38品目:南瓜王カボチンヘッド3
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私がカボチンヘッドから逃げ回り、かしまし組が足止め、
ルゥリヒトが深い一撃を与えて、最後に全員でハメて叩き潰す。
それを繰り返して、3個目の頭を破壊することに成功した私たち。
頭を破壊するたびにカボチンヘッドの頭は小さく、そして色は黄色へと変化していく。
私はその様子に何やら言い知れぬ不安感が込み上げてきた。
確実に本体を削っているので、このままで倒せるはずだ。
だけど、この不安感は一体……。
「くぅーねるちゃん! 避けてっ!!」
「あぶなっ!!」
シーラさんの言葉に咄嗟に反応して、私はさっとその場から離れる。
先ほど私が居た場所に、無数の南瓜の種が吐かれていた。
地面にはまるでマシンガンで撃たれたかのような跡が残っている。
シーラさんが教えてくれなかったら、私は蜂の巣にされていただろう。
「すいません。ありがとうございますシーラさん!!」
「ううん。避けてくれて良かった。疲れてるだろうけど、もう少し頑張って!」
「は、はい!!」
シーラさんに応援されて、私は再度集中する。
頭を壊すたびに、敵の攻撃パターンも追加されてきているのだ。油断は出来ない。
さっきみたいな南瓜の種に、古木の腕を伸ばしてフィールド全体への払い攻撃。
地面から木の根を召還しての下段からの突き攻撃。
アリア戦で見たことのある攻撃もあったため、攻撃は避けやすい。
腕がかすった時に、ごっそりと体力が削れたが、ステータスが強化されたのと、
バターフライスティックの自動回復に救われ、まだ回復アイテムは使わないで済んでいる。
『かぼかぼかぼー。しぃつこぉーいなぁー。おぉまぁえらぁ邪魔だぁぁぁーー!!』
「うわ!」
「ちょっと! 服がめくれるでしょうが!!」
「おわああ!」
「……っ!!」
すうっと勢いよくカボチンヘッドが息を吸い込む。周りの枝やら小石を巻き込み、
ずずずっと吸い上げていく。
私たちも、突然の強風に足を取られ、吸い込まれないように足を踏ん張る。
カボチンヘッドが息を吸い込み切ったので、風がピタリと止まった。
息を吸い込んだ……なら次の動作は!?
考えるまでもない。私は咄嗟に『モグードリル』を発動。
足元に穴を開けてその中に逃げ込んだ。
『はーーーくしょん!!』
盛大なくしゃみと共に、フィールドに豪風が吹き荒れる。
外から皆の悲鳴が聞こえる。飛び出したい気持ちをぐっと堪えて、
私は風が止むのを地中で待つ。
今行っても飛ばされるだけ。ここで待つのが一番得手なのだ。
わかっているが、何も出来ないのが歯がゆい。
『かぼかぼかぼ! こぉれぇで邪魔者いなくなったぁー。
さぁさぁ、あいつぅはぁどぉこぉだぁぁ?』
私は急いで、地上へと掘り進める。
どうか、カボチンヘッドと鉢合わせしませんように。
私は必死で、離れた場所まで掘り進み、そこから地上へと掘っていく。
ぽこっと飛び出して、地上に着地する。寒気のするような声がすぐ間近で聞こえた。
『みぃーつぅーけぇーたぁ♪』
ぎょっとして首を声のする方へ捻ると、カボチンヘッドの頭が目の前にあった。
――しまった!!
がっぱりと開かれる口。私の頭を真っ白になり身動きが取れない。
『餌ぁぁぁ! いただきまぁーーーーす!!』
「「「くぅーねるちゃん(お嬢ちゃん)!」」」」
かしまし組が悲鳴を上げるが、ぱくりと飲み込まれ視界が暗転する。
――わ、私……食べられちゃった……。
何も、見えない。ここがどこかも……分からない。
カボチンヘッドの身体の中? それとももう戦闘不能になってるのか……。
「『透視』」
外側から、ルゥリヒトがスキルを発動する声が聞こえる。
――良かった……あいつが無事なら、どうにかなるでしょ。
私はほっとして、意識を手放しかかる。けれど、それを叱咤する声がした。
「今がチャンスなんだからね! ぼさっとしないでよ!!
被写体をくぅーねるに指定する『フレンドフォーカス』。
術者と被写体を交換する『リバーサルピクチャー』」
え、何してるの? ルゥリヒト!?
私が暗闇で呆気にとられていると、シャッター音が響く。
そうかと思ったら、ぱっと視界がクリアになる。ここは……?
『ぐぅ? なぁ、なぁーんかぁ。食った感触がぁちがぁーう?
あのピンクのちっこいのぉ……かぼの友達くったぁやつぅどこだぁ?』
「……!!」
思わず大声をあげそうになったが、両手を塞いでぐっと声を押し殺した。
自分はカボチンヘッドに飲み込まれたはず。
しかし、ルゥリヒトのスキルによって救出されたらしい。
そして、放り出された場所はなぜかカボチンヘッドの頭の上だった。
灯台下暗しとはまさにこのことで、カボチンヘッドは私が頭の上に乗っているのに
気づかず、うろうろとフィールドを彷徨っている。
私もあわててルゥリヒトを探すがフィールドにいるのは、
瀕死状態で倒れるカボックさん、シーラさん、そしてマイルさんだけ。
じゃあルゥリヒトは……。
(カボチンヘッドの中か……)
どういう系統のスキルかは分からないが、ルゥリヒトはスキルを使って、
私と自分を入れ替えることにより、私を救ったらしい。
(どう見ても、相手を犠牲にして自分が生き残るタイプって顔のくせに……)
腹黒混沌鍋の馬鹿野郎。
あんたが一番レベルが高いのに、自分が犠牲になってどうすんのよ!!
