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59品目:襲撃のむすめ5―Attack to the rice ball―

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 熱々の米の中を掘り進むのは思ったよりも過酷だ。熱でじりじりと体力ゲージが減っていく。

 でも、それももうすぐ終わる。何せこの先は……。


「アリア……信じてるからね」


 先に待ち受けているものを想像し、思わず掘るのをやめてしまいたくなるがぐっとこらえる。

 このままここにとどまっても、米の熱で死んでしまうのだ。

 潔く、腹をくくるしかないっ!!

 

 掘る力を強めたその時、急に地面にぽっかりと空洞が生まれた。


「あっ」


 何とも情けない声が出る。

 思ったよりもあっけなくおにぎりの外側へと脱出できたようだ。

 あとは、このまま。


「おーちーるーだーけぇええーーーー!!!」

「おーちーるーしぃいいいーーーー!!!」


 おにぎりから吐き出されるように私とシャルルさんの体が投げ出された。

 そのまま重力に従って、下へ下へと落下していく。

 風で飛ばされないように、シャルルさんをしっかりと抱きしめる。


「ありあーーー!!」


 風圧で周りをよく見えないけど、必死にアリアの名前を呼ぶ。

 アリアには先に下で待機してもらっていて、下から植物のクッションを作り私達を迎える手はずになっていた。

 

 大丈夫かな。間に合ったかな。不安は尽きない。

 もし、アリアが間に合わなかったら、高さ的に2人共即死だ。

 いや、シャルルさんの体力が高ければ彼女だけでも助かるかもしれない。

 ダークエルフの体力ってどうだったっけ。


「くぅーねる!! そのまま落ちてきなさいよーー!!」


 この声はアリア!! 良かった。間に合ったか!


「『眷属よ、我の声に従え。芽吹け、アリアドネの導き』」

「な、なに!?」

「『フラワーストーム!!』」


 アリアの声と共に、下から強風が吹き荒れる。

 落下するスピードが和らいでいくのが分かった。いったい何が起きたの?

 風圧に邪魔されなくなったので、目を開く。

 そこには、風と共に無数の花びらが舞ってた。これは何?


「あれは……」


 地上を見下ろすと、精霊アリアドリーネ本来の姿になったアリアと彼女を中心に広がる無数の巨大な花が咲き誇っていた。

 巨大な花は送風機のように、花の部分を回転させ強風を生み出している。

 このピンクの花びらはあの巨大な花のだったのか。

 

 アリア自身も魔力を練り上げながら、くるくると中心で回っている。

 彼女が回るたびに花が生まれ、風が生まれた。

 そして、私達の体は花から生まれた風に包まれて、ゆっくりと地面に向かっている。


「花の妖精が踊ってる……綺麗だし」

「そう、ですね」


 いつの間にか目を開いていたシャルルさんが真下に広がる幻想的な光景を見て、そのような感想を漏らした。

 アリアは妖精っていうほど可愛いものじゃないと思うけど。

 綺麗なのは同意する。


 地上に着地するまであと数十秒。

 アリアの舞のおかげで、落下への恐怖はどこかへ消えてしまっていた。


 ***


「すごいじゃん。アリア!

