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55品目:襲撃のむすめ―Attack to the rice ball―

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 板前の説明まだ続く。

 この『機皇の器』……天丼でいいか。

 天丼はかつて機皇都市エクスマキナ(現マキナリウム)の空一面に浮かんでいたという。そういえば、前作で見かけたことがあったなぁ。

 白い無骨な物体だと思ってたけど、まさか天丼って名前だとは思わなかった。

 この天丼。1つ1つが小規模の砦としての機能を保持していて、

スピードは遅いが、飛行しながら移動することも可能らしい。

 つまり移動式砦として、砦ごと敵陣に乗り込めるって寸法か。何それコワイ。

 そんな物騒なものが無数にあったら、そりゃあ畏怖の目で見られるってもんだ。


「全部で72もあった天丼は全てあの解放戦争で撃ち落とされちまったが、

たった1つだけ残った天丼があってな。――ロストナンバー……73番目の天丼。

 今から向かう場所だ」


 72!? いや、ロストナンバーも含めると73個か。

 そんな絶大な軍事兵器を多く所持していたのに、どうやって皇帝は滅ぼされたんだろう?

 これは、前作で解放戦争とやらのイベントをやっている人ならピンとくる

話しなのかもしれない。

 が、あいにく私は未参加だから、ちょっと話についていけないわ。

 それに、過去にこの天丼で何があったとしても、それは重要なことじゃない。

 今大事なのは、目の前に出てくるであろう料理に集中すること。

 それが最優先のはずだ。――そうでしょ?

 

「おー絶景かな絶景かなー♪」

「絶景だし絶景だし♪」


 私たちを乗せたFパネルはぐんぐん高度を上昇させる。

 高所恐怖症の人でなくても尻込みしそうな光景だが、

私とシャルルさんは雄大な景色を堪能する。すごい良い景色だ。

 足元の遥か遠くの方に小さくマキナリウムの街が見える。

 ここからなら、ハイヌヴェーレの街も見えるかもしれない。

 冷たい空気を頬に感じつつ、うす雲の間を潜り抜けてFパネルは進む。


「あ、あれじゃないか!?」


 クロードさんが指さす方を見ると、そこには巨大な白い建築物が。

 街から見上げるのとはまた違った感じに見えるな。

 へぇ、近くで見るとこんな形をしてたんだ。

 器のような……というか、まんま丼の形をした浮遊要塞だよね、これ。

  

「たしかに丼、ね。天に浮く丼だから天丼だなんて、安直な名前よね」


 アリアがやれやれと言った感じで感想を述べる。

 そう思うのも無理はないかもしれない。まんまだからね(2回目)。

 ……それよりもさ、私思ったんだけど。


「この砦で何杯分の丼が作れると思う?」

「……知らないわよ。どうでもいいわ。

 何杯作ろうが、貴方なら全部食べちゃうでしょ」


 し、失礼だな! 確かにそうだけど!

 そんなやりとりを繰り広げるうちに、Fパネルは天丼の外壁をひょいっと通り越し、壁の中へと入って行く。

 天丼の底には、4区画に分けれた街が存在していた。

 外壁と同じ材質で出来た内壁が十字型に築かれていて、それが街を4つに分けている。

 4色の金属で建造された街は3食丼みたいで美味しそう。いや4色丼か。


『親方ー! 準備が出来ましたぁー!!』


 Fパネルは天丼の中央まで進むと、そのまま空中で停止状態になる。

 そして何処からか、校内放送のようなアナウンスが響く。

 この声って……えっと女性ロボットのキリミさんだっけか。


「おう。キリミ、ご苦労だったな。こっちも今目的地に到着したところだ」

『あ、そ……そうですかぁ。

 親方……その、えっと…………本当にやるんですかぁ?』

「……ったりめぇだろ! ここまで来ちまったんだ。

 後には退けねぇさ。退くつもりもないっ!!」


 うんうん。実に良い覚悟だよ、板前さん。

 私も退くつもりは欠片もない。

 さぁ、始めようじゃないか。死闘メインデッシュとやらを!!


「さて、いよいよ舞台が整ったわけだ。

 さっさとルール説明をして、早いところおっぱじめるとしようや」


 いいな? と無言の圧力をかけてくる板前。

 私はそれに怯んだりせず、いつでもこいとばかりに睨み返してやった。


「良い眼だな。よし、じゃあルールを説明しよう。

 この説明が終わって、5分経ったらある物がこの天丼を襲撃する。

 お前さんたち9グループ、36名の勝利条件はそのある物から天丼を守り、

襲撃者を全て排除することだ」


 ふむ、防衛戦ってことか。


「さらに、大食いチャレンジ挑戦者であるくぅーねるは、

その条件に加えて襲撃者のリーダー、4つを平らげてもらう」


 その襲撃者とリーダーってやつが板前ご自慢の料理ってことなんだろうな。

 

「次に敗北条件を説明するぜ。

 この天丼には4つの区画があるのが見えるな?

 あの4つの区画のうち、どれか1つでも襲撃者によって埋め尽くされたら、

その時点でお前たちの負けだ」


 板前の言葉に周囲は動揺する。


「4つのうち1つでもか、……厳しい条件だな」

「襲撃者に埋め尽くされるってどういう状況なの?

