50品目:機械都市マキナリウム
小説を閲覧いただきありがとうございます。
感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。
どうぞよろしくお願いします。
ゲーム内の時間(現実世界よりゲーム内の方が時間の進みがものすごく速いらしい)
で言うところの、1日と半日で機械国家マキナリウムに到着した。
日の出と共に出発して、今はちょうど昼ぐらいか。
この快挙はアリアの脚力の賜物である。……いや、途中のトラブルのせいだよね!
分かったからそんなに睨まないで、アリア。
「ぜぇ……ぜぇ……も、駄目……ちょっと、休ませて……」
「う、うん。ごめん休んでていいよ」
私は馬車をキューブに戻して道具袋にしまい、
アリアを精霊石のネックレス(お母さんからもらった)の中に帰還させる。
いやー、まさか城門近くまで追ってくるガンデカイワがいるなんて、何あれ亜種?
マキナリウム領に入ってから、またガンデカイワの巣窟に入ったのだが、
1匹だけやたらしつこく追ってくるやつがいたのだ。
ずっとそいつとカーチェイス状態で、アリアはここまでずっと走り通しだったのである。
しかもと動きが速い。そこらのガンデカイワとは格が違った。
そういえば、てっぺんに何かの木らしきものが生えていたような。気のせい?
相手は安全地帯に入ることで、しぶしぶあきらめてくれたけど、
一歩でも出てきたら最後だぞと言わんばかりの眼光をこちらに向けていた。
入国する前に、足を止めて都市を見上げる。
「おー、あのエクスマキナがここまで変わるなんて……
あ、今はマキナリウムっていうんだっけか」
そうこの国は前作では機皇都市エクスマキナと呼ばれていたのだ。
その当時は卵型のドームのような外観の国で、「機皇帝エクスデウス」と呼ばれる者が
絶対的な権力を持っていた。
「彼こそ母なる製造者にして、父たるブレインマキナ」という価値観を機械たちに
与え、長い間支配し続けていたのだ。
今が機械都市マキナリウムと変更されているところを見ると、
恐らく皇帝による独裁政権が廃止されたのだろう。
外観も途中からドームが割れて、中からは、時計の中身をくり抜いたかのような
歯車で出来た街並みが覗いている。
「あの堅苦しい国がどう変化してるか楽しみだなぁ」
再び、視線を戻し門前へと向かう。詰所らしき場所に機械兵が待機していたので、
声を懸けて入国の準備をお願いした。
やたらと愛想のいい機械で、無骨なパーツをころころと変更させながら、
親切丁寧に手続きをしてくれた。これもエクスマキナだった頃には考えられないことだった。
何せ、機械至上主義で他種族を下に見るように植えつけられていたのだから、
愛想が悪いことといったら……。
さりげなく「噂に聞いていたのですが、ずいぶん印象が違いますね」と聞いて見ると、
「我が国は色々ありましたから、前とはかなり違うでしょう」と返された。
新しく出来た国だと思って、観光を楽しんでいってくださいと機械兵は告げる。
許可が下りると、国内に入るための浮遊装置「Fパネル」を手配するので、
外で待っていてくださいと言われた。指示通り、詰所から出て外で待っていると、
空から、金属で出来た四角い物体が降りてきた。
「どうぞ、こちらにお乗りください。ようこそ我が国へ」
相変わらず掴まるところも何もない、ただの四角いだけの物体だ。
Fパネルに乗ると、振動もなく浮かびあがり瞬く間に上空へと移動していく。
高所恐怖症の人には絶対におすすめしない乗り物である。
とは言っても、乗ってる間はイベント扱いなので、驚いてよろけようと
しても身体は固まって動かないようになっているのだが。
城壁を飛び越えて、着地地点にたどり着くと、Fパネルから降りる。
Fパネルは降りるとまた浮かび上がり、待機場所へと帰っていった。
私は待機場所から離れて、とりあえず広場っぽいところに向かう。
広場に着くと、そこには噴水のような機械を中心に色々な種族が存在していた。
この国の住人っぽい機械たちに、プレイヤーっぽい機械族の人や近隣にある
レプロドールからの来たと思われる機械人形の人。
人族、天族、ドワーフ族、獣族……たくさんの種族がいる。
「このゲームって本当にカミウタⅡなんだなぁ……」
久々に人がいるのを見かけて、ついついそんな言葉が漏れてしまっても
仕方がない。露店を広げるプレイヤーの一団を発見した時には、
とっさにスクショでも取ろうかと思ったほどだった。それほど人に飢えていたのか……。
「さーて、じゃあさっそく」
『>お母さんからのお使いを済ませに行くおん?』
「ごはんにしよう」
『>……駄目だこりゃだおん』
失礼な。腹が減ってはお使いは出来ぬっていうでしょ。
移動中は極力食料を節約するために、食べないように頑張ったんだよ?
