45品目:アリアカー
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その場に現れたのは四角い箱だった。も、もしかしてお菓子な小箱!?
私は慌ててその箱を拾い上がると、パッケージを確認した。
「は?」
箱を元に位置に戻す。目を瞑る。深く息を吸う。そしてゆっくりと吐き出す。
「よし」
仕切り直して、再び箱を手に取ると……。
「なっ!!」
見間違いではない。これは、これはまさか……やってしまった?
「ゆ、UR!?」
ゆ、ゆーあーるって何の略だったっけ? 「嬉しいなレア」の略?
『>URとはウルトラレアの略称だおん』
……分かってるよ。ちょっと現実逃避しただけじゃない。
真面目に返答してくるおんちゃんに文句を言いつつ、私は箱に再び目を通す。
そこには『カボチンヘッドの馬車』とタイトルが書かれている。
箱のパッケージには、どこかで見た事のある巨大なカボチンヘッドに
豪華な装飾と車輪、それに立派な体躯の馬が引っ付いていた。
あれか、12時になったら魔法が解けちゃう系お姫様が乗ってた奴。
小さい女の子なら一度は夢見る「南瓜の馬車」って奴だ。
「どうしろっていうのこれ」
この箱開けると乗り物が飛び出すらしいけど。今の所、乗り物に乗るほど
遠地へ出かける予定はない。
「ん? 何々、馬車の内装はジュゲムを支払うことで設定可能。
車内は見た目よりも広い作りで、1LDKくらいの大きさがあります。
車内の大きさもジュゲムで拡張可能?」
馬車っていうよりキャンピングカー? いやいや、いくらなんでも
車内のクセに広すぎでしょ。馬車用の家電製品から家具までジュゲムで購入できるらしい。
パッケージの裏を見ると、こんな感じにアレンジ出来ますという見本が映っていた。
完璧に家だった。もはや馬車じゃなくて、動く家だよ、これ。
注意書きにこれらは見本です、初期の状態では同梱されていませんと書かれている。
流石に内装までセットだったら恐ろしいって。今のままでも十分なのに。
「流石はURってことかな」
私は遠い目をしながらそう呟いた。
「せっかくだし、現物を拝んでみますか」
私はカボチンヘッドの馬車の箱を持って家の外へ向かった。
家の真ん前では邪魔になるだろうから、ちょっと脇の方によって、
パッケージを開ける。中から急に馬車が飛び出てくるということはなく、
サイコロぐらいの大きさのキューブと説明書が出て来た。
キューブは綺麗なオレンジ色をしている。なんかグミ見たいで美味しそう。
私は説明書を開いて、指示通りにキューブを調整する。
「えっと、後は出現場所を指定して……こうかな。『起動』」
広い場所にキューブを設置して離れる。私の合図に反応してキューブが光り輝く。
ぐんぐんと大きくなるキューブを見つめ、私はどのくらい大きくなるのか疑問に思う。
説明書を見ると、「南瓜王カボチンヘッドの頭と同じ大きさです」と書かれていた。
私は最初に出会った時のカボチンヘッドの大きさを想像した。けっこう大きい。
キューブの拡大は終わると、今度は粘土のようにぐにゃぐにゃに形が崩れた。
みるみる形が整っていき、シルエットが馬車っぽくなっていく。
「す、すごーい」
光が収まって私の目の前に現れたのは、どうみても「カボチンヘッドの馬車」だ。
写真でも綺麗に映っていた装飾と車輪は、こうして実物を見るとまた違った迫力があった。
車輪や細かな部品のところに、カボチンヘッド戦のフィールドに生えていた植物や
不気味な月の絵などが描かれている。
「ここから入るわけね」
私は扉の部分を見つめ顔を顰めた。どうみてもカボチンヘッドの口である。
近づくと自動で口(扉)が開いて、離れるとまた閉じるようになっていた。
「なんなのこのトラウマ馬車は」
しかし、中の様子も見てみたい。私は思い切ってカボチンヘッドの口(扉)に入る。
中は広い空間が広がっていた。オレンジの壁紙とカーペット他には何もない。
窓が幾つか付いているが、本物の窓ではなくモニターのようなものだった。
望めば、好きな外の様子が見れると説明書に書いてあった。
何か引っ越してきたばかりの部屋って感じがするなぁ。
「そういえばこれってどうやって動かすの?」
広い部屋に圧倒されてしまい忘れそうになるがここは車内である。そして馬車なのだ。
ならば動かさない道理はない。
「えっと、操作の仕方……あったあった、命令するだけいいのね。
じゃあ『進め』」
……。
…………。
あ、あれ? ちっとも振動とか伝わってこないけど、これ本当に動いてるの?
「まさか、振動を最小限に抑える高級車設定とか?」
さ、流石はUR。これはもう馬車と呼んでいいレベルじゃない。完璧に車だ!
