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31品目:共有する第一胃

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 王宮へと足を踏み入れる前に、番兵に呼び止められる。

 戦えるものは全て地上に行ったといっても、流石に王のいる場所まで

手薄にするわけにはいかないので、こうして何名かは残っているようだ。

 さっそくモグさんが事情を説明すると、驚くほどあっさり許可がおりた。

 モグさんが『まぁ非常時ですからなもぐ』と言う。

 王宮の中に入ると、何やらモグーラパンたちが行ったりきたりと騒がしい。


『あれらは手伝いの者たちですじゃ。調合は出来ませんが、

下ごしらえを手伝ってもらっておりますもぐ。

恐らく、材料を取りに倉庫と調理場を行ったり来たりしてるんでしょうもぐ。

あわただしくて申し訳ありませんもぐ』


 さぁさぁこっちですぞもぐ。とモグさんに急かされて、私たちも足早に調理場の方へと駆ける。

 岩壁で出来た廊下を進むにつれて、何やらニンジンの匂いが漂ってきた。

 奥に進めば進むほど、ニンジンの匂いが濃くなっていく。

 おそらく、薬調合されているキャロラインの根の匂いだ。

 ここですもぐと案内された部屋に入ると、中はすごい熱気とキャロラインの根の匂いが

充満していた。思わず鼻を押さえてしまう。

 1匹のモグーラパンがこちらに気づいたのか、駆け寄ってきた。


『モグ様! それにモング様! ようやく来たもぐ!!

