表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/68

22品目:かしましトリオ

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

 アリアドネの香糸(練習用)の作成に成功した私。

 お母さんに出来て物を渡して、品質を鑑定してもらったところ、

文句なしの一品であると太鼓判を押された。

 色々あったけど、これでサブクエスト「調合の取得」は終了。 

 約束通り、調合のスキルスクロールをもらい、私は調合のスキルを取得した。


「お父さんに会いにいきましょう。

 きっと南瓜公園の奥へ進む方法を教えてくれるわ」


 本当はお母さんから教えてもいいんだけど、そうしたらお父さんすねちゃうから、

と苦笑いを浮かべるお母さん。

 確かにお父さんがいじけたらうざいもんなぁ……。

 思わず現実の父を想像してしまい、溜息が漏れる。

 ゲーム内のお父さんの方がまだましだよなーとか思ってしまった。

 私はお母さんに連れられて、アリアドリィーネ(植木鉢)を抱えて部屋を後にした。

 何でこれも持っていくの? と植木鉢を掲げて聞くと、


「もちろん。罰を受けてもらうためよ」


 植木鉢がガタンと揺れる。花の中でアリアドリィーネがガタガタと震えていた。

 あ、あまり暴れないでよ。この植木鉢結構重いんだから。

 全く、これって私に対する罰じゃないよね? 思わず首を傾げてしまう。

 この植木鉢自立歩行しないかな……。


 ***


 店に着いた私はひとまずテーブルの上にアリアドリィーネ(植木鉢)を置く。

 窓の外を見ると、空が夕方のグラフィックへと変わっていた。

 店内は、結構な数のお客でにぎわっている。

 もちろんほとんどがイーターマンだったので、小学校の給食風景のように感じた。

 たとえビールで飲んだくれていたり、酔っぱらってバイトの子に絡んでいたとしてもだ。

 本当、反則種族だよね。イーターマンって。


「おーい! お母さん、くぅーねる! こっちだよ!」


 カウンターでお客の相手をしていたお父さんが、私達を発見して手招きする。


「おや、マスターの娘さん?」

「ひゅう! 美人のお母さんも一緒たぁーついてるぜ」

「マスターの娘さん可愛いーー!! こっちおいでよー」


 何やら周囲ががやがやと騒がしい。

 お母さんは「あらあら、あの子達来てたのね~」などとのほほんとしている。


「知ってる人達?」

「ええ。うちの常連さんよ」


 私はお母さんに連れられて、お父さんの所へ向かう。

 常連組は「席を空けろって」「マスター、お嬢さんとお母さんに飲み物」「お菓子も追加~」

などと騒がしい。

 常連の1人、女性のイーターマンが手招きしている。


「こっちこっち! ここに座りなよ」

「お邪魔します」


 私は女性のイーターマンの隣の席に座る。私の隣にお母さんが腰かけた。


「君がくぅーねるちゃんでしょ? 私はシーラ。冒険者をやってるわ」


 シーラと名乗った女性は、健康的な白い肌と黒い短髪という容姿だ。

 腰には皮の鞘に入った短刀を吊っていた。胸当てや手甲などをしているが、かなりの軽装である。

 極力目立たない色の服を着用しているところから、恐らく職業は盗賊か隠密に違いない。


「それで、こっちのでっかくて馬鹿っぽいのがカボック。同じく冒険者」

「おうおう、言ってくれるじゃねぇか。あとで覚えてろよシーラ」

「それはこっちのセリフ。アンタって自分で言ったこともすぐ忘れるんだから」


 カボックと呼ばれた大男(イーターマンにしては大きい)ふんと鼻を鳴らと、

ぐいっと酒を飲み干す。

 カボックはシーラとは対照的に、上から下までがっしりと鎧を着こんで、

いかにも戦士といった風格だった。

 獲物は傍に置いてあるバトルアックスだろう。


「あと、カボックの隣にいる、なよっちいもやし男がマイルだ。

腕っぷしはからっきしだけど、頭を使う仕事なら頼りになるやつさ。

こっちも冒険者……一応ね」

「どうも、マイル・レーダーといいます。

セントラルで講師を務めていました。今は、シーラさん達とパーティを組んでます」


 2人とは違って礼儀正しく自己紹介をするマイルさん。何か苦労人っぽそう。

 もやしことマイルさんは、よれた白衣に分厚いメガネをかけた小柄な人だった。

