22品目:かしましトリオ
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アリアドネの香糸(練習用)の作成に成功した私。
お母さんに出来て物を渡して、品質を鑑定してもらったところ、
文句なしの一品であると太鼓判を押された。
色々あったけど、これでサブクエスト「調合の取得」は終了。
約束通り、調合のスキルスクロールをもらい、私は調合のスキルを取得した。
「お父さんに会いにいきましょう。
きっと南瓜公園の奥へ進む方法を教えてくれるわ」
本当はお母さんから教えてもいいんだけど、そうしたらお父さんすねちゃうから、
と苦笑いを浮かべるお母さん。
確かにお父さんがいじけたらうざいもんなぁ……。
思わず現実の父を想像してしまい、溜息が漏れる。
ゲーム内のお父さんの方がまだましだよなーとか思ってしまった。
私はお母さんに連れられて、アリアドリィーネ(植木鉢)を抱えて部屋を後にした。
何でこれも持っていくの? と植木鉢を掲げて聞くと、
「もちろん。罰を受けてもらうためよ」
植木鉢がガタンと揺れる。花の中でアリアドリィーネがガタガタと震えていた。
あ、あまり暴れないでよ。この植木鉢結構重いんだから。
全く、これって私に対する罰じゃないよね? 思わず首を傾げてしまう。
この植木鉢自立歩行しないかな……。
***
店に着いた私はひとまずテーブルの上にアリアドリィーネ(植木鉢)を置く。
窓の外を見ると、空が夕方のグラフィックへと変わっていた。
店内は、結構な数のお客でにぎわっている。
もちろんほとんどがイーターマンだったので、小学校の給食風景のように感じた。
たとえビールで飲んだくれていたり、酔っぱらってバイトの子に絡んでいたとしてもだ。
本当、反則種族だよね。イーターマンって。
「おーい! お母さん、くぅーねる! こっちだよ!」
カウンターでお客の相手をしていたお父さんが、私達を発見して手招きする。
「おや、マスターの娘さん?」
「ひゅう! 美人のお母さんも一緒たぁーついてるぜ」
「マスターの娘さん可愛いーー!! こっちおいでよー」
何やら周囲ががやがやと騒がしい。
お母さんは「あらあら、あの子達来てたのね~」などとのほほんとしている。
「知ってる人達?」
「ええ。うちの常連さんよ」
私はお母さんに連れられて、お父さんの所へ向かう。
常連組は「席を空けろって」「マスター、お嬢さんとお母さんに飲み物」「お菓子も追加~」
などと騒がしい。
常連の1人、女性のイーターマンが手招きしている。
「こっちこっち! ここに座りなよ」
「お邪魔します」
私は女性のイーターマンの隣の席に座る。私の隣にお母さんが腰かけた。
「君がくぅーねるちゃんでしょ? 私はシーラ。冒険者をやってるわ」
シーラと名乗った女性は、健康的な白い肌と黒い短髪という容姿だ。
腰には皮の鞘に入った短刀を吊っていた。胸当てや手甲などをしているが、かなりの軽装である。
極力目立たない色の服を着用しているところから、恐らく職業は盗賊か隠密に違いない。
「それで、こっちのでっかくて馬鹿っぽいのがカボック。同じく冒険者」
「おうおう、言ってくれるじゃねぇか。あとで覚えてろよシーラ」
「それはこっちのセリフ。アンタって自分で言ったこともすぐ忘れるんだから」
カボックと呼ばれた大男(イーターマンにしては大きい)ふんと鼻を鳴らと、
ぐいっと酒を飲み干す。
カボックはシーラとは対照的に、上から下までがっしりと鎧を着こんで、
いかにも戦士といった風格だった。
獲物は傍に置いてあるバトルアックスだろう。
「あと、カボックの隣にいる、なよっちいもやし男がマイルだ。
腕っぷしはからっきしだけど、頭を使う仕事なら頼りになるやつさ。
こっちも冒険者……一応ね」
「どうも、マイル・レーダーといいます。
セントラルで講師を務めていました。今は、シーラさん達とパーティを組んでます」
2人とは違って礼儀正しく自己紹介をするマイルさん。何か苦労人っぽそう。
もやしことマイルさんは、よれた白衣に分厚いメガネをかけた小柄な人だった。