むむ? 後ろにいるのは人間かもぐ!?』


 調理場を見渡すと、何十匹というモグーラパンがもぐもぐと作業をしていた。

 キャロラインの根を洗い、湯に通すもの。茹で上がったキャロラインの根を湯から上げて、水で冷やすもの。そして、それらを刻む者など。

 ぐつぐつと煮込む鍋のほうでは、鍋をぐるりと取り囲み『もーぐもぐもーぐもぐ♪』

と歌(?)を歌うモグーラパンたちもいる。

 マイルさんが「あれは呪歌? いや祝福に近いな。ふぅむ。興味深い」などと

行っているが、モグさんの声で遮られた。


『この2人は調合が出来るもぐ! わしとモングの手伝いをしてもらうんじゃもぐ!!』


 敵ではないから安心せいもぐ。というモグさんの言葉で、モグーラパンが警戒を解く。

 しかし、その表情は険しい。


『そうか……人間よ。私はモンモ=グパンと言うもぐ。ご助力感謝するもぐ』

「なに、困ったときはお互い様ですよ、モンモさん」


 私ももらえるものがもらえるなら問題ない。調合のスキルもあげられるし、

一石二鳥だしね。それにモンスターの住処に行くなんて、

なかなか体験出来ないイベントだろうし。

 ……モグーラパン食べ放題が出来ないのは残念、とか思ってないからね! うん。


『モグ様。帰ってきて早々なのですが、悪いお知らせがもぐ……』

『それは、畑が荒らされたことと何か関係があるかもぐ?』


 モグさんの指摘に、モンモさんが驚いて耳をピンと張りつめる。


『は、畑がもぐ? まさかそこまでイモワームどもが侵入を!?』

『そうじゃもぐ。薬の材料はどうじゃ? 無事もぐ?』

『な、なんとかなってるもぐ。皆にはなるだけ食事を切り詰めてもらったおかげもぐ。

 でも、そんな……イモワームがこんな近くに……』


 モンモさんの顔色が悪くなる。モグさんはしっかりせんかもぐとモンモさんを叱った。


『わしらが諦めたら終いもぐ! 気をしっかりしろもぐ!!』

『す、すみませんもぐ。王の容体が悪化したと聞いて、取り乱したもぐ』


 モグさんは険しい顔で、『やはりかもぐ』と呟く。

 イモワームがかつてないほど近くに現れたのは、王の容体が悪化したからだったのだ。


『神官たちに聖歌を歌わせるほど思わしくないということかもぐ』

「聖歌?」

『モグーラパンに伝わるっつー歌なんですもぐ。まぁ子守唄みたいなもんなんですもぐ。

それが、神官たちが歌うと強い癒しの効果を発揮するんもぐよ』


 モングさんが『あの鍋の前で歌っとるんが神官もぐ。やれやれ普段すかしてる連中が、

まさか鍋の前で聖歌を歌う日が来るなんてもぐ』とこぼしながら、説明してくれた。

 あの「もーぐもぐ」という歌……聖歌でキャロラインの効能を高めているらしい。


『王自身へも聖歌を聞かせておりますもぐ。一刻も早く薬を飲ませなければもぐ!!』

『まかせておけ。モング! ぼさっとしとらんでさっさと調合に取りかけれもぐ!』

『わ、わかったもぐ』

『マイル殿、くぅーねる殿! 手早く手順を教えますゆえ、調合に取り掛かってください』


 私たちは実際にモグさんに1つ調合してもらい、手順を覚える。

 覚えたところで、レシピを手渡された。

 よし、メニューから、オートで薬を作成すれば、多少効果は落ちるかもしれないが、

あっという間に終わるだろう。

 ん、待てよ? オート半分、マニュアル半分で作れば、効果の低下を防げるかも?

 私は「ミス・キャロラインの秘薬」という書かれたレシピを使用し、

作り方を覚えると、さっそく調合に取り掛かった。


 ***


 秘薬を大量に詰め込んだ鍋が調理場から出ていく。その数は10個ほど。

 あの秘薬は水薬かと思いきや、固めた丸薬だったのだ。

 熱を冷ましたり、丸く成形したりとずいぶん時間が掛かるわけだ。

 私は、熱を冷ます部分と丸くする部分をオートで作成することで、調合時間をぐっと短縮

することに成功した。危惧された効果の低下もなかったのでほっとする。

 マイルさんはというと、全く心配いらなかった。

 実に見事な手際で、しかもNPCなのでメニューから作成などしていないのだが、

私に劣らぬ速さで調合をしていった。プロって違うなと思い知らされた感じだ。

 結果、ずいぶんと早く薬を完成させることが出来たのである。

 モングさんは、『やっぱ私が見込んだとおりですもぐ!』と飛び跳ね。

 モグさんははらはらと涙を流して『ありがたいもぐ』と感謝している。

 その場にいたモンモさんを含む手伝いのモグーラパンや神官たちまで、

しきりにもぐもぐと感謝された。


「まだまだ、気は抜けません。この薬を王に飲んでもらって、

早く体調を良くしてもらわないと」


 マイルさんがそういって、モグーラパンたちを落ち着かせると、

モグさんの号令のもと、丸薬がたっぷりと詰まった鍋が調理場から運び出された。


 もーぐもぐ。もーぐもぐ。

 もーぐもぐ。もーぐもぐ。


 鍋と共に向かった先は王の寝室。一際大きい入口から中に入ると、

今まで一番広い空間が存在した。

 その空間の真ん中に、柔らかい葉やモグーラパンたちの毛で作られた寝床が置かれ、

大型の熊ほどの大きさのモグーラパンが仰向けに寝そべっていた。

 この巨大なモグーラパンが王で間違いなさそうだ。弱っているものの、

その身体からは、とてもつない威圧感が放たれていた。

 もぐもぐと回りで歌っているのは神官だろう。

 身体から生命の波動のような、緑の優しい光を放ち王へと送っている。

 王は神官たちの聖歌によってかろうじて、命を繋いでいる状態であった。

 モグさんが、王へと近づく。


『なんと、おいたわしやもぐ。王よ、薬が出来上がりましたもぐ。

もうしばらくの御辛抱ですぞ!!』


 王は意識が朦朧としているのか、もぐぐと低くうなったままだ。

 モグさんの指示のもと、椅子が用意されて、王の頭の近くに置かれた。

 モグーラパンたちが椅子の上へと乗り、木で齧って作られたストローを取り出し、

王の口の中へ突っ込む。


『よし、そのままゆっくりと丸薬と水を交互に飲ませるもぐ!!

