64品目:全て遠き黄金畑《キリミ》
キリミの過去。板前との出会いです。
臣は参加しませんでしたが、前作カミウタⅠのエクスマキナ関連のイベント参加者には懐かしい話になってます。
目を開くと真っ暗な世界だった。
あれ、私どうなったんだっけ?
『喰らう』を纏ったラーズグリーズでキリミを切りつけて、それから……。
『人は弱く脆い生き物だ』
この声は、キリミ?
『獣に食われ、災害に襲われ、病魔に苦しむ』
どうやら、イベントが起きてるっぽい。
私の声は出ないし、身体も動かせない。
『不幸や理不尽に会う度、人々は祈った』
キリミの独白が続く。
ここは大人しく聞いておこう。
それに、丁度気になってたことも知れそうだし。
なぜキリミがマキナに固執するのか、その理由が知りたい。
『思い、願いを込めて……どうか幸あれ、と』
『1つでは小さいそれは、時間をかけて大きくなり』
『気づけば祈りは強い力へと変化した──それが”祝福“』
『私という存在は祝福から生まれたのだ』
……なんだって? 呪いの藁人形が祝福から生まれた?
そんな、祝福なんて呪いと正反対じゃないか。
これは一体どういうことなんだろう。
私の疑問に答えるように、キリミの声が響いた。
『一面に広がる黄金の海。豊かな稲穂畑。
それが、それこそが私だった』
真っ暗な空間がぐにゃりと歪む。
眩い光がしたかと思えば、足元に広大な稲穂畑が現れた。
あまりの見事さに私は思いっきり唾を飲み込む。
す、すごい!! なにこれ大豊作じゃん!!
一体、米俵何個出来上がるの!?
……じゅるり。うお、ヨダレが止まんない。
はえー、これがキリミだったんだね。立派なもんだよ。
『初めは小さな土地だった。不作の年もあった。
寧ろ最初は不作続きだったのだ。
それでも人は私を見捨てず、育て続けた。
願い、希望、祈りを込めて。
結果、“私"という意思が稲穂畑に生まれた。
その年から、その稲穂畑には豊作が約束された』
──おお、今年も豊作だ! ありがてぇな
──儂らの祈りを土地神様が叶えて下さったのじゃ
──この稲穂畑が出来て、子供もすくすく育ってるわ
──病気や災害も減ったよな
これはきっと稲穂畑を管理する村人の声だろう。
皆が稲穂畑を褒め称え、感謝している。幸せそうだね。
『人は私を称えたが、この豊作は私の力じゃない。
人々の絶え間ぬ努力が、思いが、結果として実を結んだのだ。
彼らは自分たちの力で成果を勝ち取っただけ。
私のしたことといえば、ただただ見守る……それだけだ』
自分たちで作ったお米をお腹いっぱい食べる、かぁ。
いいな。きっと物凄く美味しいんだろうな。
『彼らが満足に米を食べることはなかったけれど』
は? ど、どういうことなの?
『豊作の稲穂畑に目をつけた権力者が、
年貢としてほぼ全ての米を要求したからだ』
なんてこと……そんなのって、あんまりじゃないか。
『欲に塗れた薄汚い役人どもが、
私服を肥やす為だけに、根こそぎ奪っていった。
当然、村人は反発したが、逆らう者は全員処刑されてしまった』
絵に描いたような、極悪人ってわけだ。
一時の欲に目がくらんで、とんでもない失策をしたもんだね。
馬鹿じゃないの? あればあるだけ取れると思ってて、
村人のことなんて欠片も考えちゃいない。
一体誰のおかげで、その米が手に入ると思ってんのさ。
『飢えから逃れるため、必死に育ててきた稲穂畑だったのに。
豊作になってからの方が飢えて死んだ村人は多かったなんて、笑えもしない』
『目の前の稲穂を見ながら、飢えて死んでいった村人た
ち。
祝福された稲穂畑が呪詛に置き換わるのに、
そう時間はかからなかった』
──おなか、すい、たよう
──1粒でもいい……あぁ、米が、くいたぃ
──なんでこうなっちまったんだ
──こんな稲穂畑なんて、無ければよかった
場面は切り替わる。
黄金に輝く稲穂畑はそのままの姿だ。
だけど、周囲には痩せこけて骨と皮だけになった
村人の死体が、打ち捨てられていた。
食べ物があるのに、餓死者の山が出来ているという
異様な光景だった。
『村人がいなくなって、誰も手入れするものがいなくなった。私は、このまま朽ちるのだと思った。
そして、それで良いんだ、と思った。
だって、食べて欲しいと思った人達は、もういない。
このまま私も朽ちて、二度と米なんて取れなければいい、と。思った……だが』
キリミ……。何が、あったの?
