63品目:カースドール・キリミ2
お久しぶりです。久々でストーリー思い出すのに時間かかったのは、内緒なのです。
藁人形。それにレプロドールかぁ。
私は水人形の中で腕を組みながら、カミウタの設定を思い起こす。
レプロドールはマキナリウムに隣接する小さな国だね。
確か、自動人形と呼ばれるマキナと似た構造を持つ種族が住まう国だっけ。私は前作で国の外観だけは見たけど、入国は出来なかった。
レプロドールはマキナリウムに属してるから、マキナ以外お断りだったのだ。
「はは。まさかその名を知ってる人間がいたなんて」
キリミは自嘲的な笑みを浮かべる。
「それを知ってる者は全部消したと思ったんですけど」
うわ、なんかサラッと怖い発言頂きました!
キリミさん恐ろしい人(?)だ。
「確かに私はマキナリウムのマキナ……ではない。
人形秦王国レプロドールに所属するオートマタです。
ですが、それが何だというのでしょう。分類上オートマタもマキナに属します。
つまり私がマキナであることに変わりは、ない」
マキナの外見といえばガチのロボットで、オートマタは人形やぬいぐるみだったっけ。
けど、外見が違うだけで中身の構造は良く似ているらしい。確かに同類と言えるか。
しかし、ロジエさんは首を横に振る。
「往生際が悪いな。お前はレプロドールでも異端の人形だろ。藁人形」
「黙れっ」
キリミは大きく吠えると鋭い目付きでロジエさんを睨む。
どうやら藁人形という言葉は、キリミにとって物凄く大きな地雷のようだ。
「所属はレプロドールかもしれないが、製造は違う」
「煩いッ!! それ以上しゃべるなっ!!」
再び刃を振るうが、ロジエさんはまたかとため息を吐いて土人形で防いでしまう。
しかしキリミはそれを待っていたとばかりにニヤリと笑った。
「!!」
「あはは。そう防ぎますよねぇ。では。これならどうですかぁ!?」
空いてる方の腕を折り曲げ、関節部分を空に向ける。
どぉんと大きな音がして空に何かが打ち上げられた。
その何かは空中で破裂する。すると中から無数の釘が出てきて、雨のように降り注いだ。
ま、まずいっ!!
私は水人形に守られてるからいいとして、ロジエさんはモロに攻撃を食らってしまう。
慌てる私。動じないロジエさん。
「どうもしない。言っただろ、俺は何もしないって」
ロジエさん目掛けて勢いよく降り注ぐ釘。しかし途中で強風に煽られてその勢いを無くす。
そして見当違いの方へと吹き飛ばされていった。
「===」
「お人形遊びがしたいなら、いくつでもお友達を貸すぞ。
なぁ? 風人形<ウインドール>」
「==」
目視は出来ないが、ロジエさんの傍に意志を持って留まろうとする風の気配を感じる。
それが、風人形だろう。ロジエさんの3体目の人形だ。
「お前はマキナリウムでも、レプロドールでも作られていない。
そもそも自動人形ですらない。ただのお人形だ」
「面白い冗談ですね。……ただの人形がしゃべったり動いたりするとでも?」
「付喪神の一種なら可能さ。どちらかというとこいつらに近いんじゃないのか?」
ロジエさんはにやりと笑いながら、人形たちを指さす。
すみません。付喪神って何ですか? ロジエさん。
「はぁ。付喪神っていうのは、その辺にある道具が長い年月の中で自我を持って、
妖怪の類に変化した奴のことを言う。蛇足だが、『つくも』という言葉には
長い年月だとか多種多様な万物という意味があるらしいな」
「えー、つまり?」
イマイチ説明についていけなくて、疑問符を投げるとロジエさんがジト目で見てくる。
そういう知識は専門外なんだからしょうがない。
『つくも』じゃなくて、『つくね』なら得意なんだけどなぁ。
「プログラムで制御されるマキナや機械人形じゃなくて、元々はただの道具。藁人形なんだよ」
「藁人形……あ、もしかして、あれかな? 呪いの藁人形!」
あれでしょ、丑三つ時に釘でこんこんするんだっけ?
「そうだ。物凄くメジャーな呪術道具。呪い藁人形そのもの」
言われてみれば、藁、釘、呪いで、キリミに当てはまるな。
「藁人形という道具が、人の怨念を大量に吸った結果、意志を持ち動き出したのがキリミの正体だ」
「な、なるほど」
「怨念というのも、人の思いの形の1つ。思いの結晶であるお前は、無機質なマキナとは縁遠いよ、キリミ」
「だまれぇえええ!!! 私はマキナだッ!!!」
激昂したキリミがさらに釘の雨を降らせる。
恐ろしい銀の雨だが、ロジエさんのウィンドールが全て弾いているので、こちらには掠りもしなかった。
状況は明らかにキリミの劣勢で、このまま押せば確実にロジエさんが勝つだろう。
(それにしても、キリミはどうしてそこまでマキナにこだわるのか)
どうにも彼女の態度がひっかかり、うーむと考える。
……おや? なんだか胃に違和感が? それに道具袋がなんだか騒がしい。
ごそごそ。えーっと、これかな。
「……これって、ヘッドドレスからもらった」
胃をさすりつつ、道具袋から取り出したのは、いつぞやの首なし女騎士からもらった古びた包丁だった。
『喰らえ』
「は?」
急に頭の中に声が反響する。
ドクドクと激しい動悸に襲われ、胸を抑えた。
な、何が起こってるの?
