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49品目:アリアレーシング(馬車内編)

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 どうやらガンデカイワの生息地を抜けたらしい。

 ここからは気を張り続ける必要もないので、息抜きでもしてなさいよと

アリアから言われてしまったので、お言葉に甘えることにした。

 とは言っても、何もすることがないので正直暇である。

 調合は……今はする気になれないな。

 そうだ。アリアの様子でも見てみよう。今何してるのかな。

 私はモニターを呼び寄せると、アリアを映すように指示する。

 モニターの中に映るアリアはどこかリラックスしたような顔をしていた。

 周囲を見ると、先ほどの荒地とはがらっと変わって、草木が多くなっている。

 なるほど、だからアリアの機嫌もいいのか。

 何だか面白くなってきたので、そのままアリアを観察する。

 アリアはにこにこしたり、むすっとしたり、落ち込んでみたりと表情が忙しい。

 時折、何かしゃべっているのだが、小さすぎて聞き取れない。


「思ったよりも元気そうで良かった」


 実はちょっと心配だった。成り行きで私のペットになって、馬までやってくれて。

 散々文句は言ってたけど、結局こうして付き合ってくれている。

 最初会った時の印象とは結構違う。(あの出会い方が悪かったのかもしれないけど)

 なんだかんだ言って、面倒見が良くて、意外と心配性で。

 上に姉が2人もいるらしいけど、彼女を見ていると、姉に甘やかされてというよりは、

甘え上手な姉の世話に追われる苦労人の妹という図が目に浮かぶ。


『胸のところがすごく苦しい……』


 アリアの呟きが聞こえた。そう言われると、つい胸部に目が行ってしまう。

 なるほど、確かにぴちぴちしてる。こう胸を張ったらバーンと行きそうだ。

 マキナリウムに行ったら、違う服を買って着させたほうがいいかな。


「でも、胸以外はサイズは合ってるように見えるなぁ」


 やはり、アリアのあれは規格外の代物ということなのか。

 律子が聞いたら、血の涙を流しそうだ。「持てる者の悩みなど知るかー!」と激怒しそう。

 アリアがふっと力を抜くと、馬車のスピードがだんだん緩やかになる。

 今日の野営する場所には間に合うし、今のうちに休んでてほしいと思った。

 遠くに美しい花畑や豊かな森が見える。こういうゆったりした時間も悪くない。

 

 ……。

 …………。


 駄目だ。流石に外の景色ばっかりは飽きたわ。よーし、疲れも取れてるし

ちょっと調合でもするかな。

 私は馬車のメニューを開いて、前に目を付けていたソファーと一番安いテーブルを購入。

 馬車の中にセットした。私はソファーに腰を下ろすと、道具袋を漁る。

 取り出したのは、南門の自販で購入した簡易調合セットだ。

 理科室で良く見る、フラスコ、試験官、ビーカーといったガラス器具セットに、

ピンセットとガラス棒、スポイトと言った細かい器具。乳鉢のセットと、

 魔石を燃料にしたバーナーなど必要最低限と書かれていた割には、かなり

道具がそろっていた。


「何を作ろう」


 倉庫から持ち出してきた材料をテーブルに並べ吟味する。

 南瓜公園から採取してきたものなので、植物がほとんどだ。

 それぞれ、どんな効能を持っているのか識別していく。

 幸い、調合スキルに「識別」の付属スキルが付いたため食べなくても、

ある程度は識別できるようになっていた。

 もっとも食べるの持つ付属の「識別」の方がレベルが高いため、

どうしても分からないものは、少し千切って口に放り込む。

 結果、「植物の成長を高める」や「虫や病気から身を守る」と言った効能が目についた。

 これらを使って作れるものとは。


「植物栄養剤とかどうだろ?」


 出来た植物栄養剤はアリアにプレゼントするのだ。

 よし、そうと決まればさっそく調合だ。ベースにするのは……これにしよう。

 人間用の普通の栄養ドリンク。前に作った時は、なぜか全て青汁と化してしまったが。


「きっと植物ばかりだったからだよね。よし、じゃあこの部分。

木の根の煮汁をスローイングラットの尻尾を炙ったヤツに変更する。

 効能はどっちも滋養強壮効果を高めるだから、問題なし。

 植物性から動物性に変更するだけでも違ってくれればいいけど」


 とにかく作ってしまおうと、材料をつぎ次と処理していく。

 三脚の上に、小さい片手鍋を置いてぐるぐると煮汁をかき回す。

 煮汁が光のエフェクトに変わるのを確認して、素早くスローイングラットの炙り尻尾を

近づける。すると、さっきまでの穏やかな緑の光が一変して、赤い不吉な光へと変わる。

 え? ちょ、なんで? なんかシューシューと嫌な音もし始めた。


「ちょ、ま、可笑しいでしょ!?」

「くぅーねる。変な事をして、どうでもいいところで死なないでよ?

