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60品目:食らう奴作戦

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

「以上が作戦の内容になる!! 質問や意見のあるものは挙手してもらいたい!!」


 クロードさんの声が赤の広間に響く。

 赤の広間には、このレイドボスに参加している全員が集められている。

 まずは彼らにシャルルさんと私が集めた情報を公開して、その上で練られた作戦を伝えた。

 

「4つ同時にか。難しいな」

「やれる、のか?」


 やはり不安の声がちらほらと聞こえる。

 しかし、それを上回る前向きな意見が広間に飛び交った。


「俺は賛成だ。例のスキルがあれば、いけるんだろ? 」

「あのにっくきおにぎり共を、あの子みたいに駆逐出来るにゃら……やるっきゃないにゃー」

「拙者も一度味わいたいと思っていたでござる!!」

「そうよ。そのスキルがあれば私達だってあの板前にぎゃふんと言わせられるのよ!?」

「拳銀の恨み!」

「エビルストマー(ゴム)の恨み!」

「「今こそ晴らすべし!!」」


「よし。では採決を取ろう。この作戦に反対のものは拍手してくれ」


 無音。ということは。


「では、賛成の者は大きく拍手をっ!!」


『異議なし!!!』


 大きな拍手が広間に響く。そして、作戦を後押しするような頼もしい叫びが続いた。

 その様子を見たクロードさんは演説台の上でうんうんと満足そうに頷く。


「よく決断してくれた。これより僕らは同じ強敵を打ち倒す同志だ!!

 パーティーを超えて、協力し合おう!!」


 びしっとその場をまとめたクロードさんは右手を掲げてスキルを発動した。


「『コマンド:オール・フォー・ワン』」


 幾何学的な文様と緑の光のエフェクトが生まれ、広間全体に降り注ぐ。

 その場にいた全員がクロードさんのスキルの対象だ。

 無論私もスキルの効果を受けた。


「これがオールフォーワンの力かー。

 こんなに大勢でPTを組んだのなんて初めてだ」

 

 指導者<コマンダー>スキル「オール・フォ・ーワン」。

 PT加入の人数制限を無くして、大人数PTを組むことが出来るスキルだ。

 このスキルによって組まれたパーティーは、レベル差によるペナルティを受けないで済む。

 それだけじゃない。パーティーの中で一番Lvが高いプレイヤーに合わせて、

パーティー全員のLvが引き上げられるというオマケ付きだ。


「何レベルになったのかな…………え?」


 オール・フォ・ーワンの効果によって上昇したレベルを確認すると、そこには

信じられない数字が表示されていた。


『LV:90』


 バグった。やばいどうしよう。

 周囲には私と同じように混乱している者や混乱を通り越して悲鳴を上げてる者までいた。へ、ヘルプー! おんちゃん助けてバグったよー。


『>バグは検知されていないおん。正常な数値だおん』


 バグはなかった。……いやいやいや、ちょっと待って。頭がパンクする。

 えーっと、LV90て言ったらさぁ、今のバージョンだと最高レベルでしょ。

 攻略サイトのデータベースに書いてあったもん。


『>間違いないおん』


 このイベントに参加してるプレイヤーの中でカンスト者がいるってこと!?


『>そうだおん』


 うわ……マジかぁ。そんな高レベルプレイヤーがいたのか。誰だろう。


『>個人情報は答えられないおん』


 分ってるよ。腹黒混沌鍋ルゥリヒトがいたらアイツっぽいんだけど、今はいない。

 

「他に高レベルの凄腕プレイヤーなんて、そんなの」


 そんなことを考えていると、ロジエさんの姿が目に入る。

 わいわいと騒ぐプレイヤーたちの中で、ロジエさんだけは動じた様子がない。

 これは……もしかして。


「……ロジエさんが?」


 クールで寡黙でミステリアスな雰囲気のカンスト者。違和感ないな。うん。


「? どうした。何か問題でもあったのか」

「い、いえ。それより、もしかしてロジエさんがカンストプレイヤーだったりして……」


 唐突のロジエさん登場に私はとっさにそう口走ってしまった。

 私はアホかー!! なんで自然にさりげなーく聞けないだよっ!!


