54品目:3種のエルフ
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クロードさんの申し出のおかげで、レイドボスを単騎で挑むという無謀は
どうにか回避出来た。これで、レイドボスクエストを受けた本人が速攻で離脱という事故はなくなった。まぁ私のLvが低すぎるので、油断は出来ないけどね。
というか、今までのイベントの流れを考えると、
私が死んだら大食いチャレンジ失敗ってことになって、終わりじゃない?
強制的にレイドボスクエストが終了するんじゃ……。
これは不味い状況……と思い血の気が引いていく私に対して、
外野から無情な言葉が放たれる。
「おーい! そこの大食い少女ー! アンタがクエストの要なんだからな!
ぜったいに死ぬんじゃねーぞ!!」
ですよねーー。あははははー……はぁ。
「大丈夫だし。くぅちんが死んでもうちが回復するし」
「あ、ありがとうございます」
どんよりとする私に独特の喋り方をするダークエルフのシャルルさんがフォローしてくれた。
ううう、ありがとうシャルルさん。ちょっと元気が出たよ。
ちなみに、そんなシャルルさんを私は初見でエルフと勘違いしていた。
しょ、しょうがないじゃない。ダークエルフと言ったら褐色の肌に銀髪、
もしくは黒髪がデフォルトなんだから!
シャルルさんの外見てエルフと同じような白い肌に、茶色っぽい髪色をしてるしさ。って、誰に対して弁解してるんだ私は……。
それにしても、ルゥリヒトの件といい、見た目通りの種族や職業でプレイしてる人ってあんまりいないのかな?
「それじゃあ時間も残り少ないし、お互いの情報交換といこうか」
このPTのリーダーであるクロードさんがそう切り出し、
全員がそれに了承した。
「まずは僕から自己紹介をしよう。プレイヤーネームはクロード・ソレイユ。
種族はエルフ。Lvは36で、職業はメインで指揮官だ。
あと、サブで騎士を育てている」
Lv高いな。あとダブルジョブだ!!
この金髪エルフの好青年はもうダブルジョブまで進めてるのかー早いなぁ。
前作『神々の宴』では開始時に1つ職業を選択する必要があるものの、
その後の職業取得にはついては特に制限はない。
自由に職業を取得し、最大3つまで装備することが出来た。
では今作の『神々の再宴』はどうかというと、
今の所セカンドジョブまでしか解禁されていなかったり、
複数の職業を持つための制限が厳しくなっていたりと
細かなところで修正、変更がされていた。
大まかな仕様変更がないのはいいことだが。
「指揮官って、またずいぶんとマイナーな職業ですね?」
「実は欲しい職業があってね、それで育ててるんだ。
この条件で取得できるかは分からないけど、たぶん大丈夫」
取得するのに特定の条件が必要な職業かぁ。
指揮官が前提条件の職業って……あ、もしかして。
「王室騎士団長ですか?」
「っ! そうだよ!! もしかして、くぅーねるさんって前作プレイヤー!?」
うわあ! ち、近いって! 顔が近い!!
目をキラキラさせながら迫ってくるクロードさんに私は引き気味に「そうです」と答えた。
「ちょっとクロード! くぅーねるちゃんに失礼でしょ!
あと何か犯罪臭いから止めなさい」
「くろっちキモイし、ロリコンなの? 馬鹿なの? 死ぬし!」
「ごふっ!! ちょ、シトリンっ……拳が痛っ!!
