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51品目:茶碗無視

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

「へい、らっしゃい! お嬢ちゃん1人かい?」


 入った途端、板前姿の機械が威勢よく私を出迎えた。

 店内は高級な日本料理屋ですって感じの内装をしている。

 回らない寿司屋とかそんなを想像してくれればいい。

 私は1人だと伝えると、板前姿の機械は「じゃあそこの席に座ってくんな」と

直ぐ近くの開いてるカウンター席を指さした。

 私が席に着くと、給仕の機械がやってきて、おしぼりとお水をテーブルに置く。

 給仕は女性型の機械で、愛想の良い笑顔を浮かべる。


「いらっしゃいませ。ご注文はどうなさいますか?」

「大食いチャレンジ。難易度は一番難しいのでお願いします」


 とたんに、店内がしん……と静まりかえる。

 店員はもちろん、食事を楽しんでいた客も含めて全員が動きを止めて

私を凝視していた。

 はて? ……なんか不味いことでも言ったかな?


「……あの。もしかしてもう大食いチャレンジはやってなかったでしょうか?」


 私は気まずくなって、給仕の機械に聞いてみる。


「は!? あ、い、いえ。まだチャレンジはやって、ます」


 大丈夫かな? 何かすごく顔色が悪い気がするけど……。


「お客様のご注文入ります。…………大食いチャレンジです。

 難易度は最難関でお願いします」

「……………………あいよ」


 長い沈黙のあと、板前姿の機械は了承する。

 帽子をかぶり直し腕まくりをすると、奥の部屋へと入っていく。

 その表情はまるでこれからボス戦に向かう猛者のような顔つきだった。

 ううーん? なんだか妙な態度だなぁ。ま、受けられるならいいか。


「おい、あれ大丈夫なのか?」

「獣人? ドワーフ? それにしたって、ここの料理は……ねぇ?」

「ああ。そうなんだよ。案外、特殊スキル持ちだったりしてな」

「そんなのあったかな……えーっとスキル一覧のページは……。

 このゲームってスキルは少ない方だけど、

それでもこの中から探すのかよ。まる1日潰れるぞ」

「俺は無理に1票」

「じゃあ私は出来るに。負けたほうはここのご飯代おごりね」

「ちょ! おま、いくら食ったと思ってんだ!!」

「賭けに勝てば問題ないでしょ?」


 やっと、重苦しい空気が無くなったな。

 ずっとこのままだったら居心地悪すぎだわ。


『あーやっぱり、この中って退屈ねぇ。外に出てもいいかしら?』


 おや、精霊石がちかちかすると思ったら、アリアが回復したらしい。


「いいよ。アリアも何か食べる?」

『そうね……お水でも貰おうかしら』


 精霊石から緑の光球が抜け出すと、隣の席にアリアが現れた。


「ふーん。なかなかいいお店じゃない」


 ――ざわざわ。


「な、謎のチャレンジャー幼女の隣にメロンなメイドが!?」

「ちょ、お前もちつけって!!」

「アンタが落ち着きなさい。

 …………お、大きければいいってものじゃないんだから!」

「ふひひ、ウサ耳幼女とメロンメイドprpr」

「あれがGカップ(ゴッドカップ)……空想上の生き物……神の領域か」

「流石にそこまで大きくないんじゃ……十分大きいけどさ」


 あー。やっぱりアリアは目立つよねー。

 これで服着てなかったら、捕まるんじゃないだろうか。

 ……って、そうなったら召還者である私の責任になるのかな?

