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65品目:約束された完食の器《ごちそうさまでした》

ごちそうさまでした。

 炊きたてご飯の香りで、目が覚める。

 過去回想から戻ってきたが、まだキリミと対峙している状態だ。

 もっとも、私の『食らう』を受けたキリミはもう満身創痍状態だったけど。


「こん、な……うそ、……です」

「『呪い』はもう効かないよ。私がきちんと食べたからね」


 ラーズグリーズを突きつけながら、キリミに教えてやる。


 食べても満足できない『飢え』。

 倒しても生み出されて続ける『豊穣』。


 黄金の稲穂畑であり、呪詛の藁人形であるキリミの能力。相反する『呪い』と『祝福』は全て、私の胃袋に収めたのだ。


 料理に込められた『思い』。

 それをお残しするなんて、イーターマンの名が廃るってもんだ。


「イーターマンに食えぬものなし」


 ウィンドウにNewと表記されているスキル眺めつつ、私はにやり笑い、ドヤ顔を決めてやった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――

 ★無限を秘めし4つの胃袋(2/4)Lv2

<消化促進Lv2、状態異常耐性、

 ★共有する第一胃、New:★共感する第二胃> 

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 4つの胃袋シリーズの2つ目が解放されたのだ。

 その名も「共感する第二胃」。

 キリミの過去を覗き、呪いと祝福を打ち破ったのは、

 このスキルのおかげである。

 思うところは色々あって、何がトリガーで取得出来たのかはさっぱりだが、こうしてピンピンしていられて良かったと思う。


 それに、まだ終わっちゃいないからね!


「……わかり、ました。私の負けで」


 その場に、ぐらりと崩れ落ちるキリミ。


「親方、申し訳ありま、せん」

「ちょーっと、待った!!」

「え?」

「まだ勝負は終わってないからね」


 自己完結してるところ悪いけど、こっちはそういう訳にはいかないんだよ!


「……おかしなことを言いますね。明らかに勝敗は決まっているでしょう?」

「どこが?」


 コアは仕留めたので、巨大おむすびからのおむすび増援はもうない。おむすびは指定されたラインに到達していないため、勝利条件はクリアだ。けど。


「見てよ、キリミ。まだまだ、こんなにおむすびは残ってるんだよ? もったいないでしょ。

 これ全部食べ終わって、初めて勝利だ」

「は、はぁ? 貴方何言って」

「……まぁ、そうなるだろうと思った」


 ロジエさんがやれやれと言った表情で、おむすびを頬張る。ついでに使役してる精霊(?)達にも、おむすびをどんどん食わせていく。

 ちょちょちょ、私の取り分減らさないでね!?


