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36品目:南瓜王カボチンヘッド

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

「よう嬢ちゃん待たせ……た、な?」


 一番初めに管理端末まで戻って来たのはカボックさんだった。

 ところが、カボックさんは私を見た瞬間にカチンと固まってしまった。

 ……え、私なんかしたっけ?

 

「おーい! くぅーねるちゃん! お待たせ~」


 別の方向からシーラさんが小走りでこちらに向かってきた。


「ごめんごめん。遅くなっ……」


 息を切らして私の前までくると、ぴたりと呼吸を止めてしまった。

 ちょ! シーラさんしっかりして!!


「やあ! 皆さん! 今戻りました!」


 この声はマイルさんだ。なんてタイミングの悪い時に!!

 私は固まってしまったカボックさんとシーラさんを何とか起こそうとする。

 だが、その前にマイルさんが戻ってきてしまったらしい。

 このかしまし共めっ! 3人も固まったら面倒見きれないよ。

 というか、何で固まったの!?

 マイルさんが一歩一歩こっちに向かってくる。だが、それを止める手があった。


「何か様子がおかしいな。学者先生。悪いけど、ここで待っててもらえる?」

「え? あ、はい。分かりました」


 訳が分からずハテナマークを浮かべるマイルさん。

 た、助かった。まさかルゥリヒトが止めてくれるなんて意外だけど。

 マイルさんを安全圏に置いたまま、ルゥリヒトがこちらに向かってくる。

 まさか、こいつまで固まるなんてことないよね……。


「なるほどね」


 私の心配は杞憂だったようだ。ルゥリヒトは、私の前まで来ると、

一瞬だけ眉を潜めただけで、特におかしなことにはならなかった。


「ルゥリヒトさん。どうしてカボックさんとシーラさんが固まってしまったか、

分かりますか?」

「ああ。くぅーねるちゃん、何か装備とか変えた?急にステータスが高くなった気がするんだけど。

 恐らく2人はそれに気づいて固まってるんじゃないかな」

「あーなるほど」


 やってしまった。まさかそんなことになるなんて。

 幸い硬直状態はすぐ解除されて、カボックさんとシーラさんはすぐ復活してくれた。


「ごめんごめん。油断してたわ。もう大丈夫だから」

「おう。俺もだ。しっかし、見違えるようになったな。

お嬢ちゃん、今度は何をしたんだ?」


 「今度は」って別に悪いことはしてないんだけど。

 私は称号を付けたことによって、大幅にステータスが上昇したことを告げた。

 

「ふーん。この『看板』付きの称号の効果か。それなら納得したよ」


 かしまし組は、すごい装備を付けたくらいの反応だったが、

ルゥリヒトはちょっと驚いたような顔をしていた。

 『看板』というのは、私の頭上付近に表示されている『リトルヒーロー』の称号を差している。このゲームは名前や称号は表示されないのだが、

例外として、特定の称号を装備した時には、表示されるようになっていた。

 その目立つことといったら……。私がこの称号を付けたくなかった理由の1つでもある。

 運営は、良かれと思って入れたシステムだろうが、目立ちたい人ならともかく、

私のように細々と普通にプレイしたいユーザーにはエライ迷惑だ。

 ちなみに看板という俗称の由来は、まるで、看板を背負って歩いてる見たいだから。名札とか札付きっていう人もいるっけ。


「…………はい。それで、この称号のことなんですけど、

 今は緊急で付けてますが、普段は装備してません。

 出来ればこの称号のことは、他のユーザーには他言しないで欲しいです」

「分かった。他の人には言わないよ。僕も『看板』の悪目立ちは理解してるんでね」


 そうなんだ。こいつ攻略組っぽいし、看板付きの称号を持っててもおかしくないか。


「限定称号か……やっぱりこの子か」

「ん? 何か言いましたか?」


 ルゥリヒトがぼそっと何か言ったような気がして、聞き返すが「何でもないさ」と

笑顔で告げられた。

 

「くぅーねるちゃんが奥の手を出してくれたみたいだから、

僕もちょっと、本気だしちゃおうかな」


 はて、奥の手? 私が首を傾げていると、ルゥリヒトの装備が変更された。

 先ほどまでのバックラーと長剣が消失して、凄そうな剣が2本になっていた。


「ちょっと前に使ってた装備なんだ」


 にっこりと笑いながら、2本の剣をすっと抜いて見せる。

 剣のことは良く分からないが、さきほどとは違う長剣に小ぶりで反り返った刃を持つ短剣。どちらも刀身に細かい装飾が掘り込まれている。

 派手さはなく実にシンプルな作りだったが、とんでもない効果が付与されている気配がした。

 ルゥリヒトの武器を見て、カボックさんとシーラさんが何やらごそごそと

アイテムポーチを漁り始めた。


「ルゥ坊がやる気になってるのに、俺たちがやらねぇ理由はねぇな」


 よいせと取り出したのは、中央に赤い宝玉が埋め込まれたバトルアックスだ。

 ぶんと振るたびに火の粉が落ちるので、炎属性が付与されていると見た。


「変態に後れを取るのは癪だわ。久々に相棒を使うわね。うふふ、乱戦に紛れて

あの変態をさくっと……なんてね」


 なんか怖いことを言ってるシーラさんは、短刀から十字のような形状の短剣へと変わった。えっと、たしか、スティレットっだっけ?