もう、お腹ぺこぺこだよ。あの噴水に飾られている銅像っぽいのくらい
余裕で食べれるわ。
『>器物破損で罰金刑に処されるおん』
……分かってます。何かやらかす前にさっさと店を探そう。
あそこの隅っこにあるベンチくらいならバレないんじゃないとか思っちゃうし。
マップを表示させながら、食べ物屋がないか探し回る。
「んー。フードエリアってとこなら何かあるでしょ」
ナビゲートで誘導してもらい、フードエリアへと向かう。
あ、あったあった。それっぽい看板の店がいくつも並んでいる。
外でお茶を飲んでる機械たちもいるなー。
あ、あの機械に聞いてみるかな、安くてたくさん食べれて、ついでに美味しい店。
「すみませーん」
「ワタクシに何か用デスカ?」
なんか丸っこい機体の可愛い機械だ。えっと、これこれしかじかなんだけど。
私がそう聞くと、機械はそれだったらとある店を指示した。
「あの店で今、大食いチャレンジが開かれてマシテ」
「ほ、本当ですか!?」
私は丸っこい機械をがしっと掴むと、ずいっと詰め寄った。
機械は「お、落ちついてクダサイ!!」とあわあわしている。
「で、デスガ! ワタクシたちの国で作られる食材も使われていますので、他種族の方の口にアウカ……」
「あ、たぶん大丈夫です。教えてくれてありがとうございました!」
何せイーターマンだからね!
私は丸っこい機械にお礼をいうとすぐさまその店に突入した。
「ちょーっと待った! そこの女!」
……声が聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。
私は再び店の中に突入した。
「おいっ! 無視するなっての!!」
『>くぅーねる。誰かに呼ばれてるおん』
ぐぬぬ。呼び止められる言われがないんだけど……。
私は嫌々ながら、声がした方を向く。そこにはがっしりとした体格の狼の獣人が
腕を組んでこちらを睨んでいた。
ちらりと装備を見ると、いかにも性能や効率だけを重視しましたというような
ものを装備している。どうやらプレイヤーらしい。
「……何かようですか?」
私はしぶしぶ返事を返す。相手はふんと鼻を鳴らす。
「その店の料理は食えてもんじゃねぇ。よその店……。
いや、この国の料理はどれも食えねぇか。諦めて、自販で携帯食料でも
買ったほうがいいぞ」
獣人は親切心で教えてやったんだ、ありがたく思えと大声で吠えた。
周囲の人たちは何事かと眉を潜め、機械族の人は自国の料理をけなされて、
獣人を殺気の籠った目で睨んでいる。
この狼男さんは空気ってものが読めないのかな?
「ご忠告どうも」
それだけ返してやると、狼男を無視して店の扉を開ける。
「お、おいっ!」
まだ何かあるのだろうか? 狼男は「ちくしょー、あいつはまだかよ。賞金が奪われちまうぞ」
とぼそっと呟いている。……いや、本人は小声で聞こえないように言ってるつもりなのだろう。
こちらには丸聞こえだけれど。それにしても賞金ねぇ。
狼男が立っている辺りを良く見ると、何やら看板が立っていた。
「大食いチャレンジ! 料理を全て完食したらタダ! 賞金10万ジュゲム。
さらに最高難易度マニアックをクリアすると、驚愕の追加報酬があります!」
これってさっきの機械が言ってた大食いチャレンジだ。
ほほう、中々いい金額だね。
なるほど、これを狙ってたわけか。なら、さっさと自分で挑戦すればいいのに。
獣人の胃は小さくはないはずだし、消化系のスキルでもあれば楽なクエストじゃない。
「……一つ聞きたい」
「はぁ。なんでしょうか?」
狼男の質問を聞く理由もなければ、答える義務もないのだが、
これ以上店先でぎゃんぎゃん吠えられるのもアレなので、さっさと望みの回答をしてしまおう。
「あんだは機械族だったりするか?」
……はぁ? どこをどうみればそう見えるの?
「そのように見えますか?」
「いや。俺と同族か、あとはドワーフとか……そこら辺の種族だろう?」
よしよし、流石にイーターマンだとは思ってないらしい。
狼男は「馬鹿な奴だな。機械族でもないのに、この店に入るなんて」と
これまたとても大きい独り言を述べてくれた。
「そろそろ行ってもいいですか?」
お腹が……お腹が空いたんだって!
「これ以上引き留めるとお前を食ってやる」と喉元まで出かかった。危ない危ない。
狼男は勝手に自己完結したようで、さきほどの態度とは真逆に、
愛想のいい笑顔で「おう! 食事、楽しんでこいよ!」などと言って去ってしまった。
「アホらしい」
私はやれやれと肩を竦めると、ようやく店の中に入るのだった。




