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14品目:昼休みとメロンパンと大盛りな親友

小説を閲覧いただきありがとうございます。

感想、評価、ブクマ等いただけましたら、作者は大変喜びます。

どうぞよろしくお願いします。

「それにしても臣ちゃんがそこまでゲームにハマるなんてねぇ」


 昼休み。にやけた顔で律子が弁当を持ってやってくる。

今日はずっと律子にいじられっぱなしで凹む。くそー、覚えてろよ律子!


「うっさい、食事中に話しかけ」

「おやおや? ノートの写しはいらないのかね臣くん?」

「……ちっ」

「舌打ちひどいよー臣ー」


 しかも、大遅刻したせいで、2限分のノートを律子に借りるという屈辱を強いられた。

 もうやけ食いするしかないでしょ。私は弁当を貪る。

 いつもは手作りなんだけど、遅刻のせいでお母さんが弁当を用意していなかったから

コンビニ弁当と購買のパンを買うハメになった。うう、痛い出費だ。


「それでさ」

「うん」

「その……調子はどうよ?」

「うーん。順調かな」


 なんだこの、別れた2人が久々に会ったので喫茶店でお茶でもしながら、

お互いの近況報告を聞くみたいな会話は。律子め、ふざけてるな。

 私がぎっと睨んでやると、「いやー、順調なら良かった!」などとわざとらしく大声で返事をする。

 冗談はさておいて、進捗状況は順調だろう。まだ序盤だし。


「また突拍子もないことを仕出かして、困ってるんじゃないかと思ったんだけどなー」

「またって何だ、またって。突拍子もないことなんてしないし」


 チョコメロンパンにかぶりつき、律子の方はどうなのか聞いてみる。


「え、私!? いやーまーねぇ? たぶん臣よりは順調でしょ!」

「なんだそれ」


 まぁゲームの腕は、私よりも数段上な律子に心配する要素なんてないしな。プレイスタイルも違うだろうから、聞いたって参考にならないだろう。

 他のプレイヤーがどうやってゲームを進めているのか、

気にならないかと聞かれたら、もちろん気にはなるけどね。

 イーターマンなんて不人気な種族をプレイしてる私は、未だ他のプレイヤーがどんな感じで進めているのかを知る術はないし……。

 私以外でイーターマンをプレイしてるプレイヤーも見かけない。


「あ、そういえばさー。今回から胃っていうステータスが追加されたじゃない?」


 ギクリ。な、なにを唐突に。


「あ、ああ。あの劣悪仕様のことね……」


 私は内心冷や汗を掻きながら、なんなんだあの仕様はーと憤慨するふりをしてからあげスティックを口にいれる。


「それで料理を食べる容量にかなり制限がかかったでしょ?

いや、私達からすると、十分な量なんだけどね。

臣にはちょっと、というかかなり制限になるんじゃない?」


 ギクギクリ。


「そ、そうなんだよね! 全く、PC作るのに苦労したよ」

「そのPCって何にしたの? 今回はエルフじゃないでしょ。胃の容量最下位だしさ」

「うん。流石にエルフは断念したよ」


 ものすごく悩んだけど。……エルフ。ぐすん。


「現状で一番胃の容量が多い種族っていったら……獣人とか勇魚人か」


 普通はその辺が妥当だ。私も確認したし。

 勇魚人は結構良い線いってたけど、ビジュアルが……ちょっと。

 鯨肉って美味しいよね、じゅるり。


「うーん。あれは……慎重派な臣にないと思うんだけど……」

「あれって何さ」

「いやだって……あのムービーはないというか……。

石食ってたし、あとキモイ芋虫とかネズミとか……。

それにあのステータス……流石の臣でも選ばないんじゃ……」


 律子はうんうんと唸りながら、独り言を続けている。


「だから! あれって何?」

「あいたっ!」


 ぺしっとデコピンを食らわせ、律子を現実世界へと引き戻す。


「ほ、ほら。公式不遇の! イーターマンだって!

