28品目:モグーラパン
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南瓜公園の探索は順調に進んでいた。
順調というか、私は3人に着いて行くのでいっぱいいっぱいだけど。
3人にそう告げると、
「そんなことないわ! マイルなんかよりずっと頼りになるよ!
私が保障してあげる!!」
シーラさんは嬉しそうにそういって、ぎゅうと抱きついてくる。
うぐ、くるしいって! シーラさんって意外と腕力あるから。潰される……。
「くぅーねる嬢ちゃんが食べるとこを見てると、胸がすかっとするぜ?
嬢ちゃんは俺らと違って立派なイーターマンの戦士だ!」
がははははと大声で笑うカボックさん。褒められてる……よね。うん。
ゲテモノはマネできねぇーすげーぜってけなされてないよね。
「シーラさんの言う通り、僕よりも頼りになります。
守ってあげるなんて偉そうなことを言ってしまいましたが、僕のほうが守られてますね。
すみません、そしてありがとうございます」
頭を下げるマイルさんに、私はあわててそんなことないですと言う。
マイルさんの知識は役に立っているし、前衛3人が気づかない奇襲型の敵に
良く反応して、始末してくれている。
「マイルも嬢ちゃんも自分を過少評価し過ぎだぜ? ここまでうまくやってこれてるのはな、
誰かが特別すごいだとかそんなんじゃねぇんだ。俺らパーティー全員の力でこなしてるからなんだよ」
「つまりチームワークが良いってことよね! 私達」
カボックさんがリーダーらしいことを言い、シーラさんが結論を述べて
場を和ませる。シーラさんの笑みに釣られて、私たちはしばしその場で笑いあう。
これは、1人では決して味わえない。
パーティーだからこそ体験できる楽しさがその場に存在していた。
***
「おっかしーなぁ……これもはずれだよ」
ずいぶんと奥まで進んで来たが、未だ最深部は見えない。
香糸は依然として私達を目標へと導くべく輝いていた。
途中でマイルさんが、キャロラインの群生地を発見したので、私たちは足を止める。
キャロラインの根は探していた素材の1つである。
さっそく採取しようと、各自でキャロラインの葉を引っこ抜いたのだが。
「あ、これもです。見てください。見事に根だけ食べられてます!」
マイルさんが今引き抜いたばかりのキャロラインを掲げて見せた。
ニンジンに良く似た植物キャロライン。
引き抜かれた葉の下には、本当ならば立派な根があったのだろう。
しかし、今は見るも無残にずたぼろになり、
辛うじて根の残骸が残るのみという有様だった。
私も手近にあった葉をひっぱってみたが、結果は同じだ。
「こりゃあ、モグーラパンの仕業だな」
根の残骸をしげしげと見つめていたカボックさんがそう結論付けた。
もぐらパン? それってどんなパン?
ハイヌヴェーレのパン屋さんに売ってたりする?
「くぅーねるちゃん。喉を鳴らさないの。食べるパンじゃないから」
私の様子に気づいたシーラさんがすかさず訂正する。なんだパンじゃないのか。
「モグー、ラパンな。モグラみてぇに地面の中で暮らすウサギさ。
おかげで目が退化しちまっててな。だが、振動や匂いには敏感な連中だ。
農家にとってはとんでもない害獣でな、良く退治依頼なんかが来るもんだ」
「私も昔は小遣い稼ぎに、モグーラパンを退治したわねぇ。
弱いけど、臆病で逃げ足も速いの……あと可愛いわね」
「ちくしょー。悔しいけど。この辺りのキャロラインは、あらかた食い尽くしちまっててねぇだろう……。
あいつら一度食べ出したら、その近辺は残らず食っていっちまうし」
そうなんだ。取ってくる数量は1個って書いてあったし、せめて1つでも
あればいいんだけど。
私はまた適当にその辺の葉を選んで引っこ抜いてみた。が、結果は同じだ。
「やっぱり駄目みたいですね」
「気を落とさないでください。また次の群生地を見つければいいだけですから」
そうは言われてもねぇ。こんなに生えてるのに全部食べられたっていうの?
全く、とんでもない大喰らいだよ。
『>くぅーねるは人のことを言えないおん』
何か言ったかな? おんちゃん。
『>な、なんでもないおんおん!!』
全くもう。ん? なんかこれだけ妙に葉がふわふわしてるな。
もしかして、レアなアイテム? よいしょっと。
「もぐ!? もっもっも!! もぐぐーーー!!」
「んな!? 何これ!?」
葉を引っこ抜いたら、なんか毛玉な生き物が釣れた?
違う。これ葉じゃなくて、耳の部分だったんだ!!
もしかしなくても、こいつが。
「も、もぐらぱん?」
「ぐぐーーーーー!!」
「モグー、ラパンね。モグーラパン」
そうそう。ありがとうシーラさん。
私の叫び声を聞いて、カボックさんとマイルさんも何事かとこちらを向く。
私が捕まえたモグーラパンを見ると驚いた表情を浮かべる。
「おお! モグーラパンじゃないですか!?