貴方が死ぬとここまで来たのが無駄になるんだからね!」


 外からアリアの声がして、うっかりそちらに気を取られてしまい、

ピンセットで掴んでいた尻尾を離してしまった。


 ――シュウウウウウ!!


「げ!」


 赤い光を纏った尻尾が煙を放ちながら、すごい速さでくるくると回転し始めた。

 まるでネズミ花火のようにくるくるくるとテーブルの上を回り、火の粉をまき散らす。


「待って! 止まって! うわぁ!?」


 尻尾の勢いは止まらず、こちらにまで火を飛ばす。

 危険を感じて、とっさに地べたに転がるようにテーブルから離れる。

 尻尾は何かのはずみで宙を舞うと、こっちに向かってきた。


「何でこっちにくるの!!」


 慌てて逆方向に転がり、回避する。勢い余って、ごちんと壁におでこをぶつけてしまう。

 尻尾はしゅうしゅうと煙を放って、消失していった。


『>植物栄養剤の調合に失敗したおん』


「うう……おでこ痛い」


 ひりひりとする額を押さえながら、私は呻く。ん? なんか焦げ臭い?

 良く見ると、スカートの端に火がついて燃えているではないか!!


「うわああ! 水! 水ーー!!」


『>落ち着くおん! 急いで道具袋から取り出すおん!!』


 慌てて道具袋から水の入った袋を取り出すと、ばしゃっとスカートにかける。

 幸い火はすぐに鎮火して、大事にはいたらなかった。


『ちょっと、くぅーねる!? 聞いてるの?』


 アリアの心配する声が聞こえる。私は急いで、聞こえてるよと返事をした。

 本当にここで私が死んだらシャレにならないわ。


「ぜぇぜぇ……し、死ぬかと思った……善処はするよ」

『大丈夫なの? 怪我はない?』


 私は大丈夫だと伝えるがアリアの心配そうな声がしたので、少しおどけて、


「あ、アリアが心配するなんてっ!!」


 とからかってみる。「心配なんてするはずがないでしょ!」と怒るかと思ったが、

アリアからの答えは意外なものだった。


『何よ。心配したら悪い?

 い、一応貴方は私のご主人なんだから、心配してるのよ! ふん』


 何だこのツンデレっぷりは……。私は思わず、


「ツンデレンコン?」

『素直にツンデレって言えないのかしら? あとツンデレじゃないわよ!』


 いやだってさぁ……。と考えて、おんちゃんが空腹のサインを出した。

 おやつでも食べようかな。

 「ふん。勝手にしなさい!」とアリアはへそを曲げて、運転に戻ってしまう。

 再び加速する馬車に揺られて、私は先ほどのセリフだって、どう聞いても

ツンデレそのものじゃないかとにやつきながら、煎餅の袋を開け始めた。


 ***


 次の休憩地点を目指して、馬車は駆け続けている。時折アリアに進行方向を知らせて修正させた。

 速度は落とさず、そのままで進んでいる。

 途中でモンスターも出現した。私は心配になってアリアに大丈夫なのか確認したが、

「イーターマン共の国周辺にいるモンスターよりもはるかに格下のため、相手にすらならない」

ときっぱり告げられた。


『何より、私自身のレベルが高いのよ? それでも挑んでくる奴がいるとしたら、

よほど腕に自信があるやつか、命知らずしかないわ』


 なるほど、流石はアリア先生。頼みになります。

 

『わおおおおぉぉん!!』

『あおおおぉぉぉぉぉん!!』

『がうっがぅ!!』


 なんか、言ってるそばから犬の鳴き声が聞こえたけど、気にしなくていいんだよね?

 あ、あちこちから聞こえるけど、大丈夫なの?

 私は不安になって、マップのマーカーを確認する。

 ところどころに赤い丸が散布しているが、数は多くないのでほっとする。


『ぐるるるるるる……』


 1頭が馬車に近づく、すぐそばで唸り声が聞こえた。馬車と並んで走っているらしい。


『アウトロウルフだったかしら』


 アリアがそう述べた。

 アウトロウルフね……オオトロウルフだったら良かったのに。


『周囲に5、6匹ってとこね。それほど大きい群れじゃない。

 たぶん、群れから追い出されたはぐれの雄達。つまり用無しの駄犬か』


 アリア先生が持ち前の毒舌を発揮して、オオトロ……じゃなかった、

アウトロウルフをこき下ろす。


『とりあえず、散りなさい』


 アリアがアウトロウルフたちに無慈悲にそう宣告すると、しゅっと

何かを振り払うような音がした。とたんにあちこちで、きゃんきゃんという悲鳴が聞こえた。


『3匹撃退。なあに、たったあれだけでダウンするの? つまらないわ』


 うふふふふと笑うアリアはいつぞやの戦闘を思い出させる。

 ああ、アウトロたちは絶対に敵にまわしちゃいけないアリアを敵にまわしたね。


『ぐぐぐぅ……ぎゃおおおおん!!』


 仲間がやられて激怒したのか、するどい唸り声が馬車に近づく。

 それを見計らったように馬車が傾けられる。車輪にぶつかるような音がしたかと

思えば、馬車に近づいてきた赤い丸が1つ消失した。


『く、くーーん』


 残ったのは2匹。しかし1匹は勝てないと分かったのか、悲しげに鳴くと、

そのまま馬車から離れていった。

 うん、君は賢い選択をしたね。長生きしなさいね。

 

 ――そして残ったのはたったの1匹だ。


『最後は貴方だけだけど、どうするの』

『ぐるるるるる……』


 最後に残ったのは、並走を続けたまま動かなかった奴だ。

 その狡猾さから、たぶんこの群れのボスだったのだろう。

 すでに仲間を失い孤立状態だ。正直、さっさと諦めた方が身のためだよ?