胃袋∞で臣にぴったりだけど、その他ステータス1の貧弱種族!!」

「んぐ!? げほっけほっ」

「ちょ、臣? 大丈夫? ほら水」


 へ、変なところにからあげの衣が……。私はげほげほと咽ながら、

律子が差し出した水をゆっくりと飲み干す。

 あー、死ぬかと思った……。


「それは……私の腕じゃ……ゲーム進行出来るか怪しいね」

「私も無理だよ、臣。

でも…………もしかしたら、臣ならやらかすかなぁーと。食い物の為に」


 ははは……やらかしましたよ。ええ。

 挙動不審な様子の私に、律子は何か言いたそうな顔をしていたが、

絶対にばらしたりはしない。

 いや、合流すれば嫌でもばれるけど……猶予が欲しいのさ。


「あー、早く臣と合流してあちこち見にいきたいわー」


 人の苦悩も知らないでのんきなやつめ。


「いやー、どんなPCになってるか楽しみだな。

PCのデザインは今回もほとんど弄ってないんでしょ? 臣のことだしさ」


 うぐ。ばれてる。元のパーツが可愛いからいいじゃないか。デザイナーさんに感謝だ。


「うっさい。そういう律子は今回も大盛りなんじゃないの? おもにそこの部分」


 そういって、私は律子の平たい丘をわざとらしく凝視してやる。


「盛ってませんー。将来こうなるっていう思いを詰め込んだだけですー

夢いっぱい胸いっぱい!」

「それを盛ってるっていうんだ。ってい!」

「あいたっ! ちょ、ぐーは止めて、痛い痛い!」


 私は律子のほっぺをぐりぐりと押す。指でツンツンなんて甘いことはしない。

拳でぐりぐりぐりぐりだ。うりゃうりゃ!


「はー痛かった。んじゃあ、今回も中央に行けるようになるまで、好き勝手やるでOK?」

「うん。それでいいよ」

「協調性ないねー。うちら」

「今さらなこというなよ」


 中央都市Pセントラル・スター。通称「中央」。

 ポーラリア中に存在す都市の中で、一番大きい規模と影響力を持つ大都市の名前だ。

 この都市に行けば、大体の物と人が集まっている。

 拠点が違うプレイヤー同士の待ち合わせ場所には「中央で」というのがもはや

お約束事であった。

 そして、この「中央」最大の特徴はどの種族でも入れる都市である、ということだ。 

 種族同士の対立が適応されない唯一の場所なのである。たとえイーターマンであっても。


「中央かー。あのドラゴンいるかな?」

「いるんじゃない? カミウタⅠからそう遠くない未来って設定でしょ?

流石にヒューマンのNPCは無理だけど、エルフとか魔族とか長寿のNPCは生きてる

らしいし。だったら、ドラゴンぐらい余裕で生きてるっしょ」


 中央には、創星女神ポーラドーラに仕える星竜「シェイプシフター」が眠る神殿がある。

 一般プレイヤーには観光スポットとして知れ渡っているだろう。

 私にとってはあの眠るドラゴン……の尻尾が目当てなのだ。食欲的な意味で。


「あのドラゴンの尻尾だったらさ……テールスープ何人分作れるかなぁ。

きっと美味しいだろうなぁ。なにせドラゴンだし……」

「おいおいおい、あのドラゴンは目覚めないって設定でしょ。あれ目覚めたら、

都市の結界が無くなって大変なことになるんだし」


 そうなんだよね。中央って眠っていたドラゴンの周りに人間が勝手に寄生して、

都市を作っただけだもんね。

 ドラゴンの聖なる力を拝借して、動力に使ったり、結界を張ったりしてさ。

 そのため、前作の大型イベント「星竜の目覚め」では、目覚めたシェイプシフターが

次元の裂け目に飛び去ってしまったため、中央の結界が消えてしまっている。

 もちろん、動力の元がいなくなったのだから、

中央にある施設や店は全て機能停止になってしまった。

 イベント期間中、プレイヤーは中央が使えないという制限の中で、

イベントダンジョン「次元の裂け目」の攻略を強いられることになった。


「あのイベントは本当にしんどかったわ。店は使えないわ、転送装置は止まるわ。

もう周り総出で攻略に向かったっけか」

「いろんなプレイヤーと協力プレイ出来て楽しかったけどね。

ご飯作ってもらったり、お菓子分けてもらったり、珍しい果物食べたり……」


 私のパーティは生産職で固まってたから、中央が使えなくても

物資の補給には困らなかったんだよね。


「…………どおりで偏ったパーティだと思った。真面目に攻略参加してないな」

「後方支援を頑張ったんだよ」

 