「……」


 ぐぅ。ロジエさんの無表情+無言の沈黙が痛い。

 「何言ってるんだお前は」感が半端ない。

 ごめんなさい、流石にカンストは無理ぶりですよねー。

 なーんちゃって、あははは。ジョークです。

 そう言って、軽く流そうとした私にロジエさんが一言。


「カンスト済みだが」

「ですよねー。流石にカンスト……カンストしてましたか」

「ああ」

「……そうですか」

 

 カンスト? 当たり前ですが、何か。そんな心の声がロジエさんから聞こえた。そんな気がする。


「そんなことよりも、例のスキルを頼むぞ」

「あ、はいっ!!」


 ロジエさんのカンスト宣言に浮足立つ周りのプレイヤーを無視して、

どこまでもマイペースに無表情でロジエさんが私に催促する。はーやっぱりカッコいいなぁ。

 良し。私も気合を入れていきますか!!


「『対象を広げる<エンラージ>』! からの『PT全員の胃を捕縛する<キャッチ>』!!」


 「エンラージ」を使ってスキル対象を単体からPT全体へと広げる。

 その上で「共有する第一胃」を発動させた。

 クロードさんにプレイヤーを1つのPTにまとめてもらったのはこの為だ。

 そのおかげで、私はレイドボスに参加している全員の胃を捕縛するという荒業を成し遂げる。


「胃袋の掌握……完了」


 私に胃を掴まれたプレイヤーたちは未知の感覚に驚いているようだ。


「こ、これが……あの子の胃袋!? 何なのこれはっ!!」

「でけぇなんてもんじゃねぇ。スケールが違い過ぎるぞ」

「だが、同時に安心するでござるなぁ。大きな手で抱きしめられているような心地でござる」


 小さい胃。大きい胃。空っぽの胃。満腹の胃。

 プレイヤーの胃の状態が手に取るように分かる。


「不思議な感覚だな。興味深いスキルでもある」


 私のスキルを受けたロジエさんがそう呟く。

 ちなみにロジエさんの胃は、必要最低限度の食事か薬品の類しか接種していない。

 ちょっとは食事しましょうよ、ロジエさん。


「ロジエくんの意見に同意するわ。このスキル使いどころによっては化けるわね」


 あはは、上手く使えるといいんだけどねー。

 まだ使い勝手が良く分からないや。


「ふふ。皆驚いているな」

「そりゃあ驚くし! くろっちだって驚いた、ってくろっちは2回目だったし!」

「はは。僕だって最初は驚いたさ。もっとも驚きよりも状態異常に苦しめられてたけどね」


 偉大なり事件か。あれは災難でしたね、クロードさん。

 いやー助かって良かったよ。エルフの胃は小さすぎだわ。


「これほど頼もしいスキルはないだろう。僕の胃はこのスキルで救われたんだ。

 もしも、くぅーねるちゃんがいなかったらと思うとぞっとするよ」

「そして、今度はこのスキルであの板前にリベンジってわけね」

「ああ、名付けて『食らうイーターマン作戦』」


 ちょ!! クロードさん!! やめて!! え、もしかして種族バレしてる!?


「イーターマンって何だし?」

「そういうレアな種族がいるらしい。詳しいステータスは……えっと。

 すまない。胃に関するステータスが優れてるくらいしか分からないんだ」


 バレてはいない。セーフか。


「種族データも豊富だしね。全部把握できなくてもしょうがないわよ」

「でもレアな種族なら情報が出回っててもおかしくないし」


 いや、レアじゃなくて不遇種族だから情報が少ないんだと思います。

 

「……」


 な、なんでしょうロジエさん。何でそんなに私のことを睨んでるの?

 ワタシ、イーターマン、チガウヨー。


「なんかイーターマンってくぅちんっぽいし!!」

「僕もそう思ってこの作戦名にしたんだ」

「案外、イーターマンだったりするのかしら? ねー? くぅーねるちゃん」

「え? えっとー」


 ひぃぃ!! これ以上話を続けてたらバレる。

 何か、何か別の話題はないのか!!


