26品目:南瓜公園の構造
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反省はしたけれど、今さら自分のスタイルを変える気はない。
カボックさん達も大人の言うことに惑わされず、そのまま自分の好きなようになるといい
と応援してくれたので、私は食べることを貫くことにする。
ただ、自分のスタイルは同族から見ても特異であるということは、頭の片隅に置いておく。
「お嬢ちゃんが思わぬ使い手だと判明したところで、配置はどうする?」
カボックさんの問いかけに、シーラさんが答える。
「食べるって結構広範囲で行けるのよね? だったら私と同じ位置にしたら?
カボックの後ろに控えて、討ち逃した奴を食べてもらうの」
私は問題ない。他の皆はどうだろう?
「どこまで出来るのか、様子も見たいですしね。いいと思います」
それで良いと思いますと返答するマイルさん。
「いざとなったら俺とシーラで守れるしな。いいと思うぜ」
カボックさんの方も問題なしだ。これでお互いの立ち位置が決まった。
それじゃあいよいよ。
「よし! じゃあ出発だ!!」
カボックさんの掛け声に皆が「おおー!」と元気よく返事をして、南瓜公園のゲートを潜って行った。
***
「無事突入出来たみたいだな……ってなんだこりゃ?」
南瓜公園に着いてそうそう、カボックさんが首を捻っている。
どうしたんだろう? 何か問題でもあったのかな?
「この辺りだけ妙に草が生えてないね。不自然過ぎる」
注意深く辺りを警戒するシーラさん。
この辺りの草……あ、ごめんなさい。ここの草は……私が食べ尽くしたんです。
……などと言えるはずもないので、黙っておく。
その辺の草を食べて毒死したっていうのも絶対黙秘。
「誰かが薬草を探して、手当たり次第引っこ抜いたのかもしれません」
うん。手当たり次第食べまくりました。マイルさんの言葉にちくりと良心が痛む。
「とりあえず、危険なモンスターはいないわ。けど用心してね」
シーラさんが警戒を解くと、マイルさんがではさっそくと口を開く。
「南瓜公園の奥へ抜ける方法なのですが」
やっとこの迷いの森から抜け出せる。私は真剣にマイルさんの話を集中して聞く。
「ここの地形は単純。全体を図に表すとこんな形をしています」
手近にあった木の棒を拾い上げると、マイルさんが地面に描いたのは大きな円。
「このように、実に単純な構造をしています。
何もしらない者が迷い込むと、ぐるぐると同じところを回ることになります」
木の棒を動かして、描いた円の上を何度がぐるぐるとなぞる。
なるほど、そんな風に回り続けてるってことか。
「そして、次の階層に行くためには、ある方法で正解の道を見つけなければなりません」
じゃないと、いつまでも回ることになるってわけだね。
「ここまでは大丈夫ですか?」とマイルさんが尋ねてきた。私は大丈夫だと答える。
「正解の道を進むと、このように移動します」
そういってマイルさんは円の内側に、また同じように円を描いた。
「視覚的には分かりづらいですが、図で表すとこのように、
内側へと階層が進んでいます」
もちろん、次の階層も同様に正しい道を見つけないと、
同じところを何度も回る羽目になりますよとマイルさんが付け加えた。
「要はこの繰り返しです。
正解の道を見つけてどんどん内側へと進んでいく形になります」
なるほど、確かにこれは単純な構造だ。図で教えられるととても分かりやすい。
実際のフィールドだと奥に進んだのか、確認するのも難しいだろうけど。
「そして最終エリアですが、ここは……こんな風になっています」
最終エリアと言って、マイルさんが描いたのは3つの円だった。
「最終エリアは、どの道を選んで来たかによって、行くべき場所が違います。
僕たちが発見したのは、この2つ」
これとこれですとマイルさんが2つの円を指し示す。
ふむ、じゃあ最後の円は? 私がそう聞くと、
「それこそ、僕たちが探すシークレットボスのエリアです。
他の2つには通常のボスがいましたから」
ボスが複数いるとは驚きだ。マイルさんの話が本当なら、
この南瓜公園にはボスが2体とシークレットボスが1体いるってことになる。
『>メニュー画面から南瓜公園の詳細が確認できるおん。
マイル先生の言う通り、3体のボスを確認したおん』
どれどれ。本当だ。お、今まで取ったアイテムとかも見れる。
あー、やっぱりかなり取り逃してるな。この辺もしっかり採取したい。
「ここは、選んだ道によってボスが変わるダンジョンってことですね?」
「正解。くぅーねるちゃんは飲み込みが早くて助かるなぁ」
シーラさんとカボックさんにこの話をした時は、何時間かけて教えた事か。
そういって、マイルさんはどこか遠くを見るような表情を浮かべた。
かなり苦労したんですね。ご苦労様です。マイル先生。
私は心の中で合掌しておいた。
「ちなみにボスってどんな奴だったんですか?」
今後の参考に聞いておきたい。そうですねぇとマイルさんが口を開く。
「イモワームって知ってますか?」
「はい、一応」
前回の探索で見かけた奇妙な芋がイモワームっぽかったな。
「あれの親玉みてぇな奴がボスだったぜ。俺らが一番初めに見つけたボスさ」
そうだったなぁと言った様子でかしましトリオが思い出に浸る。
「芋1つ1つに体力があって、変なところで切ると分裂してうざかったわね」
ワーム系のモンスターにお約束な攻撃パターンだね。
というか、イモワームが単体になったら、ただの芋じゃないの?