「さっきの子みたいに逃げていいのよ。逃げるっていうなら追わないわ。

 追いかける時間が勿体ないし、意味もないからね」


 強者の余裕なのか、アリアはそう言って相手を挑発する。

 本当にバトルジャンキーというか、なんというか……。


 ――ガタガタガタタン!!


「な、なに?」

『がうがうっ!! ぐるるるる!!』


 壁越しに聞こえる荒い息。がじがじと齧るような音が聞こえてきた。


「きゃあああ!! あ、アリアなんか馬車から噛むような音が!!」


 なんなのこれ! 一体何をしたの!?

 私はすっかり気が動転してしまっているのに、アリアが涼しげな声で、


『今晩のご飯が食らいついたみたいよ。良かったわね』


 などと呑気なことを言っている。


「今晩のご飯って……」


「ドアを開けてみなさいよ」と催促されたので、恐る恐るドアを開く。


「がう?」

「い、いぬ?」


 って! 近い! 近すぎる!! そこ噛んでたのか!! 


「そう。貴重なタンパク源よ。あげるわ」


 ご飯って……ああそういうことか。などと油断していると、

 アウトロウルフが馬車内に飛び込んできた。


「がううううう!!」

「おわ!? 『食べる』っ!!」


 馬車ないで縺れあいながらも、食べるを発動し続ける。

 がっちりと首元を食らい離さない。やがてアウトロウルフの体力がつきて、

身体が消失した。床に大量のドロップアイテムが散らばる。

 回収してみると、ありがたいことに上質な肉が手に入った。 


「ぜーぜー。何してるのよアリア! びっくりしたじゃないの!!」

『その割にはずいぶん余裕そうじゃない。

 仮にもモンスターに襲われたのに、びっくりしたって

 表現はおかしいんじゃないかしら?』


 余裕ではなかったけど……。

 あと、犬が急に飛びついてきたからびっくりしたんだってば。

 とりあえず、アリアには、


「あー。まぁ、お肉も手に入ったし……結果オーライって感じ?」


 と返答しておく。


『イーターマンの胃が満たせるとは思わないけど、足しにはなるでしょ』


 アリアが得意げにそういうので、私は「そういうとこは末っ子っぽいかな」と思いつつ、

ふかぶかと感謝してお肉を道具袋の中へと入れた。


 アウトロウルフとの交戦が終わり、気が付くと回りが暗くなってきていた。

 日が落ちてきたようだ。私は馬車内の明かりをつけて、再び地図を広げる。

 そろそろ、次の休憩地点に着く頃だ。


『この辺は馬車の跡が消えかかってて、目印が探しづらいわ。

 こっちの方向で合ってるの?』

「大丈夫。もう少しで次の休憩地点に着くから」


 私は地図とナビゲートの矢印を交互に見つめながら、そう答える。


『それを聞いて安心したわ。夜間に入ったら身動きが取れなくなるもの』


 ほっとするアリアになぜ身動きが取れないのか聞いてみると、

ランプが無いので、夜間の移動が出来ないと返事が返ってきた。

 そうだ。昼に移動すること前提で、夜のことを考えてなかった。

 うーん。馬車内のランプって取り外せないかな?

 最悪、私がアリアの隣でたいまつを抱えるっていう手もあるけど。

 そうこう考えているうちに、アリアが管理端末の明かりが見えたと報告を入れた。

 最悪の事態になる前に目的地にたどり着いたらしい。

 マップが非戦闘区域の物に切り替わったのを確認し、改めて休憩地点に

たどり着いたことを実感した。ここまでくれば、一安心だ。


「休憩地点に着いたわよ」


 アリアが外から呼んでいる。私は馬車から外へ出た。

 のびのびと身体を伸ばし、久しぶりの外の空気を思い切り吸い込む。


「あー。気持ちいい! やっと着いたねー」


 こうして、馬車の旅1日目は無事に終えることが出来たようだ。

 お、ここの休憩地点にも水場がある。


「アリアー! 水場があるよー!!」


 私の声を聞きつけて、アリアが嬉しそうに水の中へと飛び込む。

 アリアに習い、私も水の中に入る。犬に飛びつかれてもみ合いになったため、

水浴びがしたくなったのだ。

 次の朝が来るまでの間、しばしの休憩を楽しむことにした。

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