33品目:探索の再開とまさかの再会!?
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『では気を付けてもぐ。ご達者で!』
「おう! アンタらもこれから頑張ってくれよ!」
帰りは再びモングさんに穴を掘ってもらって無事地上へと帰還した。
いやー、下に穴を掘ってもらって、そこから飛び降りたはずなのに、
地上から飛び出すってなんか奇妙な体験だった。異次元ワープって感じ?
王の体調が無事に戻ったとはいえ、イモワームの女王の怒りは収まっていない。
モグーラパンとイモワームたちの間には、これから長い戦いが始まるだろう。
カボックさんがそれを指摘すると、モングさんは笑いながら「なんとかなりますもぐよ」
と言う。強がりでも何でもなく、彼らはなんとかするのだろう。
出来なければ、種が滅ぶだけだとモングさんは気楽にそう言っている。
弱肉強食の世界を生きる彼らに、私たちから言えることは何もなかった。
――縁があったらまたどこかで。
そう心の中で思いながら、私たちはモングさんを見送った。
***
「うーんと、何か寄り道しちゃったんけど、材料は集まったのかしら?」
えっと、ちょっと待ってね。シーラさんに言われて、私はあわてて素材リストを見直す。
キャロラインの根、イモワームの頭、小ネギカモ……きちんとあるな。
……って、ああ! 肝心な物を忘れてた!
「ご、ごめんなさい! 湧水をくんでこないといけないんでした」
「あ、本当ね! すっかり忘れてたわ。思い出して良かった」
じゃあ、水場に行きましょうかと提案するシーラさんの声を遮って、
マイルさんとカボックさんが大声を上げた。
「し、しまったあぁぁぁ!!」
「すまねぇ!! お、おれが寄り道をさせたばっかりに!!」
なんかただならぬ様子だけど、何があったの?
「あ、ありあどねの……香糸の効果が……切れてしまっているようで……」
……え、本当に? あー、本当だ。
フィールドが切り替わったから、効果が切れちゃったのか。
でも、あくまで素材採取が目的だし、シークレットボスはもういいんじゃないかな。
水くんで帰ろうよ。私がそう提案すると、今度はシーラさんまでも暗い顔になる。
何かイヤーなパターンが来そうな予感がするんですけど。
「湧水って……最深部にある水場からくめるのよ」
最深部……ってボスエリア!? み、水のくせに難易度高くない?
「ああ、水場自体はボスがいるエリアの手前にあるから大丈夫よ」
な、なーんだぁ。よ、良かった。ボスを倒さないと水をくめないかと思ったよ。
じゃなくて、アリアドネの香糸が切れたらそこまでいけないじゃん!
……待てよ? まだ少しあるんだっけ。アリアドネの香糸。これを使えばいいのでは?
「し、しかし……残りを使ってしまうと、休憩所が設置できなくなりますよ?」
う、うーん。設置するとこを見てみたい気もするけど……ボス戦に行くわけでもないし。
素材を集めるほうを優先したい。私は3人にそう提案する。
「そうか、せっかくのシークレットだが、お嬢ちゃんがそういうなら俺は従うぜ」
カボックさんがそう言って私の意見に賛成した。
まさか、あっさり引いてくれるなんて。とても意外だった。
「私もくぅーねるちゃんの意見に賛成よ。シークレットは確かに残念だけど、
モグーラパンのところで思いっきり暴れたしね」
シーラさんも私に賛成してくれた。
なるほど、イモワームで力を発散したから素直なんだな。
そうすると、一番渋り顔なのはマイルさんだ。
ドラマの一番良いシーンでチャンネルを変えられた母のような、苦渋の表情を浮かべている。
ごめんね。マイルさん……。これは仕方ないんだよ。
私はこれ以上引き留められないうちに、アリアドネの香糸を使ってしまうことにした。
「ああ!! ま、待ってください!!」
マイルさんが必死に待ったをかけるが、カボックさんとシーラさんが2人がかりで
マイルさんを押さえる。
「嬢ちゃん! 使っちまえ!」
「この学者先生は押さえてるから、早く!!」
私は2人に感謝して、道具袋からアリアドネの香糸を取り出す。
アリアドネの香糸が入っている瓶の蓋を開けようとして、
「ちょっと、待ってほしいな」
誰かの声がした。背後から手がするりと伸びてきて、私の手をぎゅっと握り、
アイテムの使用を妨げてしまった。
マイルさんではない。目の前で、2人に取り押さえられているから。
一体いつから!? 私は驚いてぱしんと手を振りほどくと、ばっと後ろを振り返る。
気配もなく真後ろまで接近してきた相手の顔は、どこかで見たことがあった。
「やぁ。また会ったね、くぅーねるちゃん」
爽やかな笑顔。青色の束ねられた長い髪。ぴょんとするアホ毛。
バックラーと長剣を装備した青年がしゃがんだ状態で笑みを浮かべていた。
この国では、見かけないはずのヒューマンのプレイヤー。
思い出される忌々しい記憶の数々。
「このっ……『真っ黒黒な混沌鍋』め!」
「えっと、なんか『真っ黒黒な混沌鍋』っていう称号を取得しちゃったんだけど、
どうしてくれるんだい?」
し、知るかそんなの!! ざまーみろ!!
