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16品目:イーターマンの心得3「無限の胃袋を有限にするべからず」

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

「そうかそうか。スローイングラットは美味くやったようだ」

「やるじゃない。くぅーねる♪ ささ、食べて食べて。

くぅーねるの初戦闘おめでとう!」

「ありがとう。あーこれ美味しい~」


 自宅に転送された私は、両親が働いている店の方へと顔を出す。

 ちょうど休憩に入るらしく、店先に休憩中の看板を下げると、

自宅に戻り家族全員でご飯を食べることになった。

 お母さんが準備している間に、私は南瓜公園での出来事を報告する。

 ネズミは厄介だけど味はイケてること、ドン栗はほこほこで甘いけど痛かったこと。

 イモワームはジャガイモ顔で虫要素が無視されてること、

雑草にも色んな種類と苦みえぐみがあること、そして死相の葉による毒死事件。

 お父さんはしきりにうんうんと相槌を打ち、熱心に私の話を聞いてくれた。

 途中、お母さんも料理を食卓に並べ終えて私の聞き手として参戦する。


『>美味しそうだおん……おんちゃんも食べてみたいおん」


 無茶を言うんじゃないの。

 私はおんちゃんの残念そうな声をスルーすると、料理に舌鼓を打つ。

 朝食は闇鍋という異色なものだったが、

今回は普通の料理が並んでいて、残念……じゃないでしょ。なんで残念って思ったの私。

 普通に美味しい料理でほっとする……ちょっとさびし……ううん。何でもない。


「ふーふー……はぐ。もぐもぐ。んー幸せだー」


 この国で飼育されているというハイヌ牛のすねを使ったビーフシチュー。

 見た目は濃い色合いだが、すねの部分を使っているため、見た目よりも

さっぱりとした味わいに仕上がっている。

 野菜もちょうどいい硬さだ。スプーンで軽く押しただけでぽろりとほぐれて、

スプーンの上にちょんと乗る。

 それを口の中に運べば、野菜の味がじんわりと口内に浸透した。

 パンですくって食べても絶品だった。

 籠の中に入っている焼き立てのロールパンが、みるみる消費されていく。


「サラダも食べてね。トマトはうちの庭で取れたのよー」


 お母さんが差し出した硝子の器には、シャキシャキのレタスとスライストマト。

 サラダの中央にはカボチンを混ぜたポテトサラダのが鎮座していた。

 そういえば、結局カボチンらしきものは見かけなかったな。

 私は両親にカボチンとはなんなのか聞いてみる。味は何度食べてもカボチャだ。

 では、カボチンとはなんなのか。カボチャの亜種かはたまた希少種類か。


「そ、それは……なんと言えばいいか。なあ母さん」

「え、ええ。そうね。う、うーんと何て言おうかしら?」


 さっきまで元気だった両親のこの変わり様。

 カフェのお姉さんといい、なぜこうも歯切れの悪い返事しかでないのだろうか?

 そうさせてしまうカボチンとは一体……。

 両親は答える気になったのか、仲良く水を飲み干すと真剣な顔つきで答えた。


「「カボチンはカボチンなんだ(なのよ)」」

「う、うん」


 知ってた、とか、だからカボチンって何!? とは聞けなかった。

 それどころか、あまりにも真顔だったので勢いに押され「わかった」と頷いてしまった。


「そうか! 分かってくれたか! そうなんだよ。カボチンはカボチンだもんな」

「そうなのよね~。結局そう答えるしかないわよね!」


ええー、どうしてそうなるの……。

こうなったら最後の頼みだ。おんちゃん! カボチンって何?


『>カボチンとはカボチンのことだおん♪』


お ま え も か!


***


「なるほど、今くぅーねるが抱える問題は植物の持つ毒性と公園の地形か」

「うん、そうなの」


 ご飯を食べ終えて、食後のお茶を楽しむ。

 南瓜公園の攻略に役立つ情報はないかと思い、お父さんに色々聞いてみた。

 今、抱える問題は南瓜公園のマップ問題。死相の葉による毒のトラップ。

 もっとも、森のフィールドなので死相の葉以外にも毒や麻痺の洗礼は多いに違いない。

 何か有益な情報でもあればいいけど……。


「普通に考えれば、マップと状態異常を回復する道具を数点確保して、

進むというのが一般的だろう」


 うん、それは正論だ。けど物を持参するということは、ただでさえ少ない容量と重量制限を圧迫することになる。採取の量も減るだろう。

 出来れば、持ち込みの量は減らしたい。何より。


「でも、そういう道具は高いでしょ? 一通りそろえるだけでも大変だよ」


 せっかく南瓜公園で稼いでも、道具代に消えてしまっては意味がない。

 私の言葉にお父さんは「そうだな」と頷く。


「普通のやり方では少々金銭的に厳しい。

他に方法がないのなら、割り切るしかない。けれど、幸いなことに別の手段があるぞ?」

「本当!?」


 私は身を乗り出して、お父さんの話に食いつく。


「ああ。普通のやり方ではなく、我々のやり方で攻略すればいいんだ」

「我々……イーターマン流のやり方ってこと?」


 私の答えに両親はにっこりと笑いそうだと頷く。


「覚えてるわよね? 『食べなさい』って、それが私たちのやり方よ」

「『毒を食らうならば皿まで食べろ』。我々の御先祖様はそう言い残している。

毒を食らって喰らって、皿ごと……食べる。舐めとるだけじゃ駄目だ。

きちんと全てを食らうんだ」


 食べても毒を食らって死ぬだけなんじゃ?

