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27品目:糸に導かれて

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 マイルさんの言葉に私達はただただ唖然とするしかなかった。

 レアモンスターを辿って最深部まで進むだなんて。

 言うのは簡単だが、実際どれほど労力がかかることやら。

 最初の難関はまず出会うこと。

 レアモンスターなので見つけるのが運頼みになるのは仕方ない。

 せいぜい、なんとかセンサーに引っかからないように祈るしかないだろう。

 次の難問。ゲーム内のモンスターというものは、

次の階層に行くと出現位置がリセットされる。

 つまり、首尾よくカボチンを見つけて、次の階層に進んだとしても、

その階層でまた、カボチンを探さなければならないのである。

 最後の難関は最終エリアまで、プレイヤーの心が持つかどうかだ。


「何だか気が遠くなるような話ね」


 シーラさんがここにいる全員の心情を代弁してくれた。


「まぁ、正攻法で攻略しようとすれば、何カ月かは公園の中に籠ることになりますね」


 全員が「勘弁してくれよ」と言わんばかりに深くため息を吐く。


「なんか、別の方法はねぇのか?」


 カボックさんの言う通り、何か別の方法がありそうだよね。

 そうじゃないと、とてもじゃないけど会える気がしないよ。


「これがエルフとかなら、直接答えが聞けるのでしょうけど」


 森の民であるエルフの固有スキル『森の加護』。

 これがあると、植物と意思疎通が取れるようになる。

 つまり直接、森自身から答えを聞けるという訳だ。何か、一気に難易度が下がったね。

 カボックさんが渋い顔をして、首を横に振る。


「エルフの知り合いはいねぇなぁ……」


 うーん。やっぱりエルフって優遇されてるなぁ。

 くそう、胃が……胃の容量さえ小さくなければ、今頃は……ぐすん。


「じゃあ、カボチンをテイムするっていうのは?」


 2回目のボスはカボックさんがテイムしたスローイングラットから、

直接情報を聞き出したのだとシーラさんが教えてくれた。

 なら、カボチンも捕まえて話を聞くのはどうかと提案するが。


「か、かぼちんをか!?」


 驚きのあまり、声を裏返しながらカボックさんが聞き返す。


「レアモンスターってテイム出来ないんだっけ?」


 そんなことは無かったはず。前作は特定のボス以外は全てテイム出来る仕様だったしね。


「そんなことはねぇがよう。はっきりいって、カボチンを10回探し当てるのと、

そう大差ない確率だぜ?」

「うわー……ないわ」


 それを聞いたシーラさんが降参と言わんばかりに両手を上げた。

 全員が諦めかけたその時、マイルさんの目がきらりと光る。


「そこで、登場するのが、アリアドネの香糸なんです!」

「「それだ!!」」


 なんだこのTV通販みたいな展開の仕方は……。

 私が呆れてマイルさんを見ていると、カボックさんとシーラさんの2人は

がばっと身体を起こして、「それがあった!」とはしゃぐ。


「では、くぅーねるちゃん。アリアドネの香糸を使ってみてください」


 私はこくりと頷くと、道具袋から乳白色の神秘的な水薬――アリアドネの香糸を取り出す。

 マイルさんに言われるままに、瓶の蓋をあけると、白い煙が立ち上る。

 よくよく見てみると、煙の中に金色の粉が混じっていた。とても不思議な煙だ。

 どことなく甘くいい香りがする。


「それじゃあ。そのままアリアドネの香糸に向かって、何か念じてみてくれるかな?」


 念じる……私が少し迷っていると、


『>アリアドネの香糸を使用したおん。探索したい対象物を答えるおん』


 おんちゃんがサポートしてくれた……って、システムなんだから、

サポートするのが仕事でしょう。全くもう。えっと『カボチン』でいいのかな?

 

『>了解したおん。カボチンを追跡するおん』


 その場に留まっていた煙がふっと動く。私は驚いて煙をじっと見つめる。

 どんどん瓶から煙が溢れて出し、まるで私達を導くように公園の奥へと進んでいってしまった。

 煙に混じるキラキラとした金の粉がまるで、私達を案内する糸みたいに見える。

 甘く漂う匂いが、まるでこっちにおいでと誘っているかのようだった。

 なるほど、これは確かに香糸だね。

 