確かに科学の先生みたいな格好をしているが、元講師だったとは。
「女3人じゃないけど、この3人組みはハイヌヴェーレの『かしましトリオ』って
名前で有名なのよ」
「……悪い意味でですけどね。あははは」
お母さんがそう説明して、マイルさんが自嘲気味に補足を付け加える。
私はそうなんですねと苦笑いするしかなかった。
会って間もないというのに、シーラさんとカボックさんに振り回されて、
苦労しているマイルさんが容易に想像出来てしまう。どんまい。
「ほら。お待ちどうさま。ご注文の飲み物とお菓子」
コック姿のお父さんがテーブルに品物を並べた。
何気に仕事着のお父さんって初めて見た。何かカッコいいかも。
出された飲み物は、しゅわしゅわの炭酸水にアイスが乗ったもの。
ソーダーフロートっぽい飲み物だった。
お母さんの飲み物はコーヒーだ。
お菓子と言って並べられたのは、なんと焼き立てのアップルパイである。
林檎の甘い香りとふんわり漂うシナモンの香りがたまらない。うーん。美味しそう……。
「かしまし共のおごりだそうだ。じゃんじゃん食べなさい」
お父さんがにやりと笑ってそう言い、
「そうそうどーんと食べなさい!」
とシーラさん。
「がはははは。食え食え! んでもって、俺も飲んで飲んで飲みまくるぜぇええ!!」
酔いが回ってるのか、がはがはと煩いカボックさん。
「ああああ……。また赤字じゃないですか……。
くぅーねるちゃん達の分はいいとしても、カボックさん飲み過ぎないでくださいよ!」
財布の中身が心配なマイルさん。
大丈夫かな、この人。胃に穴が開かないといいけど。
私達はしばらく、かしましトリオと一緒にご飯を食べたり、冒険の話を聞いたりして
楽しいひと時を過ごした。
***
「すばらしい! 初めての調合でこんなに良い品質のものが作れるとは!!」
皆でご飯を食べ終わり一息ついたところで、私はお父さんに今までのことを報告した。
胃袋を強化し毒耐性を付けたこと、調合のスキルの試験に合格したことなど。
アリアドネの香糸を合成したと言ったら、マイルさんが興味を示したので、
見せてみたところ、ものすごく褒められてしまった。
どうも品質が良かったそうだ。
「アリアドネの香糸!? ええ、これって作れるものなんだ」
シーラさんが驚きの表情でアリアドネの香糸を覗き込んでいる。
「はー、すげーな。マイルだって、作るのにえらい時間かかるってのによ。
くぅーねる嬢ちゃんがこれを作っただって? とんでもねぇな」
カボックさんもシーラさん同様に驚き、目をまん丸くしていた。
「ふむ……マイルがそこまで言うとは……それにアリアドネの香糸か……」
お父さんまでふーむと何やら考え込んでしまっている。
それより、1つ気になることがあるんだけど。
「このアリアドネの香糸って何をする道具なんですか?」
――ピシリ。
その場にいる全員がかちんこちんに固まってしまった。
え、何? 石化? ど、どうしたっていうの? 私何か変なこと言った。
私があわあわと動揺していると、いち早く石化から抜け出したお父さんが、
絞り出すような声でこう聞いた。
「ま、まさか。お母さんから何も聞いていないのか?」
何も……うん。調合のスキルをくれるっていうから、作っただけで。
その場のノリというか、なりゆきというか。
私が素直に経緯を白状すると、お父さんががっくりと机につっぷする。
「お母さん。くぅーねるにこのアイテムの説明はしたのかな?」
「あ、あら? したと思ってたけど……勘違いだったかしら、おほほほほ」
笑って誤魔化さないでよ!!
「いいかい、くぅーねる。
このアリアドネの香糸があったら、地図なんて必要なくなるんだ」
ほう、地図が役立た図になると?
地図ぐらいなら、へぇーそうなんだーとか便利だなーくらいにしか思わなかった。
マイルさんが次の一言を言うまでは。
「それだけじゃありません。
ここまで品質が良いなら、簡易の休憩所が作れるでしょう。
ダンジョンの奥に進む冒険者ならば、喉から手が出るほどほしい一品ですよ」
――なん、だと?
マイルさんの一言は、私の状態異常耐性を貫通して、容赦なく石化を付与していった。




