34品目:決断
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「はぁ。結論からいうとシークレットボスの場所まで案内出来るから、
一緒に行ってほしいんだよね。ついでにそのアリアドネの香糸で休憩所も作って欲しい」
ルゥリヒトはがっくりとした様子で、私たちの前に現れた目的を告げた。
残念そうにチラ見しても、耳は触らせないからね。
ルゥリヒトの申し出に、マイルさんがきらきらと目を輝かせている。
さて、どうしたものか。
「1つ聞きたいことがあるわ」
「どうぞ。1つと言わずいくらでも質問は受け付けるよ。答えられる範囲で返答もする」
シーラさんの問いに、ルゥリヒトはそう答えた。
あのすごい眼光で睨まれてるっていうのに、ルゥリヒトは余裕そうである。
「ふん。一緒に行ってほしいっていうのは、パーティーを組んで欲しい。
そう言う意味で言ってるのよね?」
「うん。そうだよ」
「……貴方ほどの腕を持つ人が、どうして私たちと組む必要があるの?
正直、貴方の実力は私やカボックよりも上……ここのシークレットボスくらい、
1人で倒せるんじゃないかしら? それも余裕を持って倒せるはず。
わざわざパーティーを組む意味が分からないし、休憩所も必要ないんじゃないかしら?」
シーラさんやカボックさんよりも実力が上!?
やはり、強敵がうようよいるフィールドを正攻法で通り抜けて来たのかな?
もしかして、お母さんと同格……いや、何かあのお母さんにはまだ到達してない
感じがするわ。お母さんの実力は未知数過ぎるし。魔王だし。
「うーん。パーティーを組んだ方が面白そうだから」
「はぁ?」
「とかじゃあ、駄目かな?」
シーラさんがますます厳しい目つきをルゥリヒトに向ける。
混沌鍋め、シーラさんに対しても自分のペースに引きずり込もうとするなんて、
やっぱり真っ黒黒な性格してるわ。
「ま、それは冗談さ。半分ね」
半分だけか! もう半分は本気だったんだ!
「パーティーを組みたい理由は、ここのシークレットボスはソロでは攻略不可能だからさ」
「パーティー専用ってこと?」
私がそう聞くと、ルゥリヒトは嬉しそうに頷く。
「そうそう。話が早くて助かるなぁ」
「くぅーねるちゃんに近づかないで、この変態!」
ルゥリヒトが私の頭を撫でる前に、シーラさんが間に割り込んで制止する。
手はいつでも抜けるように、短刀の鞘を握りしめている。
「変態とは心外だよ。僕はあくまで紳士的に接してるつもりさ」
変態=紳士じゃないの?
「休憩所を作って欲しいのは、僕じゃなくて、君たち用に必要なんだ。
見たところ、戦闘帰りっぽいし、結構消耗してるんじゃないかな?
パーティーを組むからには、メンバーの状態にも気をかけるのは当然だ。
お互い万全な状態で挑みたいだろ?」
ルゥリヒトの言い分は至極まともなものだ。
「シーラさん、落ち着いてください。彼の言っていることに不審な点はありません。
パーティーを組んでもいいのではないでしょうか?」
「そりゃ、学者先生がシークレットボスとアリアドネの香糸の効果を確かめたいから、
そう思うだけでしょ!?」
間に入ってきたマイルさんにシーラさんが噛みつく。
「我々の利害は一致してます」
マイルさんは感情的になっているシーラさんに対して冷静にそう述べた。
「ルゥリヒトさんはシークレットボスが倒したい。
僕もシークレットボスが倒したい。そしてアリアドネの香糸の効力を確かめたい。
カボックさんとシーラさんも、出来ればシークレットボスを倒したいと
思ってるはずです」
マイルさんの指摘は図星だったようだ。
シーラさんがむすっとして、「そりゃそうだけど」と口ごもる。
出発前はシークレットと騒いでいたし、珍しいボスがいたら、
立ち向かうのが冒険者の性ってやつなんだろうな。
「だがよマイル。お嬢ちゃんは違うだろうよ。
くぅーねるのお嬢ちゃんは安全に出来るだけ早く素材を両親に届けたいって
言ってたじゃねぇか。それに俺らのパーティーリーダーはくぅーねるお嬢ちゃんだ。
最終決定はくぅーねるお嬢ちゃんにあると思うぜ」
今度はカボックさんがシーラさんとマイルさんの間に入りそう諭す。
