど、速攻で立ち上げてホームにしたんだ。いやぁ懐かしい。
「ここは……クリアしたと言うか、半ば強制クリアさせられたものだが」
「と言いますと?」
「なんというか。……とりあえず、中に入ろう。こっちだ」
何やら複雑な事情があるみたい?
気になるけど、ひとまず素直にロジエさんに従う。
『アルス・マグナの拠点へようこそ。
スキャンチェックを開始します。
……。
…………。
………………完了。
お帰りなさいませ、マスター・ロジエ。
そして、くぅーねる様』
拠点と思われる遺跡に近づくと、人型の石像の目が光って、ロジエさんに照射する。
音声と同時に壁は消えて奥に進む道が現れた。
「ギルド施設『生命のゆりかご』へ行きたい」
『>オーダー承認します。ゲート接続中。
目的地「生命のゆりかご」に設定しました。
そのままお進みください』
「これで、すぐ施設に入れる。行くぞ」
私はこくりと頷くと、ロジエさんに続く。
金属の廊下を渡った先で待っていたのは。
「やぁ、ローザ。お帰り」
んん? なんか聞き覚えがある声。
おまけに嫌な予感がビシビシするんだけど。
「ロジエさん、先客がいるようで……ロジエさん?」
「……」
「ろ、ろじえさん!?」
待って、待って! 物凄い怖い顔止めて!!
しかも臨戦態勢だし! あ、なんか詠唱聞こえる!
ストップ!! ここ貴方のギルドですよ!?
というか、いつの間に抜剣したんですか!?
あーもう、滅茶苦茶だよ!
ってか、ロジエさんがこんなに殺気立つ相手って誰よ?
「うげ……な、なんでここに……」
「あれ? 君こそどうして」
ロジエさんの横をすり抜けて、先客の顔を確認する。
速攻で後悔した。なんでお前がいるんだよ!
「「ルゥリヒト(さん)」」
「やあ、久しぶりだね」
見た目詐欺のエセ剣士。真っ黒混沌鍋な写真家。
私の中では胡散臭い男No.1に輝く人物。
ルゥリヒト・マイスその人が、優雅にお茶を楽しんでいた。
3度目の出会い。一難去ってまた一難ですね。