「問題ないだろ。まだまだたくさんあるからな」


 ぐぬぬ、まぁそうだけど……。


「それに、共有する第一胃の効果があるだろ。誰が食べようがお前の胃袋に収まる」

「それは、そうですが……自分で食べた方が美味しいに決まってます」

「ぐ、うう……こんなことって……」


 キリミは悔しそうに呻いていたが、諦めてくださいな。


『もぐもぐ、くぅちんなら、はぐ。完食すんのあたりまえだし』


襲撃者おむすびを全て排除が条件だしな。

 む、この山葵数の子おにぎり中々美味いぞ』


『そもそも米が美味いでござる。拙者、米をおかずに米が進むでござるよ』


『普通のレイドボスにゃら、ボス撃破で終わりにゃけど、これ大食いレイドにゃんだよにゃあ。

  当然、おかかマヨおにぎりが1番美味いんにゃん』


 あちこちから、おむすびを堪能する声がした。

 皆、軽快に食べて、語り、また食べる。

 おにぎりの具材はこれが1番だとか、飲み物はお茶がいいよねとか、

 いやいや味噌汁こそがお似合いだぞ、なんて議論も白熱している。

 皆レイドボスってことは忘れてて、和気あいあいとおにぎりを食べている。

 なんかピクニックみたいでいいよね。うん。


「……敗者を踏みにじって楽しいですか」


 おにぎりを堪能する私たちを睨みながら、キリミはそう吐き捨てた。

 そんなつもりは欠片もないよ。

 ふむ。キリミは何やら勘違いをしてるみたいだ。


 私は近くにいたおにぎりを捕まえると、ぱくっとかぶりつく。


 温度、米の密度、握り加減。具材はおかかだ。

 ぐるりと米に巻かれた海苔はパリパリで香りが良い。

 改めて、あの板前……エイジスさんの腕の良さに感心する。

 お母さんたちといい勝負かもしれない。

 ゆくゆくはエイジスさんを目指して、調理スキルを上げるのもありかもなぁ。


「私はさ、キリミを踏みにじろうとか思ってないよ」


 そんなことはありえないんだ。


「むしろ、敬意を表してる。感謝さえしてる」

「敬意? それに感謝ですって?」

「そうだよ、だってさ──」


「このおにぎりの最大の主役だもん」


「は?」

「このお米、『キリミ』だよね」

「馬鹿なことを……皇子と共に行くと決めたあの日から、米は実らせていません」


 それは貴方たちも見たでしょう? とキリミは言う。

 確かにラーズグリーズと『共感する第二胃』により、

 覗くことになったキリミの過去で、稲穂畑は枯れ果ててしまっていた。


 けど、あのエイジスさんがキリミをそのままにするはずがないと思っている。


『もう、分かってるだろ。娘の米はキリミの──』


 エイジスさんの言葉を思い出し米を噛み締めた。

 共感したからこそ、分かる。この米はキリミなんだと。

 恐らく何らかの方法で、エイジスさんが稲穂畑を復活させたに違いない。


『なあ、くぅーねる。これを見たお前に頼みたい。

 未熟だった俺がアイツに教えきれなかったこと。


 機械(マキナ)の俺が伝えきれなかったこと。

 伝えてやって欲しい。


 ──お前なら、正しく食ってくれると信じてるぜ』


 お望み通り、イーターマンとして正しくキリミに伝えるよ。


「キリミ、なんと言われようと、この素晴らしいお米は貴方だ」

「……ッ」

「私はエイジスさんの自慢の娘に敬意を表す。


 ──ありがとう、キリミ。お米凄く美味しい。


 貴方のおかげでお腹いっぱい食べられる。

 ありがとう。お米を食べさせてくれて、ありがとうね」

「その……俺からも言わせてくれ。コイツは美味い。

 調理人も材料も素晴らしい。ありがとう」

「ロジエさん」


 少し照れくさそうにしながら、ロジエさんもキリミにお礼を言った。


「他の連中も同じ意見なんじゃないか?」

「ですね。私もそう思います」


 共有し、共感する胃袋には、皆の『美味しい』という気持ちがお米と共になだれ込んでいる。


「ヒューマンの、くせに……卑しいイーターマンなのに……」


 言葉は冷たいが、最初のような殺意は感じなくなった。

 キリミのフェイス部分に、きらりと水分のようなものが見えた気がした。まるで涙みたい。もしや、と思ったけど、指摘はしない。

 少しは、キリミに気持ちが伝わればいいけど。


 ん? なんか暗くなった?