 ……なんか嫌な予感がするんだけど」

「埋め尽くすとは言っても、どこのラインまで行ったら

埋め尽くされたことになるんだ?」


 それぞれ思い思いに感想を述べる中、誰かがそんな言葉を漏らす。

 確かにどこまで行ったら駄目なのか基準がないね。

 板前もその言葉を聞き取り、しばし考える。


「おっと、そうだな……天丼からあふれたらにしちまうと、下にある街に被害が出やがる。……よし、天丼の外壁に赤い線が掛かれてるだろ?

 あれを超えたらゲームオーバーということにしよう」


 あの模様までね。結構余裕があるように見えるが実際はどうだろう。


「さらに、大食いチャレンジ挑戦者であるくぅーねるの死亡。

 これも敗北条件とする。

 PTを組んでる場合は、くぅーねるが加入するPTの全滅だな」


 うぐ。まぁこれも想定通り……。死なないように頑張りますか。

 

「説明は以上だ。何か質問はあるか?」


 私は特にない。周囲の人達も問題ないみたいだ。


「では、5分後に開始する。

 あと、ここに4色の転送陣を設置しておく。

 下に見える4区画の色に対応してるからな。

 間違えるんじゃねぇぞ?

 4区画の間にはでけぇ壁があって、直接は行き来できないからな。

 ここの転送陣を経由していくといい。

 と、まぁこんなところか。俺は別の場所からこの戦いを見守ることにする

 ……検討を祈ってるぜ」


 板前がいた場所のパネルだけが宙に浮かぶ。

 おー、この大型Fパネルって切り離しも出来たのかー。なにこれすごい。


「それから、くぅーねる!!」


 うん? 名指しで呼ばれたぞ。なに?


「俺の自慢のむすめ達を見て、腰抜かすんじゃねーぞ?」

「……娘達?」


 はて、娘とは一体?

 私が首を傾げている間に、板前はFパネルでその場を去ってしまった。

 ちょ! 娘ってなんなの!?

 まさか自作のロボットを食わせるとかそういう意味!? 

 いや、ロボットを食べるのは良いとして、娘を食べさせるって親として最低じゃない? おのれは鬼かぁーー!!

 

「ちょっと責任者!!」

『はい。ヘルプ役のキリミです』


 私が抗議するべく声を張り上げると、キリミと通信が繋がってしまった。

 板前本人に言ってやりたいのだが、仕方ない。


「……あの、自分の娘を食わせるってどうなんですか?

 その……非人道的というか……」

『? 私たちは機械ですが?』


 そ、そうだけど!! そういうツッコミじゃなくてね?

 心を持つ者として、その……うまく言えないけど、残酷なんじゃないのかな? どうかな!?


『ご安心ください。親かt……じゃない。

 当店の板前が愛情を惜しみなく注いだむすめでございます』

「は、はぁ……」

『どうか、心行くまでご堪能ください』

「ちょ!!」


 待って! と言いかけたが、通信はここで途切れてしまった。

 再度、連絡を試みたがうんともすんとも言わない。

 おいおい、どうしろっていうの!?


「くぅちん! そろそろ準備するし!! イベント始まるし!!」


 シャルルさんの声にはっと気が付き、私は辺りを見渡す。

 私の悩みを余所に、周囲はすでにイベントに向けて動いていた。

 それぞれ転送陣に足を踏み入れて、防衛に向かっている。


「さっき、短く作戦会議を行ったけど、

4区画を2チームごとに分かれて防衛することになったよ」


 8チームが転送されたのを見届けて、クロードさんが口を開いた。

 2チームごとね。確かに数的にはちょうどいい

……ってあれ? 1チーム余るよ?

 というか、状況的に私たちのPTが余ってるように見えるけど?

 

「私たちはPTは、というかくぅーねるちゃんは

防衛の他に、敵リーダーを撃破しなければならないでしょ?

 だから、防衛区画が決まってるより、自由に動けるほうがいいということで、

場所は割り振らないことにしたのよ」


 シトリンさんの補足説明になるほどと頷く。


「つまり、今回の防衛戦闘は4区画の防衛班とうちらの遊撃班の

 2パートに分かれたってわけだし」


 おお! 遊撃班ってなんかカッコいい響きだよね!!


「ん。そろそろ、全員が定位置に着いたみたいだな。

 あとはあの板前の娘達とやらが来るのを待つだけだが……」


 四方からずずんという音が響き、私たちは身体をこわばらせた。


「……どうやら来たみたいね」

「警戒するし!!」


 それぞれ武器を取り出し、身構える。


「……何か嫌な予感がするわ」


 大人しくしていたアリアがなぜかここで口を開く。

 眉に皺を寄せて、不快感をあらわにしていた。どうしたよ? アリア。


「全く偉大なりといい……碌な事がないわね、くぅーねる」

「え? 何でここで偉大なりが出てくるの? 確かにひどい目にはあったけど……」


 そこで、私は言葉を失った。

 アリアの背後。遥か遠く外壁の向こうに、巨大な白い物体を目撃したから。

 

 そして、私は思い出してしまった。

 

 そうだ……この世界(VR)では。

 

 まだ、「おむすび飯」を食べていなかった、ということを。

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