『喰らえ全てを』
『引キ裂キ、貪レ』
『お残しはダメだよ』
『おお、喰らう奴! 晩餐を楽しめ!』
警告音のように、色んな声が次々と聞こえて私を急かす。
それは厳かな声だったり、美しい歌のような声だったり。
獣の唸り声までする。無邪気な子供の声まで聞こえてきた。
『残さずに喰らえ』
何を? キリミのこと?
『全てだよ、それ以外にない』
でも、キリミは食べても食べてもお腹が減るだけだし。
『飢えをスパイスとして、極上の料理を逃すのか?』
このままロジエさんに削ってもらって、最後にトドメを刺せばいいじゃないか。
『ソレデ満足スルノカ?』
……。だって、食べようがないよ。
『喰らう奴に、あぁ、食えぬ物はー、なーいーのよー』
『表層だけ食らって満足出来るわけないじゃん』
『真なる喰らう奴は、深層までも受け入れ飲み込む』
『喰ラエ──受ケ入レヨ』
『それこそ、悪食王の末裔』
良く分からないが、脳に響く声に従い水人形から飛び出す。
「おい! くぅーねる出るな!!」
「はははっ!! 卑しいイーターマンめ!! 食い意地を張って出てきましたね!?」
ロジエさんの静止を振り払い、こちらを嘲り笑うキリミに突撃した。古びた包丁を構えてキリミに切りかかる。
縦に切り込む。横に薙ぎ払う。
剣術スキルなんてないから、我流のめちゃくちゃ攻撃だ。それでも勢いに任せて、キリミを押していく。
「おやおや、食べないんですかぁ?
あはは、食べに来ないイーターマンなんて驚異にすらなりませんよ」
「くぅーねる、藁人形の挑発に乗るんじゃ……」
「誰が食べないだって?」
私はにやりと不敵に笑う。
チャット画面を呼び出し、クロードさんに告げた。
「クロードさん! 今から『食べ』ます!!」
すぐさま了解が聞こえてきて、指揮官のスキルで全員に指示が飛ぶ。
『これより、4点同時に撃破……いや、食べるぞ!! 皆、用意はいいか!?』
「おい、ちょっと、待てッ……!」
──うぉぉぉぉおお!!!
ロジエさんの静止は途中でかき消された。
フィールド全体にプレイヤーの達の声に飲まれたのだ。
皆の意思は、いや、胃思は今ここで1つになり巨大なおむすびに食らいつく。
「ははは! 愚かな選択をしましたね!! あはは、さぁ、私の呪いを喰らいなさい! 今度はくぅーねる、貴方だけじゃなくて、貴方に従った愚か者達も全員呪ってあげましょう!!」
『>気をつけるおん! キリミのステータスが強化されたおん! 呪いも変化してるおん!!』
キリミの変化におんちゃんが警告する。
だとしても、関係ないよ!
私の胃が告げてるんだ、キリミをっ、キリミの全てを、喰らえって!!
「キリミ! 私は、出されたものは絶対に、残さない!!」
「な、なにを……ぐっ!?」
「おんちゃん!称号変更『リトルヒーロー』!!」
『>了解だおん』
私の限定称号を見たロジエさんが驚愕の表情を浮かべた。目立つのはしょうがない。幸いこの場にはロジエさんしかいない。
言い訳はあとからするとしよう。
何せ今は出し惜しみしてる余裕なんてないからね!
バックステップでキリミから距離を取って、古びた包丁を構える。
ばくばくと暴れまくる胃を気合いでねじ伏せた。
全くもう。今から『食べる』んだから、大人しくしなさいよ!
「『共感する第二胃』──起動。
堕ちた戦乙女より授かりし、朽ちた刃よ。今こそ悪食王の末裔に相応しき姿に甦れ!!」
スキルの使用と同時に、錆びた包丁が真紅に輝いて、その姿を正しいものへと変更させた。
『>朽ちた武器:錆びた包丁の封印が解除されたおん。朽ちた武器は神器に変化したおん! 神器は名付けしないと使えないおん!』
「だったら、この子は……キリミの計画をぶち壊してくれる相棒……『計画を壊す者』だよ!」
『>神器:ラーズグリーズの登録完了したおん』
私の手には、身の丈ほどの包丁が握られていた。
深紅の刃を持つそれは驚くほど軽い。
なんだこれ!? 流石は神器ってこと!?
そして、身体中に活力が溢れてくるのが分かる。
「ば、ばかな……なぜイーターマンが神器など」
うぎゃーーーッ!! ダメダメ!! キリミのバカ! あんぽんたん! アンパン食べたい! じゃなくて、種族バレは止めてくださいって言ってんだよ! ちくしょうめ!!
これ以上余計なことを言われる前に、私はラーズグリーズをキリミに向かって振る。
「キリミの胃袋を『キャッチ』! そして、食べる……ううん、その気持ちごと『喰らう』だ!!」
「や、やめろっ………きゃああああああぁ!!!」
『喰らう』力を纏ったラーズグリーズがキリミを丸ごと飲み込んだ。
途端に視界は暗転。私の意識はある場所へと飛ばされてしまった。
くぅーねるにしては、かっこいい名付けだと思うの。




