39品目:首なしのヘッドドレス
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カボチンヘッドを食べ終えたところで、身体を起こそうとするが、
硬直して身動きが取れない。何かのイベントが発生したようだ。
辺りの空気が一段と冷え込み、吐く息が白くなる。
遠くから馬のような鳴き声と蹄の音が鳴り響く。しだいにそれはこちらへ近づいてきた。
「グラーネ、止まれ。ここに間違いない」
『御意に、我が女神』
何らかのイベントによって現れたのは、灰色の毛並を持つ大きな馬とそれに跨る女性。
女性は黒を基調とした布地に、レースがたっぷりと使われた
いわゆるゴシックドレスと言われる衣装に身を包んでいる。
その恰好には不釣り合い過ぎる不気味な黒色をした大剣を腰から下げていた。
私は彼女の顔を見上げて、ぎくりとした。――何もないのだ。
本来、顔があるはずの場所に何もない。
頭に当たる部分にフリルのついたヘッドドレスがぽかんと浮いているだけ。
確かこういう首の無いモンスターがいたような。えっと。
「……デュラハン?」
『無礼な! 我が女神に向かって何ということを!!』
「よせ、グラーネ」
グラーネと呼ばれた灰色の馬が、ひひんと鼻息あらく私を睨み付けるが、
女性が馬を押さえつける。
ぽんぽんとなだめるように身体を撫でられると、馬は大人しくなった。
「グラーネが、こちらの駄馬が失礼した。
私の名前はない。強いて言えば、『首なしのヘッドドレス』と言われている者だ」
首なし(ヘッドレス)とヘッドドレスをかけてるのか。
『女神! そのような名前で呼ばれるなどと』
「グラーネよ。何度も言っているが女神は止めろ。
今の私は神性と首を主に返上した身。デュラハンとさして変わりはない」
自嘲気味にそう告げる女性は、モンスターというには物腰に品があり過ぎる。
私の発言にグラーネと呼ばれる馬が怒るのも当然だ。
「失礼しました。えっと、ヘッドドレス様」
「様はいい。堅苦しいのもごめんだ」
「あ、はい」
ヘッドドレスはグラーネから降りると、辺りの様子を伺う。
「ところで、この辺でカボチンのようなものを見かけなかっただろうか?」
カボチンのようなものって、カボチンじゃないの?
そういえば、カボチンヘッドが最後に「へっどどれす」と口にしてような。
もしかして、この人のこと?
「南瓜王カボチンヘッドなら知ってるけど、それのことかな?」
私の疑問をルゥリヒトが尋ねてくれた。
グラーネは小さな目を見開いて、「女神。もしや」とヘッドドレスの様子を伺う。
ヘッドドレスの表情は分からないが、何やら戸惑っているように見えた。
「……詳しく、その話を聞かせてもらえないだろうか?」
ヘッドドレスの申し出に了承の意を伝え、さきほどまでの戦いを簡潔に説明する。
「うちのカボチンがとんだ無礼を働いたようだ。申し訳ない、許せ」
そう言って、ヘッドドレスは身体を折り曲げる。たぶん頭を下げてるのだろう。
『全く、とんだ南瓜頭め! 女神に謝罪をさせるなどとっ!』
「グラーネ」
『……ふん。女神はお優し過ぎますぞ』
漫才をやってるところ申し訳ないけど、あのカボチンヘッドとどういう関係なのか。
カボチンヘッドは、ヘッドドレスのことを友と呼んでいたが。
私がそう聞くと、ヘッドドレスは「友……かもしれないが」と答える。
「あれは私の頭係を務めていたのだ」
頭係って。あれを頭に使ってたのか。
グラーネは『奴にはもったいなさすぎる役割でしょう』と鼻を鳴らす。
『あいつはかつて、女神に魂を運ばれる名誉を蹴った愚かな人間だったのだ。
魂が天に運ばれなければ不死を得られると、そう信じていたのだよ。
馬鹿な奴め、魂は不滅なれど身体は朽ちるというのに。
運ばれぬあいつの魂は、永劫に現世と常世を彷徨う定めになった。
カボチンという、狭間にのみ生える野菜にその身を変えてな。
それが何の因果か、地上に落された女神の頭係になるなどと……』
「狭間から出られるなら何でもすると言ったからな、頭の代りにはなるかと思ったが」
だからって野菜を頭に使うとか、ヘッドドレスってどこか
抜けているような感じのする人だなぁ。
『結局、またも女神の温情を無駄にしてこの者達に討伐されたようですな。
あいつにはふさわしい末路かと』
「いや、あれの魂は今もこの場に留まっているな。狭間に落ちる前に拾ってやるか」
『め、女神! あれはもう捨て置きましょう』
「む、しかし頭が無くては何かと不便ではないか」
『では別の物にしましょう。カボチンに拘らずとも良いではありませんか!』
「あれでないとしっくりこないのだ」
ずっと使ってるうちに愛着が湧いたのか。カボチンに。
ヘッドドレスはグラーネの静止を振り切り、何やら呪文を唱える。