シャルもロッドで叩くのはやめっ……ふげらっ!」
シトリンさんとシャルルさんがクロードを袋だt……ごほん、
引きはがしてくれたおかげで助かったわ。
前作仲間を発見して嬉しいのは分かるけど落ち着こうね。
シトリンさんが間に入り、シャルルさんの後ろに隠れるどうにか落ち着く。
「すみません、興奮し過ぎました」
シトリンさんもシャルルさんも全くだと頷く。
「くぅーねるさんが前作プレイヤーなら話は早い。
お察しの通り、前作の王室騎士団長の取得条件を参考にしてるんですよ。
このゲームはかなり前作のデータを引き継いでいるんで、
可能性は高いんじゃないかと」
うんうん。それについては私も同意だよ。
それにしても王室騎士団長かー。性能はもちろんいいけど、
この職業なら、普通は話すことも難しい貴族のNPCから、
クエスト受注や取引が出来る。
市場では出回らない限定アイテムが手に入るチャンスだ。
今後のことも考えてクロードさんとは仲良くしておきたいね。ふふふ。
お貴族様はそれはそれは美味なお菓子を召し上がってますからなぁ。ぐふふ。
貴族専用のケーキ屋さんとかあるからねー、じゅるり。
「そんなわけで、役割は壁役と指揮官スキルにより広範囲の支援が可能です」
指揮官のスキルはPT用が多いから、すごく頼りにしてます!
「じゃあ次は私ですね。プレイヤーネームはシトリン・オレンジ。
えっと種族はハーフエルフで、LVは38。職業は魔法使いとサブで教師を取ってるわ。将来的には魔導学者か賢者を目指してるの」
ハーフエルフ! 前作では無かった種族だ。
そしてやっぱり外見からは全然分からないもんだね。
クロードさんに近い金髪で、髪型は両サイドを縛って三つ編みにしている。
そのためエルフと似た(というか違いが分からない)見事なエルフ耳をさらけ出していた。
職業は典型的な魔法使いパターンか。
教師の職業には経験値UP系のパッシブスキル(自動発動系のスキルね)が多いし、極めれば魔法系のステータスを補助するスキルも取得できる。
まさに相性の良い職業の組み合わせの1つだ。
うーん、でもそれだと種族はエルフでも良かったんじゃないかな?
「ハーフエルフにすると、エルフの弱点が克服できるのよ。
たとえば魔法金属以外の普通の金属装備を身に着けても平気になったり、
採取系のスキルで木材なんかを伐採出来たりね。
反面ちょっと魔法系ステータスがエルフよりも劣っちゃうけど」
私の疑問に答えるようにシトリンさんが補足説明をしてくれた。
へぇー、結構使いやすいなーハーフエルフ。
前作でもあったらハーフエルフでプレイしてたかも。
初心者でも超安心の運営様親切設計。イーターマンとの温度差がヤバい。
運営ってエルフ好きなの? エルフ関係に力入れすぎじゃない?
「というわけで、典型的な魔法使いとしてサポートします。よろしくね!」
「くろっちとしっとりんの紹介終わったし、最後はうちだし!!」
「もう! シャルったらせっかちなんだから……」
シトリンさんの紹介が終わるや否や、シャルルさんがずいっと前に出てくる。
「うちのプレイヤーネーム、シャルルマーニュいうし。
シャルルとマーニュの間に中点はいらないし、間違えるなし」
そう念押しするシャルルさん。きっと間違われまくったんだろうな。
「Lvは40。この3人PTではうちが一番Lv高いし! ふふん」
「そうなの。リーダー形無しよねぇー。 ねぇクロード?」
「うう、指揮官は戦闘には向いてないからしょうがないだろ?
シトリンこそ火力の魔法職なのにシャルに負けてるじゃないか」
「シャルのスキル構成が反則なだけよ。
まぁ昔っからシャルはゲームが上手だし当然の結果よね」
話しを聞いていると、3人はリアルでも知り合いということが分かった。
どうりで仲がいいはずだ。リア友とゲームプレイっていいよね。
あ、そういえば律子どうしてるかなぁ。
……そろそろ真面目に中央へ行く方法も考えないと。
うん、そのうち考えるよ! そのうち!
「それで、種族はさっきちらっとくぅちんに話した通りダークエルフだし。
職業は狙撃手、サブは呪術医だし」
そ、狙撃手!? とても細身で小柄な身体からは想像もつかない職業だった。
幼児体型が標準なイーターマンは置いておいて、
シャルルさんの容姿は十分幼い部類に入った。某ロリヒトさんも大喜びだろう。
「狙撃手に呪術医ですか……てっきり司祭とか回復系だと思ったんですけど」
私が死んでも回復させるって言ってたから、ガチガチの回復職かと思ったけど、
そうでもないのかな?