『米は実り続けたのだ。
誰も手入れなんかしないのに、収穫時期に必ず穂が垂れた。
豊作、豊作、豊作……私の意志とは関係なく。
いや、朽ちたいという意思に抗って、勝手に実り続けた』
『そして権力者は私を使って、力をつけて周囲を侵略し始めた。私がいれば、兵糧に困ることはない。
瞬く間に、周囲は戦火に消えていった』
またも場面は変わった。
人々の怒声や悲鳴が聞こえて来る。
炎や煙に満ちる空間で、それでも穂を垂らす稲穂畑は
明らかに異様な存在だ。
『私を刈るほど戦争が起きる。人が死ぬ。
まるで命を刈って実っているかのようだ。
私は全てが嫌になった。
争いを生む人も、何も出来ない自分も。
何もかも諦めて、目をつぶった。
全部無くなってしまえと、願った』
『もはや私の存在は祝福ではない。死を生み出す呪いとなったのだ』
これがキリミが人を憎むようになった原因か……。
***
「皇子、こちらです」
ん? 誰かの声がする。あれは、マキナ?
それとお付の人っぽいのが2人。多分、機械人形だろう。
稲穂畑に降り立った3体の機械は、周囲を見渡している。
『親方……』
親方ってあの板前ロボか。
「へ、よしてくれ。予備の部品に皇子だなんてよ」
「もう部品ではありまセン。此度の大戦を重く見て、偉大なる皇帝陛下は、内密に貴方様を組み立てまシタ。紛れもなく貴方様は皇子でアリ、次期機皇帝でスヨ」
「どうだかな。案外、ヒューマン達は親父をぶっ潰して、勝っちまうかもしれん。そしたら、俺も皇子廃業ってわけだ」
「エイジス様。お控えください。いくら戦地……祖国から遠いとはいえ、どこで誰が聞いてるか分かりませんからね」
天丼なんて、なんで一般のマキナが持ってるんだって思ったけど、なるほど板前さんは皇族だったのか。
で、彼らの話から推測すると、この光景は前作の解放戦争時代の話になるわけだ。
「いくら同盟国だからって、こんな東の小さい島国に留学だなんてどうかしてる。親父は俺を処分したいらしい」
「そんな、陛下は貴方様を心配シテ、戦地から遠ざけたのデス」
「表向きはな。本音は壊れても全く損失のない人質だろ。スパイにでもなれれば御の字ってとこか」
「では、スパイでもしてみますか?」
「あん? どういうことだ、サヤ」
2人組の機械人形の1体、
サヤと呼ばれた方が1歩前に出る。
彼女は全体的に白い和服ドレスという出で立ちだった。
髪も白髪で、左側が前髪で隠れているが右目は紅い。
「陛下が内密で貴方様に任せたここの視察です」
「豊穣の稲穂畑。確か不作知らずって言われてたな。そうか、ここがそうなんだな」
「ええ。誰の手も借りずとも実る不滅の稲穂……同盟国の無限の補給源の秘密です」
「ウイ、お前さんはどう感じる?」
板前さんはサヤさんの隣に立つ、黒い機械人形に呼び掛ける。
サヤとは正反対のカラーリングの人形が、じっと畑を見つめる。
「豊穣に纏わりつく怨念を感じマス。
戦死者の無念が稲穂畑を呪っているのでしょウカ?
それにしては違和感ガ? これは一体?」
右側の蒼い瞳が、不思議そうに観察を続ける。
「ここが同盟国の補給源だと言ったな、サヤ」
「はい」
「……なら、なんで視察なんか必要なんだよ。
味方の土地だし、俺らに害なんざねえだろ?
予備の俺が、なんでこそこそ探らにゃならねぇんだ」
「ですから、御身を予備などと卑下なさらないでください」
「きな臭過ぎるって言ってるんだよ。何もかもな」
いい加減に口を割りやがれ。
板前さんの追求に、流石に誤魔化しきれませんかとサヤさんは苦笑した。
「どうも、同盟国は……ここから無制限に取れることを言い事に、横流ししてるそうです。我々の敵国に」
おいおい、どこまで根が腐ってんの。
大国相手に調子に乗り過ぎでしょ。
それ、この稲穂畑の所有者が独断でやったのか?
もしくは、国ぐるみの公然闇取引?
