表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/68

32品目:王の生還

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 薬を全て食べきった私は、腹から沸き起こる苦痛で一歩も動けなかった。

 周りが「何があったもぐ?」「王はご無事かもぐ!?」「こいつ、なぜ薬をもぐ!!」

などと騒がしい。

 私はスキルを使って王に薬を摂取させることに成功した、だから効果が出るまで待ってと

言いたかったが、身体がまるで動かない。

 どうしよう。これ、王の腹痛だけが原因じゃない。スキルの反動か。

 もっと、詳しくおんちゃんに聞けばよかったか……。

 いや、あの時は精一杯でこれしか方法がなかったんだ。

 とにかく、今は耐えないと……ここで王の胃袋を手放しちゃ、全てが無駄になる。


『そいつを殺せもぐ!! 王の薬を台無しにしたもぐ!!』

『そうだ! こいつのせいで!! やはり人間など信じるべきじゃなかったもぐ!!』

『王の敵討ちだもぐ!! 殺すもぐーー!!』


 1匹が騒ぎ出すと、次から次へと恨みの念が広まり出す。

 マイルさんが慌てて、制止の声を上げた。


「待ってください! 彼女はスキルを使用したのです!! おそらくは王を助けるための

ものでしょう!! 落ち着いてください皆さん」


 必死に説得するものの、もぐーもぐーと怒りの唸り声は高まる一方だ。

 モグさんもモングさんも、マイルさんと一緒にモグーラパンたちを沈めようとするが、

勢いに押されている。

 私は必死で王の胃袋を掴んだままぐっと堪える。もう少し時間を……。

 薬の効果が表れるまで時間がほしい。そのあとはどうなってもいいから。


『…………静まるもぐ』


 全身を揺さぶるような低い声が辺りに響く。

 モグーラパンたちは一斉にぴたりと動きを止めて、しんと静まり返る。

 寝床に横たわっている巨大な王の身体が、微かにだが動いたような気がした。


『いつから、モグーラパン族は恩を仇で返すような外道に落ちたモグ?』


 王の口元が動いている。

 よくよくみれば、小さな小さな瞳がぱちりと開いているではないか。


『おお……偉大なる我らが王よっ!! 死の淵より蘇られたもぐか!!』


 モンモさんが慌てて王に駆け寄ると、涙ながらにそう答えた。

 周りのモグーラパンたちも、モンモさんの言葉を聞くと、その場で頭を低く下げる。


『モンモよ……その小さな娘は、我に代り我に良薬を与えてくれたのだもぐ』

『な、なんと。この人間の娘がもぐ!?』


 モンモさんは驚愕に満ちた表情を浮かべる。周りのモグーラパンたちも驚きを隠せないようだ。


『この小さな娘が持つ胃の……なんと強大なことかもぐ。

まるで、神の胸に抱かれているような感じであったもぐ。わしの胃のなんと矮小なことかもぐ……。イモワームの毒気ごときで倒れるとは……』


 何せイーターマンだからね、胃の容量無限は伊達じゃないよ。

 幾分、気分の悪さがマシになったので、私は首を捻って王の方を向く。

 まだ起き上がるのは億劫だったからだ。


『娘はな、わしの胃を必死と掴み、強大な胃と繋ぎ合わせたのだもぐ。

そして、わしと娘の胃は1つとなり、娘はわしに薬を与え続けてくれたのもぐ……。

まるで母上のように、優しく薬を与え続けてくれたのだもぐ』


 王の身体からどんどん毒気が抜け出し、微弱だった気配がもとに戻っていく。


『神官たちよ、よくぞわしの命を留め置いてくれたもぐ。礼をいうもぐ』


 王の言葉に神官たちは、もぐーと深く深くひれ伏し『よくぞおかえり下さいましたもぐ』

と言葉を口にする。


『モグとモングも……薬を手配してくれたのだな。良くやったもぐ』

『は、ははー!! お、王がご無事でよかったもぐ! へ、へへぇーもぐ』

『ご無事で何よりですじゃもぐ。じゃが、王の主治医として、今後は勝手な摘み食いは

厳しく制限させていただきますぞもぐ!!』


 モングさんは慣れない敬語に四苦八苦しながら、受け答えする。

 モグさんは、無事の喜び半分、王へのお説教半分と言った様子だ。


『娘……くぅーねると言ったか、それにそっちの男……マイルと言ったなもぐ。

そなたらの助けのおかげで、こうして蘇ることが出来たもぐ』

「はっ。王がご無事でなによりでございます」


 素早く身なりを正すとマイルさん。

 お手本のように流れる仕草で頭を垂れて王に返答した。

 おっと、私も寝転がってちゃ失礼だよね。よいっしょ……うう身体が重い、なんで?

