58品目:襲撃のむすめ4―Attack to the rice ball―
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「むすむすー!!」
「ころころりーん♪」
「『食べる』!!」
目の前で余裕ぶっているおにぎり達をスキルでやっつける。
絶妙な塩加減とほくほくの米の味に大満足。これでおかずがあればなぁ。
いや、塩むすびも好きだけど。素朴であったかくて。胡麻入りならもっと良し。
「ころころーー!!」
「くぅーねる! また出てきたわよ!」
「おっと。『食べる』」
連絡の途絶えてたシャルルさんを追って、巨大おにぎりの内部へ潜入した私とアリア。一面の米と炊き立ての熱気で足を取られつつ、偶にごはんをつまみつつ進んでいると、突如地面が盛り上がり、ぽこぽこと米の塊が生まれた。
米は三角を形作ると「むすむすー」と叫び声をあげて、私達を襲ってきた。
恐らくは巨大おにぎりの防衛モンスター。けれど、私には良いカモだ。
「じゅるり……まさか向こうからこっちに来てくれるなんてラッキーだね!」
「あーそうねー。好きなだけ食べるといいわ。ただ、数が多くなってきてるから油断だけはしないように」
おにぎりをごくりと飲み込んで、アリアに分かったと答えた。
集団戦はスローイングラットで鍛えたから任せなさい。
エンラージ(広域化)→食べるのコンボが唸る。
「く、くぅーちん!! こっち!! こっちだし!!」
「むしゃ? もぐもぐ……あの声はシャルルさん!」
奥の方でシャルルさんの声が聞こえた。良かった。無事だったんだ。
行く手を阻むおにぎりたちをかき分けて、声のする方へと走る。
奥に行くに従い、だんだんと熱気が強くなっている気がした。
あと湯気が出てきてるね。
『>気がするだけじゃないおん! 強い環境変化をキャッチしたおん。
そこは今、湿気と熱気が高い状態になってるおん。
特殊な装備などで対処しないと、スキル使用時のスタミナ消費が
増幅するおん!!』
やぁ。久しぶり。おんちゃん。
なるほど、この熱気は単なる演出だけじゃなくて、プレイヤーを苦しめる障害にもなってるわけだ。
『>そう通りだおん。湯気で視界も悪くなるおん。要注意だおん』
むぅ。シャルルさん大丈夫だろうか?
「おーい! シャルルさーん!! どこですかーー!?」
「くぅちん! こっちだし!!」
濃い湯気の中、声を頼りに進んでいく。だんだんと声が近くなる。
周囲の気温は風呂場からサウナへと変わっていた。あと足元の米が炊き立て状態で非常に歩きにくい。
これはうっかりしてると、米に足がとられて埋まりそうだな。
「むすすーーーー!!」
「っ! た、食べる!!」
そして敵さんは襲撃の手を緩める気はないみたい。
うー、これはキツいなー。そして熱いなぁー。
「くぅちん! ここだし!! 助けるし!!」
「しゃ、しゃるるさん!! ようやく見つけました……ってどうしたんですか、その状態」
「う、埋まった……し」
苦労の末、探し当てたシャルルさんは体の半分が米の中へと埋まっていた。
下手に動くとさらに米の中へと埋まり、最悪窒息死しそうである。
何とかして助けたいがシャルルさんに近づいたら、私まで埋まりそうだ。
「アリア。シャルルさんを助けてあげて」
「了解よ」
ということで、アリアの力を借りることにした。
アリアは蔦を生み出すと、それをシャルルさんの体に巻き付ける。
「そこのダークエルフ。今助けるからじっとしてるのよ」
「分かったし!」
ぐいっと蔦を引っ張り上げて、米の中から無事シャルルさんを救出した。
「はーはー。熱かったし……助かったし」
「無事でよかったですよ。もしかして、連絡が取れなかったのは」
「そうだし。埋まって身動きが取れなかったからだし。あとおにぎりたちの対処に忙しかったし」
シャルルさんは心配をかけてごめんだしと謝罪する。
「とにかく、無事ならいいです。それより、クロードさんたちが心配してるので早く連絡を」
『シャールール―?』
「ひぃいい!! し、しっとりん!!」
『僕もいるぞ』
「くろっちまで……」
タイミングを見計らったかのように飛んでくるメッセージ。
ほら、シャルルさん早く謝っといたほうが良いよ?