 そんなに簡単に良い装備に変更出来るなら、最初から使ってよとか思っちゃった。

 ちくしょー、皆いいな、装備がいっぱいあってさ!


「…………わ、私のこと忘れてませんか?」


 1人ぽつりと残されたマイルさんが寂しそうに呟いていた。


 ***


「じゃあ、行きますよ」


 全員に向かってそう告げると、了承の声があちこちから上がる。

 私はふっと息を吐いて力を抜く。こうすることで、少しでも緊張を和らげるのだ。

 再び息をすって、一歩前へと踏み出した。

 奥へ奥へと進むたびに、何かの気配が濃くなる。

 アリアと戦った時に似た気配を感じた。

 いる、と私は確信した。この奥にいるのは間違いなくシークレットボスだ。

 パーティーメンバーの様子をちらりと確認すると、皆の表情は硬い。

 全員、この奥にいる何かに警戒していた。

 木々の間を抜け、獣道のようなわずかな細道を進んでいるのだが、

不思議と方向が分かる。

 足を止めようとして、ふと、身体が勝手に動いていることに気づく。

 

 ――これ、イベントだ!


 私はぎょっとして辺りを見渡そうとするが、無駄に終わる。

すでに視点も固定されていて、身動きが取れなかったからだ。


『かぼかぼかぼ……』


 不気味な唸り声が辺りにこだました。


『かぼかぼかぼかぼ……おやぁ? おやおやぁ?

 誰だぁ? こんな森の奥まで入ってきたやつぅ。だーれーだぁ?』


 ねっとりとした低い声だ。声の主はこちらに気づいたらしい。

 背筋が寒くなるような視線が体中に纏わりつく。


『かぼの友達の気配がするなぁ……かぼかぼかぼ。

なぁんでぇー? どぉしてぇ、君の身体からぁー。かぼの友達の気配ぃ???』


 ねっとりとした声の主の視線と殺気が私に向かっていた。

 かぼの友達? 知らないんですけど。そんなの。

 イベントが進行して、巨大な枯れ木がそびえ立つ広間まで誘導される。

 空はオレンジ色に染まり、無数のコウモリが飛び交う。

 頭上に浮かぶ月は、まるで影絵のように真っ黒に染まり、不気味な笑い顔が映っている。


『ようこそぉー、カボチーンパーティー会場へようこそぉー。

君達はぁーお客様かなぁ? それともぉー食材かなぁぁぁぁ?』


 かぼかぼかぼと高笑いしながら、枯れ木の上に何かが姿を現す。


『>強い気配を感じるおん! 危険な敵だおん! 注意するおん!』


 おんちゃんが警告を発した。言われなくても、ヤバいヤツだと分かる。

 しかも、なぜか分からないけど、ヤツは初めから私に狙いを定めていた。


「向こうさんはどうもヤル気満々じゃねぇーか」


 カボックさんが炎のバトルアックスを構え、前方を警戒する。


「そうね。なんかくぅーねるちゃんを睨んでるみたいだけど」

「油断しないようにしましょう。後ろは任せてください」


 シーラさんがスティレットを構えて、私を庇うように前へ進み出た。

 銃を構えて、後方の守りをマイルさんが固める。


「気をつけてね。

 あれ、たぶん通常時よりステータスが強化されてる気がする」


 特に武器を構えるでもなくいつも通りの立ち姿で、ルゥリヒトが警告してくる。

 その姿に油断は一切なく、いつでも武器を抜ける状態であることがうかがい知れた。

 

「……分かりました」


 ペティナイフを掴んで、枯れ木の上のそいつを睨み返す。

 称号によるステータスの上昇を感じ取る。そのことから、奴は明らかに格上の存在だと

改めて認識させられた。

 私が想定していた中で、一番最悪のパターンだ。しかもステータス強化状態らしい。

 

『かーぼの名前はぁー「南瓜王カボチンヘッド」ってぇ言うんだぁー』


 ボスの名前が告げられたのを合図に、イベントが終わり戦闘可能状態になった。


「それはどうも! ご丁寧にありがとう緑南瓜さん!」


 私は枯れ木の上に浮かぶそいつに向かって叫ぶ。

 黒いマントに古木の身体。ハロウィンに出てきそうな南瓜のお化け、

それがシークレットボス「南瓜王パンプキングカボチンヘッド」の正体だった。

 ただし、肝心の頭部の南瓜はジャックランタンで良く使われるオレンジの南瓜ではなく、

煮物などに入っていそうな緑色の南瓜なので、かなり雰囲気をぶち壊していた。

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