このすばっしっこい生き物をくぅーねるちゃんが生け捕りに?」
いい研究対象を見つけたと言わんばかりのマイルさん。表情が生き生きとしてる。
「生け捕りというか、キャロラインだと思って引っ張ったら釣れました」
「ほう! 擬態していたということですね。いやーそれにしても
モグラなのかウサギなのか、判断が非常に難しい……ううむ」
「モグーラパンだからどっちだっていいじゃない。ああーやっぱり可愛いわねぇ!」
マイルさんを押しのけると、シーラさんがきらきらとした目つきでモグーラパンを
見つめる。確かにモグーラパンは可愛いかも。
今は地面の中に埋っていたので、汚れているが洗ったら、
もこもこで艶々な毛玉が出来上がるに違いない。
ところで、こいつの肉はモグラかな? それともウサギ?
こいつの挽肉にして、ハンバーグとか作ってパンにはさんだら、
もぐらパンとして売れないかなぁ。駄目かなぁ。
「も! ももももーー!!」
「あっ! 逃げた!」
「うおっ!? な、なんだぁ?」
モグーラパンは私とシーラさん、そしてマイルさんの視線に耐えられなくなったのか、
私の手からするりと抜けだす。
そのままどこに逃走するのかと思いきや、カボックさんの方に駆け寄ると、
ぴょんぴょんと飛び跳ねて、カボックさんの背中にべったりと張り付いてしまった。
マイルさんが羨ましそうにカボックさんを見つめ、
シーラさんはまたかと腹を抱えて笑う。
「ぐもぐもー!」
「ぷ! か、かぼっく……アンタ本当に……ぷぷ、小動物に好かれるわねぇ?」
「ちくしょう! わ、笑いたけりゃ、どうどうと笑えってんだ!!」
「ぶは!! あははははははははーー! だ、だめ! 笑い過ぎて死ぬっ!!」
もう駄目だと言わんばかりに地面をだんだんと叩いて、笑い転げるシーラさん。
ごめんなさい。私もちょっと笑ってしまいました。ぷぷ。
「お前らが変な目で見るから怯えちまってるじゃねぇか!」
「ぐぐーーー!!」
カボックさんが私達を叱るが、その肩にはふわふわの生き物が見えて、
ちっとも怒られてる気がしない。シーラさんがまたくすくすと笑う。
「ふん。ん? なんだ?」
モグーラパンがぐもぐもと何を訴えている。カボックさんが真剣にそれを聞く。
私は小声でシーラさんに尋ねた。
「カボックさんって小動物と話しが出来るんですか?」
「さぁ……でも出来てもおかしくなさそうよね」
目の前で会話の様なやり取りを見せられては、確かにと言わざるをえない。
「なんだって? そんなことが?」
「ぐもも! もぐー!」
「それでキャロラインの根をか……」
「ぐぐぐぐ、ぐももも、もぐ」
「ちょっと、待ってくれ。他の連中にも話す」
モグーラパンと会話(?)を終えたカボックさんが、真剣な様子で今しがた聞いた
話しを私達に話す。
「モグーラパンの王が、変色したイモワームを齧ったところ体調を悪くしたそうだ」
それはアウトでしょと私は思った。
ジャガイモの芽や変色した部分が毒素を持つというのは常識だ。
ジャガイモは光に当たると変色し、ポテトグリコアルカロイドという有毒成分を作成してしまう。それは太陽の光の下というだけではなくて、
ろうそく程度の明かりの下でも、毒素を生成するんだとか。
保管には要暗所をお勧めする。
そんなジャガイモを食べれば、普通はひどいえぐみを感じて吐き捨ててしまうんだけど。
「新種のイモワームと勘違いしたんだとよ」
「なんとまぁ」
マイルさんは呆れて言葉も出ないと言った様子だ。
シーラさんは無言で私を心配そうに見つめている。
い、いやだな。流石に毒と分かってたら食べないよ。
変色したジャガイモはいくらなんでも……でも今は毒耐性があるよね。
もしかして……食べれる、の?
「くぅーねるちゃん」
シーラさんの目つきがさらに厳しくなる。じょ、冗談です。
食べたりしないって!
「で、キャロラインの根がどうとかっていうのは?」
「あ、ああ。モグーラパンの医者が、キャロラインの根から治療薬を
作れるってんで、それで近辺のキャロラインを根こそぎ漁ってたみたいなんだ」
なるほどね。でもそんなに必要なのかな?
「ぐぐぐ! もぐぐ!!」
「なに? キャロラインを荒らしまわったのは自分たちだけじゃないって?」
「もぐ! もぐっぐー!」
「は? へ? イモワームが? 報復?」
ちょっと、意味がわからない。何でそこでイモワームがモグーラパンに報復するの?
「変色したイモワームは、イモワームの女王クイーンメイワームの娘で、
成芋して、クイーンメイワームになる途中だった?
それをモグーラパンの王が食べてしまったので、報復にキャロラインを荒らしてると」
「もぐもぐ」
キャロラインは薬の材料と同時に、モグーラパン達の主食らしい。
イモワーム達は、女王の娘の仇討として、
モグーラパン達の食料を荒らしまわっているそうだ。
モグーラパンとイモワーム。両者の争いの気配がすぐ間近まで迫っていた。




