43品目:駆け出し調理人と最終課題
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土曜日の夜は律子たちと遊び疲れて、普通に就寝してしまったので、
『カミウタⅡ』にダイブイン出来なかった。
でも、おかげで日曜の朝の目覚めは清々しい。
ベッドから飛び降りてきちんと朝食をしっかりとったあと、
散歩がてら近所のコンビニまで出かけた。減ってしまった非常食の買い出しだ。
インスタント物を箱買いし、缶詰などカゴに大量に放り込む。
あと、今食べる用のお弁当をいくつか買ってお会計を済ませる。
ここのレジのお姉さんとはすっかり顔なじみで「いつもありがとうございます」と笑顔で言われた。割りばしと先割れスプーンを大量に付けるのも忘れない。
私1人分の買い物なのに、毎回こんなにサービスしてもらって何だか申し訳ないな。
「よーし、補充完了」
家に帰宅し、キャリーに乗せた荷物を下ろして自室に運ぶ。
食糧庫の中に買ってきたものを入れてお弁当を1つ食べる。作業後の弁当は格別。
軽く部屋の掃除をして、ごみ袋に纏めて捨てる。
明日使う教科書を鞄に入れてっと……あ、このプリント提出期限明日だ。危ない危ない。
プリントをファイルに入れて、これも鞄へとしまった。
身の回りのことが終わる頃には、もう昼近くになっていた。
コンコン。
部屋の扉が叩かれる。父は泊まりでこれから帰宅してくるはずだから、母だろう。
「臣ー! ご飯だけはしっかり食べてよー?」
「はーい。分かってるってば!!」
どうやら、心配して部屋前まで来てしまったらしい。
私は急いで部屋から出ると、昼食を食べにキッチンへ向かった。
***
午後になってようやくゲーム内にダイブインする。
暗転していた視界がクリアになると、VR内の自室の天井が目に入った。
『>くぅーねるのダイブインを確認したおん。おかえりだおん!』
そして相変わらず元気いっぱいだと分かるおんちゃんのメッセージ。
はいはい。ただいまっと。
『>はいは1回でいいんだおん!』
「おんちゃんまで律子みたいなこと言って……」
『>そういえば、カボックからメールが届いてるおん』
え、カボックさんから? それを早く言いなさい。
私はメールを開いて、受信ボックスを調べる。
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くぅーねるお嬢ちゃんへ
よう! 冒険お疲れ様。良く休めたか?
渡しそびれちまった、料理の素材を送っとくぜ。
また何かあったらいつでも呼んでくれな!
カボック
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そうだった。カボックさんに荷物預けっぱなしだったんだ。
私はあわてて返信画面を開き、カボックさんへお礼のメールを送る。
「それじゃあ、ありがたく『受け取る』……ってふぎゃあああああ!!?」
メールに添付されている荷物を受け取った瞬間、
メール画面から芋、芋、芋、芋、芋と雪崩のように芋が襲ってきた。
「な、なんなのこの数!!」
ベッドが芋で埋め尽くされたところで、芋雪崩がストップする。
ほっとするのも束の間。第2陣が襲ってきた。
小ネギカモ(見た目はたまねぎ)がぽろぽろぽろぽろと振ってくる。
「え、ええー!? 小ネギカモって私そんなに取ってなかったよね!?
なんでこんな大量に!?」
そうこうしているうちに、床が小ネギカモだらけになった。
あ、やばい。この流れはマズイ。
「ちょ、おんちゃん! たんま! ストップ! 受け取り一旦中断して!!」
『>車とメールは急には止められないんだおん!』
そんなこと言ったって!! 次はキャロラインがっ!!
どさどさどさどさっ!!
ああ……だから待ってって言ったのに。
私の制止も空しく、キャロラインの津波が部屋を飲み込んでいく。
どうするのよこれ。身動きが取れないじゃない。
部屋の大半を素材に埋め尽くされ、その中に埋もれる私。
「くぅーねる? なんかすごい悲鳴が聞こえたけど大丈夫なの?」
部屋の外から救いの声がする。ナイスお母さん、助けて!!