「シーラもマイルも頭を冷やせ。
そんなんじゃ、仮にルゥの坊主がパーティーに入ったとしても、迷惑かけるだけだぞ?」
流石はカボックさん。シーラさんとマイルさんがそろって黙ってしまった。
長年パーティーを組んで来ただけあって、仲違いの仲裁に手慣れているなぁ。
あとさらっと「坊主をパーティーに入れてボス戦したいぜ」っていう希望を
混ぜ込んでくるあたり、油断ならないわ。
「ご、ごめんなさい。ちょっと熱くなってたわ」
「僕のほうこそ! 申し訳ありません」
カボックさんに仲裁され、2人はしゅんとうなだれ反省する。
「おう気にすんな!」とがははと豪快に笑うカボックさん。器が広いなぁ……。
「というわけだ。くぅーねるお嬢ちゃん。
最終決定は嬢ちゃんに任せる。決断してくれ、『リーダー』」
皆の視線が私に集まる。
私は手をぎゅっとにぎりしめ、しばらく考え込む。
『リーダー』と呼んだカボックさんの言葉がじんと胸に染みこんできた。
カボックさんも、ルゥリヒトに負けず劣らずの策士じゃないかと苦笑する。
この状況で、答えられる回答は1つしかない。
私はしょーがないなと心の中で呟きながら、皆にこう告げた。
「ルゥリヒトさんをパーティーに入れて、シークレットボス討伐をしましょう。
折角、高レベルの冒険者に会えたのに、倒しに行かない道理はないでしょう」
カボックさん、シーラさん、マイルさんから歓声が上がる。
ルゥリヒトも「流石くぅーねるちゃんだ」とにこにこ笑っていた。
「ありがとう、くぅーねるちゃん。今、申請を送るよ」
『>プレイヤー「ルゥリヒト・マイス」からパーティー加入申請が来てるおん。
パーティーに加えるおん?』
「『はい』っと。パーティーインしたからには、がんがん戦ってもらいますから。
私の分まで頑張ってください」
「はは、人使いが荒いなぁ。ま、期待には添わせてもらうよ」
『>プレイヤー「ルゥリヒト・マイス」がパーティーに加わったおん。
リーダー「くぅーねる」とのレベル差があり過ぎるため、
「ルゥリヒト・マイス」のレベルを制限するおん』
あらら、制限がかかるなんて、一回りレベルが離れてるんだな。
「レベル制限がかかってしまうんですけど、大丈夫ですか?」
「んー? ああ、問題ないさ。
むしろ、制限付きでボス戦するほうがさ、スリリングで面白くない?」
「面白くありません」
私は安全第一プレイタイプだから、律子みたいに低レベルでクリアしたり、
何かしらの制限を付けてプレイしていくスタイルは無理。
こいつ、律子と気があうんじゃないかな。ロリコンだし。
「じゃあ、パーティーも組んだことだし。ボスのところまで案内してください」
「OK。ちょっと待ってね」
ルゥリヒトはそう言うと、アイテムポーチから紙切れのような物を取り出す。
「地図ですか?」
「ちょっと、違うけど。似たようなものだよ。
……うん、こっちだ。じゃあ、僕が先導するから着いてきてね」
私たちはルゥリヒトを先頭に森の奥へと歩み始める。
途中、何度か戦闘に当たったが、ほとんどルゥリヒトとシーラさんで
殲滅していった。おかげで私とカボックさんとマイルさんは暇だ。
ルゥリヒトは長剣を操り、敵を素早く切り捨てている。スピード型の剣士らしい。
その速さは制限を受けているというのに、シーラさんと互角だった。
いや、ややルゥリヒトの方が上みたいだ。シーラさんが悔しそうな顔をしている。
そうこうしているうちに、禍々しい気配を放つ、入口が見えてきた。
入口付近に、綺麗な水があふれ出ている水場が見えた。
「さぁ、ここだよ」
ここが南瓜公園の最深部か。
私はごくりと息を飲み込む。辺りの雰囲気もずいぶんと異様な物へと変わっていた。
黒い木には人の顔のようなものが映り、けばけばしい赤と黄色とオレンジの葉が
さわさわと揺れている。地面を見ると、茨やツタがぼうぼうと伸びている。
あちこちで、奇妙な顔をした南瓜がにょきにょきと生えていた。
キキキッと鳴いて木々の間を飛び交うのは、鳥じゃない。たぶんコウモリだろう。
何か色々採取していきたいなぁ。
とりあえず休憩所を作って、今後の作戦会議と行きますか。
私は道具袋からアリアドネの香糸を取り出すと、休憩所作りを開始した。




