1品目:神々の再宴とイーターマン(喰らう奴)
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夜。夕食もそこそこに自室に戻った私は、机に着いているパネルを押してモニターとキーボードを起動する。
半透明の板が浮かび上がるのを確認すると、さっそく『神々の宴』を検索。
神々と入力しただけで、神々の宴リニューアル、カミウタを語ろうのスレなど候補が次々と上がった。
「結構人気なんだ。意外」
ゆっくりと椅子に腰を下ろすと『神々の宴』の開発元HPを開いた。
数々浮かび上がるゲームリストを順に確かめていく。
カミウタ、カミウタ……あった、これだ。
『神々の再宴』
「……そのまんま過ぎない?」
分かりやすくていいけどね。
略すと、「カミウタ再」か「カミウタⅡ」ってなるのかな。
ダウンロード価格は3980円。一般的なゲームデータの値段らしい。
ちなみに私は律子が買った『神々の再宴:フレンドパック』のコードをもらっているので、タダである。持つべきものはなんとかさんってやつだ。
フレンドコードからダウンロードするを選択し、律子から送られてきたコードを入れた。
ダウンロードまで少々お待ちくださいという文字が現れる。
「なんの種族で始めようかなぁ」
私は別のモニターを呼び出し、神々の再宴に関する情報を集めることにした。前作からどう様変わりしたのか気になるしね。
「大まかな変更はなさそうだ。新種族とバランスの見直しぐらいか。
あ、デザインが描き直されてる、グラフィックも手直しされてるー。
もともとすごい綺麗だったけど。あ、この種族の衣装いいなぁ」
1人で騒ぎながら、私のカミウタⅡへの期待値は高まりつつあった。
しかし、そんな期待に水を差すような項目を発見してしまう。
「空腹度システムの追加? よりリアルに食事をお楽しみください?」
へ? 何これ? パラメータ『胃』が追加される?
『胃』の容量を超える飲食系のアイテムの接種は出来、ないの!?
うわーうわー、なんという劣化システムだ。
いらないよこんなの。そこにリアルは必要なかったな。
「でも、あれかな。五百歩くらい譲って、壊れ性能な料理とかあったから、
システム変更したのかもしれない」
モンスターの部位を使った料理はチートってレベルの性能を誇っていた。
私が良く食べていた料理には、『体力、魔力全回復、状態異常全回復、10分間:状態異常無効付与、体力自動回復(中)、速度上昇(中)、5分間:アイテムクール時間短縮(中)』が着いてきたなぁ。
料理名は「クトゥールヒのオリーブパスタ(ク・リトル墨ソースかけ)」。
クトゥルパスっていうタコのモンスターを使った料理だ。
私、蛸大好きなんだよねー。「クトル焼き」も美味しかった。
これを律子に教えると、最初は料理の効果に目を輝かせていたけど、
料理名と使われている材料を言った瞬間、「そんなモンスターを食う猛者はいない」って言って、半泣きになって青ざめていたっけか。
なつかしい思い出だな。
「一気にやる気が無くなったんだけど」
『胃』の仕様を確認すればするほど、がっかり仕様感がいなめない。
公式やらwikiやらで情報をまとめていくと、『胃』のステータスをMAXに振り切っても、ごはん一升分も食べられない計算になる。
お小遣いを気にしないで、好きなだけ食べ物が食べられるからこそ、
このゲームをやる意味があるのに。普段の半分も食べれなくなるなんて……。
「さいっあく!!」
おかわり亭の食事は魅力的だし、久々にバターフライシュガーにありつけたとしたってこれはない。律子には悪いが、私はプレイしないって送っとこう。
すっかり憤慨した私はメールを起動すると、律子宛にメッセージを送りつけようとして、ふとある種族が目に留まった。それは。
――イーターマン【Eaterman】。
「マンイーター(人食い)の間違い……じゃないみたいね」
新種族:イーターマン【Eaterman】
ある時から世界に現れた出した特異種『イーター』。
世界の均衡などお構いなしに手当たりしだい食べ尽くす危険な種族で有名だが、それが知能を持って人の形を得た者をイーターマン(喰らう奴)という。イーターの特性を引き継ぎ『無限の胃袋』と『捕食したものは自身の血肉になる』という種族スキルを持つ。
強力な種族スキルをもつ反面、この種族は出生時に未熟児で生まれる。そのため、初期ステータス、レベルアップ時の上昇値はあらゆる種族の中で最下位に位置する。また、その種族特性ゆえにあらゆる国家に疎まれ、普通の手段では集落に入ることすら許されない孤高の存在である。
※難易度:超級 初心者の方にはおすすめしません。
イーターマン【Eaterman】
初期ステータス一覧
LV:1
JB:なし
HP:1(+1)
MP:1(+1)
SP:1(+1)
STM:∞
STR:1(+1)
VIT:1(+1)
DEX:1(+1)
INT:1(+1)
種族限定スキル:食べる、無限の胃袋
「これは……何かを試されているとしか思えない種族だねぇ」
STMとはstomachつまり、胃のことだ。これは∞になっている。それ以外のステータスは断トツの最下位。まさに食べるために生まれてきた種族である。それに( )のなかの数字はレベルアップ時の上昇率になっているのだが、こちらも絶望的な数字だ。
ちなみに平均的なヒューマンのステータスはこうなる。
ヒューマン【Human】
初期ステータス一覧
LV:1
JB:なし
HP:20(+3)
MP:10(+2)
SP:10(+3)
STM:10(+1)
STR:10(+2)
VIT:10(+3)
DEX:10(+3)
INT:10(+1)
種族限定スキル:なし
これはまるっきりの素のステータス。
これに性別や職業が加わると、いくらか変動するだろう。
だとしてもイーターマンの不遇具合は見ただけで分かる。
けれど、非常に魅力的なスキルが私の目を奪って離さない。
「無限の、胃袋」
待て待て。落ち着け。良く考えろ、私。
いくら前作経験者とはいえ、ゲーム歴の少ない私にこの種族でのプレイははっきりいって無謀もいいところ。
運営が初心者はご遠慮下さいと、注意書きをするくらいヤバい代物だ。
それをプレイするなんて無茶は私にできるはずが……。
「無限……無限に食べ放題……」
ちなみに前回は、初心者にお勧めの種族:エルフと職業:魔法使いという組み合わせでプレイしている。サブの職業は調理人を選んでいた。
なんのひねりもイロモノスキルもネタジョブも仕込んでない、ごくごく平凡なキャラクターだった。
『ダウンロードが完了しました。ソフトを起動しています。
VRコントロールヘッドを装着してお待ちください』
私がうんうんと悩んでいるうちに、ダウンロードが完了した。
とりあえず、ゲームを起動してみてそれから考えよう。
そう結論づけて、私はVRCヘッドを頭にかぶるとVR内へダイブした。