「すごいな……ん? 何これ」
感動してる私の目の前に突如小さなモニターが浮かび上がった。
何だろう? 警告メッセージが表示されてるっぽいぞ?
「馬車を動かすには『馬』が必要です」
馬!? いやいやいや馬車なんだから、馬ぐらい付いてるでしょ。
私は何を馬鹿なことを言ってるんだと、モニターにデコピンして外に出る。
馬たちが待機してるはずの方へと回り込む。
「ほら! 馬車って言ったら普通は馬もセットになって」
……いない。
あ、違う。こっちは逆側なんだ。向こうに馬がいるはずだ。
やだなー、私ってなんて間違いをしてるんだか。
うっかりミスにあわあわしつつ、急いで反対方向にぐるりと回った。
今度こそ、あってるでしょ。
「ほらね! 大体、馬車なのに馬がいないでどうするのさ……」
どうするんだろうね。と頭の中で声が木霊する。
「この馬車、馬がいないじゃない!!」
私の叫び声が辺りに空しく響いた。
***
5分ほど外で固まっていた私は、車内に戻って説明書をよく読んでみた。
するととんでもない事実が明らかになる。
「馬も見本ですって……詐欺でしょこれ」
そうなのだ。パッケージ裏に書いてある「これは見本です」と言うのは、
内装のことだけを差していた訳じゃない。
馬まできっちりと見本の一部に含まれていたのだ。
つまり馬も別途ジュゲムで購入する必要があった。
「なんなの、この不良品URは……こんな動かない馬車どうしろっていうのよ」
説明書を見ると、「自分で引っ張って移動することも可能です」と書かれてる。
「いやさ、それってもう馬車じゃないよね? これじゃあただのリアカーでしょうが!」
私は勢いに任せて、説明書を地面に叩きつけた。
『>世界実績:おめでとうございます!
プレイヤー「くぅーねる」が珍しい乗り物を手に入れました。
「カボチンヘッドの馬車(UR)」』
『>個人実績:「リアカーで走り出したいお年頃」を解除したおん』
『>個人称号:「シンデレラガール」を取得したおん』
「んなっ!?」
ぐぬぬぬ! 通知が無いと思って油断してたら、こんなタイミングで来るなんて!!
限定ではないことがせめてもの救いか……。
ふん、カボチンヘッドの馬車(UR)を入手した人は、
全員「リアカーで走り出したいお年頃」になるんだから! 私だけじゃないんだからね!
「ちょっと、くぅーねる? 何騒いでるのー?」
この声はお母さん! ちょ、ちょっと騒ぎ過ぎたかな?
私は慌てて馬車から飛び降りると、お母さんが手を腰にあってて待っていた。
「こら! くぅーねる!! あんなに大声で騒いで何事なの?
ご近所さんに迷惑でしょう!」
「ご、ごめんなさい」
私は素直に謝り、このリアカー……じゃなくて馬車について何か使い道はないものか
相談してみた。お母さんは「なるほど、それで騒いでいたわけね」と納得した様子だ。
「んー。馬ねぇ……冒険者組合ぐらいしか扱ってるとこがないし、高いわよ?」
そ、そんなぁ……。じゃあ、倉庫行きにするしかないのかな。
「もしかして……ねぇ、くぅーねる。その馬車って馬じゃなきゃダメかしら?
たとえば、他の動物とかは?」
他の? えっと牛とか?
私は説明書を引っ張り出し、ぺらぺらと該当ページを捲る。
「えっと、自分のペットでも代用可能って書いてある」
騎乗ペットとかテイムした魔物とかでもいいらしい。
「あら! ならちょうどいいわ。お母さんがぴったりな子を連れてきてあげる!」
お母さんは急いで店の方へと走っていく。ぴったりな子って誰だろう?
しばらく待っていると、店の方から凄まじい悲鳴と爆発音、それに煙が上がる。
ちょ、何? テロでも起こってるの?
私は冷や汗をかきながら、お母さんが帰ってくるのを待つ。
「お待たせー♪」
若干服が乱れたお母さんが笑顔で戻ってきた。ずりずりと何かを引きずっている。
何やら見覚えがあった。もしかして……。
「あ、アリアドリィーネ!?」
「な、なんで私がこんな目にっ!!」
人間と同じくらいの大きさでメイド服を着用したアリアドリィーネがめそめそと泣く。
なるほど、今の今まで罰(メイド服でお店の接客)を受け続けていたわけか。
それにしても、なぜアリアを?
…………もしかして。
私が恐る恐るお母さんの顔を見ると、
「ね! アリアちゃんならこの馬車を引っ張れると思うの!!」
なるほど、リアカーからアリアカーになるってことか。