「すごーい。とっても綺麗ね」

「あれを辿って行けばいいんだな?」


 シーラさんがうっとりとした表情でアリアドネの香糸を見つめている。

 うんうん。分かるわ。思わずずっと見ていたくなる綺麗さだよね。

 男衆にはこの良さが分からないのか、それともカボックさんは興味がないだけなのか、

神秘的な煙よりも、その先に待ち受けているだろうカボチンに対して、

期待を膨らませていた。


「アリアドネの香糸は残量が続く限り、ずっと対象物を追いかけます。

どこまで、深く続いているかは分かりませんが、その量から推測すると、

10階層分は持ちそうです。休憩所を作るとなると、8階層分ぐらいですかね」


 意外に持たないなぁ。もっと深い迷宮を探索するには、何個か必要だね。

 でも、今回の探索には十分な量だ。


「では、ここからは気を引き締めていきますよ!」


 マイルさんの言葉に全員が「おおー!!」と掛け声を合わせる。皆ノリがいいなぁ。


「よっしゃーー!! 待ってろよ! シークレットカボチン!!」


 カボックさんが元気よくバトルアックスを振り回して吠える。

 いや、シークレットを探すんじゃなくて、お使いの材料を揃えるだけだからね?

 ここに来る前に散々言っておいたのに、間違えないでよ?


「わかってるわよ! くぅーねるちゃん。ぱぱっと材料を回収しながら、

シークレットボスまで行けばいいんでしょ!!」


 にっこりとほほ笑むシーラさんに、思わず顔が引きつる私。

 全然分かってないよこの、かしましトリオ。


 ***


 神秘的な糸に導かれ、私達4人は公園の奥へ奥へと進んでいく。

 シーラさんの警戒能力のおかげで、無用な戦闘は避けている。

 ま、逃げ切れないものもいるけど。


「前方ヘビイチゴの群れとネギカモ3体がいるわ!」


「注意して!」というシーラさんの言葉に全員武器を構えた。


「しゅるるるるるるるーーー!」

「ぎ、ぎぎぎぎ? くわわ!!」


 ほどなくして、魔物の群れと遭遇。カボックさんが先頭に立つ。


「ネギカモ共は俺が散らす! シーラとくぅーねるはヘビを頼んだ!」


 カボックさんがバトルアックスを構え、うりゃあああと雄叫びをあげると、

背中にカモを背負った、直立歩行するネギの群れに突っ込んだ。

 すぱんすぱんと直立ネギがぶつ切りにされ、カモごとばっさり解体される。

 あ、アイテムをドロップした。おお、小ネギカモだ。材料1個ゲット。


「しゅるるん!!」

「……っと、油断大敵! 『エンラージ』!!」


 シーラさんの刃から逃げ出してきたヘビが数体こちらに向かってくる。

 しゃあっと牙を出して飛び掛かってくるが、あわてずに身を退いてそれを避ける。

 ヘビが宙を噛みついたところで、私は食べる(範囲化)を使ってヘビに喰らいかかった。


「ふしゃーーーーー!!」


 まるで猫の威嚇音みたいな音を発するが、気にせずバリバリと食べてやった。

 味? 野苺みたいな味の生肉って感じ。


「くぅーねるちゃんごめーん! でもナイスファイト!」


 向こうのほうで、シーラさんがエールを送ってきたので「私もやったよ!」と返事をする。


 ――ダンダンダンッ!!


 突如鳴り響く銃声に、私達はびくっと肩を揺らす。

 後方で銃を構えたマイルさんが、申し訳なさそうな顔をしていた。


「す、すいません。ヘビイチゴに誘われてワシハゲの群れがこっちに来ていまして。

数体撃ち落としました。残りは逃げて行ったので、心配はありませんよ」

「あー、びっくりした。

でもサンキューね、マイル。流石に空中までカバーしきれなかったわ」

「おう! こっちも片付いたぜ」


 戦闘が終わり全員が集合する。ドロップしたアイテムを回収し、カボックさんに渡す。

 ちなみに、一番、荷物が持てるだろうというシーラさんの提案で、

カボックさんが荷物係になった。

 カボックさんは「アイテムポーチに入れるなら誰だっていいだろ!?」と反論したが、

私はアイテムポーチではないし、シーラさんは小道具や回復アイテムでいっぱいらしい。

 マイルさんも、銃の弾が結構場所を取るらしくて、あまり空きがないとのこと。

 結局、手荷物が少ないカボックさんが荷物係ということで落ち着いた。


「見て! あそこ! 次の階層っぽくない?」


 シーラさんが指さす方を見ると、明らかに他とは違う脇道がぽつんと存在していた。

 アリアドネの香糸が無ければ、誰も気づかなかっただろう。

 香糸の煙はその脇道の奥まで続いているようだ。

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