 絶対に花でトランポリンになるって覚悟してたのに!」


 私の予想だと、こう、巨大な花にぼすんと落ちて、ぴょいんとバウンドして着地。って感じだったんだけど。

 まさか安心安全安定で地上に生還出来るなんて思ってなかったよ。


「ふ、ふん。私にかかればこの程度、どうってことないわ!!」

「すごいしー。くぅちんのペット万能なんだし!!」


 アリアは大きな胸をこれでもかと言わんばかりに張って、自慢げな様子だ。

 おーおー。周りの男性プレイヤーの視線がメロンにくぎ付けになってる。


「ちょっとアリアちゃん。貴方だけの力じゃないでしょ?」


 調子に乗るアリアをたしなめたのは、シトリンさんだ。

 きっと私達を心配して、赤の区画まで来ちゃったんだろうな。


「う。わ、わかってるわよ!! シトリンお姉は意地悪ね」


 おやおや。シトリンさん。ちゃっかりアリアを手懐けちゃってるぞ。

 ほっぺを膨らませ、ぷいっと拗ねるアリアは子供っぽい。

 花の舞を見せていた時の神秘的な雰囲気はどこにもなかった。

 やはり末っ子。お姉さんには弱いのか。


「しっとりん! ただいま帰ったし!!」

「シャルはあとでたーっぷりお説教コースだから」

「無慈悲だしぃぃ!!」

「それだけ心配したんだからな。

 そしてくぅーねるさんも心配しました。無事でよかったです」

「クロードさん。ただいま帰りました」


 クロードさんも来ていたか。本当心配をおかけしました。


「そ、それより! アリアリの力だけじゃないってどういうことだし?」


 お説教の恐怖から逃れるように、あからさまに話題を変えようとするシャルルさん。そんなことしても、お説教からは逃れられないと思うけどね。


「あ、アリアリって誰のことよ!! 変な名前を付けないでちょうだい!!」

「貴方のことに決まってるし!! さっきの舞すごく綺麗だったし!!」

「うぅ。そ、そんな目で見ないでちょうだい」

「アリアリ綺麗だしー♪ 絵本に出てくる妖精さんそのものだしー♪」


 妙な渾名をつけられて憤慨するアリアだが、シャルルさんの純粋な賞賛に負けていた。

 ぷぷ。いいじゃんアリアリって。アリだとおもうよ?


「えっと。私も気になります。

 アリアに力を貸してくれた誰かがいるんですよね?」


 おふざけも置いといて、私はそうシトリンさんに尋ねる。


「ええ。こちらの錬金術師さんの力を借りたの」


 シトリンさんの視線の先には、長身の男性プレイヤーが静かに立っていた。

 銀色の髪に赤い目、そしてモノクルを着用している。ビジュアルは中々カッコいいプレイヤーだ。

 魔術師のローブのような、学者のコートのような知的な服装。

 シックな装いだが、ところどころ薔薇をあしらった装飾品が目に付く。

 そして体の半分ほどもある巨大な本を装備している。


 彼が力を貸してくれたプレイヤーか。

 私が今まで見てきた中では、断然トップでおしゃれなプレイヤーだなーというのが第一印象だ。


「こっちに来てくれるかしら?」

「……」


 シトリンさんの呼びかけに男性はこくりと頷くと、無言でこちらへとやってきた。

 おおう。近くで見るとかなり身長が高い。見上げる首が痛いよ。


「この錬金術師さんがいなかったら、間違いなくシャルとくぅねるちゃんはトランポリンだったわ」


 命の恩人ねというシトリンさんに私は同意する。うん。本当に助かった。


「えっと。助けてくれてありがとうございます。えーっと……」


 はて、この人の名前は。


「ロジエ・アルケウス。呼び方は好きにしてくれ、常識の範囲内でな」


 好きに呼んでくれといいつつ、その後に続く言葉には異様な冷たさを含んでいた。

 暗に、変な名前で読んだらただじゃすまないぞと脅されてるような気が。


「え、あ、はい。じゃあ、ロジエさんでいいですか?」

「……ああ。それでいい。普通で安心した」


 うん。普通でよかったみたいだ。

 ロジエさんは無表情のままなので、感情の起伏がいまいち分かりにくいや。

 呼ぶ方にこだわるってことは何かそれでトラブルでもあったのかも。


「ギルメンにふざけた渾名をつける奴がいて、少しトラウマになってるんだ。

 悪く思わないでくれ」

 