「そう思うでしょ? ところがどっこい、シャルのスキルは並みの回復職を上回るんです。……まぁ、見た目がちょっと……慣れが必要ですね」
「そうね、最初があれだけど……まぁ、威力はばっちりよ!
私たちが保障するわ!!」
顔を青ざめさせながら、クロードさんとシトリンさんはそう告げる。
シャルルさんがじぃーと2人を睨むが、2人はふぃっと視線を逸らす。
なんだこのやりとり、一体なんだっていうの?
「うちの医療針すごいし! 瀕死の仲間助けるの任せるし!!
ということで、うちは回復と遠距離支援専門だし」
針……ああ、なるほど呪術医のスキル「針治療」か。
確かにちくっとするのは嫌な人は嫌かもしれないけど、そんなに嫌がるものかな?
良く分からないが、どんと胸を張って任せろとアピールするシャルルさんに、
私はよろしくお願いしますねと頭を下げておいた。
そして、最後は私の番だが、何か言うのが非常に気まずいステータスだわー。
とりあえずお三方、まずは言い訳を聞いてくれ。
「は、初めに断っておきますが、私はこのPTの中で一番Lvが低いです」
「うん、分かった。Lvが低いくらい気にするなし、うちらがサポートするし」
ぐ、流石シャルルさん。低レベルってだけでは動じない。
「あと……職業もまだ1つで」
「僕たちは攻略組ほどではないにしろ、いつもPTを組んでプレイしてる。
それにシトリンのスキル効果もある。だからLvだけは高いんだ。
お恥ずかしいことに、肝心の中味はLvに見合うほどはないさ。
ダブルジョブになったのも最近のことだよしね」
いやいや、2つ目の職業の道は遠いですって!
クロードさん謙遜しすぎ! もっと自信持っていいよ!
「……最後に、種族なのですが……すごい不遇種族で……あの、周りには内密に
していてほしいのですが……」
「わかったわ。貴方はクロードの恩人ですからね。
恩を仇で返すようなマネはしないと約束しましょう」
はぁ……しょうがない。私も腹を括りますか。
「えっと、プレイヤーネームはくぅーねるです。Lvは15……あ、Lvが上がってる。すみません、18でした。職業は調理人。種族は……」
「「「種族は?」」」
3人の視線が私に集中する。私は思わず目を瞑り、
「い、イーターマンです!!」
大声を出して宣言するが、大きな轟音が私の声をかき消す。
驚いて目を開けてみると、店の壁が綺麗さっぱりなくなっていた。
そして、ゴウンゴウンと機械の重低音が響く。
「な、なにが起こったの?」
呆気にとられる私。
いや、私だけじゃない。周囲の人達も何が起こったのか分からないでいた。
「これ、浮いてるぞ!!」
誰かがそう叫んだ。
開放的になった壁の向こうには、マキナリウムの街並みが広がる。
その街並みがどんどん下へ下がっている。
――そうじゃない。私たちの経っている床が浮上しているのだ。
そして、動かそうにも動かない身体がイベント中であることを告げる。
この感覚には覚えがあった。
「Fパネルか」
そう、マキナリウムへ入国した際に乗った、浮遊する四角いボードである。
驚くことに、この店の床は1つの大きなFパネルで出来ていたのだ。
「これより、皆様を天空要塞へとご案内します」
ずっと沈黙を守っていた板前が口を開いて行先を告げる。
「……機皇都市エクスマキナ時代の遺物。
白亜の陶器を思わせる金属壁。中央に輝く世界最大の浮遊制御装置。
かつで数多の種族が天を仰ぎ、畏怖を抱いたという天空要塞「機皇の器」。
またの名を『天丼』という」