「ちょっと。準備が終わったなら早くおにぎりに乗り込みましょうよ」

「あ。そうだな。よし! では『食らう奴作戦』開始だ!! 全員指定の持ち場に急げ!!」


 クロードさんの指示に全員が大きく頷くと、それぞれ指定のおにぎりへと乗り込んでいった。

 ふー。アリアのフォローのおかげで何とか誤魔化せたかな。


「くぅーねる、俺たちも指定のおにぎりに向かうぞ」

「あ、はい。そうですね」


 ぼーっとしてる暇はない。

 ロジエさんに急かされて、私も自分の担当するおにぎりへと向かう。


 クロードさんと私のスキルによって、疑似イーターマンと化したプレイヤーたちによる『食らう奴作戦』がもう間もなく開始されようとしていた。


 ***

 

「おう。ドンパチやってやがるな。むすめたちの仕掛けにも気づいたみてぇだ。

 さぁて、どうやって攻略するのか。楽しみだぜ」


 天丼を管理するための制御室に板前の笑い声が響く。

 複数のモニターが浮かぶ白い部屋には、備え付けの椅子に深く腰掛ける板前と

その横に女性型ロボットのキリミが立っていた。

 モニターにはくぅーねるたちがおにぎり相手に奮闘する様が映し出されていて、

その様子を獰猛な笑みを浮かべた板前が観察している。


「ネタバレが早すぎではないでしょうか」


 板前とは対照的に無機質な目でモニターを見つめるキリミ。

 くぅーねるたちの前で見せていたおどおどした態度が嘘のように冷静だった。


「問題ない。想定外のイレギュラーもいることだしな」


 別モニターに映る銀髪のプレイヤーを横目で見ながら、しかし気にするなと板前は念押しする。

 だがキリミは食い下がらなかった。


「あります!! あの鮭が余計なことをしゃべるから貴方様の計画が狂ったのです!!」

「キリミ止めろ」

「いいのですか? 貴方様のむすめたちが、あの人間どもに攻略されても平気なのですか!?

 人間どもにっ、負けても良いというのですか!?」

「料理ってのは食うためにあんだろーが!!」


 板前は鋭い眼光をキリミに向ける。ただの板前とは思えない目つきと気配にキリミは黙る。


「食われないで残される料理ほど悲しいもんはねぇよ」

「……」

「あいつなら……くぅーねるならきっと食ってくれる。今までのやつらと違ってな。食われるむすめどもは幸せもんだぜ」

「また、負けるのですか? 我々マキナは……人間に」

「昔の戦をひっぱってくんな。これは……しがない定食屋の単なる大食いチャレンジだ」

「エイジス皇子っ!!」


 機皇帝シリーズ。

 

 ラストナンバー。

 

 No73.AGIS。

 

 予備の子。


 板前の頭の中で古ぼけた記憶メモリーが次々と浮かんだ。

 1つ1つ手に取り、ゴミ箱に放り込む。――過去の、どうでもいい記憶データだ。

 頭の整理が終わると、板前はキリミと向き合う。


「皇子なんざいない。俺は皇子なんかじゃない。機皇帝シリーズは全て廃棄されたんだ。緊急時の予備部品があるって噂だが部品は部品。

 組み立てなきゃ動きやしねーんだよ。

 だから、エイジス皇子ってのは最初から存在しないのさ。最初からな」


 ここにいるのは、マキナリウムに住む単なる機械だ。

 話はそれで終わりだというように板前はキリミから目を逸らしてモニターと向き合う。


「皇子……それでも……私は認められません。

 どのような勝負であれ、優れたマキナが人間に負けることを。

 何より、貴方様が負けることを」


 キリミは静かにそうポツリと漏らす。板前には届かない。キリミの切なる思い。

 しばし、板前を見つめていたキリミだったが、やがて音もなく制御室から出ていった。


「……昔から融通の利かない従者だぜ」


 キリミの退室を見届けた板前はやれやれとため息を吐く。


「デザートは俺からのサービスだ。

 頑張って攻略してくれよな……くぅーねる」


 仮に負けちまっても、デザート代は請求しないでおいてやるさ。

 そう板前は笑った。

No73.AGIS

機皇帝シリーズ予備として製造された部品。

次代機皇帝エクスアテナの修復用機材として保管されていた。

エクスマキナ解放戦争が起こる半年前に、内密に機体として組み上げられる。

解放戦争が勃発後はレプロドールからの賓客と共に73番目の天丼に隔離された。

戦争終了後は機皇帝シリーズであることは伏せられ、一般市民として存在することを許された。

内密に組み立てられたため、正式な機皇帝シリーズとしての機体登録はされていない。

そのためマキナ至上主義という思考刷り込みがされておらず、他種族に対する偏見がない。

閉鎖的な場所で育ったため知的探求心が強く、解放戦争後は国を飛び出し各地を転々と渡り歩いた。

特に料理に対して深く学び、腕を磨いて帰国する。帰国後は料理店を開業して板前として腕を振るう。

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