「まぁいいけどね。でもこんな遅くまでプレイしてるなんて、君も廃人かい?」
青年に指摘され、はっと時計を確認する。
……うおお、深夜回ってる。いやー明日が休みで本当に良かった。
2日連続遅刻とかしゃれになんないよ。
「さしずめ、明日は休み組と言ったところかな」
「さ、さぁ? どうでしょうね?」
青年お得意の誘導尋問に引っかからないように、はぐらかしてみる。
すると、青年に噴出されてしまった。へ、下手くそな演技ですみませんね!!
「はは。相変わらずで何よりだ。それよりも、君のパーティーメンバーからの
殺気がすごいんだよね。何か誤解を与えてるようだから、解いてくれると嬉しい」
言われてカボックさんたちの方を振り返ると、ものすごい形相で青年を睨んでいる。
非常に癪だけど、一応誤解は解いておこう。
私はカボックさんたちの方へ向かい、このヒューマンとは一応知り合いであることを
説明する。渋い表情は変わらないが、幾分か殺気が引っ込む。
シーラさんは「なんか幼女の敵って感じがして、いけ好かない」とぶすっとしていた。
律子とシーラさんが顔を合わせたら修羅場が起きそうだ。
「で、何のようですか?」
なぜここにいるのかとか、どうして邪魔したのかとか、
頭撫でるのやめろとか、耳を引っ張るなとか色々言いたいことはあったけど、
ぐっと堪えて、青年の目的を聞き出す。
「中々可愛いアクセサリーだよね、この耳」
「ひゃ! く、くしゅぐったいので止めてくださいっ!!」
これ、着け耳のくせに、装着したら普通の耳みたいに痛覚とかを
感じれられるようになるという、無駄にハイテクな仕掛けになっていた。
ふにふにと触られると、くすぐったいようなむず痒い感覚に襲われる。
慌てて、耳でパシンと青年の手を払いのける。
「……この、ロリコンヒューマンがっ……。
私のくぅーねるちゃんに破廉恥なマネしやがって……」
シーラさんコワイです。あとさりげなく私を所有しないでください。
「それで、何の用なんですかっ!!」
「ごめんごめん。真面目に話すよ」
青年はまいったと言わんばかりに降参のポーズを取り、謝罪する。
ぐ、騙されないぞ。こいつの心は混沌鍋なんだ。用心しないと。
「まずは自己紹介させてほしい。君からは名前を聞いたけど、
僕の名前は言いそびれちゃったからね」
あ、そうだっけ……? 私、名乗っただろうか?
あの時は色々バタバタしてたから、あまり覚えてないけど、そうかもしれない。
なんか、律儀な人だよねこの混沌鍋。混沌鍋のくせに。
「僕の名前はルゥリヒト・マイス。種族はヒューマン。職業は見てのとおり」
そう言って、ルゥリヒトは剣を軽く叩いてみせる。
……恥ずかしい名前だな。(おんちゃんが人のこと言えないおんって言ってるけど無視)
なんてことを考えていると、ルゥリヒトはとんでもない爆弾を投下した。
「親しみをこめて、ルゥお兄ちゃんって呼んでほしいな。ルゥお兄ちゃまでも可だよ」
カボックさんとマイルさんが残念な人を見る目で、ルゥリヒトを見た。
シーラさんが思わず短刀を抜いている。
私は頭が痛くなるのをぐっと堪えると、
「ルゥリヒトさんですね」
「…………つれないね」
ルゥリヒトはすごく……ものすごーく残念そうな表情で溜息を吐いた。
いや、溜息を吐きたいのはこっちのほうだよ!!