 確かに科学の先生みたいな格好をしているが、元講師だったとは。


「女3人じゃないけど、この3人組みはハイヌヴェーレの『かしましトリオ』って

名前で有名なのよ」

「……悪い意味でですけどね。あははは」


 お母さんがそう説明して、マイルさんが自嘲気味に補足を付け加える。

 私はそうなんですねと苦笑いするしかなかった。

 会って間もないというのに、シーラさんとカボックさんに振り回されて、

苦労しているマイルさんが容易に想像出来てしまう。どんまい。


「ほら。お待ちどうさま。ご注文の飲み物とお菓子」


 コック姿のお父さんがテーブルに品物を並べた。

 何気に仕事着のお父さんって初めて見た。何かカッコいいかも。

 出された飲み物は、しゅわしゅわの炭酸水にアイスが乗ったもの。

 ソーダーフロートっぽい飲み物だった。

 お母さんの飲み物はコーヒーだ。

 お菓子と言って並べられたのは、なんと焼き立てのアップルパイである。

 林檎の甘い香りとふんわり漂うシナモンの香りがたまらない。うーん。美味しそう……。


「かしまし共のおごりだそうだ。じゃんじゃん食べなさい」


 お父さんがにやりと笑ってそう言い、


「そうそうどーんと食べなさい!」


 とシーラさん。


「がはははは。食え食え! んでもって、俺も飲んで飲んで飲みまくるぜぇええ!!」


 酔いが回ってるのか、がはがはと煩いカボックさん。


「ああああ……。また赤字じゃないですか……。

くぅーねるちゃん達の分はいいとしても、カボックさん飲み過ぎないでくださいよ!」


 財布の中身が心配なマイルさん。

 大丈夫かな、この人。胃に穴が開かないといいけど。

 私達はしばらく、かしましトリオと一緒にご飯を食べたり、冒険の話を聞いたりして

楽しいひと時を過ごした。


 ***


「すばらしい! 初めての調合でこんなに良い品質のものが作れるとは!!」


 皆でご飯を食べ終わり一息ついたところで、私はお父さんに今までのことを報告した。

 胃袋を強化し毒耐性を付けたこと、調合のスキルの試験に合格したことなど。

 アリアドネの香糸を合成したと言ったら、マイルさんが興味を示したので、

見せてみたところ、ものすごく褒められてしまった。

 どうも品質が良かったそうだ。


「アリアドネの香糸!? ええ、これって作れるものなんだ」


 シーラさんが驚きの表情でアリアドネの香糸を覗き込んでいる。


「はー、すげーな。マイルだって、作るのにえらい時間かかるってのによ。

くぅーねる嬢ちゃんがこれを作っただって? とんでもねぇな」


 カボックさんもシーラさん同様に驚き、目をまん丸くしていた。


「ふむ……マイルがそこまで言うとは……それにアリアドネの香糸か……」


 お父さんまでふーむと何やら考え込んでしまっている。

 それより、1つ気になることがあるんだけど。


「このアリアドネの香糸って何をする道具なんですか?」


 ――ピシリ。

 

 その場にいる全員がかちんこちんに固まってしまった。

 え、何? 石化? ど、どうしたっていうの? 私何か変なこと言った。

 私があわあわと動揺していると、いち早く石化から抜け出したお父さんが、

絞り出すような声でこう聞いた。


「ま、まさか。お母さんから何も聞いていないのか?」


 何も……うん。調合のスキルをくれるっていうから、作っただけで。

 その場のノリというか、なりゆきというか。

 私が素直に経緯を白状すると、お父さんががっくりと机につっぷする。


「お母さん。くぅーねるにこのアイテムの説明はしたのかな?」

「あ、あら? したと思ってたけど……勘違いだったかしら、おほほほほ」


 笑って誤魔化さないでよ!!


「いいかい、くぅーねる。

このアリアドネの香糸があったら、地図なんて必要なくなるんだ」


 ほう、地図が役立た図になると?

 地図ぐらいなら、へぇーそうなんだーとか便利だなーくらいにしか思わなかった。

 マイルさんが次の一言を言うまでは。


「それだけじゃありません。

 ここまで品質が良いなら、簡易の休憩所が作れるでしょう。

ダンジョンの奥に進む冒険者ならば、喉から手が出るほどほしい一品ですよ」

 

 ――なん、だと?


 マイルさんの一言は、私の状態異常耐性を貫通して、容赦なく石化を付与していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