 私もマイルさんを見習って返事をしようとするが、身体がひどくだるくて思うように動かない。


『くぅーねる。無理をするでないもぐ。まずはわしの胃とお前の胃の融合を解けもぐ』


 え、でも王は平気なのかな? 私が心配して王を見ると大丈夫だと言われる。

 ちょっと、心配だが、


「『リリース』」


 私は掴んだままだった王の胃を解放してやる。すると、不思議なことにすっと

身体のだるさが抜けている。あともう少しすれば身体も起こせるようになりそうだ。


『そのスキルは本来、わしのような魔物に使うものではないもぐ。

本来の用途以外の方法で使用されたため、お前の負担になっていたもぐ』


 ……そうなんだ。じゃあなんで使えたんだろう? イベントで特別に発動したとか?

 まぁ、とにかく王の容体が良くなってよかった。私はほっとして胸を撫で下ろす。


『ふむ。だいぶ身体が軽くなったようだもぐ。どれ……』


 王がふんと力を込めると、のそりのそりと寝床から起き上がる。

 モグーラパンたちが一斉にもぐーもぐーと歓声を上げた。


『お、王! 無理はいけませんぞもぐ!!』

『……大丈夫だもぐ』


 それよりと続けて、王はどこか遠くを見つめるような目で、空を睨み付ける。


『やれやれ、わしが眠っているあいだに、イモムシどもが勝手をしているもぐな?』


 力を取り戻した王は、自分のテリトリーに侵入者がいることをいち早く見抜く。


『も、申し訳ありませんもぐ! 我らの力が不甲斐ないばかりにっ!!』

『よいモンモ。わしが倒れたのがそもそもの原因もぐ』


 そういう王の身体には、光の粒子がふわりと浮かび上がる。


『だが、身体が戻ったからには、好き勝手にはさせんもぐ』


 ――もぐおおおおおおおお!!!