「……?」
思わず視界が滲むものの、足元に何か落ちているのを発見して、慌てて拾い上げる。
「……」
それを見て私はすぐに自分のやるべきことを理解した。
「うおっちっち! カボチンヘッドの顔面に全力の『墨煙幕』!!」
『うあぁぁ! ピンクぅ! そこにいだぁのがぁ!? なぜぇだぁー? どうやってそこにぃ?』
「ふしゃああああああーーーー!!!」
答えるわけないでしょ! この緑南瓜が!
カボチンヘッドは「目がっ目がぁ!」と顔を押さえて、あわあわしている。
すかさずカボチンヘッドから飛び降りて、さきほどの拾ったものを取り出す。
真っ暗の中にぼんやりと映っている人影。ぼやけて詳細は確認しにくいが、
ルゥリヒトが映っていた。そう落ちていたものは写真だったのだ。
「これでさっき助けられた分はチャラだからね」
そういって、私は写真の中に手を突っ込んだ。まるで水の中に手を入れたかのように、
写真の表面に波紋が広がる。
探るように手をあちこちに彷徨わせると、何かが私の手をぐっと掴んだ。
その感触を確かめると、私は一気に手を引き抜く。
「おっと! もう少しゆっくり助けてくれるかい」
私はどさりとその場にへたり込む。引っ張り上げたルゥリヒトも反動で地面に転がる。
「はぁはぁ……うるさい! た、助けただけましだと思ってください」
「うん。ありがとう。助かったよ」
のんきな会話もここまでだ。カボチンヘッドがこちらの存在に気付く。
私とルゥリヒトはすぐさま立ち上がって、カボチンヘッドから離れる。
墨煙幕の効果が切れたのか、ぶるぶると頭を振ると、
怒りのあまり「かぼかぼかぼ」と唸り声をあげる。
『おぉまぁえぇらぁ! よぐもぉ、よぐもぉやったなぁぁぁぁ!?』
「いや、先にやってきたのはそっちでしょ?」
「同感だね」
まさか本当に食べるとは……それに私が食べられる日が来るなんて。
ルゥリヒトがいなければ、今頃は本当にこいつの餌だっただろう。
実に腹立たしいことだが……。
『ふたりぃぃいっぺんにくうぅぅ!!』
「あのさ、これが目に入らない?」
カボチンヘッドが再び口を開けて、丸呑みにしようとしてくるが、
ルゥリヒトがあるものをカボチンヘッドに見せつけると、ピタリと停止した。
『そ……それ……どごぉで!?』
ルゥリヒトの手には、黒く不気味な光を放つハート型クリスタルが握られていた。
「どこで? 決まってるじゃないか! 君って本当に南瓜頭だよね!!
あははははっ! ………………君の身体の中でだよ?」
明らかに怯えた表情を見せるカボチンヘッドに、ルゥリヒトは残虐な笑みを浮かべる。
うん。なんか似合うわ、その悪役面。
「どこかにあると思ったんだ。ほら、再生タイプのモンスターには良くあるだろ?
その強靭な再生力の要、つまり動力源って奴がさ」
『ぐぅぅぅぅ!!』
「このままスパスパ頭を切っていけば、
再生に必要なエネルギーが切れて、死んでくれるかなーって思ったんだ。
だから、これをわざわざ君の身体から取りに行く気もなかった。
……けどさぁ。まさか、くぅーねるちゃんを飲み込むなんてねぇ?」
ハートのクリスタルを握る手に力が籠められる。
カボチンヘッドは苦しそうに呻き出した。
「これを外に出した状態で、君の頭をざっくりと抉り取ったらどうなるか」
『かぼはぁわるくぅなぁ……そいつがぁ』
「ところで、くぅーねるちゃん。
採れたて新鮮なカボチンを食べてみたいと思わないかい?」
急に名前を呼ばれてぎくりとするが、ルゥリヒトの言わんとしていることを
理解して、私はにっこりと笑う。
「そうですね。調理された物は食べましたが、生はまだです」
『やぁ、やっばりぃ! かぼのともだちぃくったぁんだぁああ!』
ああ、友達ってカボチンムースに入ってたのか。ようやく分かった。
ルゥリヒトはハートのクリスタルを握りしめたまま、反対の手で短剣を掴む。
ハートのクリスタルめがけて、その凶刃が振り下ろされた。
『だ、だずげ! 友よぉ! ヘッドよぉぉぉ! かぼがぁ! 死んじゃうよぉぉぉ!!
ぎゃあああぁああぁああああぁあああぁあああ!!!!』
ぱりんと音を発てて、ルゥリヒトの手の中でハートのクリスタルが砕け散った。
ハートが砕け散ると、動力を無くしたカボチンヘッドの身体が霧のように消え去り、
頭だけがごろごろと地面に転がる。
『タスケぇ……トモヨぉ……へっどどれす……カボノトモだ……』
「『食べる』」
もはや市販の南瓜サイズまで縮んだカボチンヘッドを私はそのまま喰らう。
シークレットボス特攻を持った私の食べるをカボチンヘッドが耐えられるはずがない。
しかも今は、動力となる核が壊されて瀕死の状態なのだから。
カボチンヘッドは抵抗も出来ずに、私の胃へと収まった。
『>シークレットボス「南瓜王カボチンヘッド」を撃破したおん。
ボスドロップを配布したおん。運営からのお知らせより受け取るおん』
おんちゃんの声を聞きながら、私はゆっくりと口の中の勝利の味をかみしめた。