『シャル。私たちに何か言うことは?』
「し、心配かけてごめんなさい……だし」
『全く。だから単独行動は危険だと』
おっと。ここはまだ敵の本拠地真っ只中だ。お説教はまずい。
「クロードさん。シトリンさん。お説教はあとにしてください。
まだここには危険が残ってますから」
『そうだな。じゃあ、簡潔に今どういう状況なのか聞かせてもらおうか』
「もちろんだし」
そういうと、手早くここに至るまでの状況を伝えるシャルルさん。
シャルルさんが終わると、私も手短に道中の様子を2人に伝えた。
『内部は内部で対策が必要なのね。ありがとう2人共。有益な情報だわ』
『僕が全員に通達しておこう。それでシャルル。君が見た「鮭」とやらはどこにあるんだ?』
シャルルさんのダイイングメッセージになりかけた「鮭」という情報。
おそらくは、この巨大おにぎりの具となる「鮭」だろう。それはどこにあるのか。
「うん。あっちだし」
あっちと示された方向を見上げる。そこには。
「そうきたか」
『ぎょ?』
「いや、『ぎょ?』じゃないし」
あ、しまった。ついシャルルさんの語尾が。
「キングサーモンだし!! でっかいし、王冠かぶってるし!!」
『おいおい。どういうことだ。シャルル』
「くろっち。ちょっと返事が出来なくなるし!」
『ちょ、まっ!!』
クロードさんが抗議の声を上げている。ごめん、この雰囲気はボス戦っぽいからあとでね!
「うおっちっちといい、私って変な魚類と縁があるなぁ」
大きな王冠を被った、これまた大きな鮭(未調理、そのまんま)が偉そうに踏ん反りかえっていた。
この熱気の中でよく平然としていられるな。蒸しサーモンになったりしない?
『そこな2人。平伏せい。王の前で無礼であるぞ』
「あの板前ロボひどいし。未調理の品を出すなんて、料理人失格だし」
「全くです」
『おい、そこ。聞いているのか?』
「くぅちんがこいつを食べれば赤の区画は防衛成功だし?」
「そうだと思います。けれど、あの板前のことだから何か仕込んでいてもおかしくないですね。
そんな仕掛けはいいから、料理の仕込みをきちんとして頂きたいですよ」
「クレーム案件だし! 訴えるし!!」
『お、お前たち!! さっきから黙って聞いていれば付けあがりおって!!』
私とシャルルさんから無視され続けたキングなサーモンは「ぎょおおおお!」と唸り声を上げる。
ぎょおーって何だ。魚王とキングサーモンをかけてるつもりか。
そっちがその気ならこっちだって、うおっちっちをけしかけるぞ。
『ふふん。暴力に訴えるとな? 所詮は野蛮な陸の民よ』
「このエラソーな魚類マジでむかつくし。鰓ひっこぬいて、呼吸出来なくしてやるし」
「いや、そもそも地上に出てますよね? この鮭。じゃあ鰓呼吸じゃなくて肺呼吸なんじゃあ……」
「うん? そうするとこいつも海の生き物じゃなくて、野蛮な陸の生き物なんだし?」
『えええい!! 静まれーー!!』
話が脱線しかけた私とシャルルさんに再び魚王さんから威喝される。
『無礼な小娘どもめが!! 王たる我が直々に裁いてくれようぞ!!』
結局自分も暴力に訴えるのか!
「捌き返してやる!」
「三枚おろしにしてやるし!!」
戦闘態勢に入る魚王キングサーモン。私達も自分の獲物を構えて対峙した。
だが、キングサーモンは不敵な笑みを浮かべた。
『我の怖さを知らぬからそんな事が言えるのだ』
何か奥の手でも隠してるのか、このマスノスケめ。
「キングサーモンの怖さってなんだし?」
『聞きたいか?』
「そりゃあ、まあ。うん。聞きたい」
どうせ教えてくれないんだろう。「愚かな陸の民に教えることなどない!!」とか言ってさ。一応、素直に聞きたいって言っておくけど。
『ははは!! では教えてやろう!! 我の恐ろしさを!!』
教えてくれるの!? え、いいの? 本当に!?
『我の恐ろしさはなぁ。不死であることだ』
本当に教えてくれるんだ。けど、不死ってなんだ。倒せないってことか?
