48品目:アリアレーシング(馬車外編)
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ガンデカイワの生息地を抜けた。
それはすなわち、岩だらけで無骨な面白味もない土地を抜けだせたということ。
あのデカブツが地面を抉って、草地を荒らすものだから、
あそこは荒れ果てた土地なのよ。全く見ていていい気分ではなかったわね。
イーターマン共の国を出て以来、久しく見ていなかった緑を目にすると、
私の荒れ果てた気分が落ち着く。
全く、あの女といいその娘くぅーねるといい、私の扱いが酷すぎる。
この精霊アリアドリィーネを捕まえて、馬車の馬代わりとは何事か。
精霊をなんだと思ってるの!? あの親子めっ!!
馬車馬のごとく働かせるなんて表現があるけど、文字通り馬車馬にするかしら普通。
「あの親子に普通なんて言葉は存在しないんだわ」
おかげでストレスは溜まりっぱなしだし、お肌によろしくないわよ。
人間体型は窮屈なことこの上ないのも不満の一つね。あーどこかで羽を伸ばしたいわー。
「窮屈と言えばこの服もそうね」
デザインはいいのだけど、胸のところがすごく苦しい。サイズが小さいのかしら?
全く、服を送る時はその人の服のサイズまできちんと把握しなさいっての!!
……でも、胸以外はちょうどいいのよね。不思議だわ。
「ふー。ちょっと飛ばし過ぎたし、少しペースを落とそうかしら」
今日野営する場所には十分に間に合う。体力を温存するためにもゆっくり行きましょう。
ちらほらと見かける花畑や濃厚な魔力の気配が漂う森を遠目に見つめる。
久しぶりの外の世界はずっと見ていても飽きがこない。
「思えば、あの女に使役されてから外の世界には出てなかったような……」
ずっと研究室に籠りっぱなしで、とんでもない実験に付き合わされてばかりだ。
ま、まぁたまに貴重な魔力水とかもらえたし、悪いことばかりではなかってけど!
おかげで身体だって、姉さんたちに負けないくらいの身体に強化出来たのだから。
「とはいっても、あの親子に関わると碌なことがないわね」
ちょっと娘でお遊びをしただけなのに、あの女は乙女の顔にビンタを食らわせ、
(人間なら顎の骨が粉々になってるわよ!)しかも、力の大部分を根こそぎ奪ってしまった。
ま、それはあの女に変わって、娘くぅーねるに使役されること約束して、返してもらえたけど。
その娘と来たら、私を馬扱いだ。本当に親子そろって碌なもんじゃない!!
『ちょ、ま、可笑しいでしょ!?』
あの子、また何かやらかしたわね。
突拍子もないことばかりして、1つのことに集中すると他が見えなくなるし、
重要なことをすっかり忘れてたりするし、そうかと思えば実はきちんと覚えてたり。
全く訳が分からない子だわ。見ていてハラハラするわよ。
「くぅーねる。変な事をして、どうでもいいところで死なないでよ?
貴方が死ぬとここまで来たのが無駄になるんだからね!」
『ぜぇぜぇ……し、死ぬかと思った……善処はするよ』
い、言ってるそばから死にかけてる!?
安全なはずの馬車の中で何してるのよ!!
『あ、アリアが心配するなんてっ!!』
何よ。心配したら悪い?