焦るなもぐ! ゆっくり、慎重にもぐ!!』


 指示されるままに、ストローから丸薬と水を交互に飲ませていく。

 私とマイルさんはその様子をじっと見守るしかない。

 ごくりと王が丸薬と水を飲み込んだ。一同に緊張が走る。

 王がぐももと呻き、次の瞬間。


 ――ぐもももおおおおおおおお!!!!


『も、もぐーーーー!?』

「なっ……うわああ!!」

「ちょ、ま、うわあ!!」


 モグーラパンとは思えぬ声で咆哮した。その衝撃で、椅子はひっくり返り、

乗っていたモグーラパンたちは壁まで吹っ飛ばされてしまった。

 私もマイルさんも体勢を崩して倒れてしまう。

 辛うじて鍋だけは遠くへと避難させたらしく、大事にはいたらなかった。

 だが、誰もが床に倒れてしまった。


『お、王よ! 気をしっかりもってくだされもぐ!!』


 モグさんが必死になだめるものの、もぐぐもぐぐと寝床で苦しむ王。

 少しでも薬を飲ませないと……だが、苦しむ王に威圧され、その場の誰もが

動くことが出来ない。神官たちさえ、聖歌を中断させてしまっている。

 このままでは、王の命が危ない!!

 どうしたら、いい? 考えろ。私は必死で現状を打破する方法を模索する。

 

 ――何かないか、使えるアイテムは? スキルは?

 ――なんだっていい。何かなかったか!? 思いだせ、何かあるはず!!

 

 ピコンと懐かしい音がした気がした。

 久しぶりに聞いたあの音。それともそれは自分の幻聴だったか。

 次に聞こえたのは、聞きなれたあの声。


『>スキル「無限を秘めし4つの胃袋(1/4)Lv1の付属スキル★???の開放条件を

満たしたおん。★???は★共有する第一胃に変化したおん』


 おんちゃん。なんてタイミングに……。それより、何そのスキル。

 私はメニューを開いて、そのスキルの効果を確認した。


 付属スキル:★共有する第一胃

 1:相手の胃を捕縛キャッチすることが出来る。

 2:捕縛した胃を自分の胃と融合させることで以下の効果を得る。

   ・相手の胃の制限を解放することが出来る。

   ・自分や相手が摂取した料理や調剤の効果を互に共有することが出来る。

    ただし、悪い効果も同様に発揮される。


 迷っている暇はない。私はぐっと手に力を込め、身体を起こす。

 

「モグーラパンの王の胃を捕縛する『キャッチ』!!」


 スキルの効果が発動され、王から濁ったオレンジ色のオーラが立ち上る。

 オーラが私の方へと降り注ぐ。私と王の胃が繋がる。

 途端に、とてつもない吐き気に襲われた。これが、モグーラパンの王を苦しめる元か……。

 私はぐっと歯を食いしばり、次のスキルを告げた。


「『エンラージ』食べる!!」


 私は出来る限り、鍋の方へ這っていくと、エンラージで範囲化して、

鍋ごとごくりと薬を飲み込んだ。

 イーターマンの私なら、鍋ごと飲み込んだくらいでは、毒にならない。

 王に伝わるのは、良薬の効果のみである。

 王が薬を飲むことが出来ないならば、私が代わりに飲めばいいんだ。


「ぐえ……。も、もう1つ『エンラージ』食べるっ!!」


 私は1つ1つ、だが確実に鍋を飲み込んでいった。

 王の胃は、いや王の命は私が握っている。

 モグーラパンやマイルさんの視線が私に集中していた。

 待っててね。今、王に薬を届けるから。

 最後の1つを飲み込んで、私はその場で大の字になって倒れた。

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