4品目:食う寝るところに冷蔵庫
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キャラクターを作り終えた私にまたしても難問が。
名前だよ。な ま え。中々決められないんだよね。こういうの。
友達は皆して「将来、子供が出来ても臣にだけは名付け親になってほしくない」と口をそろえるので、名付けセンスは無いと認識している。
どうしようかな。なんか適当にランダムで決めてもいいんだけど、せっかく良い出来なんだから、名前も自力で考えたいところだ。
「駄目だー。全然思い浮かばない」
こういう時って、考えれば考えるほど案が出てこない。
やっぱりいつも通り、直感で決めよう!
自分のプレイヤーネームなんだし、他の人の名前ってわけじゃないし!
「えっと、名前は『くぅーねる』っと」
由来は私のお気に入りで行きつけのお店『クウネル食堂』から!
おかわり亭と迷ったんだけど、なんとなくこっちをチョイス。
ざ・思い付き。まるごとパクリもあれなので、ひらがなにして可愛い感じにしてみた。うんうん。いいじゃん、私らしくて。
システムの最終確認に「はい」と答えて、私のキャラクターが完成した。
「外への憧れに満ちた1人のイーターマン。
彼女の名前は……『くぅーねる』という」
再び流れてきた吟遊詩人の声に、私は耳を傾ける。
「調理人志望の彼女は、両親が経営する店で見習いとして働きながら、
いつしか外の世界にあこがれを抱くようになっていた。
その憧れを胸に抱きながら、今日も店の手伝いが始まろうとしていた」
そこで吟遊詩人の声が途切れて、私の身体がふわりと浮かぶ。
「……!!」
なんとも言えない感覚にとまどっていると、だんだん今さっき作ったキャラクターくぅーねるの方に向かって、身体と意識が吸い寄せられていく。
少し不安だったが、私は大人しくそのまま身を任せた。
「私」と「くぅーねる」の境界が消えていく……。
「あっ」
視界がホワイトアウトする。が、それもほんの少しの間だけ。
徐々に視界が戻ってきた。
目をぱちぱちと瞬かせ、完璧に視界が戻ったのを確認すると、よいしょっと身体を起こす。
「うーん。ゲームスタートってことでいいのかな?」
どうやらベッドに横になっていたらしい。
「ここどこ?」
私はきょろきょろと回りを見渡す。ベッドに机と椅子。いくつかの棚と鏡台が置いてある。質素な内装だったが、女の子らしい置物も少し置いてある。
誰かの部屋らしいが……さて誰の?
そう思いながら、ベッドから出ようとするけど、身体が動かない。
……どういうこと??
コンコン。
ドアがノックされた。思わず身構える。
「くぅーねる?
いつまで寝てるのー? 早く起きて朝ごはん食べちゃいなさい」
「『わかったわよ。お母さん』」
声の主……お母さんは「早くするのよ?」と念押しすると、部屋の前からいなくなる。そこで私の身体の硬直が解けて、自由に動けるようになった。
なるほどイベントかー。なんか動けなかったり、勝手に言葉が出てきて戸惑ったけど、ゲームイベント時に良くある現象だ。あーびっくりした。
「現状を整理して理解すると、私は「くぅーねる」で、さっきの人はお母さん。そんでもって、ここは私の自室ってわけだ!」
よおし、整理完了。びしっと決まったね。それじゃーとりあえず。
ピコン。
『>エピソードクエスト「目覚め」を受託しました。矢印を頼りに進んでみましょう』
システムからのメッセージが届き、目の前に矢印の誘導アイコンが出現する。この矢印の通りにいけばいいってことか。
流石親切設計のカミウタ運営チーム。さてさて、それじゃあ。
「朝ごはんを食べにいこう」
さっそく料理にありつけるなんてなー、と思いながら私は部屋を出る。
部屋を出て矢印を追いかけて先へ進むと、居間らしき場所へ着いた。
そこには両親と思われるNPCが居た。
1人は女の子、じゃなくて女性のイーターマン。
さきほど自分を起こしに来た母親だろう。
もう1人は男の娘、じゃないって! 男の……ごほん。
男性の! イーターマン、父親かな?
それにしても、どう見たって2人とも成人しているようには見えないなぁ。他人事みたいに言ったけど、私の姿だってそう変わらないんだっけ。
傍から見たら、幼い子供3人がいるように見えるだろう。
これは律子歓喜物だな。
「おはよう。
くぅーねるったらいつまでたっても寝坊が治らないわね」
「やあ、おはようくぅーねる。
母さんお小言はそれくらいにして、朝ごはんにしようじゃないか。
父さんはお腹が限界だよ。さぁ、くぅーねるも席に着きなさい」
「あ、うん。おはようお父さん、お母さん」
お父さんはすでに席に着いていて、朝刊を広げている。
お母さんはというと、吹き零れる鍋の火加減を調整するのに忙しそうだ。
お父さんに勧められるままに、私は自分の席へと座る。
くんと匂いを嗅ぐと、良い匂いが身体に満ちていく気がした。
これから、目の前に広がるだろう極楽浄土のことを思うと、口いっぱいに唾が溜まるのを抑えることができない。
ピコン。
またしてもシステム音がした。なんだろう?