「一体何があったって、きゃああああ!!?」
「お、お母さん!!」
がちゃりと部屋の扉が開かれると、素材の山はお母さんに向かって流れ出す。
お母さんの小さな身体は素材の海に埋もれて、見えなくなってしまった。
私はあわてて、素材をかき分けてお母さんを救出する。
「だ、だいじょうぶ!?」
「え、ええ平気よ。でもこれはどういうことかしら?」
私はあわててカボックさんから送られてきたのだと説明した。
「もう! だからってこんなにいっぱいあってどうするの」
お母さんは全く加減をしらないんだから、あの子たちは!! と憤慨している。
「ん? メールに続きが……」
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追伸
はりきって詰め過ぎちまったかもしれねぇから、
どっか広いとこで開封してくれな!
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「もう手遅れだってば……」
カボックさんの馬鹿ー!! シーラさんに蹴られてしまえー!!
***
「はっくしょい!!」
突然の俺のくしゃみにシーラが顔を顰めた。わ、悪かったって! そんな睨むなよ。
「ちょっと、カボック! 汚いわねー」
んなこと言ったって、突然だったから間に合わなかったんだよ!
「おい! やめろ蹴るな!」
少しは加減してくれてもいいだろうに、シーラの奴ガチで蹴ってきやがる。
「風邪ですか? カボックさん」
マイルの奴が心配そうに覗き込む。大丈夫だって! 俺は身体だけは丈夫だからよ。
風邪なんか1つも引いたことねーぜ?
「馬鹿は風邪をひかないらしいわね」
「き、鍛え方が違うんだ! 風邪なんかでへこたれる軟な身体じゃねーんだよ!」
全くシーラめ、可愛くねぇことばっかいいやがる。
「そうですか、なら良いですけど」
マイルは残念そうに聴診器やら注射針やらを鞄に戻す。お前医療のスキルあったのか。
というか、なんで残念そうにするんだよ!
「そういえば、くぅーねるちゃんには素材送ったの?」
「おう! ばっちりだぜ!」
「くぅーねるちゃんが一番活躍してたんですから、それに見合う量を送ってくれましたか?」
「そうそう! けちけちしないで送ったんでしょうね?」
マイルもシーラも心配性だな。大丈夫だって!
俺はそんなに器の小さい男じゃねぇ。きちっと送っといたから心配すんなよ!
へへ、お嬢ちゃんたち、今頃、びっくりしてるだろうな。
「は、はっくしょい!!」
ちきしょう。さっきから鼻がむずむずしやがる。誰が噂してるんだか……。
***
あのあと、お父さんまで部屋の前に現れて、私とお母さんは何とか素材の海から
救援された。そのあとは3人がかりで素材を貯蔵室へと運ぶ。
それでも手が足りなくなって、店で働いている子たちも呼び出し全員で荷物を運んだ。
終わったあとは、皆してテーブルに突っ伏する。ああ疲れた。
「……と、とにかく。頼んだ素材は全部あるな。
よしよし、ありがとうくぅーねる。これで依頼は達成だ」
『>エピソードクエスト:「最初の一歩」が完了したおん』
や、やっと終わった……。長かった。
『>個人実績:「チュートリアル突破」を解除したおん。
個人称号:「かけだし喰らう奴」を取得したおん!』
私はチュートリアルという文字に見て、苦笑いしか浮かんでこなかった。
なんとまぁ、ずいぶんハードなチュートリアルだったなぁ。
「さて……ではいよいよ、お前にこれを渡す時が来たようだ」
お父さんは真剣な面持ちで私にそっと何かを差し出す。
これは……スキルスクロール?
『>「調理」のスキルスクロールを入手したおん』
「お父さん……これは」
「お前もいよいよ、調理人としての道を歩む時が来たんだ」
それを使いなさいとお父さんが催促する。私はこくりと頷くと、
スキルスクロールを使って「調理」を取得した。
『>「調理」の取得を確認したおん。
職業:調理人(見習い)→ 調理人(駆け出し)にランクアップしたおん!』
や、やった! これで調理が出来るー! 思う存分美味しいものが食べ放題だ!!
ここまで来るのに長かった……本当に長かった。
そう、料理で例えると40品分くらいかかったかな!
「そして、最後の課題をくぅーねるに言い渡す」
「……っ! は、はい」
私はごくりと息を飲むと、お父さんの言葉を待つ。
「最終課題はお父さんに料理を作ることだ。期待してるぞ?」
『>エピソードクエスト「手料理を渡そう」を受託するおん』
料理長であるお父さんに料理を出すなんて緊張するなぁ……。
でもやらなきゃね。今の私が作れる最高の料理をお父さんに作ってあげよう。