『あの機械の人形が我の心臓にパーツを取り付けて強化してくれたのだ』
「……食べ物に異物を混入させるとか。あの板前。マジクレーム待ったなしだし」
「しぃー! 大人しく話を聞いてもっと情報を吐かせましょう」
キングサーモン以前に、茶碗無視に銀とかゴムとか入れてたくらいだ。私は今更って気がする。
『4つのパーツは互いに共鳴し合い、それぞれを生かす。
この力によって我は「不死の肉体」そして「無限に白の眷属」を生み出す力を得たのだ。
代わりにこの白き檻から出られぬという戒めを受けたが些細なことだ』
「へーすごいですねー。4つってことは貴方の他にも力を受けたものがいると?」
欲しい情報は大体引き出したかな。
私はシャルルさんと目線で合図を送り合い、タイミングをうかがう。
すでにアリアをキングサーモンの警戒範囲外へと移動させている。
『ほう。少しは知恵がついたか? 察する通り、機械の人形は4つのパーツを我以外にも与えておる。千年梅の樹霊。地獄火豚。天の岩海苔。
どれも我と同等の強さを持った者たちだ』
「どうしよう、くぅちん! うちめちゃくちゃ怖いし!!」
シャルルさんはノリノリで怖がる演技をしながら私に抱き着く。
キングサーモンはその様子を満足そうに見つめながら高笑いした。
『はっはっは! そうだ! 恐怖しろ!! そして身の程をわきまえるのだな!!』
「……絶対に捌きますから。強がっているのも今のうちです」
『我を倒すと!? 不死の我をか? ははは。無駄だ無駄!
4つのパーツは同時に止めねば再度動き出すのだ。
何度我に向かってきても無駄だぞ!!』
ほい。弱点情報頂きましたー。
つまり、4つのきょだいおにぎりに潜むボス4体は、同時に止めを刺す必要があるってことだね。
「と、いうことらしいですよ。クロードさん」
私はチャット越しにクロードさんにそう連絡する。
『ああしっかりと聞いていた。一旦、こっちに戻ってきてくれ、態勢を整えよう』
『な、ど、どういうことだ? なぜ仲間と連絡が続いている!?』
キングサーモンは訳が分からずにうろたえる。
仲間との連絡が途絶え、私とシャルルさんは2人だけ(アリアもいるけど)って勘違いしていたようだ。
シャルルさんは今までの鬱憤を晴らすように、にやぁーっと意地悪く笑う。
「うちは、『返事が出来なくなる』とはいったけど、音声チャット自体が出来なくなるとは言ってないし!」
『つまり、黙ってはいたけど、そっちからの音声は丸聞こえってわけねー。うふふ』
私も忘れないでねーとばかりにシトリンさんがそう締めくくった。
『ぎょおおおおおーーーー!!!!』
ついに耐え切れずその巨体を震わせる魚王キングサーモン。
『覚悟はいいなぁ!!! 小娘どもがぁあああああ!!!』
「いいですか? シャルルさん」
「う、うん。ちょっと怖いけど。出来たし!」
私に抱き着くシャルルさんの手に力が入る。恐怖と緊張で微かに震えてる。
そんなシャルルさんを勇気付けるため、私はシャルルさんを抱き返す。
絵面的には、どうみても私のほうが勇気付けられてるような構図だけども。
くそ、幼女体系めっ。
『くぅーねる。準備は出来てるわ。いつでも来なさい!!』
おお。アリア。やってくれたんだ。じゃあ、アリアの頑張りを無駄にしないためにも。
「『モグードリル』!!」
柔らかい白い米に向かってとがった耳を突き付ける。
地面と違って米は簡単に穴が開いた。シャルルさんをしっかりと抱きしめ、
ひたすら下へ下へと進む。
『ぎょぎょおおおおおお!? どこへ行く気だぁああ!!!』
逃げるに決まってるでしょうが!! このマヌケノスケ!!
律子「おんちゃんは別にいいわよ。コメントでおんちゃんファンがいたから。それよりも私の出番はまだかね!?」
食う母「私はまだかしらー? アリアちゃんばっかずるいわねーうふふ」
食う父「くぅーねるや。父さんへの手料理を忘れないでくれよ(しくしく)」
ルゥ「僕の出番まーだかなー?」
錬金術の人「いや、アンタは出番あっただろ!? 俺なんてな、小説書き始めの頃から出すって決められてたキャラなのに、今になってようやく出番なんだぞ!? しかもまだ名前すら出てない!!」
ルゥ「え、それだったら僕だってそうだけど。出番はすぐだったね(にっこり)」
律子「私だってそうだー!! でも最初以降全然出番ないんだよーー!!」
律&錬&ルゥ「「「そういうことで、早く出番ちょうだい! 臣」」」
臣「まだもうちっとだけかかるんじゃよ(作者代理)」