「上から何か来るぞ」


 ロジエさんが指差す方を見上げると、Fパネルが浮かんでいた。そこから降りてきたにのは。


「くぅーねる。おめでとう。俺の負けだ」

「板前さん!」

「皇子……なぜ」

「大事な娘を回収しにきたんだよ」


 そういうと、Fパネルをキリミの近くに寄せて、キリミを抱き起こすと、再びFパネルに乗る。


「こっちは食いもんじゃねぇんだ。悪いね、お客さん」

「別にかまいませんよ。大食いチャレンジに影響がないなら」

「ああ、チャレンジには影響はない。断言するぜ」


 そうだろうとは思ったけど、一応確認だ。

 エイジスさんは中々の曲者だからね。


「というかだな。チャレンジはもう成功だよ。

 正直、ここまでやるとは思ってなかったぜ。

 ここまで食ってくれるなんて、思わなかった。

 板前として、こんな嬉しいことはない。

 ありがとよ。本当に、ありがとうなぁ……」


 くしゃりと顔のパーツを歪ませるエイジスさん。

 嬉し泣きのようなその表情に、私もありがとうと返す。


「でも、もうちょっと付き合って欲しいです」

「というと?」


『>レイドボスクエスト「板前からの挑戦状」の終了条件1を達成したおん! このままクリアするおん?』


 答えはもちろん、NOだよ。おんちゃん。


「エイジスさん、家には家訓があってですね」

「イーターマンのか?」

「え? いや、その、まあ」


 現実世界のなんだけど。でも、イーターマンにもそういう家訓もありそうだよね。


「お茶碗に米粒1つ残さない」

「へえ。その心は?」

「作ってくれた人に感謝するため。

 この作ったっていうのは、調理した人、食材を育てた人、それから……食材そのものに、です」


 エイジスさんは満足そうに頷き、降参だと苦笑した。


「おう。じゃあ、きっちり食ってくれよな!」

「もちろんです。あれでしたら食後のデザートの準備でもしててください」

「ははは、考えとくぜ」


 Fパネルが浮かび上がり、その場を離れていく。


「じゃあ、いただきまーす」

「さっさと食べて、他の場所も食いに行くぞ」

「もぐぅ、はぐ……ほひほんへふ(もちろんです)」


 言われるまでもなく、私はおにぎりをむしゃむしゃする。お預けされた分を取り戻すべく、もぐもぐ、ごくん。

 ロジエさんのジト目が肌に突き刺さるけど、気にしない。もしゃもぐ、はぐはぐ。

 目指せ完食宣言! もっしゃもっしゃもぐん!


 ***


約束された完食の器(ごちそうさまでした)


 少女の掛け声と共に、天丼が眩い輝きを放つ。

 センサーに異常が起きそうなフラッシュに思わず、視界をシャットアウトした。

 少しずつ収まる光量に合わせて、徐々にセンサーを復旧させる。

 視界を取り戻すと、そこには娘たちが襲撃する前の天丼の光景が広がっていた。


 それはつまり、チャレンジャーのイーターマンが宣言通りに、米粒1つ残さずに食べ切ったことを意味している。


「やりやがったな。へっ、俺の完敗だ」


 悔しさはない。良い勝負だったからだ。

 空の器がこんなにも嬉しいなんて初めて知った。


「悔しくないのですか、皇子」

「全くない。満足してもらえたってことだからな。

 そんな料理が出せたんだ。板前として嬉しい限りだな」


 それにもう1つ嬉しいことが、もう1つある。


「やっと、お前を……キリミ米を食うべき人間に出せた。それが嬉しいんだよ」


 食いたいと願う人間に、食べる資格のある人間に。


「……食べるべき人間ですか。そんなの」


 もういないのに。

 音声はなく、口の形がそう呟いた。


「分かってる。お前が本当に食べて欲しかった村人はいないってな」

「……」

「やっぱ俺は上手く言えねぇ。けどよ、キリミ。お前の米はすげぇんだ。欲に塗れたひん曲がった評価じゃなくて、純粋に評価して欲しかったんだよ」

「そうですか」

「……勝手なことして悪かった」


 謝るくらいなら、最初からするなとキリミは睨んでくるが、適当に笑って誤魔化す。


「……悪くはないです」

「そうかい」


 その言葉が聞けただけでも良かった。


 ***


『>シークレットボス「カースドール・キリミ」を撃破したおん。

 終了条件1達成。終了条件2達成。

 シークレットミッション「蘇る黄金畑」を完了したおん!

 ボスドロップを配布したおん。運営からのお知らせより受け取るおん


 レベルアップしたおん! 諸々更新されたから、ステータスを確認してほしいおん!!』


さてどうなるステータス、スキル、称号その他諸々。

瀕死のアリアも気がかりだし、ロジエとの縁もまだ続きそうで? あの腐れ縁も復活しそうだぞ。

ところでお父さんの課題忘れてないか、くぅーねるよ。

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