 無用なトラブルを避けるためにも、アリアの服を何着か持っていたほうがいいな。


「ちょっと店員さーん! この店で一番良いお水持ってきてー!」

「あのね、アリア。財布の中が寂しいんだから加減してよ?」

「どうせ水にそこまでかかんないわよ。それにこのあと賞金が手に入るでしょ」


 そう言われてしまえば何も言い返せないので、黙って料理が来るのを待つ。

 給仕の女性はすぐさま、水が入ったコップをアリアの前に置いた。


「メニューにはないんですけど。この店の料理に使っている

一番上等なお水ですので、どうぞご賞味下さい」

「あら、ありがとう」


 アリアは嬉しそうに目の前の水を飲む。


「ぷはー! 生き返るわぁー。おかわりお願い!」


 どうやらお気に召したようだ。……それより私の料理はまだか。


「お待たせいたしました。料理の準備が出来ましたので、

これよりルール説明を行います」


 給仕が戻ってきた。ようやく料理にありつける。


「当店の板前が腕によりをかけた7品をお出しします。

 それを全て完食してください。時間は問いません。

 7品食べきったら料金はタダになり、なおかつ報酬をお渡しします。

 しかし、食べきれなかった場合は、料金を全額お支払いただきます」


 ほう、制限時間がないのか。それは嬉しい。よく味わって食べることが出来る。

 こういう大食いチャレンジの難点って時間制限なんだよね。

 つい、時間を気にして早食いになっちゃうし。

 私は料理はじっくりと味わいたい派なんだから。


「準備はよろしいでしょうか?」

「いつでもどうぞ(早く料理ー)」


 それでは1品目どうぞ! と給仕が声をかけると、

なぜか店の入り口が開かれた。

 外には板前とその弟子っぽい機械がいた。何やら大型の台車を運搬している。


「よーし、お前ら! せーので押すぞ!!」

「「「了解しやした!!」」」

「せーの!」

「「「うおおおおお!!」」」


 威勢のいい掛け声と共に、台車が運び込まれる。

 台車の上には、ラーメン屋で良く見るスープを作り置きしている

巨大な縦長の鍋が乗っていた。蓋がしてあるので中は見えないが、

鍋の中から、ダシと卵の良い匂いが漂ってくる。

 店内のあちこちでごくりとかじゅるりという音が聞こえた。


「それでは1品目はウォーミングアップということで、胃にやさしい

あっさりとした味付けの物をチョイスいたしました。

 題して、『茶碗無視』でございます!」


 鍋が私の目の前までくると、2人掛かりで蓋が開かれた。

 中から薄い黄色をしたぷるるんとした物体が現れる。

 なるほど、茶碗蒸しか。軽く食べるのにはもってこいだね。


「『茶碗蒸し』だよね? なんか別のニュアンスに聞こえたんだけど?」

「いや、あれは『茶碗無視』なんだよ……」

「『茶碗無視』……まさか実在していたなんて」

「茶碗……無視……うう、昔の古傷が痛むぜ」

「いいなーあれ。普通サイズの無いのかしら」


 ふふ、この匂いはたまらないだろう。

 食べたい? 食べたい? え、もちろんあげませんよ?


「どうぞ、こちらを使ってお召し上がりください。

熱いので気を付けてくださいね」


 そういって給仕が差し出したのは、これまた大きなお玉だ。

 スプーンなんかでちまちま食べてたら、時間が掛かっちゃうもんね。

 もはやシャベル? ってレベルのお玉を受け取って、茶碗蒸しに突きたてる。

 ふむ、大きくてもこのちょうどいい弾力。中々やるじゃない。

 硬すぎず、だけど水っぽくもない。まさに、ちょうどいい塩梅ってやつだ。


「では、いただきます」


 まずは一口ぱくりと食べる。熱々だが、これがいい。

 卵とダシの味が見事に調和した絶品の茶碗蒸しだ。

 お、中にほくほくしたものが、栗? 林檎くらいの大きさだけど。


「おう! 最初から良い食いっぷりだな!

 あんまり飛ばし過ぎると、後半でばてちまうぞ?」

「ごくん。これが私のペースですので、だいじょうぶです。はぐはぐ……」

「そうかい。で、どうよ? うちの『茶碗無視』は?」

「こんなに大きいのを蒸すのは大変だったんじゃないですか?