 じとっと睨んでくる律子に私はそう返答してやった。

 生産組は簡易のマーケットを開き、前線組の補給なんかを引き受けたのだ。

 私だってこれでも料理を提供したり、防衛に参加したりしてたんだからね。

 報酬に秘蔵のお菓子がもらえるから頑張ったわけじゃないよ!


「はいはい。そういうことにしておきますか。私って優しいなー」

「ワー、リツコッテバ、ヤサシイナー」


 律子の妄言に適当に相槌を打って、牛乳でコロッケパンを胃に流し込んだ。

あと律子のタコさんウィンナーを失敬してやる。


「おいそこ! 何で棒読みなの!?」

「むぐ?」

「あああ! 私のタコさんがっ!」


 自分の弁当箱を見てショックを受ける律子をスルーして、ウィンナーを咀嚼。

 うん。律子ママのお弁当は美味い。


「はぁ。まぁ臣が食べると思って多めに入れてもらってるからいいけどさ」


 おお、そうなんだ。ありがたやありがたや。

 律子の卵焼きを拾い上げながら、私は律子ママに感謝の念を送る。


「話変わるけど、例の事件知ってる?」

「んー?」


 甘めの味付けの卵焼きに舌鼓を打ちながら、律子の話を聞く。

 例の事件。はて? 何かあったの?


「ほら、世界で最初にシークレットボスを討伐したプレイヤーのこと!」

「!!」


 あ、あれか! あのことか! 忘れようとしてたのに!!


「そ、そんなことあったっけ?」

「もー、どうせお知らせなんて見ない派とか言うんでしょ?

世界中に流れたのにどうして見逃すかなぁー」


 うわー。やっぱり流れてたんだー。うわー最悪。掲示板とか恐ろしくて見れない。

 私は今すぐにでも耳を塞いで聞かなかったことにしたいけど、

そんなことをすれば律子に問いただされてしまう……。

 そりゃ、いつかは合流するんだし、ばれちゃうだろうけど、

今はまだ心の準備が出来てないというか、なんというか……。

 せめて、プレイヤーの名前は見てなかったんだー。誰なんだろうねー? っていう

展開にならないかな。律子よ。


「ど、どんなプレイヤーなんだろうね。やっぱ前線組かな」

「そこなの! 聞いて!」

「ひゃい!」


 がばりと食らいついてくる律子の勢いに押されて、変な声が出てしまった。


「知り合いとかに聞いてみたけど、皆心当たりがないんだって!」


 そりゃそうだ。私はまだフレンドいないぼっちプレイヤー且つ低レベルだもの。


「でも、ある人曰く低レベルのプレイヤーじゃないかって、たぶんソロでプレイしてるってさ」


 ぎく。め、目ざとい人もいたものね。おほほほほ……。


「そのプレイヤーの名前がもう、おかしくてさ」

「プレイヤー名覚えてるの!?」

「え? そりゃーあんな変な名前だもん。忘れようがないじゃない?」


 へ、変っていうなよー! 今までのネーミングの中では結構いい線言ってるほうなんだから!

 私は心の中で「律子のあほーまぬけー」と罵詈雑言を並べ立てる。

 しかし、次の律子の一言で私の思考は完全に停止し、


「たしか、『くぅーねる』って名前だったわ! いやーひどいセンスだよね!

なんか臣が付けそうな名前だなーっていうか! もしかして臣だったりしないよね?

あははは、まっさかねーーーー!!」


 実は私がくぅーねるだって分かってるんじゃないのかと

疑いたくなるほど痛い指摘に、私はだまって卵焼きを飲み込んだ。

 甘いはずの卵がなんだかとてもしょっぱく感じた。

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