空中に神聖属性の魔法陣が浮かび上がり、その中からさきほど喰らったカボチンヘッドが
飛び出してきた。
『へ、へぇどぉぉぉぉーーー!! ご、ごわがったよぉぉぉぉーーー』
『ちっ、黙れこの南瓜頭がっ!』
ヘッドドレスに向かって飛びつこうとするカボチンヘッドをグラーネが器用に、
頭突きを食らわして突き飛ばす。
『うぎゃあ! ぐ、ぐらーね……痛いぃぃ』
『は! 助けてもらえただけありがたいと思え!』
「二人ともやめないか! カボチンヘッド早速だが頭になってもらうぞ」
『はいぃぃぃぃ!!』
カボチンヘッドはぴょんとジャンプして、ヘッドドレスの空洞部分にぴたりと収まった。
「うむ。頭があるというのはいいことだ。これで安心して枕で眠れるな」
『……私は頭が痛いですぞ、女神』
頭を取り戻し、嬉しそうな表情をするヘッドドレス。
その可愛い服にカボチンってすごく間抜けに見える。本人が満足してるならいいけどさ。
「さて、我々はこれで去らせてもらう。だが、その前にこれを」
ヘッドドレスが腰の大剣を引き抜いて、地に着きつけると、
地面が輝いて、帰還用の魔法陣と宝箱が出現した。
「私の力の一部とはいえ、それを宿したカボチンヘッドを倒した武勇を称えて、
ささやかではあるが褒美を与える。それぞれその宝箱を開けるがいい。
1人1人に褒美が手に入るようになっている。それとこっちは森の入口に帰還する魔法陣だ」
ヘッドドレスは大剣を鞘に戻すと、踵を返す。
「また会おうぞ! かつても今も、私は英雄と呼ばれるものを好いている!
いつか私に見合う実力を身に着けた時、このヘッドドレスがその首を貰い受けるからな!!」
そんな物騒な言葉を残して、カボチンヘッドを乗せたヘッドドレスは愛馬グラーネと
共に走り去っていった。
「なんだったんですかね。あのヘッドドレスって」
やっと身体の自由が効くようになって、私は疑問を口にする。
ルゥリヒトはうーんと考え、
「カボチンヘッドを倒したことによって、新たなシークレットボスが開放されたとか」
「可能性はありそうだな。あの御仁からはただならぬ気配を感じたぜ」
いつの間にか復活していたカボックさんがそう結論付ける。
「カボックさん! 大丈夫なんですか!?」
私が驚いて尋ねると、シーラさんとマイルさんも立ち上がる
「何か、あのヘッドドレスって人が回復してくれたっぽいわ。
おかげでこの通り、全回復ってね」
「僕もです。それにしても、あのヘッドドレスさんでしたっけ?
『失われた戦女神』の伝承に良く似ていたような気がします。確か中央の……」
グラーネって馬がしきりにヘッドドレスのことを女神と呼んでいたな。
頭が無かった時の方が女神っぽいなと思うのはなぜだろう?
カボチンヘッドが乗ったとたんギャグっぽい格好に見えるしね。
「今はいいじゃない、学者先生!! それよりお宝お宝ー♪」
「いたた、痛いですよ、シーラさん」
講義モードに入ろうとしていたマイルさんの背中を叩いて止めると、
シーラさんは真っ先に宝箱を開けた。
「おおー、すごいわよこれー!」
手に入れたものを見ると、何やら珍しいダガーの様だ。
「じゃあ俺も開けようかな……お、こいつは中々の代物だぜ」
カボックさんが宝箱を開けると、こちらはバトルアックスが出てきた。
マイルさんは魔導銃を手に入れたらしい。
なるほど、全員何かしらの武器が手に入るようになっているようだ。
じゃあ、私はなんだろう。宝箱を開き、中身を手に取ると、
『>「刃の欠けた包丁」を入手したおん。今は装備出来ないおん』
なんかぼろっちい包丁が出てきた。包丁だから、私の職業には当てはまる武器だけど。
こんなぼろぼろどうすればいいの?
今は装備出来ないみたいだし。どうすれば装備出来るのかな。包丁を研ぐとか?
とりあえず、私は包丁を道具袋にしまっておく。イベントで手に入った武器なんだし、
全く役に立たないってこともないだろう。
そういえば、ルゥリヒトは何が手に入ったのかな?
気になってちらっと覗いて見ると、その手には…………。
「カメラ?」
え? カメラ? 剣どこ行ったの???
「ん? そうだよ。この宝箱の中身は職業に応じた武器が当たる仕組みらしいからね」
「それで、どうしてルゥリヒトさんはカメラなんですか?」
剣士とカメラに何の関連性があるのか理解できず、疑問符が並ぶ。
「なぜ」と私が尋ねると、ルゥリヒトはきょとんとして、
「何でって、僕の職業は写真家<フォトグラファー>だからね。
当然カメラが武器ってわけさ」
「えっと、じゃあその腰に付いてる剣は?」
「見た目は剣だけど、実はカメラなんだよ、これ」
「カメラ!?」
「そう」
何を今さらみたいな顔でそう返されてしまい私は言葉を失った。