い、一応貴方は私のご主人なんだから、心配してるのよ! ふん。
『ツンデレンコン?』
「素直にツンデレって言えないのかしら? あとツンデレじゃないわよ!」
馬車を引っ張るかじ棒をしっかりと握り直して、一気に加速させた。
***
次の休憩地点を目指し駆け抜ける。ときどきくぅーねるに進行方向を確認して修正するが、速度は落とさず。がんがん進む。
途中でモンスターも出現した。が、イーターマン共の国周辺にいるモンスターよりも
はるかに格下のため、相手にすらならない。
何より、私自身のレベルだって高い。それでも挑んでくる奴がいるとしたら、
よほど腕に自信があるやつか、命知らずと言ったところか。
「わおおおおぉぉん!!」
「あおおおぉぉぉぉぉん!!」
「がうっがぅ!!」
左右から犬のような鳴き声がした。
どうやら向こうは取り囲んでいるつもりらしいけど、隙だらけにもほどがある。
体格の良い1匹が他の犬より一歩前に出て、こちらに並走する。
「ぐるるるるるる……」
牙をむき出しにして、こちらを威嚇している。
ぎらぎらと欲望丸出しの顔つきは嫌いじゃないけど、もう少し大物だったら良かったわ。
「アウトロウルフだったかしら」
周囲に5、6匹ってとこね。それほど大きい群れじゃない。
たぶん、群れから追い出されたはぐれの雄達。つまり用無しの駄犬か。
「とりあえず、散りなさい」
にゅるっと長い2本のツタを生みだし、左右それぞれに向かって払ってやる。
「きゃうん!?」
「ばう!!?」
「ああぉぉん……」
3匹撃退。なあに、たったあれだけでダウンするの? つまらないわ。
「ぐぐぐぅ……ぎゃおおおおん!!」
仲間がやられて怒り狂った1匹がこちらに飛びついてくるが、
馬車を傾け、ちょうど車輪に激突するように捻ってやる。
目論見通り、車輪にぶつかってくれたようで、また1匹撃退した。
「く、くーーん」
それを見た2匹のうち1匹のアウトウルフが身の程を思い知ったのか、
情けない声を出しながら逃げていく。ふーん。あいつ、長生きしそうね。
「最後は貴方だけだけど、どうするの」
「ぐるるるるる……」
最後に残ったのは、並走し続けている群れのボス。
手下をけしかけ美味いところを取ろうとしたのか、それとも小手調べだったのかは
分からないけど、すでに仲間を失い孤立状態。さぁどうする?
「さっきの子みたいに逃げていいのよ。逃げるっていうなら追わないわ」
追いかける時間が勿体ないし、意味もないからね。
私がそう嘲ってやると、ボス犬は急に向きを変えて馬車本体に襲い掛かった。
「そこにウィークポイントでもいると思ったのかしら……。
あながち間違いでもないけど」
『きゃあああ!! あ、アリアなんか馬車から噛むような音が!!』
「今晩のご飯が食らいついたみたいよ。良かったわね」
『今晩のご飯って……』
馬車からごそごそと音がして、ドアが開く音がした。
「い、いぬ?」
「そう。貴重なタンパク源よ。あげるわ」
「がううううう!!」
「おわ!? 『食べる』っ!!」
がぶりと生々しい音がして、犬の身体が馬車の中へと引きずりこまれる。
「……貴方が餌になる番だったみたいね。おバカな犬さん」
自分に致命傷を与えたイーターマンの『食べる』を食らって、駄犬が
無事でいられるはずもない。
『ぜーぜー。何してるのよアリア! びっくりしたじゃないの!!』
「その割にはずいぶん余裕そうじゃない」
仮にもモンスターに襲われたのに、びっくりしたって表現はおかしいんじゃないかしら?
『あー。まぁ、お肉も手に入ったし……結果オーライって感じ?』
無事、肉を確保出来たみたいね。イーターマンの胃が満たせるとは
思わないけど、足しにはなるでしょ。
最悪、その辺に生えてる木を伐り倒して、1本まるごと無理にでも食べさせればいい。
あら、犬と遊んでたらだいぶ日が落ちてきたみたいね。
そろそろ、次の休憩地点が見えてくるはずだけど。
「この辺は馬車の跡が消えかかってて、目印が探しづらいわ。
こっちの方向であってるの?」
『大丈夫。もう少しで次の休憩地点に着くから』
それを聞いて安心したわ。夜間に入ったら身動きが取れなくなるもの。
夜通しで走ることを想定してなかったから、ランプの事を忘れてたのが痛いわね。
しばらく走り続けてかなり周囲が暗くなった頃、奥の方に管理端末の明かりを発見する。
休憩地点に近づくと、モンスターの気配が周囲から消えた。
ここまでくれば、一安心ね。
「見えたわ! 休憩地点に着いたわよ」
私は管理端末付近に馬車を止めると、中にいるくぅーねるを呼び寄せる。
馬車の旅1日目は無事に終えることが出来たようね。
私はほっと胸を撫で下ろして、くぅーねるが発見した水場へと足を運んだ。