 あ、そうだったんだ。了解ですよ、ロジエさん。

 ギルメンってことは、どこかのギルドに所属してるんだね。

 いいなぁ。皆でわいわい出来るって場所があるって。

 イーターマンを受け入れてくれるギルドなんてあるかなぁ。あはは……。

 いっそ、律子を誘ってギルドを作ろうか。

 いや、律子のことだし、とっくにどこかのギルドに入ってるか、自分で作ってそうだ。


「私はくぅーねるっていいます。適当に呼んでください」

「くぅーねる…………さん」

「えっと、言いにくいなら呼び捨てでいいですよ」

「そうか、助かる。そうさせてもらおう」


 ロジエさんって照れ屋さんなのかも。

 どっかのうざいロリコンよりは好感が持てるね。


「さて雑談はこれくらいにして、今後のことを話し合おうか」


 クロードさんがそう告げるとその場にいた全員がこくりと頷く。


「くぅーねるちゃんから得た情報によると、敵である襲撃者のリーダーはあの巨大おにぎりの中にいる。

 そして、攻略方法だが4つ同時に倒さないと復活してしまうということだ。

 攻略自体は問題ない。戦力を4つに分散させて同時に叩けばいい。

 しかし、このイベントの勝利条件を思い出してくれ」


 勝利条件、えっと確か。天丼を守り、襲撃者全てを排除する。それと。


「大食いチャレンジ挑戦者である私が、襲撃者のリーダー4つを全てを食べることですね」

「けれど、リーダーたちはそれぞれの区画に分かれて存在しているわ」

「それじゃあ、1つ食べ終わっても次のおにぎりに向かってるうちに復活しちゃうし!!」


 あ、確かに。それにあの魚王はこんなことも言ってたな。


「しかも、リーダーたちはあのおにぎりから動くことが出来ない」

「試しに、青の区画のリーダー、岩海苔か? あれをおにぎりから引きずりだしてみたが、

すぐおにぎりの中に戻っていった」


 え、いまロジエさんがさらっとすごいこと言ったような気が。


「あの。青の区画のおにぎりに乗り込んだんですか?」

「ああ」

「えっと……パーティーの方は」

「ソロだが」


 あ、はい。そうですか。すみません、話の腰を折って。

 ……どうして私の周りにいるプレイヤーは皆レベルが高いかなぁ。ぐすん。


「だから、4つのリーダーを引きずりだして、くぅーねるに食わせるというのも無理だ」


 ロジエさんの言葉に全員が沈黙する。うーん。これは手詰まりか?


「私が複数いないと攻略出来なくないですか?」

「何か方法があるはずだ。攻略不可能なクエストがあったらそれはバグだろう」


 方法かー。私が発生させたクエストだから、私が持ってるスキルできなきゃ変だよね。


「くぅちんのスキルって、『食べる』とえーっと?」

「あ、あれなら。どうだろう」


 私が持ってるスキルと聞いて、クロードさんが何か閃いたみたいだ。


「クロード。何か思いついたの?」

「ちょっと待ってくれ、少し整理する。……もし、範囲が足りなくても僕のスキルで。うん……行ける、かもしれない!!」


 流石、我らがリーダークロードさん。やるときはやってくれるね!


「くぅーねるさん。偉大なりで助けていただいた恩をお返し出来るかもしれません」


 え? ええ? なんでそこで偉大なりの話が出てくるの?


「あの時、くぅーねるさんは僕の胃を救ってくれました。

 だから、今度は僕が、僕たちがくぅーねるさんの胃を救います」


 う、うん。ありがとうございます。で、一体何が始まるんですか?


「僕ら全員で、あの4つのおにぎりを食べてやるのさ」


 クロードさんは笑顔でそう告げた。

カ「かしましトリオも出番の催促をしたほうがいいと思うか?」


シ「えー。別に催促しなくてもいいんじゃない? そんなことしなくても同族の縁でどこかで再会しそうだしねぇ」


マ「僕もそんな気がします。僕らはのんびりしてていいと思いますよ」


カ「ああ、そうだな」


モング『のんびり……いいモグ。兄ちゃんやはり良いこというモグ』


モグ『こりゃ! モング! 勝手に後書きに出てくるなとあれほど!!』


シ「ちょ、アンタたちいつの間に」


カ「よう! 兄弟たち!! 出番の催促か!? がはははは!!」


モグ『ほほほ。催促などとんでもない!! 出れればいいなくらいにしか思っておらんモグ』


シ「モグーラパンたちはちょっと厳しいんじゃないの?」


マ「まぁまぁ。確率は0パーセントではないんですからね」

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