「この稲穂畑からの支援も、少なからず戦に影響が出ていまして」
「機皇帝陛下はここの破壊を望んでおりマス。皇子」
どちらにしても、兵糧を両国に降ろして、
良いとこ取りってことか。大したコウモリさんだね。
「へ、大した度胸だ。小国が大国に楯突くなんてよ」
「エイジス様、まさか」
「皇子……?」
「俺は祖国が気に入らねぇ。親父なんざとっととスクラップになっちまえばいいと思ってる。
ここがあって、親父が困るってんなら、いい気味だ」
皇子による皇帝への叛心とも取れる言葉に、機械人形2人組は息を飲む。
「だけどよ」
サヤさんとウイさんの間をすり抜けて、板前さんは稲穂畑と向き合う。
腰を降ろして、稲穂を一房だけ手に取った。
『……ッ!』
「勝手に生み出されて、勝手に使われて、
泣きじゃくってるコイツを見捨てられるか」
『あな、た……私が、わか……る?』
キリミの言葉に板前さんは頷く。
「国なんざ、どうでもいいが……コイツは見捨てられねぇ」
「土地神でスネ。違和感の正体」
「そして、豊穣の力の正体でもある」
親父を助けるつもりなんざ、さらさらない。
そう前置きしてから、板前さんは手に取った稲穂を引き抜いた。
「なあ、土地神なんて辞めちまえ。
それで、だ。俺と一緒に来いよ」
『で、でも……』
「ここじゃない世界を見せてやるよ」
「皇子の世界もまだまだ狭いですケドネ」
「うっせーぞ、ウイ。ほっとけ」
「仕方ありませんよ。エイジス様は製造されてまだ3ヶ月ですから。エクスマキナとレプロドールぐらいですか」
「この国を忘れんなよ、サヤ」
「果たして、入国1週間で知ったことになるのか疑問デス」
『ふふ、貴方たちは面白い人間ですね』
キリミの声に、3人はピタリと言い合いを止めて、
板前さんの手元にある稲穂を見つめる。
互いに顔を見合わせて、ぷっと吹き出す。
「はは、俺らは人間じゃねーよ」
「私とウイは機械人形という種族です。
こちらにいらっしゃるエイジス様は偉大な種族機械と呼ばれる種族でございます」
「機械も機械人形も、人間の業が作り上げた被害者デス。
──貴方と同じようにネ」
意味深なウイの言葉に、板前さんはやれやれと頭を掻く。
「あー、まあ、あんま気にすんなよ。
機械だ人間だなんて、種族で語っちまうのは難しいからな」
俺も勉強中さ、と肩を竦める。
「で、お前らどうなんだ。コイツはどうにか出来るのか?」
「「皇子がお望みなら(ナラ)」」
機械人形の2人は臣下の礼を取り、板前さんに応えた。
「奏王家の力を持ってすレバ、
土地神を付喪神に転化するぐらい可能デス」
「人形の体を与えましょう。我らの同胞として」
「ああ、それが良さそうだな──それで、お前はどうしたい?」
板前さんは稲穂に視線を落とし、
本人の意思を確認する。
無理強いはしない。あとは、お前の意思を尊重しよう。
板前さんの問いにキリミの答えは。
『──』
そよ風のような音。微かな囁きだ。
なんと答えたのかは、私には聞こえなかった。
だけど、肯定だったことは、板前さんの嬉しそうな表情で分かった。
キリミを抱えた板前さんが稲穂畑を背後にして遠ざかる。
すると、不思議なことが起きた。
彼が1歩遠ざかるごとに、稲穂畑から輝きが失われていく。
いや、恐らくこれが本来の姿だろう。
キリミという恩恵が持ち去られ、正しい姿になったのだ。
***
再び視界は暗転、何も見えなくなる。
私の意思も、なくなって……。
『なあ、くぅーねる。これを見たお前に頼みたい。
未熟だった俺がアイツに教えきれなかったこと』
薄れる意識の中でに、聞こえるのは……。
皇子……じゃない。今の、現在の板前さんの声だ。
『もう、分かってるだろ。娘の米はキリミの──』
『お前なら、正しく食ってくれると信じてるぜ』
うん。分かったよ。板前、いや、エイジスさん。
お米は1粒残さず食べろってこと。
そして、感謝しながら食べなきゃいけないんだ。
それが、悪食王の末裔の役目だ!!
レプロドール関係者のお目見え回ともいう。
少しずつ、カミウタの世界観を出して行きたい。