「2番目の方が楽だったわよね。ドン栗ネズミのでっかいのだもの」
シーラさんが言ってるのは、スローイングラットのことだろう。
確かに、芋よりは楽そうだ。
「……兄弟のボスをやるっていうのは、気が引けたぜ」
カボックさんが暗い顔をしてぽつりとつぶやいた。
そういえば、モンスターテイムの能力を持っていたんだった。
ということは、スローイングラットにも好かれてたのかもしれない。
「シークレットってどんなボスなんでしょうかね?」
ネズミにイモと来て、ではシークレットボスはどんな奴が出てくるのだろうか?
私は疑問に思ってそう聞いてみた。
「うーん。その情報はあいまいなんですよ。いる、というぐらいしか、
情報が出てこないんですよね」
まぁ、本来のシークレットっていうのはそういうものだろう。
いるかどうか曖昧なもの。見かけたらラッキーぐらいに思っておいた方がいいもの。
ぽんぽん出会う方がどうかしてる。
「ここだけの話なんだけど、あるカフェで聞いたことがあるの」
シーラさんが声を潜めて話す。
カフェという言葉に、カボチン料理を勧めてきた例のお姉さんがいた店を思い出す。
もしかして……いや、まさかね。
「ここのシークレットボス。カボチンなんじゃないかって話なのよ」
「「「カボチン!?」」」
シーラさんの言葉に、私達3人の声がハモった。
私はまたカボチンかよ!? と言った感じで、カボックさんとマイルさんは、
まさか、嘘だろ? と言った感じだった。
「あ、あくまで噂よ? でも、そこの店ってやたらとカボチン料理ばっかり
出てくるもんだから……ねぇ?」
私達の剣幕にシーラさんは、あくまで噂に過ぎないと強調する。
しかしカボックさんとマイルさんの顔つきは真剣そのものである。
それにしても、やっぱその店って私が最初に道尋ねた際に入った店な気がする。
それよりも、聞きたいことがある。
「あの……カボチンって何なんでしょう?」
3人の表情が凍りついたのを見て、私はまたかとため息をつく。
どうして、誰もかれもカボチンと聞くと歯切れが悪くなるのか。
「そりゃ……カボチンはカボチンだぜ?」
カボックさんの他の2人もうんうんと頷く。
だから! それは分かったってば!
私の心境を察したのか、マイルさんが補足説明をしてくれた。
「ごめんね。くぅーねるちゃんも実物を見てみると分かるさ。
いや、実物を見てしまうと。カボチンはカボチンだとしか言えなくなるんだよ」
なにそれ、コワイ。何の呪いなの……。
「じゃあ、カボチンって頻繁に会えるものなんですか?」
「それもわからない……。ある意味レアモンスターかもしれないけど。
1日に必ず1回は遭遇するという人もいれば、何十年も会ったことがないという人もいるんだ。
正確なデータが取れてないというのが現状なんだよ」
うーん。実に奇妙な生き物だな、カボチン。というかモンスターだったんだ。
「でも、言われてみれば。確かにシークレットボスはカボチンというのは、
案外正解かもしれませんね」
マイルさんがどこか確信を持った様子でそう告げる。私はどうしてですかと聞いてみた。
「この南瓜公園の階層を進むためには、正解の道を選択しないといけないと
いいましたよね?」
私はコクリとうなづく。
「その正解の道を導いてくれたのが、ここに生息するモンスターなのです。
1回目のボスに遭遇した時、最終エリアまで導いてくれたのがイモワーム。
そして、2回目がスローイングラット」
つまり、モンスターに着いていった先に、そいつの親玉が待ち受けていたってことか。
私がそう告げると、「そういうことです」とマイルさんが肯定した。
「だから、シークレットボスのところに辿り着くには、
レアモンスターであるカボチンを追いかけて行くのが、一番可能性が高いのではと思ったんです」