 それなのにすが立ってないし……。なめらかで美味しいです」

「はは! あんがとよ! こいつを作るのにはうちの国で特注した専用の蒸し器を使ってんだ。普通の茶碗蒸しだと、100個を同時に作れる優れものでね。

 中々面白い仕様もあるんだぜ? 専用の仕切りをしてやれば、蒸しパン、肉まん、ふかし芋。別種の料理でも同時に調理できる。おかげでうちは大助かりだ」


 はー。それはすごいなぁ。マキナリウムの機械技術は世界一ってことか。

 私は板前の話に感心しつつ、順調に茶碗蒸しをすくって口に運ぶ。

 いやー、たまんないね。これ。つるんと喉の奥に入っていくから食が進む進む。


「ダシはカツカツウオの削りを使ってる。

 水球都市『ウォータークラウン』って知ってるか?

 あそこ独特の地形、球海きゅうかいって場所で獲れる魚だ」


 ああ、海の水が丸い水球になって浮かんでいる都市だね。

 荒れ果てた土地の空に無数に浮かぶ大量の海水には、ビックリしたなぁ。

 律子は幻想的だとか流石ファンタジーって言ってたけど、

もしもこの海水が降ってきたら……って想像すると恐ろしい場所だった。

 ちなみに名物はカツカツウオとトンカツが豪快に乗ったカツカツ丼。

 これ、すごくおすすめ。……あー食べに行きたいなぁ。


「それと、卵は島海亀の卵を3つも使ってる。これが割るのも一苦労でな。

 鍛冶職人型機械のG様のところから、

わざわざオリハルコン製のハンマーを借りてきて、とんとんするんだ。

 これが、骨が折れる作業でなぁ。あ、卵の殻はそのまま具になるぜ。

 そこの白いのがそうだ。どうだい、しっかり味が染みてるだろ?

 エビに見えるのはエビルストマー……まぁゴムだな。

 それを使ってるんだ。ゴムって言っても、耐熱性は抜群。程よく形が残ってるはずだぜ?

 銀杏の代りには、シルバーフェスト、通称『拳銀』って言われる銀の一種を入れてる。その辺の武器屋でも扱ってるぜ。武器にしてより、食べて良し。捨てるとこなんて無い。

 じつにクリーンで素晴らしい金属だろう?

 それで、鶏肉はハイヌヴェーレ特産のハイヌ地鶏のササミだ。

 これが良い肉なんだよなぁ。

 あそこの連中は食にこだわる種族だからな。手ごろな値段でこんな良い肉が仕入られる。これを知っちまったら、もう余所の肉は使えねぇよ」


 え、ハイヌ地鶏!? そんな、美味しそうな物を隠していたなんて!

 ……よーし、帰ったら絶対食べるぞ! 絶対に、だ!


「あとは、椎茸と栗と三つ葉は普通の物を使ってる。

 ……あ、生体ラボの実験のサンプルが安く市場に出てたから仕入れたんだけどな。

 『既存の植物はどこまで大きく育てられるのか』っていうのがテーマで作られた

らしいぜ。国屈指の頭脳共が何やってるんだかなぁ……。

 まぁおかげで化物サイズの良い野菜が手に入ったからいいんだけどよ」


 なーんだ。サイズが大きいだけで普通の栗だったんだ。

 エビルストマーと一緒に食べると絶妙な歯ごたえになるわ。あー美味しい。


「ゴ、ム……銀? え、何? 俺難聴にでもなったかなぁ」

「……もしかして、俺たちが食べてたやつにもゴムがはいっt」

「か、考えるな!! それ以上は止めておけ!!」

「シルバーフェストって……え、私の武器につかっt」

「やめろおぉぉぉぉぉ!! 頼むから止めてくれ!!」

「な、何であの子は平然と食べていられるの?」 


 板前の説明に周囲が騒がしくなった。そんなに気になるなら

自分たちも注文すればいいのに。分けてあげないんだからね!

 何かアリアが遠い目をして「これだからイーターマンは……」とぼそっと呟いている。しぃー! イーターマンって言うな! 

 最後の1口をすくってぺろりとお腹の中に収める。

 うん、まずまずと言ったところかな。

 

「ほう。中々いい面構えだ。よし、次の料理を持ってくるからな!

 待っててくれよ!!」


 私の食べっぷりに満足したのか、板前は嬉しそうにそう言うと台車を下げに行った。さぁーて、次は何が出てくるのかな? 楽しみだ。

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