 モグーラパンの王が高く高く咆哮する。

 部屋全体が揺さぶられ、地面がぐらぐらと揺れる。天上にひびが入っていく。


『も、もぐ!?』

『もぐーーー!!』

「わわわ! またですか!? うわああああ!!」


 ……そんな咆哮をあげられたら、立ってなんていられないだろうな。

 私は再び地面にばったばったと倒れる、マイルさんとモグーラパンたちを見ながら、

倒れたままで良かったと密かに思った。

 この咆哮は、先ほどまでの苦しみの咆哮とは全く違うものだった。

 王の身体からは、覇気に溢れた光の粒子がきらきらと舞っている。

 覇気は波動となり、地下全体、モグーラパンの住処全体に広がり、

隅々まで行き渡っていく。


『…………これでイモムシどもは去っていくだろうもぐ』


 そう言ったモグーラパンの王はどこかすっきりとした顔をしていた。

 今まで溜まっていた鬱憤を全てぶつけたぞと言っているように見える。


『そ、それはよかったですわいもぐ』


 モグさんがぴくぴくと地面に倒れながらそう告げた。


 ***


 王の調子が良くなるのを待って、私とマイルさんは王座の間まで案内された。

 王座の間には、カボックさんとシーラさんが先に待機していた。

 どうやらうまいことイモワームを追い払うことに成功したらしい。

 なにやら増援が来て、ちょっとピンチに陥ったらしいが、突然地面を揺らすほどの

雄叫びが聞こえたと思ったら、相手は慌てふためいて逃げて行ったらしい。

 カボックさんとシーラさんから事情を聴き終えた私たちは、

王が復活した経緯を説明する。


「はー、なんだかそっちもエライ大変だったみたいだな?」

「結局のところ、食べるで解決しちゃう辺り、くぅーねるちゃんらしいわよね」


 そ、そんなことはないでしょ。ちゃんと薬を調合して真っ当に解決したもん。

 しばらく雑談をしていると、モンモさんがもぐもぐとやってきた。 


『お待たせしましたもぐ。王が来られます』


 私たちはおしゃべりを止め、王座の方を向く。

 すこしして、巨大なモグーラパンの王が王座へとやってきた。

 巨大な石を削って造られた王座に座ると、私たちは一斉に頭を下げる。


『面をあげるもぐ。そなたたちは恩人もぐ』


 王から許可を得て、私たちは顔を上げた。


『そなたら4人のおかげでモグーラパン族は危機から脱したもぐ。礼をいうもぐ』


 私たちは深く深く礼をして、もったいないお言葉ですと返答する。


『して、約束していた品があったそうだな。それを取って遣わす。

モンモ、あれを用意しろもぐ』

『ははっ! 衛兵! あれを持ってくるもぐ』


 兵士たちは持ってきたのは、台車にたんまりと詰まれたキャロラインの根と

それからイモワームの頭だった。


『こちらが約束の品ですもぐ。どうぞお納めくださいもぐ』


 予想外の量に戸惑うが、ありがたくもらっておく。これでお父さんに頼まれた素材は

全部そろった。この量なら追加のおこづかいも貰えそうだ。


『……そして、くぅーねる。そなたはわしの命の恩人でもあるもぐ。

よって特別にこれを取らせる……さあ、こちらへくるもぐ』


 思わぬ、追加報酬に私はぎょっとする。

 カボックさんたちの方を見ると、行って来いと笑顔で頷いている。

 私は立ち上がると、王のそばに寄る。


『これを……もぐ』


 ちょこんと私の頭に何か乗せらる。

 なぜか王の顔に赤みが差していた。どうしたんだろう?


「こりゃあ……」

『もぐー!!』

「なんと……」

「か、可愛い……」


 なんか後ろからひしひしと視線を感じる。特にシーラさんから。

 一体、何を私に渡したの?

 ふるふると頭を動かしてみると、長い白い物体がふるんと視界に入った。

 ……これって、モグーラパンの耳?


『>「王妃様の耳はモグーラパン(SR)」入手したおん』


---------------------------------------------------------------------------------------

 アクセサリー(その他)「王妃様の耳はモグーラパン(SR)」

 モグーラパンのふわふわの耳をモチーフにしたアクセサリー。

 装着すると、耳がモグーラパンの耳に変化する。 

 モグーラパンの王が昔思いを寄せていた雌のモグーラパンの耳がモチーフになっている。

 身分違いで一緒にはなれなかったが、その思い出は永遠に変わらない。

 DEF25 MDF25 装備固有スキル「モグーラパンイヤー」「モグードリル」

 ※「モグーラパンイヤー」:遠くの音が良く聞こえるようになる。

              モグーラパン語が分かるようになる。

  「モグードリル」:耳をドリル状に変化させ、壁や地面を掘ることができる。

----------------------------------------------------------------------------------------


 その説明文を見て、あわてて自分の元の耳の部分を確認するが、何もない。

 代りに頭近くに長いモグーラパンの耳がにょきっと生えていた。

 まるでロップイヤーのようなへたりとした垂れ耳だった。


「な、なにこれぇーーーー!!」


 私は王の前だということも忘れ叫び声をあげていた。


『よく似合っておるぞもぐ』


 うるさい! なんだこの耳は!! 何の罰ゲームなの!?


『もっぐっぐっぐ。なんて愛らしい娘さんじゃもぐ』

『す、すげー美モグだもぐなー。ほれちまうもぐ』


 やかましい! 美モグってなんだ。


「可愛いなぁ」

「可愛いわね!」

「か、可愛いと思います」


 この、かしまし共っ!! だったら、皆も付ければいいじゃない!!

 ……ひとしきり、皆に弄られたあとで、装備を外せば元に戻ると聞いて少しほっとした。

 SRという破格な装備だし、スキルは有用そうなので使うけど。

 とりあえず、律子と中央で会うときは絶対にはずしておこうと心に誓った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