 不安げな様子の私に、お母さんは優しく頭を撫でると胃の部分を軽くこつんと突く。

 

「イーターマンの無限の可能性を信じなさいな。

その胃袋に消化出来ぬものはなし。いかにいい武器が手に入っても、レベルが上がっても、

最後に私達が頼るのは、胃袋なのよ」


 お母さんの言葉にじんと胸の奥が熱くなる。

 両親の言葉を聞いて、私は自分がまだまだ半人前のイーターマンだと思い知らされた。

 まだ、食べ足りない。もっと食べなくてはいけない。

 イーターマンの最大の武器を満足に使いこなせていないのだ。

 一度毒に当たったから、何だというんだ。麻痺にすらなっていない。

 無限の胃袋が未熟な使い手である私を嘲笑っている。

 

 ――これで終わりか?

 ――お前はそれでもイーターマンなのか?

 ――情けないと思わないのか? 悔しいと思わないのか?


 『我を満たせ。使いこなして見せよ。

満たして満たして満たすが良い。それでも我は無限である。

 我が有限になるのは、汝が食べることを放棄したその時だ』


 胸にずきりと込み上げて、伸し掛かってくる言葉。

 私の胃袋が貪欲に吠える。「もっと食べろ」と。

 

「……」


 私は無言で席を立つ。両親は何も言わない。分かっているのだ。

 私の決意を。分かっているから、何も言わずに見守っている。

 両親の方をまっすぐ見つめ、私は一言。


「行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」


 そのまま、部屋を出ていこうとする私にお父さんが呼び止める。


「くぅーねる。お前の胃袋が真に満たされた時、南瓜公園の奥へ抜ける方法を伝授しよう。

待ってるよ。頑張るんだ」

「大丈夫。貴方なら出来るわ。何せ私達の自慢の娘ですもの」


 うん。ありがとう。

 私は心の中で両親に礼を述べると、まっすぐ南瓜公園へと走っていった。


***

 

 ゲートの前にたどり着いた私は真っ先にあることをする。

 それは。


「装備全解除」


『>おおん!? 女の子がはしたないおん!』


 私の突然の発言におんちゃんが動揺している。けど、今はそれに付き合ってる暇はない。


 上から下まですぽーんと脱ぎ捨てた私はそれを倉庫へと預ける。

 ゲームなので素っ裸ではないが、下着の上下という格好はゲーム内では裸に等しい。

 武器すらも預けて、私は完全に無防備な状態となる。


「では南瓜公園に出撃!」


 最初に入った時と真逆の状態、装備を完璧に装備せず、

道具も一切持たないで、南瓜公園のゲートを潜った。


「ふー。とりあえず、モンスターはいないね」


 フィールド仕様に切り替わったマップを確認しつつ、周囲の警戒も怠らない。

 防具なし、武器なし。今の私は無防備だ。敵に見つからないように行動しないと。

 私は慎重に草むらへと近づき、あるものを探す。


「この辺りなら……うん、あったあった。これこれ」


 一度食べてるから、探すのはすごく簡単だった。

 グレープの甘い匂い。シソのような紫の葉っぱ。そう『死相の葉』だ。


「……」


 私はじっと死相の葉を見つめる。

 猛毒の痺れと死んだときの意識を思い出して、身震いする。

 やはり、仮想とはいえ死ぬのは気分のいいものじゃないな。だけど。


「『毒を食らうなら皿ごと』いかないイーターマンなんている?」


 私は自身へそう問いかける。

 そうだね、そんなイーターマンはイーターマンなんかじゃない。

 私はイーターマンだ。なら、やることは一つ。


「……っ! いただきます!! はぐっ」


 意を決して、死相の葉へと口へ運ぶ。これが私の、イーターマンのやり方!

 1枚、2枚、3枚……!!


『>状態異常「毒」を感知したおん! 体力が残り少ないおん!

早く解毒しないと、命の危機だおん!!』


「しゃくしゃくしゃくしゃく……ごくり。まだ、どく?

ふふ、最初に食べた時は猛毒までいってたよ? まだ……まだ、たべれる。

はぐ……しゃくしゃくしゃく」


 身体がぐらついて、地面へと倒れてしまった。

 ピクピクと痙攣を起こしている。これ、は……ま、ひ?

 身体の自由が効かなくても、口だけは動かす。食べて、胃袋に届けなくてはっ!!


『>状態異常「猛毒」「麻痺」を感知したおん! 体力が残りわずかだおん!

早く解毒しないと、命の危機だおん!!』


「や、っと……。か……」


 おんちゃんのメッセージを確認し、にやりと笑う。そのまま意識が白く濁っていく。


『>くぅーねる!! しっかりするおん!! くぅーねる!!』


 遠くでおんちゃんの声を聞きながら、私は意識を失った。

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