『>エピソードクエスト「目覚め」を完了しました』
『>メニューが解放されました。各種設定が閲覧できます』
『>自室が解放されました。詳しくはヘルプをご覧ください』
『>ホームキー(タウン内ならどこからでもホームへ転送が出来る)を手に入れました』
「えっ? 自室ってホーム扱いなの? イベント専用の部屋だと思ってた」
ホームとは倉庫、宿屋、職業施設がまとまった個人専用施設のことだ。
「倉庫解禁はありがたい。何せメインジョブは調理人。
初期の道具袋なんてすぐいっぱいになるだろうし。
食材を保管しておく場所は必須だよね」
何せ初期の道具袋枠は20枠と少ない。
特に生産職の場合材料だけでぱんぱんになってしまうだろう。
通常は早い段階で街の倉庫施設を借りる。結構高いけど。
イーターマンだとまとまったお金を工面するのも難しいと覚悟してたが、
思わぬ形でレンタル料が浮いてくれて助かった。
金銭問題といえば、序盤にお世話になるだろう宿屋(体力と魔力回復)の心配をしなくていいのも地味に助かる。
それにしても、道具袋で思い出したんだけど。
「まだ冒険者登録してないから、初期装備の道具袋かぁ……。
これってアイテムポーチと違って、色々制限が掛かって不便過ぎ。
あーあ。早くアイテムポーチに変更したいわー」
「道具袋」と「アイテムポーチ」。
似ているようで両者の性質は大きく異なる。
品質劣化がなく、重量制限もない。何でも好き勝手に入れられるのがアイテムポーチ。その真逆が道具袋だ。
「アイテムポーチは、冒険者になったらもらえるイベントアイテムなわけで。街にある冒険者組合で冒険者登録してもらわないと手に入らない。
けど、そもそもイーターマンの最弱ステで試験なんてクリア出来るの?」
これが人族なら最初から冒険者という設定なので、初期にすでにアイテムポーチを所有している。エルフも特に問題はなかった。
やや大変なのは獣人。彼らは山奥に集落を作っているので、冒険者組合がある街まで降りてこなければならない。もっとも彼らの高いステータスだと、街に着いたらすぐに冒険者になれるだろうけど。
ではイーターマンは? 設定を見た感じ技術レベルは人族と同程度らしい。なので、街を探せばすぐに冒険者組合を見つけることが出来るはず。
「けど、組合に行ってもタダで冒険者になれるわけじゃないんだよねー」
最初は冒険者見習いという扱いになり、色々と雑用をお願いされる。
そうやって地道に雑用をこなしていると、組合から正式に冒険者雇用の試験が出されるので、それに合格すると晴れて冒険者というわけだ。
ネックになるのは最終試験だ。
実践と納品の2種類があって、戦闘職なら実践で教官と戦闘。
生産職なら指定されたアイテムを納品すればいい。
今の私だったら間違いなく納品の一択。だが。
「うーん。納品するアイテムはモンスターからのドロップ品なんだよね。
どっちにしろ戦闘が待ってるっていうオチ。詰んだわ」
最終手段として、そのドロップ品を他のプレイヤーから買い取るという
手段が残されているけど、買い取るお金もないし。やっぱり詰んでる。
「しばらくは道具袋でやりくりすることになるかな。しょうがない。
品質劣化に気をつけないと。食材とか氷とか」
道具袋のメリットって何だろう?
枠の拡張がゲーム内通貨で出来ること、あとは入手が簡単なくらいか。
あ、お酒とか熟成させる系のアイテムは道具袋に入れないといけないね。
「うーん。でも、やっぱりアイテムポーチが欲しい」
アイテムポーチの入手は冒険者登録で1つもらえるのと、
あとは課金入手のみ。前作ではイベントで配布してたっけか。
噂によると、高レベルの錬金術師が作成できる……らしい。
ごくごく稀に、市場にアイテムポーチが並ぶことがあって、
それは錬金術師が作ったやつなんだとか。
まぁ、私には縁がない話だな。
とにかく、持ち運びこそ出来ないもののアイテム劣化しない倉庫を
入手出来たのは非常に大きな収穫だ。
「冷蔵庫(倉庫)は大事だよね!」
うんうん、冷蔵庫は大事なんだよ。大事だから2回言っておくよー。
何か律子が「冷蔵庫違うわーー!!」って言ってるような気がするけど、幻聴だな、きっと。






